特集

富山県の景気動向について1

日本銀行富山事務所長 小川 万里絵

 

1 はじめに


富山県の景気は、厳しい状態にありますが、国内外の経済活動が回復基調を辿る中、徐々に持ち直しつつあります。ただし、先行きについては、新型コロナウイルス感染症(以下、「新型コロナ」)拡大の影響の行方が不透明であり、慎重にみていく必要があります。

個人消費については、県下への緊急事態宣言解除後の6月以降、徐々に人出が戻る中で、持ち直しています。生産については、国内外における経済活動の回復を受けて、自動車産業の回復やスマートフォン向けの需要増等から、電気機械、非鉄金属、汎用・生産用・業務用機械等が持ち直しつつあります。こうした状況下、有効求人倍率は下げ止まっているほか、企業の業況感は、「悪い」超ながら改善しています。

先行きについては、新型コロナの感染拡大の状況が懸念される中、回復基調は緩やかなものにとどまると考えられますが、下振れリスクに留意する必要があります。

2 主要項目の動き

(1)個人消費

富山県の個人消費(6業態計)は、県下への緊急事態宣言解除後の6月以降、徐々に人出が戻る中で、持ち直しています(図表1)。

業態別にみると、百貨店・スーパーでは、衣料品の回復は遅れているものの、家中需要から食料品は好調であり、催事等への反応もよくなってきています。ドラッグストア、家電専門店、ホームセンターは、衛生用品、日用品、白物家電やエアコン等を中心に好調を続けています。昨年9月は10月の消費税率引き上げ前の駆け込み需要があったため、今年9月の前年比はマイナスとなっていますが、それを勘案しても、好調な地合いは続いているといえます。


(図表1)富山県の小売6業態の売上高前年比推移

── 20年10月は速報値

(出所)経済産業省 商業動態統計


新車販売についても、経済活動の再開に伴い、6月以降前年比マイナス幅が縮小してきましたが、10月入り後は、新車の売れ行きが好調であることや、昨年10月が消費税率引き上げにより売上が低水準であったことから、前年比プラスに転じています(図表2)。


(図表2)富山県の新車登録台数の前年比推移

(出所)富山運輸支局


(2)設備投資

県内企業の2020年度の設備投資計画を、短観2(2020年12月調査)によりみると、引き続き研究開発や省力化投資への意欲は底堅いものの、大型投資一巡による反動や新型コロナ拡大の影響による収益環境の悪化を踏まえ不要不急の投資を先送りする動きから、▲5.2%と前年度割れの計画となっています(図表3)。ただし、リーマンショック時に製造業を中心に設備投資が急減(2008年度▲18.6%、2009年度▲15.4%)したのと比較すると、今年度入り後の下方修正の動きは緩やかなものにとどまっています。


(図表3)富山県の設備投資額の前年度比推移

― ソフトウェアを除くベース

(出所)日本銀行金沢支店


なお、設備投資の水準を2005年度=100とした水準でみると、若干の振れはあるものの、近年は製造業・非製造業ともに着実に設備投資を行っていることが窺われます(図表4)。


(図表4)富山県の設備投資額の推移(全産業、2005年度=100)

(出所)日本銀行金沢支店


(3)生産

企業の生産動向については、海外経済の回復等に伴い、鉱工業生産指数(総合)の水準は、5、6月にかけて急落した後、改善傾向にあります(図表5)。


(図表5)富山県の鉱工業生産指数の推移(季節調整済、2015年=100)

(出所)富山県経営管理部統計調査課


業種別にみると、ウエイトの大きい医薬品では、引き続き新型コロナへの懸念による医療機関の受診控えから横這い圏内の動きとなっていますが、汎用・生産用・業務用機械が自動車産業の回復等による企業マインドの好転から、電気機械が中国経済の回復や5G関連需要、スマートフォン向け、自動車搭載向け等の好調から、いずれも7月以降改善しています(図表6)。


(図表6)富山県の医薬品、汎用・生産用・業務用機械、電気機械の生産指数の推移
(季節調整済、2015年=100)

(出所)富山県経営管理部統計調査課

3 その他経済指標の動向

(1)労働需給

県内の有効求人倍率(受理地ベース)は、新型コロナ拡大の影響を受けて本年4月以降急激に低下したのち、8月以降は下げ止まっています(図表7)。


(図表7)有効求人倍率(季節調整値)の推移

(出所)富山労働局


求人・求職者数の動きをみると、3月から5月にかけて求人数が減少する一方、求職者数は、新型コロナの影響で求職活動を一時停止する人もみられたことから、横這いないし微増の動きとなりました。足許では、求人数はわずかに増加しています(図表8)。


(図表8)富山県の有効求人・求職数(原計数)の推移

(出所)富山労働局


(2)企業の業況感

企業の業況感を、短観(2020年12月調査)の業況判断DI(全産業)でみると(図表9)、業況判断DI(全産業)は、国内外の経済活動の回復に伴い、幅広い業種で前回調査(2020年9月)より改善したことから、引き続き「悪い」超ではあるものの、▲16と前回調査比+14の改善となりました。

先行きについては、製造業では、足許の新型コロナの拡大傾向等から、業況の見通しは業種により区々となっており全体では横這い、一方、非製造業では、個人消費における雇用所得動向への懸念や、先行きの不透明感が強く改善は見込めないとする業種が多くなっていることから、全産業で▲20と悪化しています。


(図表9)業況判断DI(全産業)の推移

(出所)日本銀行金沢支店

1
本稿で示された意見等は筆者のものであり、日本銀行の公式見解ではありません。
2
「短観」は、「全国企業短期経済観測調査」の略。四半期毎に全国の企業に対して行っている業況感や事業計画に関する調査。



とやま経済月報
令和3年1月号