本調査は、インフルエンザ流行シーズン前における住民の抗体保有状況を調べ、今冬のインフルエンザ流行の予測、ならびに予防に役立てる目的で実施された。2005年6月から9月の間に、富山県内で採取された血清295検体について、A(H1N1、H3N2)型インフルエンザウイルス(以下AH1型、AH3型)及びB型インフルエンザウイルス(以下B型)に対する抗体価を測定した。
1 抗体測定方法
血球凝集阻止(HI)試験を行い、次のインフルエンザウイルス4株に対する抗体価(HI価)を測定した。
1 AH1型
:A/ニューカレドニア/20/99(ワクチン株)
2 AH3型
:A/ニューヨーク/55/2004(ワクチン株)
3 B型(山形系統株) :B/上海/361/2002(ワクチン株)
4 B型(ビクトリア系統株) :B/ハワイ/13/2004(参考株)
2 抗体測定結果
(1)
年齢群別の検体数は次のとおりであった。
検体数 |
|
0-4 |
50 |
5-9 |
26 |
10-14 |
50 |
15-19 |
11 |
20-29 |
35 |
30-39 |
41 |
40-49 |
27 |
50-59 |
29 |
≧60 |
26 |
合計 |
295 |
(2)ウイルス株別・年齢別に40倍以上のHI抗体保有率を集計した結果は、図のとおりであった。
A/ニューカレドニア/20/99に対するHI抗体保有率(≧40倍)
有効防御免疫の指標とみなされる40倍以上のHI抗体保有率は、15-19歳群で90%と最も高く、5-9歳群、10-14歳群、20-29歳群ではそれぞれ、53%、66%、48%と比較的高かったが、30-39歳群、40-49歳群、50-59歳群、60歳以上群では13-25%と比較的低く、0-4歳群では、6%と極めて低い抗体保有率であった。
A/ニューヨーク/55/2004に対するHI抗体保有率(≧40倍)
40倍以上のHI抗体保有率は、5-9歳群、10-14歳群、15-19歳群でそれぞれ、76%、76%、72%と高く、その他の年齢群では、10-32%と比較的低い抗体保有率であった。
B/上海/361/2002に対するHI抗体保有率(≧40倍)
40倍以上のHI抗体保有率は、15-19歳群で81%と最も高く、5-9歳群、10-14歳群、20-29歳群、40-49歳群ではそれぞれ、46%、50%、54%、44%と比較的高かったが、30-39歳群、50-59歳群では、34%、37%と中程度であり、0-4歳群、60歳以上群では14%、7%と低い抗体保有率であった。
B/ハワイ/13/2004に対するHI抗体保有率(≧40倍)
本株は山形系統株である今年のワクチン株と異なり、ビクトリア系統の株である。40倍以上のHI抗体保有率は、すべての年齢群で19%以下と低く、5-9歳群、20-29歳群、30-39歳群以外の年齢群ではすべて4%未満と極めて低い抗体保有率であった。
AH1型については、昨年と比較して10-29歳群で抗体保有率が上昇した。昨シーズンはAH1型の流行がなかったにもかかわらず抗体保有率が上昇したことは、ワクチン接種による効果が推測された。しかし、0-4歳群および30代以上の抗体保有率が十分ではない年齢群においては、注意が必要である。
AH3型については、昨年と比較して0-9歳群、15-19歳群で抗体保有率が上昇した。全体的にみると、集団生活を送っている年齢群では抗体保有率が高い傾向がある。しかし、0-4歳群および20代以上の抗体保有率が十分ではない年齢群においては、注意が必要である。
B型については、ワクチン株と同じ山形系統株に対する抗体保有率が高かった。これは、昨シーズンのB型(山形系統株)の流行の大きさが影響していると推測される。しかし、ビクトリア系統株に対する抗体保有率は依然低いため、同株による流行にも注意が必要である。
インフルエンザHI抗体保有状況調査の結果から、現時点での抗体保有率は十分と言えず、ワクチン接種等、早めの対策が求められる。
なお、国立感染症研究所感染症情報センターにおいて集計された20都県(合計5522検体)の抗体保有状況も同じ傾向であった。この内容は、同センターホームページ(http://idsc.nih.go.jp/yosoku/2005Flu/Flu05-1.html)に掲載されている。