更新日:2022年11月16日

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ベトナム情報アップデート

日本貿易振興機構(ジェトロ)

ハノイ事務所 蛇見拓斗

(富山県庁出向)

1.はじめに

 ベトナムは近年、日本企業の進出先、投資先として最も注目されている国の一つである。在越日本商工会議所の会員数はASEAN最多の1,973社(2022年5月時点)、2021年にジェトロが1,700社以上の日本の本社を対象に実施したアンケート調査では、「今後事業を拡大する国」として、ベトナムは米国に次ぐ2位だった(3位は中国)。また県の新世紀産業機構が県内企業に実施したアンケートでは「今後、海外拠点を新規に設置する場合の進出予定国・地域」としてベトナムと回答した企業が全体の42.1%で最多という結果だった。人材交流の面では、2020年に県内在住ベトナム人は4,740人となり、県内在住外国人数で初めてベトナムが最多となった。また近年、ベトナムからの技能実習生の受け入れが急増しており、国別では中国を抜いてこちらも1位となっている。2020年は技能実習生の総数6,272人のうち、ベトナム人は3,649人である。

 本稿では、県内外の企業から今後の海外進出先、投資先として大注目であり、また県内在住外国人数1位であるベトナムの最新情報を紹介したい。なお、文中意見に関する部分は、あくまで筆者個人の見解であることを申し添える。

2.ベトナムの概要

 ベトナムの面積は、約33万㎢でおおよそ日本から九州を除いた面積と同じ大きさである。人口は、9,851万人(2021年時点)と1億人にせまる。在留邦人は、2万2,185人おり、うちハノイ市に8,624人、ホーチミン市に1万768人(2021年時点)と2大都市に集中している。国の体制は、社会主義志向の市場経済で共産党の一党制である。公用語はベトナム語で、宗教は約80%が仏教である。ベトナムの北部に位置する首都のハノイ市は、政治の中心地である。ベトナム最大都市のホーチミン市は、南部に位置し、商業の中心地となっている。そのほか、リゾート地で有名なダナン市がベトナム中部に位置する。気候は、北部はゆるやかに四季があり、意外にも寒い日は5℃まで下がる日もある。南部は一年を通して25℃を超える熱帯らしい気候である。

 ASEAN内でのベトナムの立ち位置は、人口はインドネシア、フィリピンに次ぐ第3位である。名目国内総生産(GDP)は、2021年に第6位であるが、今後数年間でインドネシア、タイに次ぐ第3位まで成長すると予想されている。また、国民一人当たりの豊かさを示す一人当たりGDPは、昨年フィリピンを抜き、第6位となった。

3.新型コロナウイルスの状況

 ベトナム政府の新型コロナウイルス(以下、新型コロナ)対策は2021年10月、経済への悪影響を踏まえてゼロコロナからウィズコロナへと方針を転換した。これにより、様々な制限が緩和され、経済活動が再開した。入国規制は、2022年3月15日に入国後の隔離措置を撤廃、5月13日にはベトナムへの入国者に求めていた新型コロナの検査要件を停止した。これにより、日本からベトナムへの入国は新型コロナ前と変わらない仕様となっている。また9月6日より、これまで公共の場では全般的にマスク着用を求められていたが、今後は医療施設や公共交通機関を除いた各施設の利用者については、マスク着用義務の対象外となった。街中を歩いていてもマスクを着用している人はかなり少ない(ただし、筆者はハノイの空気が悪すぎるため、外出する際は必ずマスクを着用している)。2022年11月現在、ベトナム全土での1日の感染者数は、500人を下回る感染者数で推移している。

4.ベトナムの経済動向

(1)GDP成長率

 2022年のGDP成長率は、新型コロナによる減速から回復基調にあり、今後も高成長が期待される(図表1参照)。振り返ると、新型コロナ流行前は毎年7%前後の安定した高成長を継続していた。2020年と2021年は新型コロナ対策により、工場の停止や厳格な移動制限が行われ、生産活動は多大な影響を受けた。特に2021年第3四半期(7~9月)は感染第4波によりマイナス6.0%と大幅に減少し、2000年に統計総局が四半期ごとのGDP公表を始めて以来、最大の減少率となった。それでもベトナムは、ASEAN圏内で唯一の2年連続でのプラス成長を維持した。直近の2022年第3四半期の伸び率は13.7%で、1~9月のGDPは8.8%だった。順調な経済回復に加え、新型コロナウイルスの深刻な影響を受けた前年同期(マイナス6.0%増)からの反動で、高い成長率を示した。通年でも政府目標の6.5%を上回る見通しとなっている。各機関の予測は9月時点で、アジア開発銀行(ADB)が6.5%、国際通貨基金(IMF)が7.0%と予測しており、高成長が期待できる。さらにIMFによると、ベトナムは2023~27年までの間ASEAN域内で最高の成長が予測されている。

 図表1 ベトナムのGDP成長率の推移(前年比、前年同期比)

1-3

(出所)ベトナム統計総局

(2)貿易

 ベトナムの貿易は、輸出・輸入どちらも右肩上がりに増加している(図表2参照)。2021年は輸出入ともに過去最高を記録し、輸出が3,368億1,065万ドル(前年同期比19.0%増)、輸入が3,322億3,493万ドル(26.5%増)だった。2022年の貿易も順調に推移しており、今年も過去最高の貿易額を更新する見込みだ。貿易内容を主要国・地域別にみると、輸出は米越通商協定を締結したこともあり2002年から米国が1位を維持している。輸入は中国がダントツの1位で、その割合は年々増加しており、2021年は輸入額全体の33.2%を占める。輸出額と輸入額を合わせた貿易額は、中国が最大である。貿易内容を品目別にみると、輸出入ともに電気機械のシェアが拡大している。特に通信機器(携帯電話)、集積回路のシェアが高い。ベトナム北部には、韓国サムスン電子の関連会社で電子部品などを手掛けるサムスン電機のスマートフォン工場がある。こちらではサムスンのスマートフォンの全世界の半分以上を生産している。サムスンの進出により、ベトナムの貿易構造は大きく変わった。輸出に占める携帯電話・電子部品は品目別で1位となり、割合が全体の約16%となっている。

 図表2 ベトナムの輸出額、輸入額の推移

2-3

(出所)ベトナム税関総局

(3)外国直接投資

 2021年の世界からベトナムへの投資は、認可件数は2,723件(前年比30.6%減)、認可額は約243億ドル(前年比7.8%増)だった(図表3参照)。認可件数は2年連続で減少したが、認可額は製造業の拡張投資、エネルギー案件が下支えし、わずかに増加した。韓国、中国、台湾の製造業を中心に、中国に生産拠点を構えていた企業がベトナムでの生産機能を増強した。2021年以降の大型投資案件としては、北部ハイフォン市でのLGディスプレイの電子機器生産工場の拡張投資、北部タイグエン省でのサムスン電機の半導体パッケージ基盤の拡張投資や南部ビンズオン省でのレゴの玩具製造工場の新規投資案件などが挙げられる。日本からベトナムへの直接投資をみると、投資認可累計額は2013年に1位だったが、2014年から2021年は2位、現在は韓国、シンガポールに次ぐ3位となった。ただし、累計件数では韓国に次ぐ、2位を維持している。日本からの投資を業種別にみると、これまでの累計では、世界からの投資と同様に製造、小売り・卸売り、コンサル、ITといった業種が上位を占める。以前は製造業の投資が中心だったが、近年は小売り・卸売り、コンサルなどの業種の件数が増加している。2021年は、小売り・卸売りで全体の約30%を占める(累計では約15%)。

 図表3 世界の対ベトナム直接投資の推移

 (認可ベース、出資・株式購入は含まず)

3-3

(出所)ベトナム外国投資庁(FIA)

5.ベトナムの人材・雇用状況

 ジェトロが2021年に海外進出日系企業に調査した「海外進出日系企業実態調査(アジア・オセアニア編)」によると、ベトナムの投資環境上のメリットとリスクのそれぞれ上位10項目は図表4のとおりだった。特徴は、メリットとリスク両方に人材・雇用に関する項目が複数挙げられていることだ。メリットの第3位「人件費の安さ」の回答率は半数を超える一方、リスクの第1位は「人件費の高騰」だ。同調査によると製造業の作業員の賃金は、中国が651米ドルのところ、ベトナムは265米ドルと半分以下である。ASEAN各国で比較してもラオス、カンボジアに次いで安い。しかし、日系企業の賃金は新型コロナ影響下でも年間平均5%程上昇しているのに加えて、ベトナム政府は7月から最低賃金を平均6%引き上げた。経済成長に合わせて最低賃金は今後も引き上げられていくことになる。リスク第5位は「従業員の離職率の高さ」である。ベトナム人は給料や仕事スキルの成長などを重視しており、同じ地域で給料が高い求人があると、すぐに転職するということもよくある。それゆえ、流動性が高く、従業員が見つかりやすい側面もあり、「従業員の雇いやすさ」はメリットの第5位となっている。実際、筆者が働く事務所でも若手ベトナム人スタッフは、転職経験者がほとんどである。メリットの第6、9位は「従業員の質の高さ」である。ベトナム人はまじめで勤勉と言われ、また細かい作業が得意とされる。筆者は在ベトナム日系企業とよく面談をするが、日本人担当者のベトナム人に対する評価は高いと感じる。リスク第8位の「労働力不足・人材採用難」については、失業率は上昇傾向にあるものの、依然低く、実質的に完全雇用の状態であり、労働者の確保が難しい状況にある。人件費の安さ、雇いやすさ、質の高さが評価される一方で、人件費の高騰、離職率、労働力不足はリスクと捉えられている。

 図表4 ベトナムの投資環境上のメリットとリスク

4

(出所)ジェトロ2021年度「海外進出日系企業実態調査(アジア・オセアニア編)」

6.県内企業や行政の動き

 2022年8月時点でベトナムに進出している県内企業は37社53事業所となっている。業種別では、製造業が大部分を占める。最近の県内企業の進出・拡大案件としては、2021年12月に北陸銀行がホーチミンに駐在員事務所を開設した。2018年頃から急速に取引先のベトナムへの進出が進み、これらの取引先に対する現地サポート、および日本でベトナムとビジネスを展開する取引先に対する現地情報の発信などを強化する狙いだ。また、2022年7月にYKKは今後も縫製産業の拡大が続くと考え、2019年より稼働しているハナム工場の増築を決定した。このように新型コロナ禍においても県内企業は積極的な投資を行っている。

 県は、2022年10月3日、ホーチミン市に「富山県ホーチミンビジネスサポートデスク」を設置する。デスクは、県内企業のベトナム進出を促進すべく、企業の現地での市場調査や取引先の拡大のサポートを行う。また、今年の12月18日~23日にかけて、ベトナムとの経済交流を促進するため、富山県知事を団長とした経済訪問団をベトナムへ派遣する。ハノイ市およびホーチミン市を視察するほか、ベトナム政府の表敬訪問や既進出企業の視察、ベトナム企業とのネットワーク構築プログラムを予定している。このように行政も県内企業のベトナムへの進出のサポートに力を入れており、今後に期待が持てる。

7.おわりに

 本稿は、ベトナムの経済情報について紹介した。2023年は、日越外交関係樹立50周年を迎える。これまでの日越関係を振り返ると共に、その関係をさらに深化・拡大させる年とするために相応しい記念事業が年間を通して実施される予定だ。興味のある方はオフライン・オンラインに限らず参加することをお勧めしたい。

 筆者は、この11月でベトナム生活が7か月を迎えた。毎日刺激的で時が流れるのがとても早い。日々の生活では、日系スーパーやショッピングセンター、日本食レストランも豊富のため、生活に困ることは少ない。11月に入り、ようやく長い夏が終わったようだ。これから乾季になり、過ごしやすい季節へと変わる。ぜひ、読者の皆様も一度ベトナムを訪れ、勢いのあるベトナムを生で体感していただきたい。

 

お問い合わせ

所属課室:経営管理部統計調査課経済動態係

〒930-0005 富山市新桜町5-3 第2富山電気ビルディング

電話番号:076-444-3191

ファックス番号:076-444-3490

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