特集

平成22年度富山県民経済計算の推計結果による
近年の経済推移の特徴と推計基準改定に伴う差異
(後編)

統計調査課  宮脇 健一、社浦 万由美

 

1 はじめに


とやま経済月報5月号に引き続き、この6月号では、富山県民経済計算の「分配」「支出」に関し、本年3月に公表しました平成22年度富山県民経済計算報告書では触れていない複数年度の視点からの考察と、平成21年度県民経済計算との比較により「平成12年基準」から「平成17年基準」に改定されたことに伴う影響のご紹介をいたします。

※平成22年度富山県民経済計算報告書(以下、「本県報告書」という。)の内容は、ホームページ「とやま統計ワールド
http://www.pref.toyama.jp/sections/1015/lib/k3/_rep24/report01.html)」をご覧ください。

(注)1
「富山県民経済計算」「基準改定」「遡及計算」に関する説明は、とやま経済月報5月号掲載の前編
http://www.pref.toyama.jp/sections/1015/ecm/back/2013may/tokushu/index1.html)をご覧ください。
2
全国値との比較は、平成22年度富山県民経済計算の推計に用いた平成22年度国民経済計算確報(平成23年12月公表)の数値により比較しています。(平成24年12月に公表された平成23年度国民経済計算確報による遡及改定前の数値との比較)

2 分配(県民所得)にみられる県内総生産(名目)の近年の動き


とやま経済月報5月号では、県内総生産(名目)とその国内総生産(名目)に占める比率の推移図から、本県経済が全国と比較してリーマンショックの翌年度(平成21年度)により大きく影響が現われたことと、平成22年度にかなり回復したものの、回復水準はようやく全国に追い付いてきた状況であったことをご紹介しました。

県民経済計算は、本県の経済活動の結果を「生産」「分配」「支出」の三面からとらえていますので、同期間を「分配(県民所得)」の推移からみてみます。

(注)
県民所得は、県内総生産(名目)のうち県内雇用者報酬と営業余剰(企業の営業利益に相当)・混合所得(個人企業の所得に相当)からなる県内生産に、県外からの所得を加減したもの(県純生産)について、県雇用者報酬・財産所得・企業所得という構成で示したものです。

図1は、県民所得の構成比の推移図です。企業所得の構成比の変化に注目すると、冒頭で取り上げました平成20年度から22年度の本県経済の動きが分配の項目では特に企業所得に反映されていることがみてとれます。

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図1
(注)
構成比の推移は、金額の推移とあわせてみない場合に、誤った評価に陥る可能性がありますので、ご注意ください。例えば、平成20年度から22年度の県民雇用者報酬の構成比の変化は、本県報告書に掲載した図「県民所得金額(名目)の推移」の県民雇用者報酬の金額の変化(平成20年度は対前年度で横ばい、平成21年度が減少、平成22年度が横ばい)とは、異なっています。

図2−1は、本県報告書掲載の1人当たり県(国)民所得の推移の表を図にしたものです。国を100とした富山県の1人当たり県民所得の水準の折れ線グラフをみると、平成13年度から22年度までの全ての期間で国を上回っています(100以上)。図2−2のように、この折れ線グラフを、本県と国の(名目)経済成長率の折れ線グラフと同じ図内でみると、本県の経済成長率が国に較べ大きく増減した平成21年度及び22年度において、1人当たり県民所得の国に対する格差も大きく増減していることがみてとれます。

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図2−1、図2−2

3 支出からみた富山県経済の近年の特徴


図3は、県内総生産(支出側、名目)の需要項目別構成比の推移図です。特化の視点から本県の構成比と全国の構成比との比較をすると、図4のとおり、平成22年度では、構成比の小さい在庫品増加や移出入(統計上の不突合を含む)の項目で特化状況はマイナス値又は2.2と強い度合いが示されていますが、構成比の大きい家計最終消費支出や政府最終消費支出、総固定資本形成は、全国と同水準となっています(移出入(統計上の不突合を含む)を控除(国値の場合は輸出を控除)して計算した構成比で比較しても同様(図5))。

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図3、図4、図5
(注)
図3の項目と、図4又は5の項目との関係は、次のとおりです。
(図3)      (図4,5)
民間最終消費支出 = 家計最終消費支出 + 対家計民間非営利最終消費支出
政府最終消費支出 = 政府最終消費支出
総資本形成    = 総固定資本形成 + 在庫品増加
移出入 他    = 移出入(純)・統計上の不突合

図3では、民間最終消費支出が50%以上と大きな割合を占めていますが、平成13年度から22年度までの本県の(名目)経済成長率の寄与度の図(図6)をみてみると、経済成長率に大きく寄与したものは、総資本形成と移出入(統計上の不突合を含む)、つまり、投資(在庫品増減を含む)と県外への製品出荷の増減であったことが示されています。

図6

次に、支出のうち、政府最終消費支出と総資本形成について、ご紹介いたします。

(注)
民間最終消費支出や移出入については、家計調査や産業連関表を反映した内容のため割愛させていただきますので、とやま統計ワールド掲載の当該統計の解説をご覧ください。
家計調査
http://www.pref.toyama.jp/sections/1015/lib/kakei/21index-soku.html
産業連関表
http://www.pref.toyama.jp/sections/1015/lib/renkan/index.html

図7は、図3の政府最終消費支出について、その内訳を表示したものです。近年、構成比が大きくなっている社会保障基金は主に医療保険・介護保険による給付(現物社会給付)で、金額でも増加傾向となっています。なお、政府最終消費支出の全体額は、平成13年度から22年度までの間において、8千4百億円から8千5百億円の間で大きな増減がなく推移していますので、県内総生産(支出側、名目)における構成比の増加は、他の需要項目が減少していることによるものです。

政府最終消費支出の項目について、本県の構成比と全国の構成比との比較をすると、図8のとおり、本県では大規模な国の機関がないことから国出先機関の構成比は低く、県・市町村(国民経済計算では「地方政府」)は若干高くなっており、社会保障基金は全国と同水準となっています。

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図7、図8

政府最終消費支出の本県の(名目)経済成長率への寄与度の推移を、国出先機関・県・市町村・社会保障基金の別に分解すると、図9のとおり、リーマンショック後では、平成21年度は社会保障基金、平成22年度は県と社会保障基金が大きくプラスに寄与しています。

政府最終消費支出は、生産側で推計した政府サービスの産出額に、授業料や物品売払収入などの収入額を減算し、家計への移転的支出である主に医療保険・介護保険による給付分などの現物社会給付の額を加算して推計しておりますので、その項目別に分解した経済成長率への寄与度の推移(図10)も表すことができ、リーマンショック後でプラスへの寄与が大きいものは、家計への移転的支出と中間投入(ここでは、国出先機関・県・市町村が政府サービスを提供するために消費した物的経費(主に物件費)。)となっています。

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図9、図10

図9と図10に関して、リーマンショック以降の年度にプラスに寄与している項目に着目してみます。社会保障基金と家計への移転的支出は、概ね同じ内容(つまり概ね同額)ですので、ここで、図9で平成22年度にプラスに寄与がみられる県の支出と図10の中間投入との関係をみてみます。図10から県分(県分の家計への移転的支出分を除く)の寄与を抜き出してみると、図11のとおり、平成21年度及び22年度の中間投入のプラスへの寄与が示されています。中間投入の内容から、リーマンショック後の景気対策事業による委託料支出の拡大がプラスの寄与となって表れたものと考えられます。

図11

図12は、図3から総資本形成の部分を抜き出したものです。リーマンショック以降では、総固定資本形成(公的)の構成比が大きくなっていますが、これは北陸新幹線整備事業による鉄道軌道工事の増加などが大きく寄与しているものです(総資本形成全体の増減も勘案する必要にもご注意ください)。

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図12

平成21年度から22年度について、総資本形成の本県の構成比と全国の構成比との比較をすると、図13(1〜3)のとおり、総固定資本形成(公的)が北陸新幹線整備事業により特化の度合いを強めていっていることと、民間の在庫品増減が特化の度合いを反転(1.9→−1.0)させていることという特徴が示されています。

なお、後者の民間の在庫品増減は、表1のとおり実数と構成比の推移にも注意が必要ですが、平成20年度はリーマンショック後の需要減少を背景に、本県では在庫品が大きく増加し、全国は在庫調整が進み小さい増加となったことから特化の度合いが強まり、平成21年度は景気の回復が始まり、本県・全国ともに在庫品が大きく減少した中で特化の度合いは更に強まり、平成22年度は本県では在庫品が増加し全国では減少したため(分母の全国値のみがマイナス値のため)に特化状況でマイナス値が生じたという内容です。このような在庫品の増減の動きからも、全国と比較してリーマンショックの景気後退の影響が翌年度(平成21年度)により大きく現われ、平成22年度に全国の回復水準にようやく追い付いたという本県経済の状況をみることができます。

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図13-1、図13-2、図13-3

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表1

総資本形成の本県の(名目)経済成長率への寄与度の推移では、図14のとおり、リーマンショック後では、民間の在庫品増減が大きく寄与していること、総固定資本形成について、平成21年度は民間の減少を公的部門が補い、平成22年度は民間・公的とも寄与度が0%に近いことから前年度に引き続き民間が回復に転じるまで公的部門が同水準の投資を行い補っていることが示されており、構成比や特化状況と同様の特徴的な動きがみられます。

図14

4 基準改定による推計値の変化


先月号では、基準改定による推計値の変化について、「生産」面の変化をご紹介しました。

「分配」「支出」においても、「生産」と同じように、基準改定により推計値に違いをみることができますので、同じ年度の推計値がそろっている平成13年度から21年度までの値を、「分配」「支出」それぞれの項目別に比較してみます。

(注)
富山県民経済計算は、平成22年度県民経済計算は平成17年基準(以下「17年基準」とする。)で推計し、平成21年度県民経済計算は平成12年基準(以下「12年基準」とする。)で推計しています。

(1)「分配」における比較

県民所得は、全ての年度において、17年基準値が12年基準値を上回っています(図15)。特に平成16年度から18年度においては、その差が他の年度に比べ、大きくなっています。

図15

県民所得は、県内居住者の生産活動から生み出された付加価値であり、県民雇用者報酬、財産所得、企業所得で構成されています。

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図16、図17、図18

図16のとおり、県民雇用者報酬については、17年基準値が12年基準値を全ての年度にわたって若干下回っています。これは、基準改定に伴い、農林水産業以外の産業において、家族従業者分の分配を企業所得のうちの個人企業に移行するように、推計を変更したことなどによるものです。また、平成18年度から21年度の値は、他の年度に比べて差が広がっています。これは、平成22年の国勢調査確報値を推計に利用できることとなった結果、平成17年国勢調査以降の雇用者数について、平成18年度から21年度の常用雇用者数が調整変更の再計算で減少、臨時雇用者が同様の再計算で増加し、雇用者へ支払われる賃金・俸給の総額が減少したことなどによるものです。

財産所得については、17年基準値が12年基準値を全ての年度にわたって上回っており、その差に大きな差はありませんが、平成19年度から21年度の値に若干差があります(図17)。

企業所得については、5月号の「生産」でご紹介しました県内総生産(名目)の内訳の1つである営業余剰・混合所得において17年基準値が12年基準値を上回った推計結果を受けて、17年基準値が12年基準値を全ての年度にわたって上回っており、特に平成16年度から18年度において大きく上回っています(図18)。つまり、図15の県民所得の傾向は、企業所得の影響によるものとなります。

なお、財産所得と企業所得については、経済主体別でもその変化をみてみます。


財産所得について、経済主体別(一般政府、家計、対家計民間非営利団体)にみてみると、一般政府は、17年基準値が12年基準値を全ての年度にわたってほぼ同じ幅で上回っており、家計は、17年基準値が12年基準値を全ての年度にわたって上回っており、特に平成19年度から21年度において大きく上回っています(図19、20)。また、対家計民間非営利団体については、17年基準値が12年基準値を全ての年度にわたって上回っていますが、その差はほぼありません(図21)。

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図19、図20、図21

17年基準値と12年基準値との差の幅が不均等であった図20の財産所得(家計)について、所得の内訳別(利子、配当、保険契約者に帰属する財産所得、土地の賃借料)にその変化をみてみると、配当、保険契約者に帰属する財産所得は、17年基準値と12年基準値に差はほぼなく(図23、24。図を掲載していない土地の賃借料についても同様)、利子は、17年基準値が12年基準値を全ての年度にわたって上回っており、特に平成19年度から21年度において大きく上回っています(図22)。利子については、家計が受け取る預貯金利子の推計について、今回の基準改定により、推計に用いる個人分割合の統計に変化があったことなどによるものです。

これらのことから、財産所得における基準改定に伴う推計値の平成19年度から21年度における差は、家計における受取利子の変化から生じたものということができます。

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図22、図23、図24

次に、企業所得について、経済主体別(民間法人企業、公的企業、個人企業)にみてみると、民間法人企業は、平成16年度と18年度で、17年基準値が12年基準値を他の年度と比べて大きく上回っており、公的企業は、17年基準値と12年基準値に大きな差はありません(図25、26)。また、個人企業は、17年基準値が12年基準値を、全ての年度においてほぼ同じ幅で上回っています(図27)。

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図25、図26、図27

17年基準値と12年基準値の差が最も大きい図27の個人企業について、産業別(農林水産業、その他の産業、持ち家)にその変化をみてみると、農林水産業は、17年基準値と12年基準値に差はなく(図28)、その他の産業は、前記の県民雇用者報酬からの家族従業者分の分配の移行分により、17年基準値が12年基準値を全ての年度にわたって上回っており、持ち家(「生産」において帰属家賃として推計した持ち家の付加価値を、「分配」において表している部分)は、17年基準値が12年基準値を全ての年度にわたって上回っています(図30)。持ち家については、今回の基準改定により、生産系列の住宅賃貸業で推計された持ち家から直接推計する方法に変更したことなどによるものです。

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図28、図29、図30

(2)「支出」における比較

最終生産物に対する支出面から捉えた県内総生産は、財貨・サービスの処分状況を、最終消費支出(民間、政府)、総資本形成(投資(在庫品増減を含む))、財貨・サービスの移出入として把握し、これに統計上の不突合を加えたものです。

生産側と支出側は同額ですので、県内総生産(支出側、名目)は5月号の図と同じく、図31のとおり、全ての年度において、17年基準値が12年基準値を上回っています。

図31

県内総生産(支出側、名目)の需要項目ごとにみてみると、民間最終消費支出は、推計に用いる消費支出額の世帯区分の統計の変更があったことなどにより、17年基準値が12年基準値を全ての年度にわたってほぼ同じ幅で上回っており(図32)、政府最終消費支出及び総資本形成は、17年基準値と12年基準値に大きな差がなく(図33、34)、財貨・サービスの移出入は、17年基準値が12年基準値を全ての年度にわたってほぼ同じ幅で下回っています(図35)。

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図32、図33、図34、図35

財貨・サービスの移出入について、構成要素別(財貨・サービスの移出、財貨・サービスの移入、FISIM移出入)にその変化をみてみると、財貨・サービスの移出は、17年基準値が12年基準値を全ての年度にわたって上回っていますが、その差はほぼなく(図36)、財貨・サービスの移入は、前記のとおり民間最終消費支出(特に家計最終消費支出)の推計値が大きくなったことにより、これに移入率をかける推計方法の関係から、17年基準値が12年基準値を全ての年度にわたってほぼ同じ幅で上回っています(図37)。

なお、FISIM移出入は、今回の基準改定により新しく導入されたため、12年基準値はありませんが、図38のとおり17年基準値は小さく、財貨・サービスの移出入全体に大きな影響は与えていません。

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図36、図37、図38
(注)
財貨・サービスの移入は控除項目であることから、値が大きくなるほど、移出入の値は小さくなります。

5 おわりに


平成22年度富山県民経済計算の推計結果を、5月号と6月号の2回にわたってご紹介しました。

県民経済計算は内容が多岐にわたり、様々な統計を活用して作成している関係で、公表が若干遅れ、速報性が弱い一面もありますが、多方面から富山県経済を分析するという点においては他の統計はありません。本稿をご覧になり、富山県経済について新たな発見があれば幸いです。

また、県民経済計算に活用する統計を提供いただいた皆様方には、今後も統計の整備につきまして、ご理解を賜りますよう、お願い申し上げます。

とやま経済月報
平成25年6月号