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更新日:2022年5月2日

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PART1 withコロナ かけがえのないものを守り続けるために、私たちは何をすべきか。

富山県庁 広報課 課長 
牧山貴英 以下(牧山)

今回は、創業100年以上を数え、魚津駅前の玄関口として、食を通して魚津の魅力を伝えてきた『海風亭』の料理長、美浪 呂哉さんと、富山県漁業協同組合青年部連合会長として、漁業生産の場である海を守るための活動や、富山県の魚のPR活動など、魚食普及に尽力されている野口 和宏さんのお二人にお話をお聞きします。

課長①

(牧山)
今年は新型コロナウイルスの影響を受け、大変辛い一年だったと思います。まずは一年を振り返り、新型コロナウイルスがお二人のお仕事などに及ぼした影響と変化、また、それを乗り越えるために工夫されたことなどについてお聞かせ下さい。

 

水産資源・シロエビを守り、
値崩れを防ぐため、休漁を決意

白エビ

シロエビ漁業者、富山県漁業協同組合青年部連合会長
野口 和宏氏(射水市) 以下(野口)

新型コロナウイルスが問題になり始めた3月は、ちょうど底曳カニ漁のシーズンでした。そのころはカニや魚の市場価格もそれほど下がらなかったのに、4月になって全国的に感染拡大してからは、潮が引くように下落していきました。国の緊急事態宣言が出され、仲間内から「このままシロエビ漁を続けてもよいのだろうか」という話があがりました。例えば定置網の場合だと、網がある以上、そこに行って水揚げしなければならない。しかし私たちの場合は、その都度、船の上から網を落として漁をするため、シロエビを獲らないでおこうと思ったら、漁に出なければ、シロエビを海にそのままにしておけます。休業要請で加工品の需要が激減し、飲食店も全く動かない状態でシロエビを獲っても市場価格が下がるうえ、シロエビの命を粗末にすることにもなります。それならば、あえて漁を休み、海を休ませようということになりました。こうして新湊漁協はシロエビ漁に出ないと決め、GW前後の2週間ぐらい休業しました。本当は私たちの生活がかかっているし、乗組員もいますから不安だったのですが、そうした方が長い目で見て自分たちのためにもよいだろうと判断しました。

野口氏①

(牧山)
新型コロナウイルスが発生する前の主な出荷先は首都圏だったのですか?

(野口)
基本的に私たちのシロエビは漁港の競りに参加される仲買さんに買っていただくのですが、話をしていたら、観光関連では全然モノが動かないし、地場も当然動いていないと。シロエビは他の魚と違って冷凍するのが前提です。仲買さんがたくさんの在庫を持つことは、彼らのリスクとなり、結果的に値崩れを起こします。仲買さんあっての我々の仕事ですので、5月中旬ぐらいまで休業しました。その後は漁にでましたが、漁獲量は減らしました。コロナ禍への対応だけが理由ではなく、持続可能な漁業を目指した水産資源保護の意味もあります。昔は網を1日4回、日曜日以外は毎日あげていましたが、今年のほとんどは1日1回だけで取りやめ、水曜日は基本的に漁に出ないようにしていました。今年は水揚げ自体は好調だったのですが、買っていただくお店の方や仲買さんが本来の営業ができないのに、供給しすぎるのはどうかと考え、漁獲量を抑制したわけです。捌けないのに仲買さんに在庫を持っていただくのは、仲買さんにとっても好ましくないし、結果的に私たちも困る。漁を抑制したので、新湊漁港のシロエビの水揚げ高は結局、去年の60%ぐらいに減りました。

(牧山)
思い返すと、確か5月ぐらいには県内のスーパーの店頭にも普段見ないような魚が並んでいましたね。

(野口)
ここ数年、射水市でもスーパーでシロエビを売っているところはあまりなかったのですが、今年は結構並びました。シロエビは今まで市場価格が下落した時でさえも、スーパーで取り扱うような食材ではなかったのです。今年はコロナ禍だからこそスーパーに置いてもらい、地元の方に食べていただける機会が増えたといえます。シロエビに限らず、高級飲食店で扱われるような高級魚が県内スーパーでも販売されていました。

野口氏②

 
複数の飲食店が結集。
合同でテイクアウト開始

(牧山)
美浪さんの状況はいかがでしたか。

美浪氏①

海風亭料理長
美浪 呂哉氏(魚津市) 以下(美浪)

私のところは3月ぐらいから徐々に影響が出始めました。3月、4月は歓送迎会シーズンですが、全てキャンセルになりました。さらにステイホームとなって、普段来ていただいていたお客さんもなかなか来店できなくなりました。飲食店が動かなければ生産者さんの食材も動かない状況になる。出口である私たちがなんとかお客様に届けることをしないといけないと思い、テイクアウトを始めました。最初は個々のお店でやっていたのですが、飲食店の皆さんが集まって合同で販売しようということになりました。最初は私のお店の前で始めましたが、思った以上に反響があり、ホテル・グランミラージュさんの広い場所を借りて、毎週末開催しました。

お店の営業の方は、8月にも新型コロナウイルスが再流行し、今もまた再拡大してきています※ので、昨年までと比べると明らかにお客様の数は減少しています。忘年会シーズンには毎年たくさんの企業や事業者の皆さんにご利用いただいていたのですが、今年は全くないです。GO TOイートやGO TO トラベルキャンペーンでちょっとお客さんが戻ってきたところに、また感染拡大で減ってきたという印象です。
(※取材時点は、令和2年11月末)

 

お酒の頒布会とコラボ
富山の食材配送で需要開拓

美浪氏②

(牧山)
“出口”であるお料理屋さんにお客さんが入って来ないとなると、そこに食材を供給される漁業者や農家さんなど、生産者全体が困りますよね。

(美浪)
そうですね。酒屋さんもお酒が余って困っておられたので、毎月のお酒の頒布会で、お酒と一緒に富山の食材を手配して送る取組みを、6月から6カ月間行いました。

(牧山)
反響はいかがでしたか。

(美浪)
かなり反響があり、110セットぐらい送りました。今は富山に来て、体験して食べてもらうことがなかなかできない状況です。富山の食材をまず味わってもらい、その上でコロナ禍が収束した時には富山を訪れてもらい、富山の良さを体験して欲しいという思いがあります。

 

大事なのは県民に地場産品を
美味しいと思ってもらうこと

(牧山)
普段なら食べられない食材が富山県内のスーパーでも手に入り、これまで食べたことがなかった方に味わってもらう機会ができた。また、テイクアウトや日本酒とのコラボ企画という新しい需要の掘り起こしにもつながりました。このように“未来の種蒔き”を行い、コロナ禍が収束した後にきちんと花が開くように繋いでいくには、消費者の立場からすると、これまで以上に「地場の生産品を意識」した購買行動をとることが大事だと思います。

野口さん、生産者の立場で県内消費者に対して、何か訴えたいことはありますか。

野口氏③

(野口)
富山は魚、米、野菜など、さまざまな美味しい生産品がありますが、それを食べたことがなかった県民の方々も多かった。こんなに美味しい生産品や食材があり、こんなに素晴らしい料理人の方々が美味しく料理してくださるという「富山の魅力」をコロナ禍の中で県民の皆さんに気づいていただけたことは、良かったことの一つだと思います。県外に行かなくても、県内にこんなに美味しいものがあると。生産者としては、どうしても大きい市場に目がいってしまうのですが、やはり地元でとれたものを地元の人に美味しいと思っていただけることが、一番大事なことだと思います。例えば県外から来られた方が「シロエビの味はどうですか」と地元民に聞いたときに、実際に食べていれば「美味しいよ」とはっきり言えるじゃないですか。そういう状況を生み出せたら、生産者にとって非常にうれしいことだと思います。

 

今は「信頼を稼ぐ」時間。
富山食材の商品力で勝負!

美浪氏④

(美浪)
このコロナ禍は「お金を稼ぐ」べき時ではない。アフターコロナにつながるように「信頼を稼ぐ」時間だと思っています。お店のスタイルやプライド・誇りを地元や県外の方に発信する中で、信頼というものが自然に生まれるとそこに道ができ、自分が思うような店作りができるのではないかと考えます。

機会があって、8月と9月に東京に出張して料理をしてきました。本来は東京オリンピックに合わせて行くはずでしたが、オリンピックが延期になって、延び延びになっていたのです。2カ月ぐらい行ってきましたが、その際の料理にシロエビも使わせていただきました。その時感じたのは、「富山の食材は本当にいい」ということ。本物を提供できる「商品力」さえあればお客様に伝わるということです。それは改めて私自身の自信にもなりました。東京には物があふれ、手に取ってもらうまでが非常に大変です。またパッケージやデザインも大事です。そこをきちんと考えた上で、ブレずに商品力をきちんと提供できれば、売れるものはしっかり売れます。富山の食材はそれだけの価値がありますし、安売りする必要は絶対にないと思います。

(牧山)
今は「信頼の稼ぎ時」という言葉にすごく共感しました。コロナ禍で密を避ける生活スタイルが求められるようになると、モノがあふれ競争が激しい東京で、今までの価値基準が大きく変わりました。そういう中でもしっかりとした商品力があれば勝負ができる。今までさまざまな情報の中で埋もれていた富山の良さ、特に地元の方が知らなかったような富山のモノの良さというものが、このコロナ禍で現れた。また、今まで敷居が高かったような料理屋さんでも「テイクアウトなら食べてみようか」といった動きも県民の中に出てきたように思います。

 

アフターコロナ見据え
夢に向かって食品加工業に挑む

(牧山)
今後、新型コロナウイルスが収束しても、以前のような消費行動には完全には戻らないとすれば、違う道筋を考えていかねばならないと思います。これから冬に向け、美浪さんは忘新年会シーズン、野口さんはカニ漁と大変な時期を迎えられると思いますが、前向きに今の状況をチャンスと捉え、この試練を乗り越えたコロナ後に、それぞれのお仕事についてどんな展開をしていきたいと考えておられますか?

(美浪)
さまざまなものが変わっていく中で、飲食店のあり方も変わらないといけません。団体よりも個人にシフトしていく時代になると思います。私の夢は目の前のお客様一人ひとりを大切にできるレストランを作ることです。今はどうやってその夢をアップデートさせていくか、道筋をいろいろと考えています。収入はガクッと減り、新しいチャレンジはなかなかしづらい状況です。だからまずはその安定性を作らないと夢には届かない。その安定をどのように作るかが今の目の前の課題です。

美浪氏⑤

(美浪)
夏に東京に料理の出張に行き、富山の商品力と自分の料理が通用したことは自信になりました。シチュエーションが変わってもお客様に届けること、お店に来なくても安定して届けられる環境を作ることができればと思っています。例えばお酒と一緒に販売したり、冷凍の食材をいろいろ使用したりといった、食品加工業を来年始めたいと思っています。これまで富山に来てくれたお客さんや、これから来てくれるたくさんのお客さんをターゲットに「富山みやげ」という土俵で、自分の商品を立ち上げてみたい。現在のお店は継続しつつ、コロナ禍に左右されずに店を安定させ、従業員を守り、そして自分の夢も叶えるという道筋のために、食品加工業でチャレンジする。その先に自分の理想とするレストランができたらいいなと思っています。もともとはコロナ禍に関係なく自分の夢だったのですが、こういう状況になって背中を押され、チャレンジしなくてはならない状況になったのは良かったと思っています。

 

多職種メンバーで情報発信。
しろえび観光船をスタート

野口氏⑤

(野口)
昔は「漁師は黙って魚を獲っていればいい。余計なことはしないで自分の技術を磨き、本業を大事にしなさい」と言われていました。自分の父親もそうでした。今でも本業は大事ですが、コロナが収束しても社会はそんなに変わらないとすれば、漁業者がやらなければいけないことは、「こんな良いものをこんなふうに獲っているのだよ」と自分たちで情報発信していくことだと思います。今までも多少はそのような取り組みをしていたのですが、漁業者だけの取組みではたかが知れています。そこで、新湊の漁業者が集まって、まず、「富山湾しろえび倶楽部」というものを作りました。そして、自分たちの力が及ばないところはいろんな所を巻き込もうと、「しろえびに関わった全ての人たち」に声を掛けました。今では、メンバーには漁業関係者の他、行政や民間企業、地元飲食店、宿泊施設、一般消費者の方が加わっています。コロナで自分たちから動けないとすれば、消費者の方にサポートしてもらう一つの方法として、今の時代はSNSが有効だと思います。そこで漁業者としてどのような目新しさが提供できるか考えた結果が、自分たちが漁をしている姿を実際にみてもらうことでした。

こうした発想で、今年7月から「白えび漁観光船」を始めました。漁をしているところに船で行って実際に漁の現場を見てもらい、そこで獲れたてのシロエビを食べてもらう。獲れたてのシロエビは朝日に照らすと透き通って見えるんですよ(笑)。そういう食べるだけではわからない体験をしてもらい、シロエビに興味を持ってもらった上で、体験した方々から情報発信をしてもらう。シロエビのブランド力を高めるには、雑誌やテレビで取り上げられることもありますが、今の時代は個人の方にどれだけ取り上げていただくかが大事だと思っています。

シロエビの魚価を上げるためにもこれらの取り組みは必要ですが、いろんな方と繋がれるというのが重要です。シロエビを通して地域貢献もできればと思っています。例えばシロエビを観光船で見てもらうのに合わせて、遠方からのお客さんの場合は、宿泊施設や地元の飲食店を紹介したり、食事を提供したりしています。みんなをセットにして、射水市に来て楽しんでもらえれば嬉しいです。シロエビを大きな市場に出して味わってもらうことも大事ですが、ちょっと偉そうですけれど、「食べに来い!(笑)」と。食べに来て美味しかったら、東京や大阪に戻ってまたシロエビを食べようということになります。そんなふうにブランド力が上がっていけばいいなと思います。「白えび漁観光船」を体験した人にSNSで紹介してもらえた点では、いいスタートというか、いい契機になったと思います。

 

(牧山)
テイクアウトやSNS投稿などを通じて、いろいろな形で人が寄り付いてくれば、そうした人を介していろんなところに経済が波及していく。おそらくこれまでもあったとは思いますが、そうした繋がりがこれまではそんなにはっきり見えなかったような気がします。生産者と料理人、地元の消費者、宿泊施設などがタッグを組み、地域の良さをもっと外にアピールしていける、そんな新たな繋がりがコロナを契機に県内のいろんなところにできているのかなと思います。

まだまだコロナ禍で大変なことの方が多いですが、お話をうかがって、将来に向けた希望をもって取り組んでいらっしゃるのだなあと実感しました。近年、「持続可能性」や「SDGs」といった言葉をよく耳にします。コロナ禍の下にあっても、自然や資源、家族や従業員の方々など、かけがえのないものを守りながら次世代に繋いでいくには、お話にあった「地域での横のつながり」が、これからの鍵になるのではないかと思いました。

今日は貴重なお話をいただきありがとうございました。

三人

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