特集

富山県の景気動向について1

日本銀行富山事務所長 小川 万里絵

 

1 はじめに


足許の富山県の景気は、引き続き拡大基調にはあるものの、その速度は一段と緩やかになっています。

個人消費については、夏の天候不順や消費税率引上げ前の駆け込み需要とその反動減等があったものの、雇用・所得環境の着実な改善が続くもと、着実な持ち直しが続いています。一方、生産については、引き続き医薬品を中心とする化学が好調ですが、米中貿易摩擦や海外経済の減速の影響等から、輸出関連の一部業種で生産水準を引下げる先がみられており、弱めの動きとなっています。

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日本銀行富山事務所では、2019年11月公表の「富山県金融経済クォータリー(2019年秋)」2 において、それまでの「富山県の景気は、緩やかに拡大している」という景気判断から、「引き続き拡大基調にはあるものの、その速度は一段と緩やかになっている」とわずかながら下方に判断を変えました。

先行きについては、米中貿易摩擦の行方や海外経済の回復の動向、さらに、半導体市場の回復や次世代通信規格である5G関連需要の動きが注目されます。

2 主要項目の動き


(1)個人消費

富山県の個人消費は、着実に持ち直しています。県内の小売関係の主要6業態について最近の売上高前年比(図表1)をみると、7月は天候不順の影響を受けたものの、8月には持ち直したほか、9月には消費税率引上げ前の駆け込み需要がみられました。

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主要6業態は、百貨店、スーパー、コンビニエンスストア、家電専門店、ドラッグストア、ホームセンター。

業態別にみると、百貨店において高額品に動きがみられたほか、ドラッグストア、家電専門店、ホームセンターでも駆け込み需要がみられました。

10月入り後は駆け込み需要の反動減がみられていますが、軽減税率の適用やキャッシュレスポイント還元等の負担軽減策等の効果もあり、反動減の影響は前回(2014年)の消費税率引上げ時よりも小さいと考えられます。


(図表1)富山県の小売6業態の売上高前年比推移

(出所)経済産業省 商業動態統計



一方、県内新車登録台数の前年比推移(図表2)をみると、9月は乗用車、軽自動車ともに消費税率引上げ前の駆け込み需要がみられましたが、10、11月は反動減により前年を下回りました。なお、乗用車については、新車の投入効果がみられ始めているほか、軽自動車については、11月は前年比マイナス分がかなり縮小しています。


(図表2)富山県の新車登録台数の前年比推移

(出所)富山運輸支局



(2)設備投資

「短観3 (2019年12月調査)」における2019年度の県内企業の設備投資動向(ソフトウェアを除く。以下同じ。図表3)をみると、全産業で前年度並みの計画(▲0.1%)となりました。

製造業では、一部で先行きの海外経済の減速の影響を懸念し設備投資を抑制する動きもみられますが、引き続き幅広い業種で能力増強や省力化のための投資を計画しており、前年度並みの計画(▲0.5%)となっています。また、非製造業では、小売を中心に前年度の大型投資の反動もみられますが、インフラ系の投資もみられていることから、これも前年度並みの計画(+0.2%)となりました。

なお、設備投資額の水準でみると、全体としては、2014年以来の高い水準が続いているといえます(図表4)。


(図表3)富山県の設備投資額の前年度比推移

(出所)日本銀行金沢支店


(図表4)富山県の設備投資額の推移(全産業、2003年度=100)

(出所)日本銀行金沢支店



(3)生産

企業の生産動向(図表5)をみると、8月の夏季休業期間が例年よりもやや長かったことなどから9月の生産が高水準となった先が多くみられ、総合指数は高めの動きとなりましたが、今後については、海外経済減速等の影響から弱めの動きとなるとみられます。なお、引き続き米中貿易摩擦の動向が注目されます。

(図表5)富山県の鉱工業生産指数の推移(季節調整済、2015年=100)

(出所)富山県経営管理部統計調査課


業種別にみると、ウェイトの大きい医薬品が、ジェネリック医薬品の普及率向上の影響から引き続き生産を伸ばしていますが、汎用・生産用・業務用機械は、米中貿易摩擦や海外経済減速の影響から、先行きの生産水準を引下げるとする先がみられます。また、電気機械については、先行きの海外経済の動向のほか、半導体市場の回復の動向や、5G関連需要の動きも注目されます。


(図表6)富山県の汎用・生産用・業務用機械、医薬品、電気機械の生産指数の推移
(季節調整済、2015年=100)

(出所)富山県経営管理部統計調査課

(令和元年11月25日公表時までの数値)


3 その他経済指標の動向


上述の主要項目以外では、住宅投資は、消費税率引上げ前の駆け込み需要が剥落し、横這い圏内の動きとなっているほか、公共投資については月々の振れはみられるものの、増加基調にあります。


(1)労働需給

県内の有効求人倍率(受理地ベース。図表7)は、5月の1.94を直近のピークとして緩やかに低下しつつあるものの、10月においても1.86と高い水準にあり、引き続き全国の水準を上回っています。


(図表7)有効求人倍率(季節調整値)の推移

(出所)富山労働局



(2)企業の業況感

企業の業況感を、短観の業況判断DI(全産業)でみますと(図表8)、2019年12月調査では、▲2と前回調査比5%ポイント悪化し、4期連続の悪化となりました。また、「悪い」超となったのは、2016年9月調査以来、約3年振りでした。

製造業・非製造業の別でみると、製造業については、電気機械が若干持ち直したものの、消費税率引上げの反動減の影響を受けた業種の悪化等により、+4と、前回調査の+6からわずかに悪化しました。一方、非製造業は、建設や不動産で若干悪化したほか、消費税率引上げの反動減や自然災害の影響を受けた卸売・小売業の悪化から、▲7と、前回調査の+2から9%ポイントの悪化となりました。

先行きについては、製造業で引き続き悪化を見込んでいるものの、消費税率引上げの反動減の一段落等により、非製造業が改善する見込みとなっていることから、全体では▲1と、ほぼ横這いの予想となりました。


(図表8)業況判断DI(全産業)の推移

(出所)日本銀行金沢支店



1. 本稿で示された意見等は筆者のものであり、日本銀行の公式見解ではありません。

2. 富山事務所では、四半期毎に県内の景気動向について判断し、「富山県金融経済クォータリー」として公表。「富山県金融経済クォータリー」については、日本銀行富山事務所のホームページ(http://www3.boj.or.jp/toyama/index.html)をご参照下さい。

3.「短観」は、「全国企業短期経済観測調査」の略。四半期毎に全国の企業に対して行っている業況感や事業計画に関する調査。現在、全国では約9700社、北陸3県では340社が調査対象先。




とやま経済月報
令和2年1月号