特集

とやま食料事情〜農業編(第2回)
〜2005年農林業センサス等の結果から〜

富山県経営管理部統計調査課 中村繁行


前号においては、2005年農林業センサスの結果を中心に、富山県農業の生産構造の現状について検証した。その結果、本県の農業経営体は集落営農の推進などにより組織化、大規模化が進展しているが、販売農家の農業従事者及び農業就業人口は、依然として減少、高齢化が続いている。 シリーズ第2回目となる本稿では、農産物の生産状況や農産物の加工などの関連事業への取組みなどについて検証する。



3 富山県農業の今(その2)〜生産状況を中心に〜


(1) 販売目的で作付けした作付のべ面積〜米が8割〜

農業経営体販売目的で作付(栽培)した作物及び果樹の作付(栽培)面積は、48,708ha(平12)から47,671ha(平17)となり、2.1%減少した。

主な作物の作付(栽培)面積及び増減率をみると、41,287ha(平12)から38,165ha(平17)となり7.6%減少する一方で、 麦類828ha(平12)から1,493ha(平17)となり80.3%増豆類4,705ha(平12)から5,747ha(平17)で22.1%増野菜類586ha(平12)から675ha(平17)となり15.2%増となった(図表1)


田植えの風景




なお、作付(栽培)面積の割合について全国と比べると、稲の割合が80.1%と高くなっている(図表2)



★農業経営体2005年センサスから採用された概念で、経営耕地面積30a以上又は農産物販売金額が過去1年間で50万円以上その他農林業センサス規則で定める基準(露地野菜作付15a以上など)以上若しくは農作業の受託を行う組織又は世帯

★販売農家経営耕地面積30a以上又は農産物販売金額が過去1年間で50万円以上世帯(組織は含まない)

☆「作付(栽培)面積と経営耕地面積、耕地面積の概念の比較

★作付(栽培)面積:作物の種をまき又は植付けをし、発芽・定着した作物の利用面積(けい畔を除くをいう。
本項で表す「作付(栽培)面積」は、販売目的で作付(栽培)した本地部分延べ面積であり、裏作(二毛作)等によりひとつの経営耕地に複数の作物を作付(栽培)している場合はそれぞれの作付(栽培)面積を合算するため、経営耕地面積とは異なる。

★経営耕地面積農林業経営体が経営する耕地の面積をいい、経営体が所有している耕地のうち貸し付けている耕地耕作放棄地(過去1年間作付けせず、今後も作付けする考えのない耕地)を除いたものに、借り入れている耕地加えたものをいう。
 経営耕地面積には、けい畔地(「あぜ」など主として本地の維持に必要なもの)や不作付地も含んでおりひとつの耕地に複数の作物を作付(栽培)した場合であっても、延べ面積ではなく経営耕地部分の面積で表すため、作付(栽培)面積とは異なる。

★耕地面積農作物の栽培を目的とする土地の面積をいう。耕地には、けい畔(「あぜ」など主として本地の維持に必要なもの)を含む。土地の利用収益者が主観的に農作物を栽培しようとする意思を有することとその土地に客観的に農作物の栽培が可能であることなどの要件がある。
 耕地面積には、農林業経営体に分類されない者(学校、試験場など)が所有するものも含まれるが、経営耕地面積農業経営体」など一定の要件に該当する者が経営(所有とは限らない)する面積を表す点で両者は異なる


(2)農業産出額〜米の占める割合が7割以上〜

平成7年から平成16年までの過去10年の農業産出額は、米の占める割合が概ね7割以上の水準で推移している。次いで、畜産の占める割合が概ね1割以上の水準で推移している。ただ、農業産出額を平成7年と平成16年で比較すると、全体では△27.3%、部門別にみると△27.6%畜産△30.2%となっている(図表3)


農業産出額は、農産物の出荷価格や収穫(生産)量との関連性が高いと考えられる。

米を例にとると、年によって価格の波動はあるが、農産物品目別価格指数においては平成16年は平成7年に比べ14.6ポイント下がっており(図表4)、農業生産指数においては平成16年は平成7年に比べ19.5ポイント下がっている(図表5)。 また、畜産物を例にとると、農産物品目別価格指数においては平成16年は平成7年に比べ3.7ポイントの下落にとどまるが、農業生産指数においては平成16年は平成7年に比べ30.6ポイント下落している。

このように、米においては出荷価格及び収穫量の減少が、畜産物においては生産量の減少農業産出額の減少につながったものと考えられる。


★農産物価格指数:農業物価統計調査の結果に基づき、平成12年を100として、各年別の物価指数を算出したもの。具体的には、基準年(平成12年)における農産物の平均価格(個々の農産物の月別価格にそれぞれの月別出荷量を加重平均する方法により農産物の算出)を算出し、それを100として各年次の品目ごとの価格水準を指数として表したもの。

★農業生産指数:基準年(平成12年)における農産物の個々の品目ごとに農業産出額に占める割合を加重して基準となる生産量を算出し、それを100として各年次の生産量の水準を指数として表したもの。


なお、平成16年の農業算出額の部門別割合を全国及び北陸地域内の他の県と比較すると、富山県は米の割合が高い(図表6)




(3)野菜、果樹、畜産物の生産状況〜作付(栽培、飼養)状況は地域的な特徴が目立つ〜

富山県の農産物の主力は米であるが、米以外にもねぎ、だいこん、さといも、日本なし、干柿、りんご、チューリップ球根などの特産品がある。

図表7は、富山県で作付・生産される主な野菜、果樹、畜産物の作付(栽培・飼養)状況を地区別に表したものであるが、「富山しろねぎ」に代表されるねぎだいこん富山地区及び高岡地区が多く、さといも南砺市が多い。 「呉羽なし」に代表される日本なし富山市が大部分を占め、「富山干柿」に代表されるかき南砺市が多い。 「加積りんご」に代表されるりんご魚津市が最も多く、滑川市がこれに次ぐ。チューリップ球根に代表される球根砺波市が最も多く、入善町がこれに次ぐ。採卵鶏小矢部市での飼養羽数が最も多い。 このように、野菜、果樹、畜産物の作付(栽培、飼養)状況は、地域的な特徴が目立つ。


図表7 主な野菜、果樹、畜産物の作付(栽培、飼養)状況

(注1) 「採卵鶏」以外の平成12年値は販売農家のものを記載。また、球根は平成12年データがないため、記載しない。
(注2) 新川地区:魚津市、黒部市、入善町、朝日町
富山地区:富山市、滑川市、舟橋村、上市町、立山町
高岡地区:高岡市、氷見市、小矢部市、射水市
砺波地区:砺波市、南砺市
(出典) 農林業センサス(農林水産省、富山県)

〜チューリップ球根の出荷量は全国一〜

毎年4月下旬には、チューリップ畑が色とりどりの花で埋め尽くされる。チューリップは富山県の県花になっており、県産のチューリップ球根の出荷量は全国の半分以上を占め、全国第1位を保っている(図表8)。なお、富山県で作付される球根の大部分はチューリップであり、球根の出荷量に占める割合9割以上にもなる(図表9)


〜出荷量は減少傾向〜

平成7年から16年までの主な野菜、果樹、畜産物の出荷量をみると、年によって増減はあるものの、平成16年は平成7年に比べ、全体的に減少している。中でも、りんごは前年に比べ大幅に出荷量が落ち込んでいるが、平成16年秋に多発した台風の影響によるものと考えられる(図表10、11)

また、富山県を代表する園芸特産品のチューリップ球根も、平成16年の出荷量(2,870万球)は平成7年(5,190万球)に比べ44.7%減少している。これは、外国産球根との価格競争が背景にあるものと思われる。




富山県の
特産品
⇒「とやま食図鑑」http://www.toyama-shokuseikatu-hiroba.jp/

⇒「とやまがわかる本」(「味覚〜富山名物いろいろあれど」P.87〜90)

⇒「みんなのお米富山」
http://www.toyama.info.maff.go.jp/books/index.html


(4)農業生産関連事業〜店や消費者への直接販売が伸びる〜

農産物の加工や店・消費者等への直接販売(以下「直接販売」という。)など富山県の農業経営体が行った農業生産関連事業の中では、直接販売が大部分を占め、前回(平12)に比べて大幅に伸びている(図表12)。なお、生産者が自ら生産した農産物を消費者に直接対面で販売する産地直売所は平成17年2月1日現在で70施設あり、過去1年間で69万人の利用があった。(注)
(注)出典:農林業センサス(農林水産省)

次に農産物の加工をみると、南砺市が約半数を占めているが、これは、南砺地方の特産品である干柿の加工が多いことによる。また、南砺市利賀地区では、「そば」をテーマにしたイベントなどが行われているが、同地区では、農家民宿などそばに係る農業生産関連事業を行っている経営体もある。




(注1) 1つの農業経営体で、複数の農業生産関連事業を行っているため、個々の合計と実経営体数とは一致しない。
(注2) 「・・・」は平成12年データがないため、記載しない。
(注3) 新川地区:魚津市、黒部市、入善町、朝日町
富山地区:富山市、滑川市、舟橋村、上市町、立山町
高岡地区:高岡市、氷見市、小矢部市、射水市
砺波地区:砺波市、南砺市
(出典)農林業センサス(農林水産省、富山県)

★農業民宿:農業を営む者が旅館業法に基づき、県知事の許可を得て不特定多数のものを宿泊させ、自ら生産した農産物を用いた料理を提供し、料金を得ているものをいう。

ただ、全国と比較すると、富山県の場合、農業生産関連事業を行っている経営体の割合は少ない(図表 13)



(注) 一つの農業経営体が複数の農業生産関連事業を行っている場合もあるため、個々の農業生産関連事業の合計値は100を上回る。
(出典)農林業センサス(農林水産省、富山県)

★主な直売所http://www.toyama-shokuseikatu-hiroba.jp/townpage/chokubai.html

(5)農産物の出荷先〜農協が主体〜

富山県の農業経営体の農産物出荷先をみると、農協への出荷割合が多く96.6%になる(図表14、15)。全国と比較としても農協への出荷割合は多い(図表15)

ただ、砺波地区では農協以外の集出荷団体の割合が高くなっているが、これは南砺市において、地域特産物である「富山干柿」の生産が多いことと関係があると考えられる。

また、消費者への直接販売や卸売市場への出荷富山地区で多くなっているが、これは富山市において「呉羽なし」の栽培が盛んであることなどと関係すると考えられる。


図表14 農産物の出荷先別一覧表(平17)   (単位:経営体)

(注1)1つの農業経営体で、複数の出荷先がある場合もあるため、個々の合計と実経営体数とは一致しない。
(注2)各地区の構成市町村 図表12参照


(注)一つの農業経営体が複数の農業生産関連事業を行なっている場合もあるため、個々の農業生産関連事業の合計値は100を上回る。
(出典)農林業センサス(農林水産省、富山県)


4 富山県農業の取組み


(1)地域営農体制の確立

本シリーズ第1回でも述べたように、富山県では昭和60年頃から全国に先駆けて集落営農の育成に積極的に取り組んできた。富山県の農業が米中心の生産構造であり、機械・設備の共同利用や作業の共同化を進めることによって生産費の削減や労働時間の短縮ができることなどが理由にあげられるが、 「経営所得安定対策等大綱」(第1回)では担い手の育成・確保を緊急課題として、認定事業者と並んで一定の要件を満たす集落営農を担い手と位置づけ、国による支援の対象としている。

このため、集落や地域を基礎とした合意形成のもと、次代に向けた地域営農体制の構築をめざし、地域農業の担い手を明確にし、それらの育成と経営の強化を図っている。

大型田植機を使った田植えの風景


(2)新品種の開発

富山県は、全国的にみても稲作が盛んな県である。米の品種は「コシヒカリ」が中心で、ここ数年、その作付割合は85%前後で推移している(図表16)。全国と比較しても、「コシヒカリ」の作付割合の高さが目立つ(図表17)

富山産「コシヒカリ」は、豊富で清らかな水で作られ、「おいしい米」として評価も高いが、「コシヒカリ」との作期分散を図ることができ、高温条件などの気象変動に強く、安定して品質、食味の良い早生品種の開発が望まれていた。富山県農業技術センターにおいては、品質の良い「ハナエチゼン」と食味の良い「ひとめぼれ」を交配した早生の新品種「てんたかく」を開発し、平成13年から3年間にわたる現地調査を経て、平成16年から奨励品種として一般の農業経営体においても作付けされている。

このほか、各試験研究機関においては、富山県の県花であるチューリップなど他の作物の新品種開発や天敵・微生物を利用した病害虫防除技術の確立などにも取り組んでいる。




「とやまの米」豆知識
1 富山県で米づくりが盛んになった理由は?
富山県で米づくりが農業の中心となった背景としては、
@ 河川が多く豊富な水と肥沃な扇状地があること
A 全国屈指の水準でほ場整備が進んだこと(平成16年度末ほ場整備率は82.0%)
B 農作業の機械化・省力化により、米づくりが他産業との兼業に便利であったことなどがあげられる。
出典:「とやまがわかる本」〜農業(P.106〜108)

2 販売価格が高い富山米

富山米は販売価格においても全国で上位にある。

図表18は、「うるち玄米(1等程度)60kg」あたりの年平均販売価格(平成15年以前は「うるち玄米(自主流通米1等程度)60kg」あたりの年平均販売価格)の推移を示したものであるが、全国平均をかなり上回り、全国でも高いレベルに位置する。


(出典)農業物価統計調査(農林水産省)
(注)平成16年は「うるち玄米(1等程度)60kg」あたりの年平均価格。

平成15年以前は「うるち玄米(自主流通米1等程度)60kg」あたりの年平均価格。


3 富山県民は米が好き


(出典)平成16年全国消費実態調査(総務省)

図表19は、平成16年に実施された全国消費実態調査において示された2人以上の世帯における1世帯1ヶ月あたりの米の支出金額の上位5県を記載したものであるが、富山県は新潟県に次いで2番目に多く、食料費に占める米の支出割合7.2%全国平均(5.4%)をかなり上回っている。

ただ、昭和39年実施の同調査では、富山県の食料費に占める米の支出割合は31.3%であったから、この間、食料費に占める米の割合は4分の1程度まで下落したことになる。



出典:全国消費実態調査(総務省)
(注)2人以上の一般世帯における1世帯あたり1ヶ月の(品目別)支出金額から作成。

これに対し外食費昭和34年の調査開始時点では5.3%であったが、昭和49年に米類の支出割合を上回り、昭和54年16.3%になってからは概ね同水準で推移し、現在に至っている。 また、コロッケなどの調理食品昭和44年の調査項目設定時点では1.9 %にすぎなかったが、平成6年には米類の支出割合を上回り、平成16年には10.4%に達するなど「食の外部化」の実態が現れている(図表20)

★全国消費実態調査:国民の生活実態について、家計の収支及び貯蓄・負債、耐久消費財などの家計資産を総合的に調査し、全国及び地域別の世帯の消費・所得・資産に係る水準、構造等を明らかにしている。昭和34年から開始され、第10回目となる平成16年調査は、同年9〜11月の3ヶ月間に全国の60,000世帯を対象に行われた。


(3)富山の食材の普及


富山県農業の活性化のためには、県産の農産物の需要拡大を図ることが大切であるが、そのためには「富山産」の食材を県内外にPRすることが重要である。残念ながら富山の農産物といえば、「チューリップ」「米」は思い浮かぶものの、他の農産物についてはあまりイメージが浮かばないようである(図表19)。 しかし、「呉羽なし」「富山干柿」のようにそれなりに知名度のある農産物もあるし、直接販売を行う農業経営体も5年前に比べて大幅に増加し(図表12)、県内各地の直売所では「富山産」の農産物として、様々な農産物が販売されている。「地産地消」「食育」、学校給食に県内産の食材を用いる取り組みも推進されている。 また、富山の農産物を「食のブランド」化する取り組みも始まったところである。


(出典) 平成16年度富山県イメージアップキャンペーン結果(富山県広報課)



★地産地消:地域で生産したものを地域で消費する意味のこと。地産地消には、
@生産者から消費者の空間的距離を短縮することによって、農産物を新鮮な状況で消費者に供給できる。
A消費者と生産者が顔を合わせ、会話することなどによって身近な関係になり、生産者は消費者のニーズを把握しやすくなり、消費者は生産者に自分たちの欲しいものを伝えられるようになる。
B生産者にとって、地元の消費者が末永く顧客になってもらえる存在になる。等のメリットがあると言われている。

★食育(食農教育):「食」に関する知識と「食」を選択する力を習得し、健全な食生活を実践できる人間を育てる取組みのこと。平成17年7月15日に食育基本法が施行された。「食育」が叫ばれるようになった背景には、食の外部化やライフスタイルの多様化など食生活を取り巻く環境が変化する中で、日本型食生活の崩壊を招き、栄養バランスの崩れによる生活習慣病の増大など国民の健康への影響が懸念されるようになったことがあげられる。 そして、子供の頃から正しい食生活のあり方を教えるとともに、食の担い手である農林漁業の大切さについて考える取り組み(食に関する情報提供、農業・農村体験等)が行われている。


☆おわりに〜富山県農業の発展を願って〜


昨年、NHKテレビで、バブル崩壊後のわが国が再起を目指して闘う姿を描いた番組が、8回シリーズで放映された。その中に、アメリカ産牛肉の輸入停止を受けて販売停止に追い込まれた牛丼の食材確保に苦闘する大手外食チェーンと、牛肉輸入自由化の嵐の中で生き残りを模索する北海道の畜産農家の姿を描いた番組があった(注)。 この番組は、くだんの畜産農家が、輸入牛肉との価格競争に苦闘した末、低価格一辺倒ではなく、「生産者の顔がみえる安全・安心な牛肉」の生産・販売に活路を見出し、遠く離れた四国のスーパーと手を携えて来店客に対し自らが作り育てた農産物のPRを行う姿で締めくくられていた。 この番組を見て、筆者は改めて、輸入農産物との価格競争にさらされる国内農業の厳しい姿と食料確保の重要性を実感させられ、関係者の懸命な努力に胸が熱くなったものである。



富山県農業も食生活の欧米化食の外部化の進展により、輸入農産物との価格競争など厳しい経営環境に置かれているが、輸入農産物の残留農薬問題やBSE問題などをきっかけに、消費者の間では値段は高くても安全・安心な農産物が求められるようになった「手作り」「ふるさとの味」を求める消費者も少なくないし、生産者の顔が見え対話のできる直売所は大人気である。

また、外食産業において使用する食材の原産地を表示する動きが加速しているが、これは消費者に「富山産」の農産物を印象づける好機ではあるまいか。米の依存度が高い富山県の農業であるが、他にも良質な食材となりうる農産物はたくさんある。農産物を地域資源として積極的に売り出すことも、富山県のイメージアップに有効と思われる。

我々人間は食料なしでは生きてはいけない。今は豊かな食生活を謳歌している日本人であるが、食料自給率はカロリーベースで40%にすぎず、先進国の中では最低レベルと言われる。異常気象や相手国の事情で食料の安定供給が損なわれる恐れもあり得ない話ではない。輸入農産物の残留農薬問題やBSE問題は、食の安全・安心の確保や食料の安定供給の重要性を再認識するとともに、国内産農産物の見直しのきっかけになった。景気が回復傾向にある中、価格の安さだけでなく、より安全で質の良い食材を求める傾向が強まっている。 「安全・安心で新鮮な富山産」の農産物の名前が全国に知れ渡り、国内の食料の安定供給の担い手として富山県農業が発展することを祈念して、拙稿を終了させていただきます。



(注)「日本の群像〜再起への20年」、第6回「食卓の上の自由化」(平成17年10月30日放映)

★食の外部化:家の中で行われていた調理や食事を家の外に依存する現象のこと。一般に、外食産業や調理食品は低価格志向が強く、価格の安い輸入農産物に依存する傾向があるため、食の外部化が食料自給率の低下の一因になったと言われている。


日本人の食生活の変化と食料自給率の低下

わが国の食料自給率は長期にわたって低下している。カロリーベースで昭和40年には73%あったものが、平成10年に40%になり、以後、現在まで40%のままで推移している。わが国の経済成長に伴い、日本人の食生活が欧米のスタイルに変化したことが大きな理由とされる。




図表22は、日本人の食生活の変遷をカロリーベースで表したものであるが、主食である米の割合が低下し畜産物、油脂類が増加していることがわかる。わが国で自給可能な米の消費割合が減少し、輸入に頼らざるをえない畜産物や油脂類の消費が増加したことが食料自給率の低下につながったとされている。全国消費実態調査(図表20)の結果からも、家計支出において、米の消費支出割合の低下や食の外部化が進んでいる実態が読み取れるが、外食産業や調理食品は、安価な食材を大量に調達するために輸入農産物に依存する傾向にあり、そのことがさらに食料自給率の低下に拍車をかけている。

ただ、近年は、日本食を見直す気運も芽生えており、官民一体となって「ニッポン・ブランド」の構築や農産物の輸出増大に努めるなど、関係者の努力が続いている。



〈参考文献〉 2005年農林業センサス結果報告書(富山県版)(富山県経営管理部統計調査課)
2006現代用語の基礎知識(自由国民社)
農林水産統計用語事典(農林統計協会)
食料・農業・農村白書(平成16年度版)(農林水産省)
不測時の食料安全保障について(農林水産省)
食料・農業・農村基本計画(平成17年3月25日閣議決定)(農林水産省)
経営所得安定対策等大綱(平成17年10月)(農林水産省)
わが国の食料自給率−平成15年度食料自給率レポート(農林水産省)
全国消費実態調査報告(総務省)
富山がわかる本(富山県経営管理部統計調査課)
考えてみませんか食育&地産地消(北陸農政局富山統計・情報センター)
富山県の地産地消について(DeruKui21、富山県)
とやま経済月報
平成18年5月号