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更新日:2023年3月15日
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株式会社日本政策投資銀行 富山事務所長 山本 覚
富山事務所副調査役 吉田 志穂
(株)日本政策投資銀行(DBJ)富山事務所は、2022年12月に、(株)富山銀行と共同で、富山県産ワインに関する調査を行い、「富山の恵みにより育まれた『富山ワイン』への期待」と題した調査レポートを発行しました。
近年、国内外で日本ワインの評価が高まりを見せていますが、富山県においても当地の特色を活かしたワイン造りが進められ、生産量が増加しつつあります。
当レポートでは、富山県内のワイナリーを中心とした関係者へのヒアリング、各種文献やデータ分析を通し、その取り組みや特徴を整理するとともに、富山ワインを糸口として改めて見出される地域の魅力について把握し、今後の展望を考察しています。
本稿では以下にその要旨を記します。
ワイン生産量の上位を占めるイタリア、フランスは減少傾向にあり、スペイン、アメリカ、中国、チリといった新興国が台頭してきている情勢(図表1)。日本はワインの輸出入、いずれも世界に占める割合は少ない。
一人当たりの消費量は減少傾向にあるといわれており、EUは、ワインの生産能力調整促進政策をとり、拡大傾向を抑制。加えて、環境意識の高まりとともに、有機栽培割合が増加。特定地域で生産されるクオリティワインの価格は上昇している。
図表1 主要国のワイン生産量の推移
(出所) FAOSTATより作成
少子高齢化、人口減少に加えて、1人当たりの酒類消費量の減少を背景に、国内の酒類販売は減少している(図表2)。
ウイスキーやワインは価格が上昇しているが、ビールや清酒は減少している。特に国産ワインの価格増加が指数的には最も高い(図表3)。そして、2018年以降、改めて国内製造ワインの製成数量は増加。輸出量・輸出額も増加傾向にある。
国内で製造されているブドウ品種の中には、欧州系品種も多く含まれる。気象的に優位ではないにもかかわらず、造りの工夫により、生産量、品質ともに高い水準が確保されているといわれる。
図表2 酒類別販売(消費)数量の推移
(出所)国税庁「酒のしおり」より作成
図表3 酒類の価格(推移)
(出所)総務省「消費者物価指数」より作成
国内のワイナリー数は増加傾向にあるが、2016年以降上位4道県の構成に変動は見られない(図表4)。
上位4道県のうち、山梨県や山形県は微増だが、長野県(+30)や北海道(+20)では急増している。また、その他の自治体でも増加しており、ワインの生産が全国的に拡大している様子がうかがえる。
商品の差別化・高付加価値化の1つに掲げられる地理的表示制度等の活用に関連して、日本ワインの地理的表示(GI)保護産地として、2013年に山梨が指定され、次いで2018年に北海道、2021年に山形、長野、大阪(2022年時点のワイナリー数:8)が指定されている。
図表4 都道府県別のワイナリー数の推移
(出所)国税庁「国内製造ワインの概況」及び「酒類製造業及び酒類卸売業の概況」各年より作成
県内のワイナリーは、20世紀前半に設立されたホーライサンワイナリーを除き、すべて21世紀に入ってから設立されたワイナリーであり(図表5)、かつワイナリー創業前から別の事業を主軸として展開しているという特徴がある。味わいにこだわりを持つオーナーと造り手とが連携したワインづくりが進められている。
有識者に対するヒアリングにおいて、他の産地と富山県とを比較すると、いいレストラン、いいシェフが多く、海も山もある当地ならではのいい素材とワインの融合により、富山のご当地ならではのマリアージュが生まれていることが高く評価されている。
そもそも、必ずしも高い評価を得てこなかった日本で製造されるワインが着目されるようになった背景には、雨量が少なく濃縮した果実味が魅力の輸入ワインとは、旨味やだしといった違った魅力を持つ日本ワインを中心とする国内製造ワインが、日本における食とのマリアージュといった観点から改めて注目されたという背景があることも確認できた。
図表5 県内ワイナリーの設立時期
(注)ホーライサンワイナリーはやまふじぶどう園の設立年
(出所)各社公表資料を基に作成
富山県においては、気象条件や地域資源等の地域の特色がワインに独自のストーリーを付加し、日本ワイン市場における差別化につながっている。また、ワイナリー事業を通じた地域資源の見直しやまちづくり等が、さらに地域の魅力向上につながっていることも確認できた。
これら「ワイナリー事業」と「地域の特色」との相互作用が、地元ワイナリー・果樹園等への就職を通じた人材の定着や、耕作放棄地の解消・観光資源の提供等を通じた地域活性化につながり、農業や観光、飲食・宿泊業を中心に、地域経済の発展につながっている(図表6)。
これらは、欧州等を中心とした世界的シェアの低下や、一人当たりのワイン消費量の減少、及び環境配慮に対応した高付加価値化の潮流とも整合が取れていると考えられる。今後はさらに、地域の食や観光等と連携し、日本酒や富山ワインといった選べる楽しみの提供、それに伴う時間価値の向上による、地域における観光単価の向上等、地域経済への貢献につなげることが考えられる。
図表6 県内ワイナリーの波及図
(出所)ヒアリング等に基づき作成
そもそも、フランス語で「土地」を表す “terre” から派生した「terroir=テロワール」とは、ブドウ畑の土壌やその土地の気候、造り手など、ワインをとりまく環境を表す言葉として使われているが、富山においては、標高3千m級の立山連峰から水深1千mの富山湾まで、高低差4千mに及ぶ複雑な地形が狭いエリアに凝縮していることで育まれた豊かな「食」があり、それを生み出す生産者や料理人なども含めた重層的な「テロワール」がある。そうした中に「富山ワイン」という新たな酒類が加わったことで、相互に高めあい、食文化の魅力がさらに向上しているのではないかと考える。
すなわち、ワインをはじめとする酒類等の製造業、素材を調達する農林水産業、そして飲食や宿泊などのサービス業といった多様な産業の関係者が富山という場において結びつき、地域の魅力を県外に運び、また人を呼んでいる。富山ワインの存在は、そうした結びつきを通じて地域全体における様々な産業がより付加価値の高いものへと発展していく一つの契機となりうるのではないか。そんな期待がもたれる存在であり、今後もその発展に注目していきたい。
さらに、そうした動きが富山県が成長戦略に掲げるウェルビーイングに貢献することも期待される。
フランス語で「土地」を表す “terre” から派生した「terroir=テロワール」は、ブドウ畑の土壌やその土地の気候、造り手など、ワインをとりまく環境を表す言葉として使われているが、富山においては同地において育まれてきた「食」と、「食」を生み出す生産者や料理人、それらを支えてきた消費者である県民なども含めた重層的な「テロワール」がある。
そうした「重層的なテロワール」により育まれる富山ワインの誕生により、 関連産業が相互に高めあう環境が生まれ、“越中とやま食の王国”がさらに輝くこと、ひいては富山県が目指す「ウェルビーイング」への貢献が期待される。
図表7 富山ワインが地域にもたらす効果と今後への期待
(出所)ヒアリング等に基づき作成
注
(概要版)https://www.dbj.jp/upload/investigate/docs/c25b8a9f04aabedaef2cdb5f1c9fe1e6.pdf
(資料編)https://www.dbj.jp/upload/investigate/docs/c7923d8d6141e630a13721a141d0e5b3_1.pdf
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