航空会社のリレーションシップ・マーケティングに関する考察
〜日本航空の羽田−富山線新規開設の意味するところ〜
富山国際大学地域学部 講師 小西英行


はじめに

 富山空港の旅客輸送状況(富山空港利用人員)は、平成6年度に100万人を超え、平成8年度には約120万人に達している。しかし平成9、10年度と大幅に減少し、その後平成11年度から回復に転じ、平成12年度実績では約116万人、平成13年度実績も平成12年度と同等の約115万人である(表1参照)。

表1 富山空港旅客輸送状況(富山空港利用人員) (単位 人)

合計
東京便
札幌便
名古屋便
福岡便
国内便
その他
ウラジオ
ストク便
大連便
ソウル便
3 年 度
928,982
808,137
89,012
31,833





4 年 度
944,991
791,979
114,958
38,054





5 年 度
937,133
762,655
108,409
33,491




32,578
6 年 度
1,020,507
804,197
111,840
33,231
23,694

604

46,941
7 年 度
1,117,156
855,590
115,681
39,581
60,235

4,505

41,564
8 年 度
1,197,442
901,506
117,196
41,374
68,901
25,041
4,567

38,857
9 年 度
1,125,554
823,263
115,450
35,617
61,590
46,809
4,897

37,928
10 年 度
1,078,936
795,868
113,833
21,059
64,986
35,365
2,904
6,493
38,428
11 年 度
1,112,985
828,299
123,444
20,243
62,149
18,275
2,877
13,190
44,508
12 年 度
1,162,534
876,479
117,452
20,660
57,283
17,974
2,828
21,696
48,162
13 年 度
1,151,405
867,894
116,917
17,998
56,834
16,700
2,885
32,123
40,054
資料 県航空対策室(http://www.pref.toyama.jp/sections/1015/ecm/)から抜粋して加筆
注)国内便その他は、函館便、関空便、長崎便、広島西便の計。


 平成6年度に100万人を超えたのは、前年の平成5年度のソウル便開設と平成6年度の福岡便開設によるものと思われる。また平成9、10年度の減少は、東京便の10万人規模の減少によるものと考えられる。この減少は、平成9年7月より全日本空輸(以下「全日空」という。)の東京便が1日5便と減便されたことに起因すると思われる。旅客数の増減は、何も便数だけが原因ではないが、その後平成12年6月より全日空の東京便が1日6便に復活したことで、旅客数が大幅に回復したことから、何らかの影響があったとみるべきであろう。平成9年7月の減便は、全日空の羽田−福岡線、羽田−札幌線などの幹線の便数増強のために、羽田−秋田線、羽田−富山線、羽田−岡山線などが減便されたものである。その中でも羽田−富山線に関しては、便数削減による提供座席数の減少を抑えるために、最大382座席のボーイング777−200(トリプルセブン−200)が、多い時期で1日2便就航した。これにより、1日6便体制の時と比べて、1日100席程度の提供座席数の減少で済むことになった。それにもかかわらず旅客数が大幅に減少したのである。
 これらの意味するところは、羽田−富山線のような高需要で搭乗率の高い路線では、提供座席数の増加よりも、航空ダイヤの隙間を少なくするような増便のほうが、利用客の増大にインパクトがあるということである。もちろん増便には提供座席数の増加も少なからず生じることから、闇雲な増便が望ましいわけでもない。便数と提供座席数のバランスを取ることが重要なのは言うまでもないことである。
 平成14年7月から就航する日本航空の羽田−富山線が、1日2便に決まったことは、発着枠や国際定期便の問題などを中心に県議会などで議論が重ねられてきたことであるが、それらの問題以上に需給バランスの面からみて妥当な結論であったと思われる。便数が2便増えるよりも3便増えるほうが利用しやすいのは当然であるが、航空機1便あたりの提供座席数が変わらないとしたら、3便増加によって提供座席数が5割増加するインパクトは、利用顧客増加の予想(予想は強気になりがちである)を下回る可能性があり、供給過多で搭乗率が減少し、結局減便につながる可能性がある(全日空の1便を日本航空の1便に振り替えて、全日空の5便と日本航空の3便の合計8便体制にするのであれば、話は別であるが。)。やはりここは需要増加の実績を確認してから、さらに増便を目指すことが賢明であろう。羽田−岡山線は、長らく全日空が1日4便で運行していたものが(平成14年4月現在では全日空が5便運行している。また平成9年7月からしばらくは3便体制で運用されていた。)、平成14年7月より日本航空の新規3便と全日空の1便増加により一気に1日9便となる。東京からの鉄道便と航空便の所要時間の競合が富山とほぼ同じことから、その結果が注目されるところである(ただし平成14年7月の予定では、就航している航空機の1便あたりの提供座席数の違いから、1日の総提供座席数が、1日9便の羽田−岡山線よりも1日8便の羽田−富山線のほうが若干多い。)。
 このような状況の中で、日本航空の羽田−富山線2便参入により、どれだけこの路線の総需要が増加するのであろうか。本稿では、航空会社の需要創造戦略を、主としてリレーションシップ・マーケティングの視点より、新規顧客の獲得と既存顧客の利用促進に焦点を当てて論じていくことにする。


1.航空会社の需要創造戦略

 航空会社は、その主な仕事が航空機を利用した顧客の輸送というサービスであり、それに付随した様々な顧客ニーズを満足させるための様々なサービスを提供する、総合旅行産業である。サービス業の一般的な特徴としては、(1)無形性、(2)非分離性、(3)消滅性、(4)変動性がある(表2参照)。航空会社の(1)無形性に対する戦略として、輸送サービスに付随した様々な顧客ニーズ、例えばレンタカーやホテルの予約などを、航空券の予約時に同時に行えるようにしている。また、(2)非分離性に対しては、サービスの提供者と顧客とのサービス提供時(Moment of Truth:真実の瞬間)のコミュニケーションが重要となる。さらに(4)変動性に対しては、会社グループ内のたった1人の提供するサービスの質が悪いだけで、全体の満足が極端に低下するので、徹底した顧客満足(CS:Customer Satisfaction)戦略が遂行されている(はずである)。

表2 サービスの特徴とサービス業の戦略
サービスの特徴 サービス業の戦略
無形性 本質的に物質として存在しない 有形化戦略 サービスの内容を分かり易く顧客に伝える
非分離性 生産と消費が同時に起こる システム化戦略 サービスの質的向上は、提供者と顧客の協働による
消滅性 サービスは在庫できない 同期化戦略 サービスに対する需要の時間的ばらつきを平均化する
変動性 全く同じものは無い 同質化戦略 提供するサービスの質を常に一定に保つ
出所:Kotler P.(2000)などを参考に筆者作成

 そして、航空会社にとって最も搭乗者の数や率に直接的に影響を与える要因が、(3)消滅性である。航空機による輸送サービスは極めて定時的に行われており、在庫が不可能である。即ち空席のまま飛んでしまえば、それを後から販売することは出来ないのである。したがって航空会社は、空席のまま飛ばすぐらいならば、格安の運賃、あるいはマイレージ・プログラム(航空便の搭乗距離実績などによってポイント=マイレージを貯め、各種の特典を受け取ることが出来る仕組み)による特典無料航空券を提供して、少しでも多くの顧客を乗せるという戦略をとっている。この(3)消滅性については、JRなどの鉄道輸送業も同様である。しかし、航空会社のマイレージによる特典無料航空券のようなサービスは、残念ながら存在しない(顧客の利用回数に応じて割引率がアップする仕組みは、JR各社のジパング倶楽部でみられるが、対象がシルバー層に限定されている。)。
 航空会社のマイレージ・システムが成り立つのは、航空輸送サービスの受け手である顧客の実名性によるところが大きい。JRのような鉄道業では、基本的に乗車時の本人確認を行わない(通学定期券やジパング倶楽部などの運賃を購入する場合は、本人の実名性が問われるが、搭乗実績を細かく記録することは難しい。)。航空会社では、運行の安全性確保の面から搭乗時の本人確認を行っているが、これにより顧客ごとの細かな予約搭乗記録を収集することが出来ているのである。
 また航空会社では、平成12年2月17日に全日空が発売した、全国一律1万円(片道)「超割」きっぷを皮切りに、各社からバーゲン型の特別割引運賃が発売され、特定期間の需要喚起を行っている。それに対して、鉄道輸送業のJRでは、曜日限定乗り放題(JR東日本の土・日きっぷスペシャル他)や列車限定往復割引(JR東日本のおはよう秋田往復きっぷ:往路は早朝便の「こまち3号」限定他)など、特定期間の需要を喚起するタイプの割引運賃が各種設定されているものの、新規需要の掘り起こしという意味で大きな成果をあげている割引運賃は少ない。
 以上のように、航空会社では、新規顧客獲得のための大胆な割引運賃と、既存顧客の継続利用促進のためのマイレージ戦略が存在し、これらの成果如何によっては、大きな需要創造が可能であると考えられる。そして日本航空の羽田−富山線参入により、これら需要創造のための戦略が全日空と日本航空との競争を通じて行われることになり、競争が公正に行われるならば、その成果は富山県民に還元されることになるに違いない。
 それでは以下、国内航空各社による新規顧客獲得戦略と既存顧客の利用促進戦略についてより詳細に見ていくことにする。


2.割引運賃による新規顧客獲得戦略

 航空会社の価格決定戦略は、カスタマー・リザベーション・システム(CRS)の元祖である、アメリカン航空の「セーバー・システム」によって大きく変化した。「セーバー・システム」は、過去の予約実績データに基づく需要予測と、実際の売れ行きによって、価格をきめ細かく変動させるシステムであり、需要と供給のバランスで価格が決まるという、市場価格決定メカニズムがようやく航空業界に導入された。これは情報処理技術の発達によって実現されたものであり、この予約発券システムは当時の戦略的情報システム(SIS)の代表的な成功例としてとりあげられることも多い。その後、この予約発券システムは日本にも導入されたが、日本の航空会社の運賃設定に対する制限から、価格をきめ細かく変動させることは出来なかった。
 すなわち、日本の航空運賃は、平成12年2月1日に航空法改正が施行されるまで、長らく需給調整規制がかけられた事前認可制であり、航空会社の価格決定に関する裁量が制限されていた。それまでも、平成7年5月に割引率50%までの営業政策的な割引は事前届出制に移行し、平成8年5月には幅運賃制度が導入されるなど、需給調整規制の下ではあるが航空会社の経営判断に基づく弾力的な運賃設定が可能であったが、4週間前までに予約発券して割引率50%というのが最大の割引であった。この割引率最大50%という壁をこえ、日毎の細かな運賃設定が出来るようになったということが、平成12年2月の改正の大きなポイントである。
 この改正により大胆な割引運賃を設定したのは、全日空が平成12年2月17日より発売した国内全路線全便一律1万円(片道)の「超割」である。全日空では、この「超割」を含めた新たな国内航空運賃を設定するにあたり、平成11年11月〜12月上旬にかけてお客様アンケートを実施し、その結果は平成11年12月28日付の同社プレス・リリースとしてホームページ(以下HPという。)上で公開されている(http://svc.ana.co.jp/pr/991012-J/991228.html)。同社は、顧客の大半が、基準となる普通運賃の水準が上昇したとしても営業割引運賃の割引率がさらに拡大することを望み、また「距離連動型」よりも「需要動向型」の運賃設定を望む傾向が強いことや、「季節・曜日・時間帯によって変化する」運賃設定を望む傾向が強いことを受けて、「超割」を発売したのである。さらに同社では、「超割」に関するアンケート結果を、平成12年4月20日にプレス・リリースとしてHP上で公開している(http://svc.ana.co.jp/pr/000406-J/20000420_2.html)。それによると、

(1)「超割があったので出かけた」「超割があったのでANAを利用とした」との回答が約8割を占め、「超割」利用者のうち約8割は当社にとっての新規需要と考えられる。
(2)利用目的は「観光」・「帰省」が約7割で、結婚式など、以前より予定していたものではなく、「超割」が新規需要を創造したことが裏付けられる。

と、「超割」の新規顧客獲得効果が示されている。
 全日空の「超割」発売に刺激されて、日本航空では「バーゲン・フェア」、日本エアシステムでは「ウルトラ割得」という名称でバーゲン型特別割引運賃を設定して、新規顧客の獲得で成果をあげている(ただし、全日空は発売数が無制限で、運賃が一律1万円なのに対し、他の2社では発売数に制限があり、路線別に運賃を設定している。)。これらは、先に述べたサービス業の一般的な特徴の(3)消滅性、即ち在庫が出来ないという航空会社の特性からの戦略であり、過去の需要実績の低い時期の搭乗率を大幅に向上させる効果がある。その後、インターネット予約割引、チケットレス割引、キャッシュバック・キャンペーンなど、各社でディスカウントによる需要開拓が積極的に行われている(表3参照)。
 
 表4は、需要量、予約確定期日別の主な割引運賃(全日空の場合)であるが、需要の少ない時期には低価格戦略によって新規顧客を獲得し、需要の多い時期には高価格の運賃設定(多客期基準運賃)をして利益を確保するという、航空会社の価格戦略の全体像がわかる。今後は、予約確定時期の早い顧客への割引率の拡大(例えば、28日前にチケットレスが完了した特割運賃は5%引きにする(現行は期限が前日までで2%引き))や、記名式4回回数券の多客期利用の路線拡大などが考えられる。

表4 需要量、予約確定期日別の主な割引運賃(全日空の場合)

*1 割引運賃の中には、路線によって設定されていないものもある。
*2 平成13年3月15日〜31日などで、東京〜富山、岡山線に設定
*3 平成13年3月15日〜31日などで、東京〜大阪線に設定
出所:航空会社各社HP(平成14年3月現在)より筆者作成


 次に、日本航空の羽田−富山線参入による、同路線の総需要増加効果についてであるが、日本航空が参入当初の割引運賃として1万円程度を検討している(日本航空 兼子社長の平成14年4月11日の富山での記者会見)。また全日空も対抗戦略をとると予想され、競争激化による需要増が期待されている。また、バーゲン型運賃についても、現行どおりの運賃設定であれば、全日空の1万円に対して、日本航空の7千円(羽田−小松線と同額を想定)は利用者にとってインパクトが強いと予想される(販売数が限定のため、顧客同士の争奪戦が激しいとも予想されるが。)。
 問題は、新規に発生した需要がどれだけ継続するかという点であろう。富山県民の一般的な傾向として、「熱しやすく冷めやすい」とか、「おいしいところだけ確実にものにするがそれ以外にはあまり反応しない」というのがあるという。例えば、スーパーマーケットで「底値の特売品」のみ買い漁るお客が、他の県に比べて多く、流通業者泣かせであるらしい。したがって、バーゲン型運賃や日本航空による参入記念特別割引による需要増が一巡してそのインパクトが低下したとき、継続して利用を促進する仕組みが必要となる。航空各社では、こうした継続利用促進のための切り札として「マイレージ・プログラム」を用意している。富山県民の傾向として「夢中になると、とことん、のめり込む」というのもあるらしいから、各社の「マイレージ・プログラム」が充分に魅力的なものとして富山県民に訴求すれば、継続利用はどんどん増えていく可能性がある。


3.マイレージによる顧客囲い込み戦略

 価格戦略による新規顧客獲得には限界があり、既存顧客の継続利用促進が欠かせないことは、近年注目されてきている「リレーションシップ(関係性)・マーケティング」の理論から説明することが出来る。「リレーションシップ・マーケティング」の具体的な研究成果としては、「新規顧客獲得には、現在の顧客にサービスする5倍の経費がかかる」、「顧客維持率が5%向上すれば、コストが18%低減し、収益が5年間で60%増大する」、「上位20%ほどのヘビーユーザー層で売上全体の80%近くをあげることが多い(パレートの法則)」(嶋口他(1996)、嶋口他(1998))などが指摘されている。すなわち、市場シェア拡大より、一人一人の顧客を大切にし、顧客の限られた可処分所得に占める自社への支出を極大化するという、顧客シェア拡大や顧客の生涯価値(継続したご愛顧によって生涯を通じて企業にもたらされる利益)の追求に注目が集まってきている。より強い関係性で結ばれた顧客は、「伝道者」として、その企業の新たな顧客を「客が客を呼ぶ」形で取り込んでくれるため、結果として企業業績の向上に大きく貢献するのである。
 航空会社ではこうした顧客囲い込み戦略の切り札として、「マイレージ・プログラム」を展開している。航空会社の「マイレージ・プログラム」は、顧客の航空便利用の距離をポイント=マイレージで積算し、一定のマイレージの獲得により無料航空券などの特典を提供するというもので、特定の航空会社(あるいは航空会社グループ)の航空便の利用促進を目的としている。世界で初めて「マイレージ・プログラム」を行ったのは、「セーバー・システム」を完成させたアメリカン航空である。アメリカン航空では現在、「ワン・ワールド」(全8社)という航空アライアンス・グループを結成して、マイレージ・プログラムの他、路線のコード・シェアリング(共同運行)など、包括的な提携を行っている。また、同様な航空アライアンス・グループは、全日空が正式に加盟している「スター・アライアンス」(全14社)、エール・フランス、デルタ航空などの「スカイチーム」(全6社)、そして正式に加盟していないが日本エアシステムが現在密接な提携関係にあるノース・ウエスト航空とKLMオランダ航空の「ウイングス」(全2社)がある。日本航空は、「ワン・ワールド」の中の3社、「スカイチーム」の中の1社、そして「ワン・ワールド」のキャセイ・パシフィック航空と資本提携関係にある香港ドラゴン航空の合計5社とマイレージの相互積算の提携を行っている。(表5)


表5 4大航空会社連合(アライアンス)一覧

スターアライアンス ウイングス
加盟数 14 2
北アメリカ ユナイテッド航空(米国)
エアカナダ(カナダ)
ノースウエスト航空(米国)
南アメリカ ヴァリグ・ブラジル航空(ブラジル)
メキシカーナ航空(メキシコ)

ヨーロッパ ブリティッシュ・ミッドランド航空(英国)
ルフトハンザ(ドイツ)

オーストリア航空(オーストリア)
チロリアン航空(オーストリア)
ラウダ航空(オーストリア)
SAS(スカンジナビア航空)(デンマーク他)
KLMオランダ航空(オランダ)
オセアニア ニュージーランド航空
アジア タイ国際航空(タイ)
シンガポール航空(シンガポール)
全日本空輸

提携
日本エアシステム

ワンワールド スカイチーム
加盟数 8 6
北アメリカ *アメリカン航空(米国) デルタ航空(米国)
南アメリカ ラン・チリ航空(チリ) アエロメヒコ(メキシコ)
ヨーロッパ *ブリティッシュ・エアウェイズ航空(英国)
イベリア・スペイン航空(スペイン)

エアリンガス航空(アイルランド)
フィンランド航空(フィンランド)
*エールフランス航空(フランス)
アリタリア(イタリア)
チェコ航空(チェコ共和国)
オセアニア カンタス・オーストラリア航空(オーストラリア)
アジア *キャセイパシフィック航空(香港) 大韓航空(韓国)
提携 *は日本航空とマイレージ獲得の提携 *は日本航空とマイレージ獲得の提携
出所:各社HP等より筆者作成

 「マイレージ・プログラム」のマイレージ獲得提携先は、「ホテル」、「レンタカー」、「お土産」などの旅行に直接関係あるところから、「電話会社」、「保険会社」、「住宅」、「ネイル・サロン」などの様々な業種、業態にまで拡大してきている(表6参照)。そして特筆すべきは、「クレジット・カード」による「ショッピング・マイル」と、「インターネット・ポイント交換プログラム」による、各種ポイント・サービスとの「交換マイレージ」である。
 「ショッピング・マイル」を獲得できるお店、すなわち「クレジット・カード」が使えるお店は意外に多い。むしろ「使えないお店」は、現金支払いによる薄利多売を旨としたディスカウント系のお店や、零細な小売商店(いわゆる「パパママストア」)などである。日頃の「お買い物」のポイントをこつこつ貯めることで、航空便の利用だけでは特典に届かない顧客に、特典獲得の機会を拡大することになる。また「インターネット・ポイント交換プログラム」によって、他のプログラムで貯めた分散しているポイントを特定のポイントに集中させることで、特典に近づくことが出来るようになった(Gポイント他)。さらに1日1度のHPアクセスで、マイレージを獲得することが出来るプログラムも登場している(イーマイルネット)。ポイント・サービスの呼び名に関しても、航空会社ではないにもかかわらず、「マイレージ」という言葉を利用しているところもある(コスモ石油、ベルメゾン)。
 これらの流れは、旧来から存在したプログラムと最近登場したプログラムが、インターネットというグローバルなネットワーク・サービスの発展により、急速に連携を深めてきたものである。そしてこの流れはますます加速化し、航空会社の「マイレージ・プログラム」がその中核として位置することになる。それは航空会社の「マイレージ・プログラム」による特典が、他のプログラムの特典よりも価値があるからに他ならない。なぜならば、提供する「特典」すなわち「無料航空券」の出所は、利用されずに残れば在庫することが出来ない「空席」そのものなのである。もちろん、闇雲な「マイレージ」の提供による「無料航空券」の増大は、経営悪化を招く危険性を秘めており、「マイレージ・プログラム」はいわば諸刃の剣であるともいえる(パンアメリカン航空の倒産は、マイレージの乱発が原因であるという説がある)。
 それでは、利用者として数ある航空会社の「マイレージ・プログラム」のどれを選択(あるいは併用)すればよいのだろうか。その基準は第1に「よく利用する路線に就航しているか」、第2に「フライト以外でのマイルの貯めやすさ(表6参照)」、第3に「特典となる無料航空券の魅力度(表7参照)」などである。マイレージが貯まらなければ特典は獲得できないし、たとえ貯まったとしても魅力のある特典がなければ使う楽しみが無い。航空各社では、マイレージによる特典無料航空券やアップグレード券の交換に必要なマイレージ数の減額キャンペーンを行っており、より少ないマイレージでより大きな特典を利用できることもある。
 羽田−富山線に限ってみると、この区間のフライト・マイルは176マイルであり、積算率100%でボーナス・マイルが一切ないとすると、無料航空券獲得に必要な15000マイルを獲得するのに86回片道を利用する必要がある。これでは毎週のように出張を繰り返すビジネスマンでもなければ特典に到達することは難しい(インターネット予約割引などの各種ボーナス・マイルがあるので、実際にはもう少し早く特典に到達できる。)。したがって、富山県の顧客にマイレージという側面で継続利用を促進させるためには、各種のボーナス・マイレージ・キャンペーンが不可欠である。日本航空 兼子社長の平成14年4月11日の富山での記者会見によると、「日本航空が来て本当によかったと実感できるようなマイレージ・キャンペーンを行います。」ということなので、これに対抗する全日空のキャンペーンが出揃えば、富山県民に大きな利用促進のインパクトを与えることになるだろう。今後の推移に注目していきたい。



4.まとめ

 航空需要の促進は、価格戦略による新規顧客獲得と、マイレージ戦略による継続顧客獲得以外に、安全性の確保や、客室乗務員や地上職員などのサービスに対するCS(カスタマー・サティスファクション)の向上といった、本質的な課題もたくさん残されている。また、路線の往路復路双方向の、目的地としての魅力作りも不可欠であろう。羽田−富山線に関してみても、富山県内からの利用者増加もさることながら、富山県自体の観光やビジネスの魅力増大によって、県外からの利用者を増加させることも重要な課題である。
 日本航空の羽田−富山線参入による利用機会の増大が、富山東京間の双方向の人的交流を促進し、かつ富山県の魅力度がますます増加していくことを期待して、本稿のまとめとしたい。

参考文献
青木淳(1999):『価格と顧客価値のマーケティング戦略〜プライス・マネジメントの本質』:ダイヤモンド社
Kotler P.(2000):Marketing Management, The Millennium Edition:Prentice Hall(フィリップ・コトラー 著、月谷 真紀 訳、恩藏 直人 監修:『コトラーのマーケティング・マネジメント ミレニアム版』:ピアソン・エデュケーション)
Levitt, T.(1983):“After the Sales is Over”:Harvard Business Review (Sept.-Oct.,1983):土岐坤訳(1984)「売り手にとって欠かせぬ買い手との関係強化」:『ダイヤモンド・ハーバード・ビジネス』1984年1月号
恩蔵直人、守口剛(1994):『セールス・プロモーション』:同文舘
嶋口充輝(1994):『顧客満足型マーケティングの構図』:有斐閣
嶋口充輝、矢作恒雄、青井倫一、和田充夫(1996):『インタラクティブ・マネジメント〜関係性重視の経営』:ダイヤモンド社
嶋口充輝、竹内弘高、片平秀貴、石井淳蔵(1998):『マーケティング革新の時代(1)顧客創造』:有斐閣
上田隆穂(1995):『価格決定のマーケティング』:有斐閣
国土交通省HP(http://www.mlit.go.jp/)
富山県庁HP(http://www.pref.toyama.jp/)
とやま統計ワールドHP(http://www.pref.toyama.jp/sections/1015/index2.html)
マイレージの達人HP(http://www.mile-tatsujin.com/)
全日本空輸HP(http://www.ana.co.jp/)
日本航空HP(http://www.jal.co.jp/)
日本エアシステムHP(http://www.jas.co.jp/)
イーマイルネットHP(http://www.e-milenet.com/)
ネットマイルHP(http://www.netmile.co.jp/)
J−Point Town HP(http://www.j-point.org/)
JR東日本ジパング倶楽部HP(http://www.jreast.co.jp/otona/)
JR東日本HP(http://www.jreast.co.jp/)
JCBカードHP (http://www.jcb.co.jp/)
DCカードHP(http://www.dccard.co.jp/)


平成14年5月号