富山の家庭は、昆布、ぶり、たら、いかの消費額が日本一
― 家計調査にみる結果とその要因・背景を探る ― 

はじめに

・とやまの人は魚が好き
 平成10年の家計調査年報によると、一世帯の年間食料費支出金額は、富山市111万2,656円、全国平均102万7,293円を大きく上回り、全国7位となっている。食料費で特徴的なのは、富山市の魚介類への支出割合が14.1%と全国平均11.7%を大きく上回り、第1位となっていることである。
 次に、食料費に占める魚介類と肉類の割合をみると、富山市では魚介類の割合(14.1%)が肉類の割合(6.7%)を大きく上回っている。また、魚介類支出金額は常に全国トップレベルであり、 肉類支出金額は全国30位台後半か40台位と下位レベルであり、富山市における副食の中心は魚介類であることがわかる ( 図1)(表1)。
 
図1 魚介類と肉類の年間支出(富山市・全国との比較)

表1 魚介類・肉類支出金額順位
  平成8年 9年 10年
魚介類年間支出金額 1位 2 1
肉類年間支出金額 37位 38 42
(図1,表1 家計調査年報より)

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・なんと富山は「昆布」、「ぶり」、「たら」、「いか」の支出金額が日本一

 表2は、富山市の一世帯あたりの年間支出金額が全国3位以内となっている食品の一覧である。
 過去3年間、「昆布」「ぶり」「たら」「いか」(さしみとして購入する分も含む)は連続して全国1位である。また、「魚介の漬物」(魚の味噌漬け、醤油付け等)も4年連続して全国1位である。
 そこで本稿では、このうち全国の3倍も購入されている「昆布」(図2)と、鮮魚の「ぶり」「たら」「いか」について、「年間支出金額日本一」の理由・背景を探ってみたい。
 本号では「昆布」を、次号では「ぶり、たら、いか」を取り上げる。
 
表2 一世帯当たりの年間支出金額が全国3位以内の食品(家計調査年報より)
よく買う食品 平 成 8 年 平 成 9 年 平 成 10 年
魚介類 1位 ぶり、たら、いか、魚介の漬物 ぶり、たら、いか、魚介の漬物 ぶり、たら、いか、魚介の漬物
2位      
3位 かまぼこ しじみ 刺身盛り合わせ、かまぼこ
野菜
海藻
果物
1位 昆布 かぶ、昆布、バナナ かぶ、昆布
2位 かぶ たけのこ  オレンジ
3位   生椎茸  竹の子
その他 1位 カツレツ、もち カツレツ、天ぷら・フライ、コロッケ、清酒 コロッケ、カツレツ
2位 コーヒー・ココア   天ぷら・フライ、もち
3位 すし、天ぷら・フライ やきとり 清酒
 年間支出金額が全国3位までのものを掲載、青字は連続3位以内のもの

[昆 布]の年間支出金額が日本一であることについて

 富山市の一世帯当たりの年間昆布消費金額、消費量は全国一である(図2)。(なお、ここでいう昆布はあくまでも一般家庭での消費であり、加工業者や飲食店が業務用として使うものは含まない)

図2 昆布一世帯当たり年間支出金額、購入額(家計調査年報より)

1.昆布生産量  ―その9割以上は北海道―

 昆布は寒い地方の海に育つ海藻であり、国内生産の90%以上は北海道産である(図3)。
 昆布業者の数をみても、北陸昆布協会の加盟数では、富山県27社、石川県7社、福井県13社、新潟県1社と圧倒的に富山県が多い (図4)。
 昆布の採れない富山になぜ北海道の昆布が根づいたのか、歴史的背景とその理由を追ってみたい。
 
図3 昆布生産量(国内) 図4 北陸の昆布協会加盟社数と消費金額
(平成10年漁業・養殖統計年鑑より) H12年北陸昆布協会調べ(注)支出金額は各県の県庁所在都市のものである

2. 歴史的背景

(1)北前船による昆布ロードの形成

 昆布の採集は、徳川幕府が蝦夷地(現、北海道)経営に本格的に取り組んだ江戸時代から盛んになった。収穫された昆布は北前船によって日本海の沿岸沿いの各地に運ばれ、越中からは米、しょう油、むしろなどを北海道へ運んでいた。
 富山藩では、2代藩主前田正甫(1649〜1706)が殖産興業に力を注ぎ、さらに3代利興(1678〜1733)が藩札を発行して商品流通 に努めるなか、売薬業が盛んになり、売薬商人が全国に出かけていた。こうしたなかで、昆布の運搬と売薬業者のかかわりが生まれた。
 昆布の運搬を手がけた業者には売薬業者が数多くおり、売薬業のかたわら北前船で昆布を北海道から薩摩へ運び、薩摩藩は琉球王朝に運んだ。さらに昆布は琉球から清国へ密輸され、清国からは漢方薬の原料が輸入された。それが薩摩藩を通じて当時製薬の中心であった越中の製薬業者に売られた。このルートを<昆布ロード>と名づけている。このように北前船で昆布を運搬し、昆布の見返りとして、清国から輸入された薬の原料を買っていたのである(図5)。
 富山は北前船の中継地だったことから北海道の食材が持ち込まれ、そこに富山の先人の知恵が生かされ、にしん昆布巻きのように独特の昆布の食文化を作り上げていった。
 

(2)とやまから北海道への移住 〜 食文化交流 〜
  明治時代になると、富山県民の北海道移住や漁業出稼ぎが始まり、北海道周辺漁場の昆布漁は彼らによって開拓されたといわれている。昆布の産地である羅臼(らうす)町への移住が多く、移住・漁業出稼者がふるさとに昆布を送ったため、現在でも富山で一番多く消費されるのは羅臼昆布であり人気が高い。
  このように、北前船による交易、越中売薬の活躍、県民の北海道への移住などが、富山と北海道との深いつながりを育て、昆布は、次第に富山県民の食生活に深く浸透していった。

3 昆布を使った料理の普及

(1)真宗王国としての精進料理
  「真宗王国」と呼ばれる富山は浄土真宗の信仰が厚く、仏事では精進料理がもてなされる。精進料理では魚肉類をだしに使わない戒めがあり、だしには昆布が用いられる。かつて秦の始皇帝が東海(日本国の異称)に求めた不老長寿の仙薬の一つは昆布だったといわれるほど、昆布はカルシウム、ビタミン、ミネラル、食物繊維を豊富に含んだ栄養バランスのよい食品である。
  だし汁に使われるのはうまみ成分のグルタミン酸を多く含むためであり、だしとしての昆布の役割は大きい。昆布が富山で浸透した要因としては、県民の仏教信仰心の厚さも挙げられるのではないか。
  また、(図6)でみられるように、関西圏では昆布がよく食べられていることがわかる。富山の食文化は関西圏、関東圏が入り混じっているが、昆布の消費量からは関西圏とのつながりの強さがうかがえる。
 

(2)縁起物としての昆布の出番
  昆布は「よろこぶ」に通じ、めでたいものとして昔から結納品の一つにもなり、また、正月のお 鏡飾り・儀式のお供えなど各種行事に広く用いられている。

(3)昆布の種類ととやまに伝わる代表的昆布料理
  昆布は産地や成熟状況によって次のように大別され、それぞれの特徴を生かして料理や加工品 に使われている。

羅臼 こんぶ(主な産地 羅臼町)
  真こんぶと並ぶ高級品、香りが良くコクのあるだしが出る。だしとしても利用されているが、食べると甘みがあり、富山では、特におやつこんぶとして人気がある。

長こんぶ (主な産地 根室)
  長さが6〜15mと長く、富山では羅臼こんぶに次いで多く消費されている。富山では、昆布巻きに多く使われている。煮昆布、大豆・たけのことの煮物にもよく利用される。

真こんぶ(主な産地 函館)
  上品な味わいで高級の昆布として知られており、肉厚で煮てもおいしい。富山では、刺身の昆布じめ、昆布かまぼこに多く使われている。

細目こんぶ(主な産地 檜山)
  幅が細めで、1年目に採取されるもの。とろろこんぶ、刻みこんぶなどに利用され、富山では、昆布もち、凍りもちなどに使われている。
 

昆布料理の代表格 3種
刺身の昆布じめ 昆布かまぼこ にしん昆布巻

 このように、富山では家庭でも種類・品質の異なる昆布を上手に使い分け、だしをとるのはもちろん、食材として幅広く、大量に使われている。
  近年では、昆布を使った代表的料理である、にしん昆布巻き・昆布じめ・昆布もちなどを手間ひまかけて作る人が次第に減りつつあり、出来合いのものを購入することが多くなっている。しかし、まだまだ昆布は富山の代表的食材であることには変わりはない。
 
参考図書   昆布を運んだ北前船 塩 照夫著 北国新聞社
北前船日本海こんぶロード 読売新聞北陸支社
聞き書富山の食事 日本の食生活全集
月刊消費者2000年1月号 (財)日本消費者協会
富山大百科辞典 北日本新聞社編 
富山がわかる本 富山県統計課・富山県統計協会

8月号では 消費日本一の魚介類「ぶり」「たら」「いか」について、取り上げる。(渡辺 良子)