特集

消費生活相談の現状と課題
〜地域の見守り活動の推進〜

富山県消費生活センター

 

はじめに


近年、消費者を取り巻く環境は、経済情勢の変化や高齢化、高度情報化及び国際化の進展などを背景に大きく変化してきており、それに伴い、富山県消費生活センターに寄せられる消費生活相談の内容も複雑化・巧妙化してきています。

とりわけ、高齢者が詐欺まがいの手口による悪質商法のターゲットとなりやすく、深刻な状況にあります。

消費者庁発刊の平成26年版消費者白書(*)によると、わが国全体で消費者が支出する消費額の総額は、2013年現在約286兆円で経済全体(国内総生産(GDP)約478兆円)の約6割を占めています。

このように消費者の消費活動は、我が国の社会経済全体に大きな影響を及ぼしていることから、経済の持続的な発展のためにも消費者が安心して消費活動ができることが重要です。

本稿では、消費生活相談の現状と課題について考え、消費者の安心・安全なくらしの実現に向け、県が取り組んでいる消費者トラブル防止のための施策をご紹介します。

(*)
平成26年版消費者白書…http://www.caa.go.jp/adjustments/index_15.html

T 消費生活相談の現状


富山県消費生活センター(以下、当センターという)に寄せられた平成25年度の消費生活相談件数は、6,279件(架空請求音声ガイダンス1,060件含む)で対前年度比は105.4%と9年ぶりに増加に転じました。


1 消費生活相談の推移(平成16〜25年度)
表
○年度別相談件数(図1参照)
平成15〜16年度に、はがきや封書などで、身に覚えのない有料情報利用料などを一方的に請求する「架空請求」の相談が全国的に激増し、相談件数は16年度には21,964件でピークとなりました。
その後、官民一体となった被害撲滅に向けての取り組みにより平成17年度以降、架空・不当請求が沈静化し、それに伴い全体の相談件数は減少傾向にありましたが、平成25年度は9年ぶりに増加に転じました。
また、65歳以上の高齢者の相談件数は、平成17年度をピークとして、以降毎年減少していましたが、平成24年度から増加に転じ、平成25年度では1,530件で全体の約4分の1を占め、前年度に比べ255件増加しており、全体の相談件数が増加した要因となっています。
2 商品、役務(サービス)別相談状況(平成25年度)(表1参照)
平成25年度において相談の対象となった商品と役務(サービス)の件数は、商品に関するものが、2,153件(全体の41.3%)、役務に関するものが2,808件(同53.8%)で、情報通信の発達に伴い役務に関する相談件数が、商品に関する相談件数を上回る傾向が続いています。
商品及び役務(サービス)に関する相談の状況は次のとおりです。

※表をクリックすると大きく表示されます

表
(1) 商品に関する相談の主な事例には、次のようなものがあります。
1)食料品
心当たりのない業者から突然、「以前、注文された健康食品を届ける」と電話があり、「注文していない」と断ったにもかかわらず、強引に代金引換で送付するなどという健康食品の送りつけに関する相談や、冷凍食品の自主回収に関する問い合わせなどで、平成25年度では件数が大幅に増えました。
2)教養娯楽品
訪問販売で、新聞購読を強引に勧誘されたので解約したいという相談など。
3)商品一般
商品の種類が特定できず、何の代金として請求されているか不明であったり、身に覚えのないはがきや電子メールによる架空請求の相談などで、平成25年度では件数が大幅に増えました。
(2) 役務(サービス)に関する相談の主な事例には、次のようなものがあります。
1)運輸・通信サービス
インターネットでアダルト情報サイトや出会い系サイトにアクセスしてしまい、多額の料金を請求されたという不当請求や架空請求に関する相談、電話勧誘で強引に契約させられた光回線の解約に関する相談など。
2)金融・保険サービス
多重債務に陥った本人や家族からの債務整理の相談、投資(社債・未公開株等)に関する相談など。
3)他の役務
結婚相手紹介サービスに関する解約や信用性に関する相談、新聞・雑誌への広告掲載の強引な電話勧誘や契約・解約に関する相談など。
(3) 消費者金融について
商品・役務に関する主な相談内容のうち、金融・保険サービス欄の「フリーローン・サラ金」に関する相談は254件(対前年度比73.2%)でした。
貸金業法等の改正(*)に伴い、多重債務の相談は減少傾向にあります。そのうち、借入金の整理方法に関する相談が102件と最も多くなっています(全体の29.4%)。
図2 金融相談件数の推移(平成16〜25年度)

※図をクリックすると大きく表示されます

図
多重債務の相談は、法律専門家につなぐことが大切であり、当センターでは、相談員が相談者の債務状況の聞き取りをした上で、直接、法律専門家に予約を入れる方法をとっています。
(*)
多重債務に対応するため、多重債務の原因となる高金利の是正や、借り過ぎ防止のための総量規制の導入を柱とした法改正が行われました。(平成18年公布、平成22年6月22日全面施行)
3 販売購入形態別相談件数(平成25年度)
商品などの販売購入形態別相談数を「店舗購入」と「店舗外販売」でみると、「店舗購入」が1,416件で対前年度比102.2%、「店舗外販売」は2,759件で対前年度比117.3%となり、内訳は以下のとおりです。
○店舗外販売の内訳 (以下( )内は対前年度比)
表
「電話勧誘販売」の増加の要因は健康食品の送りつけに関する相談が急増したためです。
(*1)
「訪問購入」とは、購入業者が消費者の自宅等の営業所等以外の場所において、売買契約を締結し物品等を購入しようとする取引形態。平成25年2月の法改正により統計を取り始めているため、前年度比較はしない。
(*2)
「ネガティブ・オプション」とは、注文をしていないにも関わらず商品を一方的に送りつけ、購入しなければならないものと勘違いさせて支払わせることを狙った商法。
4 年代別相談件数の比較(平成16、25年度)
年代別の構成割合(図3参照)をみてみると、平成16年度では39歳以下の相談件数が全体の49.7%と約半分を占め、60歳以上の相談件数は15.1%でしたが、平成25年度では、39歳以下が25.3%に減少し、一方、60歳代以上が44.3%となり、全体に占める割合が大きくなっています。
図3 相談件数の年代構成(H16年度とH25年度の比較)
図
(*)
それぞれの年度の件数には、音声ガイダンスと年齢不明の件数は含まれていない
5 高齢者(65歳以上)の相談について
消費者トラブルは、年齢など消費者の特性ごとに特徴が見られますが、近年高齢者からの消費者トラブルは、相談件数で大きな割合を占めるようになっています。(図1参照)
ここでは、65歳以上の高齢者の消費者トラブルについて見ていきます。
平成25年度の65歳以上の相談件数が増加した要因としては、健康食品の送りつけに関する相談が大幅に増えたことによりますが、この他にも、「未公開株や怪しい社債・権利、事業への投資、ダイヤモンドや金などの購入をもちかける電話があり、勧誘に応じて多額のお金を支払ったが、支払後に業者と連絡が取れなくなってしまった。(電話と前後してパンフレット等が送付されます。)」といった、いわゆる怪しい投資に関する『劇場型の電話勧誘』による詐欺的手口で多くの高齢者が狙われています。
また、インターネットを利用して無料のアダルトサイトを開いたところ、高額な登録料を請求されたなどの不当請求に関する相談も多く寄せられました。
○高齢者の上位商品・役務の内容
表
(*)
商品が特定できないもの(例 架空請求)
高齢者の消費者トラブルが増加している背景として、高齢者はだまされたことに気付きにくく、また被害にあっても誰にも相談しないといった特徴があります。
さらに、高齢者は「お金」「健康」「孤独」の3つの大きな不安を持っていると言われており、そういった不安に悪質業者がつけ込んでくるケースが多く見受けられます。
中でも、一人住まいの高齢者は、情報量が不十分であったり相談相手が身近にいないなど、被害が深刻になる傾向があります。
このため、高齢者の消費者トラブルの未然防止・拡大防止のための対策が重要となってきています。

U 消費者トラブル防止のための対応策


1 「くらしの安心ネットとやま」の活動
広域化、複雑化、多様化する消費者問題に対処するため、行政機関、福祉関係団体、消費者団体等の51機関・団体で「くらしの安心ネットとやま」を平成18年に組織し、相互の連携を図りながら、「高齢者の見守り」をはじめとする消費者被害の未然防止、早期発見による迅速な救済に努め、安全・安心な消費生活の実現をめざしています。
当センターから、「くらしの安心情報」(最近の特徴的な悪質商法の事例、消費生活に関する情報等)を毎月配信するなど、情報の共有化を行っています。
くらしの安心ネットとやま

※図をクリックするとPDFデータが表示されます

図
○あらたな取組み〜消費者問題地域体制の推進〜
近年、高齢者・障がい者(以下、高齢者等という)を狙った悪質商法による消費者トラブルや特殊詐欺が後を絶たず、また繰り返し被害に遭うなどより深刻なものとなっており、そのようなトラブルの未然防止と早期発見による拡大防止を図ることが重要です。
そのためには、高齢者等本人が出前講座等を受講するなど問題意識を高めると共に、高齢者等の身近にいる方々の協力による「見守り活動」の推進が大切です。
県では、平成26年度から「くらしの安心ネットとやま」を拡充し、地域で高齢者等の「見守り活動」や消費者啓発活動を行っている団体・グループ等および金融機関関係団体に対して、高齢者等に多く見られる悪質商法の手口や消費生活相談窓口等の情報の配信(*)や出前講座などを行いながら、消費者トラブルへの対処方法等を身につけてもらうことで、団体やグループ等が行う見守り活動を支援していきます。
◆ 対象は地域において住民の見守り活動を展開する団体・グループです。
(例:消費者グループ、老人クラブ、自治会、ボランティアグループ等)
◆ 当センターから提供する内容
  • 「くらしの安心情報」の配信(毎月)
  • 注意喚起など、見守り活動に必要な情報の配信(随時)
  • 「消費生活出前講座」の開催(申し込みが必要です。)
◆ 団体、グループ等が当センターや市町村につないでいただきたい内容
  • 見守り活動時のトラブル発生情報の連絡、及び高齢者等(若しくは家族)に対して、最寄りの消費生活センター等への相談の勧めなど。
(*)
定期的に県から情報を発信しますので、事前登録制となります。
登録の申し込み及び問い合せは、当センターにお問い合わせください。
2 消費者教育・啓発活動
当センターでは、県民一人ひとりが、自ら考え行動できる「自立した消費者」となるための啓発事業として、小学生から高齢者までのあらゆる世代を対象に、出前講座や講習会等を開催したり、冊子、パンフレットにより広く啓発・普及活動を行っています。
○出前講座等の実施
  • 消費生活出前講座 (平成25年度実績: 31講座 1,166名)
    一般県民を対象に、消費者トラブルの対処法について、より具体的な注意喚起を行うため出前講座を開催しています。
  • 悪質商法撃退教室 (平成25年度実績: 29講座 1,152名)
    老人クラブ等地域団体役員等の方々を対象に、ご自身も被害に遭わないようにするとともに、高齢者の見守りに活かしていただくよう開催しています。
  • 中学、高校、大学生を対象とした消費生活講座
若者が陥りやすい消費者トラブルの事例とその対処法について、専門知識を有した講師を活用し開催しています。(高校生講座は県弁護士会と共催しています。)
  • 夏休み子ども生活・科学教室 (平成25年度: 6回 253名)
    小学生を対象に、科学的な目を養うとともに、商品を選ぶ目をもたせることを目的とした実験実習教室を開催しています。
○広報活動
  • 新聞紙上で「くらしの安心情報」(毎月)を掲載し、最近の相談事例と対処法等を提供しています。
  • 機関紙「くらしの情報とやま」(隔月発行)では、消費者に必要な知識や各種情報を提供しています。
  • 啓発用冊子、「かしこい消費者」「チャレンジ!かしこい消費者」「悪質商法撃退教室」 「消費者トラブルミニ事例集」を作成し、出前講座等で活用しています。

おわりに


平成21年度に消費者庁が発足し、地方の消費者行政の機能強化を目的とする「地方消費者行政活性化基金」を活用して、県や市町村の消費生活相談窓口の充実・強化が図られ、県民の皆さんがより身近な窓口で消費生活相談を受けられるような体制になってきています。

富山県消費生活センターでは、これからも、相談窓口として消費者トラブルに遭われた場合の解決に向けての適切な助言や情報提供を行うとともに、あらゆる世代を対象に啓発活動を行い、一人ひとりが自ら考え行動できる消費者になっていただくようサポートしてまいります。

県民の皆さんには、トラブルに遭ったり、また、トラブルに遭っている高齢者等の情報を入手されたときは、お早めに最寄りの消費生活相談窓口にご相談ください。

県の消費生活センターのホームページでは、県内で起きた消費者トラブルと対処法を掲載していますので、参考にしてください。

富山県消費生活センターホームページ
アドレス:http://www.pref.toyama.jp/branches/1731/1731.htm
とやま経済月報
平成26年8月号