国勢調査からのメッセージ
第5回 産業構造の変化

とやま国際センター研究員  浜松 誠二


経済構造の変化
 国勢調査は、個々人の就業の状況についても調べており、経済活動の長期的・構造的な変動を知るための基本的な資料となっている。
 今月号と来月号では、国勢調査の情報から経済活動の変化について検討してみよう。

産業別就業者数の変化
 経済構造の変動として、産業別就業者数の変化は、最も基本的な指標となろう。

 産業大分類別の就業者数の推移は、折れ線グラフなどでも表すことができる。しかし、ここでは、構造的な変化を見るため、各業種それぞれの変化の寄与度を表してみよう。
 下図は、1990年代前半及び後半の就業者数の変化を表したもので、横軸は始点での産業別就業者数の構成比、縦軸は始点から終点まで5年間のそれぞれの産業の就業者数の増減率を表している。産業それぞれの構成比と増減率で表される長方形の面積は、全就業者数の変化についての寄与度を表すこととなる 。
 このような「寄与度グラフ」は構造変化の効果的な表現方法であるが、描写が必ずしも容易でなく、あまり見かけない。しかし、6月号の三角図でも述べたとおり、各頂点の座標計算さえできれば、Excelなどで描写が可能となる。このため、一度ワークシートを作成すれば、後は、始終点の構成各要素の値を入れるだけで、自動的に描くことができるようになる。ちなみに、この寄与度グラフのワークシートを添付しておく。

 富山県の生産活動の中核にある製造業は、90年代前半に既に減少し、90年代後半にはその減少幅が一層大きくなっている。これは需要面での不振とともに、途上国との生産の競合が影響している。
 また、卸売・小売業、飲食店については、90年代前半には増加したが、後半には減少に転じている。これは、前半には、大型小売店等の展開による雇用の拡大が見られたものが、限界に至っていることを示している。さらに、商品需要の低迷とともに、情報システム導入による業務の効率化などによる影響も大きいであろう。
 建設業も、90年代前半はそれなりの拡大を示したが、後半には減少に転じている。これは、景気全般の低迷とともに財政的限界の下での公共事業の縮小によるところが大きい。
 金融・保険業の'90年前後半通じた減少については、事業基盤の弱さがあることはいうまでもない。
 農林漁業の減少は、生産従事者の高齢化、国際的な比較劣位による縮小と理解されるよう。
 他方、不動産業、サービス業、政府サービスは90年前後半を通じて増加している。高齢化社会の中での医療・福祉サービスの拡大やいわゆる知識社会化の中での企業の事業形態の多様化・モジュール化(細分化)によるサービス業の発生などが要因としてあろう。

 なお、平成13年に行われた「事業所・企業統計調査」の結果が7月末に公表されたので、参考までに、その従業者数の変化について、別途示しておく。



新しい時代の始まり
 次に産業大分類をさらに第一次、二次、三次産業に集約し、長期的な変化をみよう。

 ここでは、お馴染みとなった三角グラフを利用するが、今回は、ワークシートを添付しておく。

 産業構造の変化として特に目立つのは、1990年代に入って、変化の方向が転換したことである。
 第三次産業の就業者数の増加が長期間にわたって続いている。日本全体では、80年代までは、第一次が減少する中での第三次の増加であり、第二次の構成比は、約20年間程度30%強で安定して推移していた。しかし、90年代に入って、第二次の大幅な減少がみられ、新しい変化が始まっていると考えられる。
 ここで、中国・韓国について同様のグラフを描くと、それぞれ似た経路をたどっていることが分かる。ちなみに、まず第一次が減少する中で、第二次が次第に増加し、やがて第三次が凌駕していく産業構造の推移は、ペティ=クラークの法則と呼ばれるものである。
 このうち、韓国の変化については、90年まで第二次の増加も著しかったが、90年代には、日本と同様に、第二次の減少局面に転じている。
 このような日本・韓国の変化は、中国の経済成長により、日韓両国の製品輸入が急拡大し、国内での製造業の生産が停滞、減少した結果であることは明確であり、貿易統計の推移等でも確認できるが、ここでは本論から離れすぎるので深入りしない。

 なお、現在では、中国や韓国の統計についても、インターネットで容易に入手することができ、さらには、各種国際機関も豊富な統計を提供しているので、国際的な統計情報を活用した経済社会の分析が極めて容易な時代になってきていることを知っておいていただきたい。


 現在、情報技術の進歩などもあり、多様な製造業が地球上のどこででも容易に立地できるようになってきている。また、中国と日本の一人当たり国民所得は、30倍以上の格差がある。この結果、日本で、これまでと同じ技術で工場生産を続けることは、人件費の格差から極めて困難なものとなってきている。こうした産業空洞化の状況に対処していくためには、日本が比較優位にある高学歴社会を積極的に生かし、個々人の知的な力を十分に活用する生産内容にさらに移行していく必要があるとされ、産業構造も大きく転換しつつある。
 しかし、変化への対応が、全ての企業、地域で円滑に行われているわけではなく、むしろ多様な摩擦現象で、改革が滞っている部分も多い。

平成14年8月号