富山県の景気動向について

日本銀行富山事務所長

田中　英敬

1.はじめに

　富山県の景気は、基調としては持ち直している。

　個人消費については、今年3月に新型コロナ感染症の公衆衛生上の措置が解除され、人流が増加していることから、小売や飲食・宿泊等の対面型サービスを中心に持ち直しの動きがみられている。設備投資は、能力増強、省力化・合理化、環境対応投資をしっかり行っていくスタンスが堅持されており、増加している。生産については、情報通信向けの需要が好調なほか、内外の設備投資需要が回復しているものの、半導体等の一部部品の供給不足や中国上海のロックダウンの影響もあって、持ち直しの動きが一服している。この間、企業の業況感は横這い圏内の動きとなっている。有効求人倍率は引き続き緩やかに回復している。

　先行きは、新型コロナ感染症が人流に及ぼす影響が和らぎ、半導体不足等の供給不足や上海のロックダウン等の影響などが緩和するにしたがって、個人消費、生産ともに緩やかに持ち直すものと見込まれる。もっとも、これらの要因は、引き続き不確実性が高いほか、原材料・燃料費価格上昇が企業収益や個人消費に及ぼす影響については引き続き注視する必要がある。

2.主要項目の動き

(1)個人消費

　富山県の個人消費は、本年入り後、オミクロン株の感染拡大を背景に公衆衛生上の措置が取られたことから、弱い動きとなったが、3月後半からはこれらの措置が解除され、人流が増加していることから、小売や飲食・宿泊等の対面型サービスを中心に持ち直しの動きがみられている。

　小売6業態(百貨店、スーパー、コンビニ、家電専門店、ドラッグストア、ホームセンター)の売上げの前年比は、持ち直しの動きがみられている。百貨店・スーパーの売上げは、公衆衛生上の措置が解除されたことから、消費者が外出する機会が増えており、持ち直しの動きがみられている。家電販売は、半導体不足等の影響を受けて商品の納入が遅れていることから、このところ横這いの動きとなっている。ドラッグストアは、新規出店効果から前年比プラスが続いている。

　新車販売は、消費者の購買意欲は持続しているものの、昨年夏以降、自動車メーカー減産の影響により納車が遅れていること等から、前年比マイナスで推移しており、弱い動きとなっている。

　県内の延べ宿泊者数をみると、新型コロナの感染状況やこれに伴う公衆衛生上の措置の影響から、やや振れの大きな動きが続いているが、最近は、引き続き厳しい状況にあるものの、持ち直しつつある。今年のGWは、久しぶりに移動の制約のない長期休暇だったこともあり、県内外の宿泊客が増加した。また、ミクロ情報等によると、県民割等の宿泊応援事業の後押しもあって、夏休みに向けて宿泊・旅行の引き合いが強まっている。

(2)設備投資

　設備投資は、増加している。県内企業の2022年度の設備投資(全産業)は、2年連続のプラスの計画。足元は資本財や部品調達の遅延もあって、投資実行がやや後ずれ気味だが、基本的には能力増強、省力化・合理化、環境対応投資をしっかり行っていくスタンスが堅持されている。

(3)生産

　企業の生産動向については、持ち直しの動きが一服している。業種別にみると、汎用・生産用・業務用機械は、内外の設備投資需要の回復に支えられて、受注は回復しているが、上海のロックダウン等の供給制約の影響で、このところ増勢が鈍化している。電気機械は、情報通信関連需要が増加しているものの、スマートフォン向け部品は上海のロックダウンの影響もあってやや弱く、全体では足踏み状態となっている。医薬品は横這い圏内の動きとなっている。

3.その他経済指標の動向

(1)労働需給

　県内の有効求人倍率(受理地ベース)は、引き続き緩やかに回復している。

(2)企業の業況感

　短観(2022年6月調査)の富山県分の集計結果

　(https://www3.boj.or.jp/toyama/pdf/mes2207.pdf)をみると、企業活動の全体感を示す業況判断DI(富山県・全企業)は、前回3月調査から改善しましたが、先行きは悪化する見通しとなった(前回▲1→今回0→先行き▲4)。

　業種別にみると、非製造業(前回▲9→今回▲7→先行き▲16)では、今年3月に公衆衛生上の措置が解除された後、対面サービスや宿泊・飲食など持ち直しの動きがみられているが、先行きは原材料コスト高等もあって、慎重な見方が根強い。一方、製造業(前回8→今回8→先行き9)は、設備投資・環境対応関連やデジタル関連の内外の需要増加が基調にはあるが、半導体不足などの供給制約や上海のロックダウンといったマイナス効果が長引いており、足元は足踏みしている。先行き、これらの制約要因が緩和してくると改善するものと見込まれるが、改善の足取りはまだ緩やかにとどまっている。