韓国経済の現状と韓国ベンチャー(その2)
富山国際大学地域学部地域システム学科
助教授 高橋 哲郎


【目次と概要】

1.アジア金融危機以降の韓国経済
2.財閥中心経済から「知識基盤経済」へ【以上7月号】

3.韓国ベンチャーの実態
 【以下今月号】
 韓国でのベンチャーの定義について説明します。この定義の運用がベンチャー企業数の急増を招き、韓国ベンチャーの過大評価につながっています。しかし、過大評価気味とはいえ、情報化政策(サイバーコリア21)の進展とともに日本以上の速度でネット革命が進展しています。

4.富山県産業との交流可能性

 富山県と韓国との新たな経済交流がはじまろうとしています。地域間交流からベンチャー企業間交流への進展が期待されています。

3.韓国ベンチャーの実態

(1)ベンチャーの定義
 まず、韓国におけるベンチャー企業の定義を確認しておこう注1。1997年7月制定の「ベンチャー企業育成に関する特別措置法」により、はじめて公式に定義が規定された。詳細な条項は省略するが、次の4つの基準のうち、ひとつでも満たせばベンチャー企業と認定している。

ベンチャーキャピタル投資型企業 創業投資会社、新技術事業金融業会社、または韓国ベンチャー投資組合など、韓国内のベンチャーキャピタルからの投資総額 が資本金の20%以上の企業
研究開発集約型企業 研究開発費が年間総売上額の5%以上の企業
特許、新技術型企業 特許権実用新案権および技術開発事業による売上額(輸出額)が総売上額の50%(25%)以上の企業
ベンチャー評価優秀型企業 ベンチャー企業評価機関から技術性または事業化能力が優秀だと評価された企業

(注1)ベンチャー企業は明確に確立された概念ではない。各国定義が異なる。
 日本の場合、1995年に「中小企業の創造的事業活動促進に関する臨時措置法」を制定し、その中で「中小企業として R&D(Research and Development:研究開発) 投資額率が売上額の3%以上の企業、創業後5年未満の企業」と分類している。


(2)韓国ベンチャーの現状
 前述の4つの定義に含まれるベンチャー企業数は急増している。政府(産業資源部)によれば、2000年末で8,798社で、1999年より3,864企業増加(増加率 43.9%)となった。2001年に入ってからも、1月360社、2月360社、3月380社増加し、2001年4月末には1万社を超えている。
 このベンチャー企業急増の理由は何か?表1はベンチャー企業指定理由別の企業数とその占める比率を示している。同表から明らかなように、ベンチャー企業評価機関注2により、技術や事業化能力が優秀だと評価されたベンチャー評価優秀企業の割合が最も多く、55.7%を占めている。次いで、特許、新技術型企業が19.2%、ベンチャーキャピタル投資型企業が15.6%、研究開発集約型企業が9.5%である。つまり、韓国のベンチャー企業の半数以上が評価機関により「認定」されたベンチャーである。

表1 ベンチャー企業指定理由別企業数
  ベンチャーキャピタル投資型 研究開発集約型 特許新技術型 ベンチャー評価優秀型
企業数(社) 1,430 872 1,746 5,100 9,148
構成比(%) 15.6 9.5 19.2 55.7 100
出所:イ・ユンボ「韓国ベンチャー企業の現況と政策」『第16回日韓経済経営会議発表論文抄録集』2001年

問題はこのベンチャー企業評価機関の認定基準にある。研究開発型の先端技術企業だけを認定するのではなく、むしろ既存技術活用型の中小企業を認定対象にしている点である。政府の手厚いベンチャー企業育成政策の対象企業となるため、認定を受けようとする企業の急増が韓国のベンチャーブームを作り出したという側面が大きい。このベンチャー評価制度に対しては、再検討もしくは選定基準強化を求める関係者もでてきている。

(注2)
ベンチャー企業評価機関は11ある。すべて政府系の研究機関である。

ベンチャー企業の産業別分布
 2001年1月現在、ベンチャー企業の産業別分布は表2のとおりである。業種別にみると、製造業が61.1%、情報処理が33.2%である。情報処理業の比重は1999年末の24.3%から、大幅に増加している。

表2 ベンチャー企業の産業別分布
  製造業 情報処理業 研究開発サービス業 建設、運輸業 卸・小売業 農林漁鉱業 その他
企業数(社) 5,587 3,035 223 146 76 31 50 9,148
構成比(%) 61.1 33.2 2.4 1.6 0.8 0.3 0.6 100
出所:表1に同じ

ベンチャー企業の経営成果
 次に、別の資料からベンチャー企業の売上額増加率、売上額経常利益率、1人当たり売上増加率をみると、いずれも大企業、中小企業を上回っており、業績は良好であるといえよう(表3)。ベンチャー企業の高収益性を反映した結果ともとれるが、創業初期の高度成長期に該当する企業が多いこともその一因と考えられる。

表3 ベンチャー企業の経営成果  (単位:%)
  ベンチャー企業 中小企業 大企業
売上額増加率 36.83 10.80 6.60
売上額経常利益率 7.23 2.90 1.00
1人当たり売上額増加率 15.21 8.29 10.20
出所:韓国中小企業庁 中小企業振興公団(2000),2000年度ベンチャー企業精密実態調査

(3)ベンチャー企業育成政策
 ベンチャー企業育成政策及び支援制度は大きくわけて資金支援、立地支援、そして技術及び人材支援制度に区分できる。ここでは資金支援と人材支援の重要項目のみをあげておく。

資金支援政策
・中小企業庁、中小企業事業団、技術信用保証基金を通じて同一企業に創業資金5億ウォン注3(ただし、運転資金は3億ウォン)まで支援する。
・中小企業振興公団を通じて年5億ウォンの範囲内で経営・構造改善資金を支援する。
・投資会社、投資組合、個人投資家、機関投資家に対する税制上のインセンティブを与え、ベンチャー企業への資金流入を促進する。

(注3)
外国為替換算 韓国1ウォン=日本0.1円程度

人材支援策
・大学教授と国・公立研究機関の研究員が、ベンチャーを創業する場合、ベンチャー企業の役員として勤務できるよう休職と兼職を認める。
・専門研究員に関する兵役特例規定を設ける。
・ベンチャー企業の役員や従業員にしか認めていなかったストックオプションを大学の教授・研究員や大学・研究所にまで適用範囲を拡大する。


(4)情報化政策(サイバーコリア21)と電子商取引
 1999年に金大中政権が新しく策定した情報化政策、サイバーコリア21は単にIT産業を成長させて経済の活性化を図るというだけではなく、法体系・制度の改革、教育改革、電子政府化の推進などを本格化させている。韓国のIT化のなかでも特に日本が水をあけられているのがブロードバンド(大容量の通信ネットワーク)の進展だ。韓国政府(情報通信部)の調査では、2001年4月末現在、ケーブルモデムとDSLの利用者数が500万人を越えた。人口比10.6%、世帯普及率でみると30%を越えている注4
 韓国ではこのインターネットの急激な普及を背景として、電子商取引が拡大している。同調査結果によると、2000年の韓国の電子商取引の全体規模は57兆5,584億ウォン、これを取引類型別に見れば、企業間取引(B to B)が、52兆3,276億ウォン、企業・消費者間取引(B to C)が、7,337億ウォン、海外輸出取引4兆4,498億ウォンとなっている。
 電子商取引額(57兆5,584億ウォン)は、総取引額(1,269兆5,330億ウォン)の4.5%にあたり、企業間取引額(52兆3,276億ウォン)は、企業間総取引額(835兆6,889億ウォン)の6.3%に該当する。

(注4) アメリカではブロードバンド利用者数が推定800万人、世帯普及率は10%に満たない。日本はADSLとケーブルモデムをあわせて世帯普及率が2%、利用者数は94万人である。


4.富山県産業との交流可能性
 今年4月に策定された「富山県民新世紀計画」において、五つの立県構想が示されている。そのなかのひとつ、国際立県構想では環日本海交流の中央拠点づくりが提唱されている。特に注目されるのは日本海学の推進を中心に据え、地域アイデンティティの確立を掲げている点である。他県ではみられない独自のスタンスである。
 その環日本海交流の経済交流拠点のひとつとなる富山県新世紀産業機構と富山県が計画する韓国・大邱広域市との産業交流事業が、ジェトロのローカル・トゥ・ローカル産業交流事業(LL事業)に採択された注5。具体的には富山県新世紀産業機構と大邱テクノパークの間で産業交流の協定を結び、双方の地域が有する先端的な研究成果等の技術シーズや優秀な研究人材の交流を通じ、富山県において新たな事業展開や独創的なベンチャー企業の創出等を図ろうとするものである。
 (財)大邱テクノパークは、1998年全国6カ所に作られた「示範テクノパーク注6」のひとつである。慶北大学キャンパス内に設置され、事業費規模は6カ所中最大である。特にハイテクベンチャー企業に対する創業支援、技術開発支援、教育訓練などが積極的に行われていることで有名である。
 今後、地域間交流からベンチャー間の交流へと、さらなる進展が期待される。

(注5)
 LL事業とは、地域経済の活性化や国際競争力強化を目的とした自治体・商工関係団体等の産業交流プロジェクトを支援するジェトロの事業で、平成8年度より全国各地で実施されている。
2年〜3年間継続支援を行うLL事業と、期間1年のミニLL事業の2形態がある。今回の事業はミニLL事業として採択された。

(注6)テクノパークとは大学・研究機関、企業間の有機的な協力を通じて特定地域の技術革新と先端産業発展を効果的に達成するために、研究機能、創業、インキュベータ機能、教育・訓練機能、支援サービス機能、試験生産機能を一地域に集積させたものである。

*主に韓国語の文献・資料・ホームページを参照した。
 日本語参照文献・資料は以下の通り。
 会津泉『アジアからのネット革命』「第4章 韓国の奇跡」岩波書店、2001年
 韓国IT研究会『なぜ日本は韓国に先を越されたか』日刊工業新聞社 2001年
 尹明憲「韓国における地方先端産業集積の発展方向」『北九州産業社会研究所紀要』(北九州大学) 第42号所収論文、2001年
 富山県(経営企画部総合政策課)『富山県民新世紀計画』2001年
 環日本海貿易情報センターにて入手の諸資料