特集

空き家対策の現状について

富山県 土木部 建築住宅課

 

1 空き家問題と空家法の制定の経緯

人口減少や既存の住宅・建築物の老朽化等に伴い、居住その他に使用されない「空き家」が全国的に増加しており、今後も増加が続くと懸念されています。

空き家の中には利活用の方向性が定まっていないものも多く、日常的な管理が不十分となっているものもあり、結果として、安全性の低下、公衆衛生の悪化、景観の阻害など多岐にわたる弊害を生じさせ、ひいては地域住民の生活環境に深刻な影響を及ぼしているものもあり、全国的にも問題となっています。

このため、全国の自治体では、独自に空き家条例を制定し、所有者に対する指導等の対応を行ってきましたが、空き家敷地への立入調査や所有者不明の空き家への対処など、条例では対処が難しい課題もありました。このような状況の下、平成26年11月、空家等に関する施策を総合的かつ計画的に推進することを目的とする「空家等対策の推進に関する特別措置法」(以下「空家法」と表記します。)が公布され、平成27年5月から全面施行されました。

空家法では、空き家の管理責任が、第一義的にはその所有者等(管理人、所有者が死亡している場合の相続人等を含む。)にあるとしています。しかし、所有者等が、経済的な事情等から管理責任を全うしない場合は、住民に最も身近で、個別の空き家等の状況を把握できる市町村が空き家対策について主体的な役割を果たし、国及び都道府県はその支援を行うこととされ、連携して総合的な空き家対策を推進しています。

2 本県の空き家の状況

平成30年に総務省が実施した「住宅・土地統計調査」によると、富山県の総住宅数452,600戸のうち空き家は60,000戸(空き家率13.3% 全国平均13.6%)となっています。空き家のうち「賃貸用又は売却用の住宅」及び別荘などの「二次的住宅」を除いた「その他の住宅」に該当する空き家は、32,200戸(空き家数の53.7% 全国平均41.1%)であり、過去10年間で1.38倍、過去20年間では1.85倍に増加しています。


※空き家の「その他の住宅」とは、「賃貸用又は売却用の住宅」及び「二次的住宅」(別荘等)以外の空き家で、転勤、入院、死亡、転出などのために居住世帯が長期にわたって不在の住宅や建て替えなどのために取り壊すことになっている住宅


人口の減少と高齢化が進むなか、今後は、居住世帯数の減少も見込まれ、空き家が増加することが懸念されます。また、一人暮らしの割合(独居率)も高まると推測されており、高齢の一人暮らしの方の賃貸住宅への住み替えや施設入所等により空き家が発生するケースも増えると考えられます。


また、本県は持ち家に住む世帯が多く(持ち家率76.8% 全国平均61.2%)、一戸建てに住む割合も77.1%(全国平均53.6%)と高いことから、空き家も一戸建てが51.8%(31,100戸)を占めており、その増加が続いています。

一戸建ての空き家のうち、いわゆる空き家(賃貸・売却用、二次的住宅ではない「その他の住宅」に該当する家)は27,900戸あり、そのうち約3割(9,100戸)には、住宅の主要な構造部分に何らかの不具合(腐朽又は破損)があるとされており、日常的な管理が不十分な場合は、老朽化が早く進むことが懸念されます。

3 放置空き家がもたらす問題(外部不経済)

空き家は、長期間放置されるなど管理不全の状態が続くと老朽化が急速に進むとともに、家屋の価値も低下し、売却や賃貸等での活用が難しくなります。さらに、強風等による屋根・外壁材等の落下や倒壊が起こりかねない危険な状態となるほか、景観や衛生状態の悪化など周辺地域に悪影響(外部不経済)を及ぼすこともあります。


こうした管理不全の空き家は、改修・修繕、除却等による危険性の除去などの対応を取る必要があるため、市町村では、空家法に基づき、倒壊する恐れがあるなど、そのまま放置することが不適切な状態にある空き家を「特定空家」に認定し、所有者等に対し、除却、修繕、敷地内の立木竹の伐採等の必要な措置をとるよう助言・指導、勧告及び命令することができます。

さらに、所有者等が必要な措置をとらない場合は、いわば最後の手段として、市町村が行政代執行(所有者不明等の場合は略式代執行)により空き家の除却等を行うことができます(県内でも事例あり)。

なお、「特定空家」に認定され、必要な措置をとるよう勧告されると、その空き家に係る敷地は、固定資産税等が軽減される住宅用地特例の対象から除外され、税金が最大6倍高くなります。


市町村では、空き家が「特定空家」の状態にならないよう、所有者等に対する助言・指導を積極的に実施しており、所有者等が除却や修繕など適切な対応をとるケースも多くありますが、所有者や相続人が不明な場合や相続放棄されている場合は、市町村も対応に苦慮しており、問題解決までに相当の時間を要することもあります。

4 空き家の適正な管理と利活用

大切に使っていた家も、使わなくなれば傷みが早く進んでいきます。そのため、適切な管理により放置される空き家を増やさないことや、早めに空き家やその敷地の利活用を進めることが空き家対策にとっての大きな課題です。

(1)相続登記の重要性

相続登記されていない不動産は、売却や賃貸の手続きが難しくなるため、使用されずに、空き家として管理不全の状態が長く続いてしまう理由の一つとなります。このため、相続が発生したときは速やかに手続きを行うことが大事です。また、住んでいるときから家の将来を考え、相続人や相続後の使用方法や管理方法について家族で話し合っておくことや、遺言書を残しておくことで、相続や売却等の手続きがスムーズに進み、放置空き家となるリスクが少なくなります。なお、一定の要件を満たした家屋等を相続した後、3年以内に譲渡した場合には、その譲渡所得から3000万円を特別控除することができます。

(2)空き家の適切な管理

空き家を住宅として利活用する場合、良好な状態を長く維持させることが必要となります。そのため、住んでいるときから計画的にリフォームや修繕を行い、さらに空き家になってからも定期的(月1回以上)な通気や清掃、修繕等の管理が不可欠です。

遠方に住んでいるなど定期的に管理することが難しいときは、不動産業者やシルバー人材センターが行う「空き家管理サービス」を利用し、管理を援助してもらう方法もあります。

一方で、空き家の管理には、維持管理にかかる経済的負担が継続的に必要となるほか、時間の経過とともに近所の苦情、部外者の侵入、火災等の不安など目に見えない精神的負担が増していきます。居住その他の使用の予定がないのであれば、不動産業者に相談し、建物・敷地の売却を図るなど、早めに活用を検討していくことが大切です。


(3)空き家のバンクの活用

適切に管理された空き家は、県内外からの移住・定住者の住まいとして活用することが期待されるため、市町村が運営する空き家バンクに登録しておくのも一つの方法です。空き家バンクは、賃貸・売却を希望する所有者から寄せられた情報を市町村のホームページを通して公開し、移住・定住や住み替えなどで空き家等の利用を希望する方に情報提供するシステムであり、県内の全市町村で運営されています。


(4)専門家・専門業者への相談

空き家に関わる困りごとは、売却・賃貸、管理・リフォーム、解体、登記、相続、家族信託など多岐にわたるため、宅地建物取引業者、司法書士、行政書士などの不動産や法律関係の専門家の援助が不可欠であり、関係団体や企業等では無料相談会や電話相談も行っています。

早めに専門家・専門業者に相談することで、老朽化の進行状況や当面の管理方法、建物の売却・賃貸の可能性、解体後の土地売却など利活用の方向性が見えてきます。

5 総合的な空き家対策の推進

空き家がもたらす問題を減らすためには、放置空き家の発生抑制だけでなく、状態の良い空き家の利活用の促進や老朽化して使用の難しい空き家の除却を促進する取組みを総合的に実施していく必要があります。

(1)市町村の取組み

市町村では、空き家対策計画を策定し、実態把握や所有者の特定などを進めるとともに、放置空き家の発生を抑制・防止するため、所有者に対し適切な管理や除却を促す取組みを進めています。

また、空き家の利活用を促進するため、空き家バンクを運営し、購入や賃借が可能な空き家の情報提供やマッチングを行っているほか、移住者等が空き家をリフォームする費用や取得費用の一部を補助する取組みなどが行われています。このほか、老朽化した住宅の除却経費の一部を助成するなどの取組みも行われています。

なお、国や県では、市町村の取組みに対し、技術的・財政的支援を行っています。

(2)県の取組み

県では、市町村の取組みを援助するため、空き家発生の未然防止に関する啓発セミナー等を通じて、空き家所有者や地域住民の意識を高め、空き家の適切な管理や相続登記の重要性などの普及に努めています。

また、空き家の利活用を促進するため、首都圏等への空き家情報の提供・発信を行っているほか、市町村と連携し、移住者が空き家を改修する費用の一部を補助する制度や、空き家の所有者が移住者向け等の賃貸住宅として活用する取組みを支援する制度を設けています。このほか、県・市町村と不動産関係団体等で構成する「空き家対策官民連絡協議会」を定期的に開催し、空き家対策の進め方等について情報交換を行っています。

6 終わりに

空き家問題は、これからも長く続いていく社会的課題です。現在、国では、施行後5年が経過した空家法の見直しのほか、相続等を登記に反映させるための仕組みの導入など民法や不動産登記法の見直しの検討を進めており、近い将来、所有者の義務や近隣者の権利、所有者不明土地への措置など、空き家やその敷地に関連する法制度や国の施策が変わっていくと考えられます。

こうした法制度の変更にも対応しながら、今後も引き続き、空き家問題に対する意識を高めるとともに、空き家の増加抑制と利活用の促進、放置空き家の発生防止に向け、市町村・県・民間団体が連携し、着実に取組みを進めていきたいと考えています。




とやま経済月報
令和2年6月号