「元気とやま」を支える若者への就業支援について 富山県 商工労働部 労働雇用課 |
1 はじめに〜本県の若年者雇用の現状と課題〜本県の雇用情勢については、前号の富山労働局のレポートにもあるとおり、景気回復を背景として、全体として改善しているところです。特に、若年層の就職環境については大きく改善し、新規学卒者を中心に「売り手市場」とも言われています。 しかし、個別に見てみると、若年者の雇用環境には、依然として厳しい状況が残っています。現在、県内の15歳から24歳までの若年層の有効求人倍率は、他の年齢層よりやや高いものの、完全失業率は6.9%で他の年齢層よりも高く、また、新規学校卒業者の早期離職率は、全国の状況と同様に高い水準にあります。 |
![]() 【資料:厚生労働省・富山労働局】 ![]() 【資料:総務省(平成14年就業構造基本調査(14年9月))】 ![]() |
また、最近はアルバイトで生計を立てるフリーターや、いわゆる「ニート」の存在が解決すべき問題となっています。平成18年度版労働経済白書によれば、全国で、フリーター:201万人、ニート:64万人(いずれも2005年)となっており、ここ数年高い水準で推移しています(図4、図5)。 |
ニート: | 「Not in Education,Empioyment,or Training(=学生ではなく、働いてもおらず、職業訓練も受けていない)」という意味で、「フリーター」よりも深刻さの度合いが進んだ社会問題ともなっている。 |
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フリーターについては、2003年をピークに減少していますが、25歳〜34歳では減少幅が小さく、高止まりしており、いわゆる「年長フリーター」として留まる傾向にあります。 都道府県別のフリーター、ニート数は、公表されていませんが、独立行政法人労働政策研究・研修機構(注1)の小杉礼子(注2)氏が、平成14年度の就業構造基本調査の結果を元に独自に行った推計によると、本県では、フリーター約1万2千人、ニート約4千人と言われています。 フリーターのようなパートやアルバイト、また、派遣労働者などのいわゆる非正規雇用者が増加する一方、正社員は減少しており、就業形態の多様化が進んでいるところですが、若年者における非正規雇用については、キャリアの蓄積や職業生活の全般に渡る長期的な設計など様々な点で正社員との格差が生じ、それが固定化されてしまうことが懸念されているところです。 |
こうした若者の早期離職率の高さやフリーターなどの問題の原因としては、企業が求める人物像や知識・技能等と若者の職業意識の違い、若者が求める職種や賃金等の労働条件と求人条件の不一致といった「雇用のミスマッチ」が、構造的に存在していることがあげられます。 例えば、企業側が学生の選考の際に重視する点は、「チャレンジ精神」や「協調性」である一方、学生が考える企業側のニーズは、「誠実性」や「コミュニケーション能力」であると考えています。また、学生は、事務的職業を希望するものの、企業の事務職求人は、少ない状況になっています。
今回は、このうち、「ヤングジョブとやま」を中心とした就業支援と、ニートなどの若者への職業的自立支援、それから、U・Iターンなどにより本県での就職を希望する若者への支援について、詳しく説明していきます。 |
2 「ヤングジョブとやま」を中心とした就業支援「ヤングジョブとやま(富山県若者就業支援センター)」は、若者の就業に関する情報提供から職業紹介までのサービスを1つの窓口で提供する拠点施設であり、富山駅北の「とやま自遊館」の2階にあります。 いつでも立ち寄れるカフェのような気軽さと、充実したサポート体制で、平成16年7月のサービス開始から本年10月末までに43,280名が利用し、その中から1,103名が就職に結びつくなどの成果をあげてきました。
「ヤングジョブとやま」を訪れる若者には、就職や就職活動に関する悩みを抱えている方が多く、このような方々に対しては、経験豊かなカウンセラーによるカウンセリングを行っています。このカウンセリングは、ヤングジョブとやまの最も重要な機能であり、サービス開始以来2,689人の若者が利用しています。 カウンセリング内容の多くは、「自分に向いている仕事がわからない。」や「他人とのコミュニケーションがとれない。」といった就職活動に入る以前のケースが多くなっています。このため、心理面での悩みを解きほぐし、若者の就職への意識を高め、自信を持ってもらうことが、大きなポイントとなっています。今年度からは、臨床心理士(注4)を配置し、より専門的な手法で、カウンセリングに応じています。 また、就職に悩む、より多くの方々に利用していただくために、高岡市と魚津市において、巡回相談を行うとともに、就職関連イベント等へ出向き、相談を受ける「出張!街かど相談」を行っています。最近では、保護者の方の相談も増えていることから、月1回「親向けセミナー」を開催しています。 このようなカウンセリングにより、就職活動に対する意識が高まった若者に対しては、少人数のグループによる「ミニセミナー」を行っています。主な内容としては、自己理解や職業適性検査、応募書類の作成方法等となっており、就職活動を行うに当たって必要な知識等を幅広く提供する内容となっています。 こうしたセミナーを受講することにより、悩んでいた若者たちは、具体的な就職活動や職業訓練など、次の一歩へと踏み出していきます。 ヤングジョブとやまでは、就職に悩んでいる若者への直接的な支援を行うだけではなく、若者の職業意識を早い段階から高めていくための取組みも行っています。 この他にも、企業とのマッチングの場の提供や企業側へのアプローチなど、若者の就業支援のための幅広い取組みを行っています。 ○詳しくは「ヤングジョブとやまホームページ」をご覧下さい。 |
3 ニート等の若者への職業的自立支援さて、ヤングジョブとやまへ相談に訪れる若者の中には、就職に関する心理的な悩みを抱えているだけでなく、社会に出て行こうという意欲自体が乏しい若者や就職活動で失敗を繰り返すうちに自信を無くし、意欲を失った若者が増えてきています。彼らは、いわゆる「ニート」と呼ばれる若者です。 「ニート」と聞くと、多くの方は、「働かない若者」という印象があることでしょう。確かに、そういう若者もいます。しかし、ニート問題の研究の第一人者である、東京大学社会科学研究所の玄田有史(注5)助教授によれば、ニートの多くは、「働かない若者」ではなく、「働けない若者」であると言われています。 |
「ニートは、不透明で閉塞した状況のなか、・・・働く自分に希望が持てなくなり、立ち止まってしまった若者の姿だ。」「働くことでしか得られない本当の自由や自立というものがあることを、ニートは知りすぎるほど知っている。・・・しかし働くことに動き出すためのきっかけや、働き出した先の自分に対する自信や、そんな自信を持つためのきっかけが決定的に欠けているのだ。・・・ニートを社会的に支援する必要があるのも、・・・働きたいと思っていながら、ひとりではどうしようもないままでいる個人に、他者が適度に手を差し伸べることこそ、社会における本当の共生だからだ。」(玄田有史著 「働く過剰」より) |
○ニートの4分類
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こうしたニートが増加した背景としては、若者の雇用環境が悪化した中で、就学から就業への円滑な移行ができない若者の増加が指摘されています。 また、若者が、ニートになる要因は、本人の心身の健康上の理由、人間関係への不安、無職期間の長さなど、個々人によって大きく異なると言われています。 実際に、ヤングジョブとやまへ相談に来る若者の中にも、学校の専攻を生かした就職先や自分がやりたいと思っていた仕事を探したけれども何社も断られ、そのうち就職活動そのものに自信を無くしたり、また、学校時代に人間関係がうまくいかなくなり、それ以来人間関係を築くことが苦手になったりと、様々な理由で、次の一歩をどう踏み出していいかわからなくなってしまった方もいます。 このため、こうしたニート等の若者への支援にあたっては、一人ひとりの状況に応じた最も効果的な助言、相談、就職支援等のサービスをきめ細かく実施していくことが必要です。 ヤングジョブとやまでは、このような若者に対して社会に出るきっかけを与え、自信を取り戻してもらうために、カウンセリングにより就職意識が芽生えたけれども、就職活動などの次の一歩をどう踏み出してよいかわからない若者に対し、NPO団体や企業等の協力を得て、本人の希望等を踏まえた短期間の就業体験や社会参加体験等を行う「若者自立チャレンジトレーニング事業」を実施しています。 平成17年度には、20人の若者が就業体験等を行い、うち7名の方が就職に結びつきました。今年度は、10月末までで、16名の方が就業体験等を行い、うち5名が就職に結びついたところです。 一方、個々の若者の置かれた状況に応じたきめ細かな支援を進めるには、就業体験等だけでなく、雇用、福祉、教育など様々な施策と連携を図り、様々な機関が実施する取組みを効果的に活用することも必要であると考えています。 昨年11月に、石井知事が、富山市にある、引きこもりや不登校、ニートなどの若者を受け入れ共同生活を行う「ピースフルハウス はぐれ雲(注6)」を訪れたのをきっかけに、県庁内にニート対策を横断的に検討するプロジェクトチームが発足しました。 そして、このプロジェクトチームでの検討を踏まえ、本年8月には、若者の就労支援や自立支援に取組むNPO団体、若者の職業意識の啓発を図る教育機関、若者に職場体験等の機会を提供してもらう企業の団体、市町村等の関連団体が相互に連携し、地域ぐるみで職業的自立へと誘導するため、「富山県若者自立支援ネットワーク会議」を開催し、今後の連携を確認しました。 さらに、この関連団体と連携し、個々の若者にあった効果的な支援を提供する窓口として、ヤングジョブとやま内に、「富山県地域若者サポートステーション(サポステとやま)」を設置しました。 サポステとやまでは、キャリアコンサルタント(注7)という専門家が、ヤングジョブとやまのカウンセラーと相談しながら、ネットワークの各機関が行う支援策を活用し、次の一歩を踏み出せない若者の個々の状況に応じて、適切な支援が受けられるよう、コーディネートを行っています。 8月の設置から10月末までに、26人の若者に対し支援を行っています。支援対象の若者の多くは、長期間に渡り社会的な活動をしていない方が多いため、カウンセリングも長期化する傾向にありますが、丁寧なカウンセリングと様々な支援措置により、新たな第一歩を踏み出す若者が増えてきています。 今後は、このネットワークをさらに広げ、個々人の状況に応じた、よりきめ細かな支援が行えるよう進めていくこととしています。 ![]() |
さて、県内の若年者の雇用環境は、最初にも触れたように、新規学卒予定者を中心に大きく改善しています。 県内企業においても、今後の人口減少時代での労働力不足や団塊世代の退職を踏まえ、採用意欲が高まってきており、企業側では、「人手不足」が悩みとなっています。 一方、県が、昨年行った「富山県の未来に対する意識調査」によれば、県内高校生の過半数(55.1%)が「将来的には富山に住みたい」という希望をもっており、平成11年に実施された前回調査の結果を上回っています。 ![]() 県外へ進学した学生で、本県での就職活動を行っている学生に話を聞くと、「富山には、自分の能力を生かせる魅力的な就職先がない。」という声を聞きます。果たしてそうでしょうか?答えは、「No」です。 本県には、あまり知られていないけれども、実は、全国シェアNo.1を占める企業、世界に誇る技術を持った企業など「知る人ぞ知る」優良企業が数多くあります。しかし、県外に進学した学生にとっては、県内のどこに、どのような優良企業があるのかという情報に触れる機会が少ないのが現状です。 こうしたことから、県では、県外へ進学した学生や、県外で就職したものの、県内での就職を希望する方に対して、積極的に情報発信を行うとともに、きめ細かな相談に応じています。 |
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特に、「元気とやま!就職セミナー」については、東京、大阪、名古屋での開催前に、PRを兼ねて、富山で「父母向けセミナー」を開催しました。このセミナーには、200名を超える保護者の方が参加されており、その関心の高さが伺えるところです。 「元気とやま!就職セミナー」は、下記の日程のとおり複数回開催することとしており、富山の魅力に加え、それぞれの就職活動の時期に必要な情報などを伝えていくこととしています。 |
○「元気とやま!就職セミナー」スケジュールと主な内容
第2回・・・富山の将来像、県内企業の新卒求人動向 他 第3回・・・県内企業の動き、面接等を成功させるコツ 他 ○「とやまUターンガイド」 |
5 おわりに若者の雇用環境が改善する一方で、就職活動への不安や悩みを抱える若者、なかなか第一歩目が踏み出せず躊躇している若者が、まだまだ数多くいます。 また、いわゆる「失われた10年(注8)」の間に、就職機会を逃したり、不本意な就職をしたため、新たな転機を探す若者もいます。 さらに、本県で就職したいと思っていても、適切な情報がないため、就職活動をためらっている若者もいます。 県では、一人でも多くの若者が、本県で職業的自立を果たし、「元気とやま」を支える担い手として活躍していただけるように、今後とも、積極的に取り組んでまいりたいと考えています。 |
(用語解説)(注1)独立行政法人労働政策研究・研修機構若者や中高年の雇用など労働問題に関する総合的な調査研究機関。厚生労働省所管の独立行政法人。ホームページ(注2)小杉礼子1952年神奈川県生まれ。東京大学文学部卒業。教育社会学専攻。労働政策研究・研修機構副統括研究員。編書に「フリーターとニート」、著書に「フリーターという生き方」他多数。(注3)U・IターンUターン:出身地から地域外へ進学や就職して都会に出た後、出身地に戻ることIターン:出身地に関わらず、住みたい地域を選択し移り住むこと (注4)臨床心理士精神科医同様、臨床心理学の知識や技術を用いて心理的な問題を取り扱う「心の専門家」。医師でないため薬の処方はできない。財団法人日本臨床心理士会資格認定協会が認定。(注5)玄田有史1964年島根県生まれ。東京大学経済学部卒業。労働経済学専攻。東京大学社会科学研究所助教授。著書に「ニート フリーターでもなく失業者でもなく」、「14歳からの仕事道」他多数。(注6)ピースフルハウスはぐれ雲ニートや不登校、非行等の若者に対し、農作業やアルバイト等による就労体験等を通じ、社会的自立を目指す共同生活寮。富山市万願寺にあり、特定非営利活動法人北陸青少年自立援助センターが運営。(注7)キャリアコンサルタント個人の職業選択や職業能力の形成について、専門的見地からアドバイスを行う専門家。複数の公的・民間機関で実施される養成講座や能力評価試験により与えられる資格。(注8)失われた10年バブル景気崩壊後の急速な90年代の景気後退期。不況が長期化し、多数の企業倒産や大手金融機関の統廃合などが相次いだ。 |