統計図表の見方と地域の実像(2) 富山大学経済学部教授 柳井雅也 |
先回は統計図表の「クセ」を中心にお話をしました。今回は世界の統計図表を中心に、その解釈やデータの扱い方について考えてみたいと思います。 この図表は、平均寿命の分布図がメインになっていますが、その理解を補うために、平均寿命を人のかたちで表現した、絵画グラフのテクニックが用いられています。これは、ある一定の単位で設定した物や人の形を数量や大きさで表現したグラフです。絵画グラフは絵の選定を誤らなければ、人の興味を視覚的に訴える効果が期待できます。 |
図表1 |
出所:正井泰夫監修『世界地図』成美堂出版社2003より |
2.国や地域の繁栄は夕闇とともに瞬きはじめる!? |
図表2 アジア地域における陸上の夜間光強度分布(市ノ瀬他作成:1996) |
険しい山脈や厳しい気候の砂漠地帯は、当然のように経済活動が制限されていることが光強度から想像されます。よって、この事実に人口分布や社会経済のデータを重ねていけば、より考察を深めていくことが可能となります。さらに逆の発想をすれば、自然条件がさほど厳しくない地域で光強度が弱い地域では、どういうことが起きているかも想像がつきます。たとえば北朝鮮は北緯38度線を挟んで真っ暗となっています。電力事情や経済活動の低迷などが考えられます。こういう視点で、北朝鮮の経済事情を考えると、さまざまな思いをめぐらせることができます。 この光強度の分布図は、宇宙から見た「観察と想像力」の楽しさを教えてくれています。 |
3.国の比較優位はどうはかる? |
図表3 |
出所:『Q&A グローバル経済と日本の針路』通商産業省 通商調査室編2000 |
図表4 |
出所:図表3と同じ |
4.統計は時代を映す鏡か? ロウスキー教授によれば、1997年から2000年の間に実質GDPは24.7%成長したことになっているのに、同じ3年間でエネルギー消費が12. 8%減少したことに対して「中国自身の10年間の状況も含め他のどの状況も含め他のどの例をみても、GDPが大きく成長するときはエネルギー消費の増大、雇用の拡大、消費者物価の上昇がみられる。」と述べています。その後に彼独自の計算によって代替数値を示しています(図表5)。 |
図表5 中国のGDPおよび関連データ、公式数値および代替数値 |
この原因は、中国の統計が申告制になっていることから、計画を下回れば指導者の責任が問われることになるので、誇張した報告を国に上げていることが主な原因として指摘されています。中国国家統計局も、地方の統計には不備や水増しなどの問題が多いことをたびたび認めています※4。これにたまりかねた朱鎔基元首相も「虚飾や誇張が満ちている」(2000年3月)と不満を漏らしていることを、ロウスキー教授は紹介しています。しかし、朱鎔基元首相は別のところで、ロウスキーの試算ほどには中国経済は悪くないとも述べています※5。 中国のGDP論争からみえてくることは、データへの信頼を維持するために、データの集計方法に関するチェック体制の整備、場合によっては再集計も可能な規則や組織体制の整備が重要であるということです。中国のGDP論争はこのことに警鐘を鳴らしたものといえるでしょう。いずれにしても統計データの扱いには、十分な注意が必要ですね。ではまた。 注) |