富山県民の意識の逆転について(補論)

 富山県民の家族についての意識が大きく変化してきていることは、6月号でも述べた。統計が少し古く、また国勢調査とも直接関係がないので、本文で取り上げる話題ではない。しかし、富山県民の生活のあり方を考える際に非常に重要な意味を持っていると思われるので、ここで簡単に紹介しておく。

 NHK放送文化研究所が1978年及び1996年に概ね同じ内容で都道府県民意識調査を行っており、この間の意識の変化を見ることができる。
 このうち家族や地域社会に関する意識について、全国・富山県民の意識の変化及び富山県の47都道府県の中での位置付けの変化を見たものが下図である。
 富山県では、「家族及び地域社会を大切に思う」とする意識は、全ての設問で低下している。この結果、富山県のこの比率は、かつては47都道府県の中でも大きかったが、現在では相対的に小さい県となり、位置が逆転している。

 このように著しく意識が変化していることについては、まずアンケートの手法自体が懸念されるが、NHK放送文化研究所の実施したものであり、確実な手法がとられている。ちなみに、各都道府県内75カ所、それぞれ12人、計900名(全国42,300名)を標本としている。

 実際には、「みんなが」するから自分もするという単純な原理で、集団の意識が地すべり的に変化した可能性がある。
 かつて、富山県では、家族で支えあい外部に頼らないといった意識が強くあった。しかし、社会福祉施設の整備等とともに、外部に頼る人が次第に増加し、他の人が頼るのなら自分も頼ることにした方が好都合だと地すべり的に意識が変化したという次第である。

 なお、この現象は、社会心理学では、集団内に「頻度依存行動」をとる人が多い場合、集団内で特定の行動をとる人が一定の「限界質量」を超えると、その行動をとる人の比率が新たな「相補均衡」の状態になし崩し的に移行する状況として説明される。
 いろいろな統計の経年変化を描くと、富山県には全国の趨勢的な変化を上回って変化し、他県をなで斬りしているものがあると先に紹介したが、これには、この頻度依存行動が表面化しているものがあると考えられる。

 ちなみに、このグラフは普通の帯グラフであるが、不要な部分を透明に描いてある。

 参考文献
 NHK放送文化研究所編「現代の県民気質」NHK出版 1997年
 山岸俊男著「社会的ジレンマ」PHP新書 2000年
 山岸俊男著「心でっかちな日本人」日本経済新聞社 2002年


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平成14年7月号