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更新日:2021年12月15日

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中国国内の経済格差と「共同富裕」

在瀋陽日本国総領事館

副領事

田村健(富山県派遣職員)

1.はじめに

新型コロナウイルスの影響が依然として世界経済に大きな影響をもたらす中、中国は2020年時点でウイルスとの戦いに勝利したとしている。経済も底堅く推移しており、2020年の世界の実質GDP成長率[i]は-3.3%[ii]であった一方、中国に限れば2.3%のプラス成長であった。今や日本を上回るGDP(国内総生産)を叩き出す中国だが、その経済発展は均衡ではなく、地域ごとに成長率に差があったり、少数の個人に富が集中したりといった状況にある。

本稿では、中国の新型コロナウイルス対策を背景にした中国経済の現況について触れた後、中国国内の経済格差についてご紹介し、最後に習近平総書記率いる中国共産党・中国政府が掲げる「共同富裕」の理念について考察しようと思う。なお、文中意見に関する部分はあくまで筆者個人の見解であり、所属組織の見解を示すものではないことを申し添える。

2.中国国内のコロナウイルス防疫措置

中国国内は、いわゆる「ゼロ・コロナ政策」により新型コロナウイルスの徹底的な封じ込めを行っている。中国の各地方(省・市)によって必要日数等の違いはあるものの、外国からの入国者は国籍を問わず当局指定施設(ホテル)での集中隔離が必要となり、外出はおろか、部屋から一歩たりとも出ることができない。(自分も瀋陽着任時には21日間の集中隔離と7日間の自宅健康観察を余儀なくされた。)また日常生活でも、各地方の省政府が管理する「健康コード」(感染対策アプリ)や中央政府(国務院)が管理する「行程コード」(過去14日以内に立ち寄った都市名が表示される)を提示することが求められるなど、厳格な防疫措置が取られている。[iii]

3.中国の経済状況

上記2の厳しい防疫措置により新型コロナ感染拡大による影響を最小限に抑えている中国では、国内の経済活動の多くがコロナ前と変わらず続けられている。GDPでは、2020年1-3月期こそマイナス成長となったものの、以降は常にプラス成長となっている。年単位での実質GDP成長率はプラス2.3%(上述)で、同期に日本はマイナス4.4%であったことからも、中国がコロナ禍でも経済発展が継続していることが見て取れる。

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他方、構造上の問題として、中国では依然として地域間(省別)、都市・農村間、個人間の格差が大きい。例えば2019年データでは、中国の省別一人当たりGDPの差は、トップの北京市と最下位の甘粛省との間で約5.0倍あり、自分が在勤している遼寧省でも、北京市と2.75倍ほど離れている。地域として見ても、遼寧省・吉林省・黒竜江省のいわゆる「中国東北3省」はすべて全国平均以下の水準である一方、上海市・江蘇省・浙江省で構成される「華東」エリアはすべて中国の全国平均を上回っている等、地域によって発展のバランスが異なっている[iv]

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農村間の一人当たり可処分所得の差も2010年以降は縮小傾向にあるものの、依然として約2.6倍の差がある。また個人のジニ係数は0.4を上回る水準で推移しており、世界的にみても格差が深刻な国の一つといえる。その理由として、固定資産税や相続税がなく、制度的な所得再分配機能が不十分である事などが挙げられている。所得格差は社会の不安定要因となり得るため、中国共産党・中国政府としても政治運営のために格差解消が急務である。

 

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4.共同富裕とは何か

上記3で指摘した貧富格差を解消するために、中国共産党・中国政府は、すべての国民が豊かになることを目指す「共同富裕」という目標を掲げている。以前までは、ややゆとりのある社会を意味する「小康」の達成を目標としていたが、2021年7月の中国共産党創立100周年にあたる演説で、習近平総書記がこの「小康」を全面的に達成したと宣言し、次の目標として「共同富裕」が掲げられた、という背景がある。

この「共同富裕」の目標は、中国共産党が農村振興や所得分配について議論する中でたびたび登場する。特に習近平総書記は「報酬(1次分配)・税制(2次分配)・寄付(3次分配)」の3つの分野を通じて、格差是正のため所得分配を促そうとしている。「共同富裕」は、所得格差などの急速な経済発展によって生じた歪みを是正することで、社会の安定性と経済発展の持続性を高めるための目標といえるだろう。2021年8月17日に開かれた中国共産党中央財経委員会で、習近平総書記は改めて「共同富裕」実現へ意欲を示している。

5.「共同富裕」実現への動きと影響

最近では寄付(3次分配)の動きが活発である。IT産業では、「WeChat」や各種スマートフォンゲームなどを手がけるテンセントや、QR決済のプラットフォーム「支付宝」を運営するなど中国を代表するIT企業アリババのほか、日本でも知られるスマートフォンアプリ「TikTok」を運営するバイトダンスの創業者等がこぞって資金の投資や寄付を行うなど、所得を社会へ還元する動きが広まっている。また不動産や教育業界では、(寄付ではないが)学習塾の非営利化や中古住宅販売価格の上限設定などの政策が加速し、家庭にとって大きな負担だった住居や子女教育に関する費用を減らすことができるよう取り組みが進められている。

ただ懸念点としては、寄付(3次分配)が行き過ぎると成長鈍化を誘発しかねないという以下のような指摘がある。共同富裕を建前に、特定の企業や産業を対象に寄付を迫ったり、収益構造を根本的に変える規制を打ち出したりといった経済政策の運用で恣意性が強まると、対象となった企業や産業の資金は少なくなり、企業活動への意欲も減退してしまうだろう。上述の不動産、教育、ITの3産業は民営企業がけん引役となることで急成長を遂げ、GDPに占める割合は2018年に13.9%と、2004年から3.8%ポイント上昇した。3次分配の強化はこの押し上げ効果を減殺する危険性がある。また中国共産党からの「意見」ひとつで政策が決定・実行されるため、あまりに突然に社会構造に変化を及ぼし、社会の安定性を欠いてしまう点は否めない。株価の面でも、たとえば塾規制が発表された直後に教育業界の企業の株価が下落するなど、いわゆる「チャイナ・リスク」の危険性を世界に印象づけることになってしまった。これにより中国への投資が減少すれば、成長鈍化につながる懸念も出てくるものと考えられる。

 

6.終わりに

今回は中国国内の経済格差について考察したが、中国に限らず都市と地方間の格差や、一部の個人に富が集まる状況は往々にして見られる。日本もまた地方創生が叫ばれて久しいが、地方の経済発展のためにどのような打開策があるのか、中国が深刻な格差をどのように改善し、どのように経済発展を進めていくか、今後も注視していきたい。

 

参考文献

令和3年版外交青書

通商白書2021

内閣府HP「最新の四半期別GDP速報」

日経電子版

日本総合研究所「経済・政策レポート」

人民網日本語版

 

 

 


[i]前年度と比較した際の年次GDP成長率のこと。以下同じ。

[ii]IMF(国際通貨基金)が2021年4月に公表した見通しによる。世界金融危機の影響を受けた2009年の成長率(-0.1%)を大きく下回り、統計が開始された1980年以降でも最低の成長率を記録した。

[iii]健康コードや行程コード、ワクチン接種記録は全てスマートフォンで確認できる。通信アプリ「WeChat」で、各省が管理するミニプログラムにアクセスすることで健康コードとワクチン接種記録を確認、提示できる。また中国国務院が管理するミニプログラムで、行程コードの提示ができる。上記2つのコードは、いずれも緑・黄・赤の3種類があり、緑色であれば各施設への通行が許可される。なお、ワクチンを接種できない場合には、その旨の診断書を提示することによってワクチン接種済者と同等の扱いを受けることができる。

[iv]2017年時点の調査で、日本の都道府県間の差は最大約2.3倍であった。

 

お問い合わせ

所属課室:経営管理部統計調査課経済動態係

〒930-0005 富山市新桜町5-3 第2富山電気ビルディング

電話番号:076-444-3191

ファックス番号:076-444-3490

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