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更新日:2023年7月13日
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(一財)自治体国際化協会シンガポール事務所
木村 華奈子(富山県派遣職員)
東南アジア諸国の一つであるシンガポールは、赤道から約137km北のマレー半島先端部にある都市国家だ。約730㎢(東京23区と同程度)の国土には約564万人が住んでおり、シンガポール国民及び永住権所持者が約407万人、外国人が約157万人である[1]。
シンガポールは国土が狭く活用できる土地が限られており、加えて天然資源もないため、エネルギー資源のほか、食料や水までも輸入に頼らざるをえなかった。しかし、優れたインフラ整備、徹底した英語教育の実施、税制優遇措置の設定など、さまざまな施策を通して外国企業の誘致や外資の受け入れが進み、目覚ましい経済成長を遂げている。
本稿では、シンガポール経済について触れた後、その発展に大きな役割を果たしている港湾事業について紹介したい。なお、文中意見に関する部分はあくまで筆者個人の見解であることを申し添える。
シンガポール経済は外需に大きく依存しているため、世界経済の動向に影響されやすい。ここ十数年間の実質GDP成長率をみてみると、リーマンショックのあった2009年は大幅に低下しているが、直後の2010年には著しい成長を果たし、14.5%を記録している(資料1参照)。また、新型コロナウイルス感染症の感染拡大が大きく影響した2020年には成長率がマイナスとなったが、2021年には回復して8.9%となり、2022年には3.6%となっている(資料1参照)。国民一人当たりの名目GDPについても成長率とともに多少の増減があるものの順調に成長しており、2022年には約82,800米ドル(世界第6位、日本は約33,800米ドル[2]で世界第31位)[3]となっている(資料1参照)。
なお、シンガポール貿易産業省(MTI)は2023年通年のGDP成長率について、世界的な金融引き締めへの懸念や世界貿易の鈍化などを理由に0.5~2.5%に減速すると発表している[4]。また、国内経済については、インバウンド観光が回復しているため観光業や航空は成長するとみているが、外需が落ち込むことから製造業や貿易での成長は悪化するとしている[5]。
資料1 実質GDP成長率及び国民一人当たり名目GDPの推移(国際通貨基金(IMF)データベース[6]より作成)
加えて、2022年の名目GDP総額は約4,660億米ドルとなっており、これを産業別構成比でみてみると、1位は製造業(21.6%)となっている。また、2位以降については、卸売業(18.6%)、金融サービス業(13.5%)、運輸・倉庫業(10.4%)とサービス産業部門(資料2の黄色部分)が続いており、サービス産業部門を合わせると全体の7割以上を占め、産業構造の主軸となっていることが分かる。
資料2 2022年名目GDPの産業別構成比(シンガポール統計局ウェブサイト[7]より作成)
そして、輸出入の状況をみていきたい(資料3参照)。2022年においては、輸出入の総額1兆3,654億シンガポールドルのうち、輸入額が6,554億シンガポールドル、輸出額が7,100億シンガポールドルとなっている。特筆すべきは再輸出額が3,803億シンガポールドルとなっており、輸出額全体の50%以上を占めていることであろう。さまざまな品目が再輸出されており、古くから港湾都市として栄えてきたシンガポールが、現在も国際中継貿易地点として活躍していることがみてとれる。
資料 3 2022年の輸出入の状況(シンガポール統計局ウェブサイト[8]より作成)
また、輸出入総額で相手国・地域の上位3つをみてみると、中国(輸出入総額1,750億シンガポールドル)、マレーシア(輸出入総額1,530億シンガポールドル)、アメリカ合衆国(輸出入総額1,327億シンガポールドル)となっている[9]。なお、日本との輸出入総額は655億シンガポールドルであり、上位10か国・地域[10]中9位であった。
前述したとおり、シンガポールは先天的な要因により、古くから港湾都市として活躍してきた。先天的な要因とは、シンガポールがマレー半島の先端部というアジアとヨーロッパの貿易航路上の要衝にあり、かつ、台風や地震など自然災害の少ない地域という地理的な面で恵まれていたことである。
シンガポールが建国される100年以上前の1819年、英国東インド会社のスタンフォード・ラッフルズが上陸し、その後イギリス植民地となった頃から中継貿易地点として繁栄してきた。1830年代以降には香辛料、原油、天然ゴムや錫等の積み出し港として発展していく。その後、1964年のシンガポール港湾庁の設立、1965年のマレーシアからの分離独立を経て、貿易立国、海運拠点としての機能を高め、1972年に東南アジア初のコンテナふ頭を完成させた。さらに、世界に先駆けてIT技術を随時取り入れて物流にかかるリードタイムの短縮を図り、1990年にはコンテナの取扱量が初めて世界1位となった。そして現在までシンガポールは世界トップクラスの港湾の地位を維持している。また、2019年の世界の主要港湾都市ランキング[11]では積み替え・出荷センター機能や港湾物流機能の項目を中心に評価されたことで総合首位を獲得しており、2019年時点で4回連続首位となっている[12]。
現在のシンガポール港は、世界120ヵ国以上、600の港と結ばれている世界最大級の国際的なビジネス・ハブ港としての地位を確立している。主要なコンテナターミナルはタンジョンパガー、ケッペル、ブラニ、パシルパンジャンの4か所で、合計55のコンテナバースが稼動しており、4つのターミナルは全長16kmの道路で接続されている。その中でも最大規模を誇るのがパシルパンジャンターミナルだ。18mもの大水深港であるため、大型船の着岸が可能となっている。
2021年においては、新型コロナウイルス感染症の流行に伴って世界的にサプライチェーンが混乱していたにもかかわらず、シンガポール港のコンテナ取扱量は3,747万TEU[13]と過去最大を記録し[14]、まさにシンガポールの経済成長を支える原動力となっている。
シンガポール港と日本の五大港(東京、横浜、名古屋、大阪、神戸)のコンテナ取扱量を比較すると、1980年にはシンガポールが92万TEU、五大港が327万TEUと約3倍以上の差があったものの、2000年にはシンガポールが1,704万TEU、五大港が1,087万TEUと逆転し、2021年にはシンガポールが3,747万TEU、五大港が1,570万TEUとなっており、シンガポール港の急激な伸びが見て取れる[15]。
2022年9月にシンガポール南西部のトゥアス港の第1期工事が完成し、正式開港した。2040 年代に最終完成となる予定で、それまでに段階的に主要ターミナルの機能がトゥアスターミナルに集約されていく計画となっている。島内に分散しているターミナルを1か所に集約することにより、ターミナル間におけるコンテナの移動時間や費用を削減することができるとともに、船から船への貨物の積み替えをより効率良く行うことができるようになる。
資料4 シンガポール港の各コンテナターミナルについて(出典:クレアシンガポール事務所「シンガポールの政策 港湾政策編(2021年3月)」より引用)
また、このトゥアス港には、港内の移動車両やクレーンのオートメーション化、人工知能(AI)と機械学習を活用した次世代の海上輸送管理システムの導入など最新のハイテク技術が導入される予定だ。加えて、トゥアス港では超大型化しているコンテナ船舶にも対応できるようになるため、世界的なハブ港としての機能がさらに高まり、年間6,500万TEUの取扱能力を持った世界最大級の完全自動化ターミナルとなる見通しである。
本稿ではシンガポールの経済概況と港湾事業を取り上げた。なお、現在稼働している4つのターミナル港が将来的に完全閉鎖となり、トゥアス港にすべての機能が移転・集約されれば、約1,000haもの広大な跡地が生じることとなる。この跡地は2030年までに新たな臨海都市「サザン・ウォーターフロント・シティー」として、住宅や商業用ビル、文化・娯楽施設の用途で再開発される予定となっている[16]。
新港の完成によって現在の港湾事業における課題解決のみならず、住宅問題の解消や観光事業のさらなる発展への契機にもなっており、シンガポールという国の戦略性の高さを窺い知ることができる。今回焦点を当てた港湾分野だけでなく、さまざまな分野で発展・成長し続けているシンガポールの動向を今後も注視してまいりたい。
<参考資料・ウェブサイト>
[1] 国土面積、人口ともに2022年時点のデータ(出典:シンガポール統計局)
[2] 国際通貨基金(IMF)データベース(https://www.imf.org/external/datamapper/NGDPDPC@WEO/JPN)
[3] グローバルノート「世界の1人当たり名目GDP 国別ランキング・推移(IMF)」、URL:https://www.globalnote.jp/post-1339.html
[4] JETROビジネス短信「第1四半期の経済成長率鈍化、輸出は前期に続き減少(シンガポール)」
[5] 2の記事より一部引用
[6] 実質GDP成長率:https://www.imf.org/external/datamapper/NGDP_RPCH@WEO/SGP
国民一人当たり名目GDP:https://www.imf.org/external/datamapper/NGDPDPC@WEO/SGP
[7] https://www.singstat.gov.sg/modules/infographics/economy
[8] https://www.singstat.gov.sg/publications/reference/singapore-in-figures/trade-and-investment
[9] シンガポール統計局HP(国際貿易ビジュアルデータ)
[10] (上記6のデータから)2022年の上位10か国・地域は、中国、マレーシア、アメリカ合衆国、台湾、
EU、香港、インドネシア、韓国、日本、タイ(輸出入総額順)
[11] THE LEADING MARITIME CAPITALS OF THE WORLD 2019
[12] 世界港湾都市ランク、4回連続で首位に - NNA ASIA・シンガポール・運輸
[13] 貨物の容量を表す単位。1TEU(Twenty-foot Equivalent Unit)=20フィートコンテナ1本(長さ20フィート(6.1メートル)、幅8フィート(2.4メートル)、高さ8.5フィート(2.6メートル))。
[14] JETROビジネス短信「新型コロナ禍でも2021年のシンガポール港のコンテナ取扱量は過去最大」
[15] クレアシンガポール事務所「シンガポールの政策 港湾政策編(2021年3月)」
[16] クレアシンガポール事務所「シンガポールの政策」のうちシンガポールの都市開発政策
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