特集

富山のサクラ
〜 その特色とこれからの楽しみ方 〜

 

1 はじめに


とやま経済月報には、これまで様々な植物についてご紹介してまいりましたが、今回、寄稿する機会を得ましたので、「富山のサクラ」について、ご紹介させていただきます。

桜は、お花見に代表されるように日本人に最も親しまれている花木の代表といえます。

皆さんがご存じのサクラといえば、やはりソメイヨシノでしょうか。全国的に最もよく知られ、桜の開花情報にも用いられています。本県でも、富山市の松川べりや高岡市の古城公園など県内各地で見ることができます。

しかしながら、本県においては、サクラといえば、ソメイヨシノ…だけとはいえない特色があります。

今回は、その特色についてご紹介させていただきます。

松川べり
高岡古城公園

2 昨今の富山のサクラ事情


実は、最近、次々と富山オリジナルの栽培品種が発表されています。

栽培品種とは、観賞を目的に品種改良されたものや、野生種から自然交雑によってできたサクラを観賞用に栽培したものをいいます。ソメイヨシノもそのひとつで、ほかにカンザン、ウコンなどが知られています。富山オリジナルの栽培品種とは、こうした普及した栽培品種ではなく、県内で初めて発見された、既知のものとは異なる品種のことを指します。


〇 表1 富山県で発見・発表されたサクラのオリジナル栽培品種
品種名 発表年 備考
コシノヒガンザクラ 1930 コシノヒガンザクラ系 品種でなく分類群
ミドリキンキマメザクラ 1961 キンキマメザクラ系
フタカミザクラ 1971 キンキマメザクラ系
コシノフユザクラ 2007※ 二季咲き系 発表年は命名公表年
ヒミクヅロキクザクラ 2008 菊咲き系 発表年は命名公表年
ツルギオリトキクザクラ 2009 菊咲き系 発表年は命名公表年
タカオカコシノヒガン 2009 コシノヒガン系 発表年は命名公表年
ジョウキョウジテマリザクラ 2010 菊咲き系 発表年は命名公表年
コシノフクカサネ 2011 二季咲き系 発表年は命名公表年
ニュウゼンオトメキクザクラ 2012 菊咲き系 発表年は命名公表年
ショウホウジキクザクラ 2013 菊咲き系 発表年は命名公表年
シママチキクザクラ 2014 菊咲き系 発表年は命名公表年
コシノカモザクラ 2018 その他系 発表年は命名公表年
クレハオトメシダレ 2021 コシノヒガン系 発表年は命名公表年

※ 2007年以降の発表は、当園が関わったもの


コシノフユザクラ

シママチキクザクラ

クレハオトメシダレ

以上のように、2007年以降、多くの富山オリジナルの栽培品種が発表されています。

写真のとおり、いずれも観賞価値の高い品種ばかりです。

この発見・発表には、当園(1996年全面開園)が大きく貢献しているのですが、もちろんそればかりではありません。

なぜ、このように多くの新品種が見つかるようになったのでしょうか?

3 富山のサクラの特色

(1)富山の自然環境

理由の1つは、富山の自然環境にあります。

日本におけるサクラの野生種は10種類前後(諸説あり)とされていますが、この中には南方系、北方系、そして高山性のものがあります。

ご承知のとおり、本県は、日本列島の中央に位置し、3,000m級の立山連峰から富山湾まで標高差があり、多雪環境と相まって変化に富んだ自然環境を有しています。

このことにより、本県では、南方系、北方系および高山性のサクラの野生種が生息できる環境を有しており、野生種のうち、なんと8種(変種を含む)もの生息が確認されています。

この野生種の宝庫とも呼べる本県の恵まれた環境は、言い換えれば、新たな交雑を生み出す環境でもあり、新品種が生み出されるベースとなっていると考えられます。


〇 表2 富山県で見られる野生種のサクラ
品種名 分布状況 備考
キンキマメザクラ 早月川以西の丘陵地山地 マメザクラの変種。
北陸から中国地方の日本海側に分布。
特に富山県、石川県に多い。
オクチョウジザクラ 早月川以東の丘陵地山地 チョウジザクラの変種。
本県の東部(早月川以東)から東北地方にかけての日本海側に分布。
エドヒガン 呉羽丘陵、氷見市丘陵地、砺波市庄川沿いなど 東北から九州にかけて分布。ソメイヨシノの片親。
東京方面で多く栽培され、彼岸の頃に開花するためこの名前がついたといわれている。
オオシマザクラ 富山市浜黒崎など 伊豆大島に多く自生していることから、この名がつけられた。このサクラからソメイヨシノほか多くの園芸品種が生まれた。
ヤマザクラ 県内全域の山地など 中部山岳地帯を除く、宮城県、新潟県以南に分布。
古いさくらの名所や歌に詠まれた桜は、ほとんどがヤマザクラといわれている。
カスミザクラ 県内全域の丘陵地や山地 北海道から本州、四国にかけて分布。
咲いている様子が霞のようにみえることから、この名前がついたといわれている。
オオヤマザクラ 立山山麓家族旅行村、平村梨谷、有峰、馬場島
など
北海道から九州に分布するが、北日本に多い。
県内では、ヤマザクラより標高の高い地域に分布している。
タカネザクラ 有峰、立山・黒部平一帯 北海道と本州中部より北の高地に分布。
県内では標高1,500m以上の亜高山帯に分布。
変種のチシマザクラも県内に自生している。

キンキマメザクラ

エドヒガン

ヤマザクラ

(2)熱心な調査活動

もう一つの理由は、富山人の熱心な調査活動にあります。どんなに環境が優れていていも、それを調べようとする者がいなくては、見つけることはできません。

県では、富山の桜を守り育て、そのよさを普及啓発していくため、「富山のさくら」名所づくり事業として、「富山さくらの名所」の選定やPR、開花情報の発信などと共に、「とやまさくら守」の養成講座を実施しています。

「とやまさくら守」の役割は、地域における桜の植樹や育成、富山の桜の普及活動などですが、この講座を修了した方々が、自主的に「とやまさくら守の会」を結成し、会員相互の交流や研修などと共に、当園と協力して県内のサクラ状況調査を活発に行っています。

こうした富山人の熱心な調査研究活動の成果が、他県にない富山オリジナルの栽培品種の発見、更には増殖や普及に繋がっています。


4 「富山さくらの名所70選」では…


富山は、野生種、そしてオリジナルの栽培品種など、多様なサクラを愛でることができる環境にあります。そのような中、県では前述の事業の一環として、「富山さくらの名所70選」を選定しています。是非、足を運んでいただきたいと思いますが、では、この70選では、どのようなサクラを見ることができるのでしょうか。


〇 図1 富山さくらの名所70選

※図をクリックすると大きく表示されます


この70選のうち、ソメイヨシノのみを楽しめる名所は22か所(31%)で、残りの7割近くでは、ソメイヨシノ以外の品種、若しくはソメイヨシノを含む多品種のサクラが楽しめる名所となっています。

また、富山で発見されたオリジナル新品種を含む名所は8か所、野生種を見ることのできる名所は21か所あります。各名所の詳細については、県のHP等で確認してみてください。

5 新たな楽しみ方を…


加えて、この富山における野生種の多さと、標高差のある地形は、サクラの花を長い期間にわたって、楽しめることにも繋がっています。

これも他県にはない、富山のサクラの特色と言えるでしょう。


〇 表3 サクラ開花カレンダー

※表をクリックすると大きく表示されます


表3のように、富山県のサクラは、3月中旬に開花するキンキマメザクラを皮切りに、7月下旬にタカネザクラが咲き終わるまでの4か月にわたって、次々と開花を迎えます。二季咲き性の品種と合わせれば、8、9月を除いた期間、まさに日本一長いサクラの開花リレーを楽しむことができます。

※:二季咲き性の品種
…開花が秋から春まで続き、開花ピークが晩秋と早春の2回あるもの
…富山オリジナル栽培品種のコシノフユザクラ、コシノフクカサネも二季咲き性の品種

ソメイヨシノの下でのお花見も、もちろん良いのですが、様々な時期、様々な場所で、様々なサクラを楽しめるのが富山の特色です。

コロナ禍の中、密集を避ける意味においても、それぞれの方々が、それぞれの場所で、それぞれのサクラの楽しむ、いわば富山スタイルとも呼べる他県にはない楽しみ方を創出していけるのではないでしょうか。


6 サクラといえば、「富山県中央植物園


ここで、当園のサクラについても、ご紹介させていただきます。

サクラは、当園の目玉の一つとなっており、「富山さくらの名所」にも選定されています。

展示している品種数は、120種類で県内一の種類数を誇ります。富山オリジナル栽培品種、二季咲き性の品種も観賞することができますので、長期間、様々な品種のサクラの花を楽しむことができます。

加えて、毎年、ソメイヨシノの開花期に合わせて、4日間、「さくらまつり」を開催しています。

入園料は、期間中、特別料金の200円(高校生以下、70歳以上は無料)で、開園時間は夜間ライトアップして午後9時30分まで延長しています。(令和3年3月現在)

当園のソメイヨシノは、園路の両脇に300mにわたって植栽され、見事なトンネル状の並木となっており、多くの県民の方々に楽しんでいただいております。

今年も、皆様のご来園を心よりお待ちしております。


※表をクリックすると大きく表示されます

今年の「さくらまつり」のポスター
(池越しにライトアップされたソメイヨシノを望む)
300mののソメイヨシノのトンネル
サトザクラの並木

7 終わりに


本県では、前述した「とやまさくら守」の活躍などもあって、既存の桜の保護育成に加え、地域独自の新たな桜の名所づくりなども、各地で進められています。

これからますます、様々な桜の名所が県内各地に作られていくことでしょう。

富山の多様なサクラは、
@ 地域の豊かな環境づくりへの活用
A 地域のシンボルとして、地域振興や地域コミュニティの活性化へのきっかけづくり
に繋がるほか、地域独自のサクラは、
B ミニマムな観光資源にもなり得るポテンシャルを有するもの
としても捉えることができると考えています。

今年は、是非、これまでとは異なる視点で、桜を眺めていただき、これまでとは異なる楽しみ方を模索していただければと思います。




とやま経済月報
令和3年3月号