特集

DBJ設備投資計画調査からみた富山県経済の状況
(特別アンケート)新型コロナの感染拡大による事業への影響

株式会社日本政策投資銀行 富山事務所長 吉田 守一
富山事務所副調査役 吉田 志穂

 

1 DBJ設備投資計画調査について


株式会社日本政策投資銀行(DBJ)は、わが国民間企業の設備投資動向を把握することを目的として、毎年6月、資本金1億円以上の民間企業(金融保険業などを除く)を対象に、設備投資額の実績、計画に関するアンケート調査を定期的に実施している。

本調査における設備投資額は、自社の有形固定資産に対する国内投資額であり、原則として建設仮勘定を含む有形固定資産の新規計上額(工事ベース)である。業種別では、原則として主業基準分類(企業の主たる事業に基づき分類)で集計している。なお、分析に際しては、地域特性をより明らかにすべく、投資額の大きい電力を除いて行った。

また本調査は、本社所在地を問わず投資地点で集計している「属地主義」に特徴がある。すなわち、本調査における富山県の設備投資額とは、富山県に本社がある企業(県内企業)と富山県以外に本社がある企業(県外企業)を問わず、富山県へ投資があると回答のあった金額の合計値である。

今回調査(2020年6月実施)は、2019年度実績および2020年度計画などについて、全国5,488社から回答をいただいた(回答率56.9%)。うち本社所在地が富山県の企業は111社、富山県へ投資があると回答のあった企業は189社であった。

以下では、全国と北陸地域(富山県、石川県、福井県)、富山県の順で調査結果を整理し、設備投資動向からみた富山県経済の状況について述べることとしたい。

2 全国と北陸地域の設備投資動向

(1)全国の2020年度計画

全産業(除く電力)は、+0.8%と9年連続の増加となる。地域別では、北陸(▲6.8%)を含む4地域が減少となり、6地域が増加となる。

製造業は、+6.4%と7年連続の増加となる。北陸(▲13.2%)を含む2地域が減少となり、8地域が増加となる。

非製造業(除く電力)は、▲3.0%と9年ぶりの減少に転じる。全国10地域のうち北陸(+15.3%)を含む2地域が増加となり、8地域が減少となる。


ただし、計画の見直しや精査、工期の遅れなどがあるため、上記計画の中には当初計画通り実施されないプロジェクトがあり、計画値は実績に向けて下方修正される「くせ」があることに留意いただきたい。

また、本調査と同時に実施した「企業行動に関する意識調査」(特別アンケート、後述)では、先行きの事業リスクとして、新型コロナや米中通商摩擦などが挙がっており、下押し圧力が長期化する場合には、投資計画がさらに下方修正される怖れがある。


(2)北陸地域の2020年度計画

全産業(除く電力)は、▲6.8%と2年連続の減少となる。

製造業は、▲13.2%と2年連続の減少となる。業種別では、新素材の工場投資がある紙・パルプ(+62.1%)、製薬メーカーの工場投資などによる化学(+4.3%)などが増加するものの、自動車向け部品の大型投資が剥落する輸送用機械(▲79.3%)や非鉄金属(▲64.9%)、前年度に設備更新や工場新設投資があった食品(▲89.8%)などが減少する。

非製造業(除く電力)は、+15.3%と増加に転じる。物流倉庫の竣工や鉄道の計画投資の一巡で運輸(▲8.7%)などが減少するものの、サービス業の一部企業での大型投資の他、商業施設や店舗の新設・更新投資もあり、サービス(+43.0%)、不動産(+40.5%)および卸売・小売(+18.2%)などが増加する。


図表1 全国と北陸地域の設備投資動向(2020年度計画)

3 富山県の設備投資動向

(1)富山県の2019年度実績

全産業(除く電力)は、+14.9%と増加に転じた。

製造業は、+12.2%と増加に転じた。業種別では、能力増強や研究開発投資が一段落した電気機械(▲45.5%)、一部で投資の先送りがみられたその他製造業(▲13.2%)などが減少したものの、自動車部品の大型投資があった輸送用機械(+731.3%)、新製品・製品高度化投資がおこなわれた食品(+706.8%)、自動化機械製品の工場投資が続いた一般機械(+8.7%)などが増加した。

非製造業(除く電力)は、+21.6%と2年連続の増加となった。大規模な交通拠点整備がピークアウトした運輸(▲22.9%)、これに関連した建設(▲20.4%)などが減少したものの、商業施設の大型増床がおこなわれた不動産(+399.9%)、施設の新設があったサービス(+ 17.9%)などが増加した。


(2)富山県の2020年度計画

全産業(除く電力)は、▲6.4%と減少に転じる。

製造業は、▲16.8%と減少に転じる。業種別では、製薬メーカーの原薬工場や研究開発施設の新設がおこなわれる化学(+38.3%)、生産設備更新がみられる金属製品(+41.0%)、プラスチック代替新素材の工場投資がある紙・パルプ(+51.5%)などが増加するものの、前年度の大型投資が剥落する輸送用機械(▲81.0%)や食品(▲90.8%)の他、電子部品関連の投資が減少する電気機械(▲27.4%)などが減少する。

非製造業(除く電力)は、+17.8%と3年連続の増加となる。鉄道やバス関連の投資が減少する運輸(▲10.3%)、店舗投資が一服する卸売・小売(▲23.6%)などが減少するものの、大規模な施設整備がおこなわれるサービス(+85.4%)、放送設備更新がある通信・情報(+17.4%)などが増加する。


2.(1)で述べたように、実績に向けて下方修正される「くせ」や、新型コロナや米中通商摩擦などの不透明感が強いものの、研究開発施設の新設や新素材の工場投資といった、中長期の競争力強化を見据えた投資には底堅さがみられる。


図表2 富山県の設備投資動向(2019年度実績、2020年度計画)

4 富山県の設備投資の特徴


富山県は日本海側有数の工業集積を誇り、富山県の2019年度設備投資実績に占める製造業のウエイトは70.0%と、全国(40.6%)を大きく上回っている。

そこで、2011年度以降の10年間における富山県の設備投資(製造業)の寄与度推移をみると、2014年度に二桁の伸びを示して以降、年度によって顔ぶれに違いはあるものの、化学(含む医薬品)や一般機械、金属製品、非鉄金属、電気機械など、歴史的に富山県で集積が進んだ業種を中心に、好調な需要を背景とする能力増強などの活発な投資が行われ、全体の伸びを牽引してきたと言えよう。2018年度は電気機械の大幅反動減を主因に5年振りの減少となったが、2019年度は輸送用機械や食品の大型投資が寄与し、増加に転じた。


図表3 富山県の設備投資(製造業)の寄与度推移

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5 (特別アンケート)新型コロナの感染拡大による事業への影響


例年、本調査の対象企業のうち、資本金10億円以上の大企業を対象に「企業行動に関する意識調査」(特別アンケート)を実施しているが、今回は、資本金1億円以上の中堅企業も含めて、新型コロナの感染拡大などによる事業への影響についても調査をおこなった。そこで、以下では、調査結果の概要について述べることとしたい。

なお、今回の特別アンケートには、全国3,990社(製造業1,583社、非製造業2,407社)より回答をいただき、うち北陸本社企業は170社(製造業70社、非製造業100社)であった。

(1)設備投資の2019年度実績が計画を下回った理由

北陸地域の設備投資動向のうち、2019年度の実績は、全産業(除く電力)で、前年度比▲8.7%と減少に転じ、前回調査で得られた同計画+10.2%を大きく下回った。要因として、北陸地域の企業では、製造業、非製造業ともにB投資内容の精査や無駄の見直しにより、実績が計画を下回るケースが多かったほか、D工期の遅れも目立つ。また製造業では、@米中通商摩擦による状況悪化も多く、実績での大幅な下方修正に繋がった可能性がある。A新型コロナについては、製造業で約30%、非製造業で25%の北陸地域の企業が自社の投資計画に影響を及ぼしたと回答した。

図表4 2019年度の実績値が当初計画を下回った理由

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(注)3つまでの複数回答、計画を下回ったと回答した企業のみの集計。大企業及び中堅企業


(2)事業におけるリスク

新型コロナを事業のリスクとして挙げる声が圧倒的に多い。そのほか、製造業では、A米中通商摩擦やB原油・資源価格の動向、C為替が、非製造業では、B原油・資源価格の動向、E東京オリパラの延期がリスクとみられている。

北陸地域に本社を置く企業の傾向は、全国と大きな違いはみられないが、製造業ではA米中通商摩擦やB原油・資源価格の動向との回答も多かった。また非製造業では、東京オリパラの延期が影響としたとの回答も多かった。

図表5 先行きの事業リスク

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(3)新型コロナの影響

新型コロナの感染拡大による影響としては、製造業、非製造業ともに@国内需要の減少との回答が最も多かった。またF緊急事態宣言に伴う移動制限が事業の制約になったとの回答のほか、非製造業ではG労働力の制約なども制約となった。

一方、金融面ではB資金繰りの悪化との回答は相応にみられたものの、E金融環境の悪化との回答は限定的で、政府・日銀による対策や各金融機関の対応が有効だったとみられる。

図表6 新型コロナによるマイナスの影響

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(4)事業見直しで必要となる取り組み

新型コロナにより必要となる事業の見直しでは、@新たな製品やサービスの提供、DAI・デジタル化(非接触型など)が多かった。

北陸地域の製造業では、A事業の整理、縮小を除いて、全国よりも多く、前向きなスタンスで事業の見直しを考えている企業が多い。一方、非製造業では、全国よりも各選択肢を選んだ企業の割合が少なく、事業見直しの戦略策定に悩む企業が多い可能性がある。

図表7 事業見直しで必要となる取り組み

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1.本稿で示された意見は筆者のものであり、DBJの公式見解ではありません。

2.本稿で使用したデータは、DBJの地域別設備投資計画調査によるものです。詳細はDBJのホームページ(https://www.dbj.jp/investigate/equip/regional/detail.html)をご参照ください。

3.DBJは、上記調査と同時に、資本金10億円以上の民間企業を対象とした全国設備投資計画調査も行っています。詳細はDBJのホームページ(https://www.dbj.jp/investigate/equip/national/detail.html)をご参照ください。




とやま経済月報
令和2年9月号