特集

県民経済計算のあらまし −平成29年度富山県民経済計算の結果から−

統計調査課 経済動態係

 

1 はじめに


「国民経済計算」や「国内総生産(GDP)」については、新聞・テレビの報道などを通じてご存じの方が多いと思います。しかし、「県民経済計算」についてはなじみが薄く、その内容まで思い浮かぶ方は少ないのではないでしょうか。

県民経済計算は、県内経済の規模・構造・水準を捉えるために不可欠な統計であり、本県を含むすべての都道府県が、年度ごとに作成し、公表しています。

そこで本稿では、最初に、県民経済計算のあらましをご説明し、その後、執筆時点で最新の「平成29年度富山県民経済計算」の結果から、本県経済の姿を概観します。

2 県民経済計算のあらまし

(1)統計としての特徴

統計には様々なものがありますが、その中で、県民経済計算は次のような特徴を有しています。

県の経済全体を見るときに、最もふさわしい統計であること。

県民経済計算は、個人、企業、政府等のすべての経済活動を対象としており、県の経済全体について、生産、分配、支出といったフローの面から包括的に表している唯一の統計です。このため、県内総生産、県民所得などのマクロの経済指標は、経済分析等の重要な基礎資料となっています。

また、国民経済計算の体系に基づき、「県民経済計算標準方式(内閣府経済社会総合研究所)」に準拠して各都道府県が作成しているため、国や他の都道府県との間の比較が可能です。

二次統計であること。

統計は、その作られ方によって、一次統計、二次統計に分類されます。

「一次統計」は、調査対象者に調査票を配布して、回答を記入してもらい、それを回収して集計するもので、国勢調査など、ほとんどの統計はこれに該当します。

これに対し、「二次統計」は、一次統計を利用して加工・集計を行うもので、県民経済計算は、国民経済計算、国勢調査、住宅・土地統計調査、工業統計調査、毎月勤労統計調査のほか数多くの統計を加工・集計して作成する「二次統計」です。

目的の異なる各種の統計を県民経済計算としてまとめ上げることによって、それらを単純に比較しただけでは見えてこない経済の全体像が明らかとなります。


(2)「県内総生産」とは

県民経済計算は、生産活動を行った結果、新たに生み出された付加価値を、生産、分配、支出の3つの側面から捉えることに重点を置いて作成されています。

付加価値は、産出額(出荷額や売上高など)から中間投入額(原材料費など)を差し引いたものであり、県内で新たに生み出された付加価値の合計額が、「県内総生産」です。

なお、県内総生産の「総」は、そのなかに固定資本減耗(減価償却に相当する)が含まれていることを示しており、固定資本減耗を差し引いたものは、県内「純」生産と呼ばれます。


(3)関連指標の概念の関係

図1は、関連指標の概念とその関係を表したものです。

図1 関連指標の概念の関係(金額は平成29年度)

※表をクリックすると大きく表示されます


県内総生産(生産側)

県民経済計算では、まず各産業がどれだけ財貨・サービスを産出したか(産出額)を把握し、次に生産に際してどれだけの財貨・サービスを原材料などとして使用したか(中間投入)を把握して、産出額から中間投入を差し引いて、県内総生産を推計します。<図1の1、2>

県民所得(分配)

「県民所得」は、生産活動に参加した経済主体に、付加価値がどのように分配されたかを見たものであり、県民(個人のほか、企業、政府等を含みます。)が所有する生産要素(労働・土地・資本)を提供することで得た所得を意味します。

おおまかにいえば、県内総生産(生産側)から、固定資本減耗と消費税などを差し引き、補助金と県民が県外から得た所得を加えたものが「県民所得」になります。<図1の2、3>

県内総生産(支出側)

家計や企業などの経済主体は分配された付加価値で、財貨・サービスの消費や、生産に必要な投資といった支出を行います。

県内総生産(支出側)は、産出された財貨・サービスが、最終的にどのような形で使用されたのかを見たものです。<図1の4>

3 平成29年度県民経済計算からみた本県経済


以下では、「平成29年度富山県民経済計算」を基に、生産、分配、支出の3つの側面から、本県経済の姿を概観します。

なお、本稿の計数はすべて名目値です。また、現在の県民経済計算の基準により、遡って推計することのできる期間が平成18年度以降であるため、平成18年度以降の計数についてみていきます。

(1)生産側
経済活動別の内訳

平成29年度の県内総生産は4兆5,841億円(前年度比2.4%増)となりました。

経済活動別の内訳でみると、製造業が最も多くの付加価値を生み出しており、平成29年度はリーマン・ショック(平成20年9月)前の水準を上回っています(1兆円4,952億円、平成19年度比2.3%増)。

また、製造業以外では、卸売・小売業、不動産業、保健衛生・社会事業(医療・保健、介護など)が付加価値を生み出す主な産業となっています。<図2>


(注)不動産業の県内総生産が大きいのは、不動産取引の仲介や不動産の管理で生み出される付加価値のほかに、県民経済計算では、持ち家の居住者が不動産業(住宅賃貸業)を営んでいるものとみなして、付加価値を推計しているためです。


図2 経済活動別県内総生産の構成比(平成29年度、名目)

※表をクリックすると大きく表示されます


経済活動別の伸び

経済活動別の伸びを見ると、平成18年度から平成29年にかけて増加したのは、保健衛生・社会事業(18.7%増)、不動産業(11.8%増)、製造業(5.3%増)であり、反対に減少したのは、鉱業(48.3%減)、金融・保険業(22.8%減)、建設業(19.6%減)などとなっています。<図3>

建設業については、北陸新幹線の長野駅−金沢駅間が平成27年3月に開業し、県内の関連工事が大幅に減少したことが影響しています。

また、この期間における本県の総人口の推移をみると、平成18年度の1,110千人が平成29年度に1,056千人と4.9%減少しており、総人口の減少は、県内総生産全体に対して減少する方向に寄与したと考えられます。


図3 県内総生産の経済活動別の推移

※表をクリックすると大きく表示されます


(2)分配側(県民所得)

県民所得は、「県民雇用者報酬」、「財産所得」、「企業所得」の3つで構成されています。したがって、個人の所得水準を表すものではなく、企業の利潤なども含んだ経済全体の所得水準を表しています。

県民所得の動き

平成29年度の県民所得は3.51兆円(前年度比2.8%増)となりました。

内訳についてみると、県民雇用者報酬は、平成29年度が2.25兆円(前年度比1.8%増)となり、県民所得全体が年度ごとに増減した中にあって、8年連続で増加しました。<図4>

一方、企業所得は、平成29年度が1.03兆円(前年度比4.0%増)となりましたが、年度による増減が大きく、県民所得の30%前後を占める企業所得が、全体の増減に大きく影響しています。<図5>

財産所得は、家計、政府等の利子、配当、賃貸料等であり、県民所得の6%前後を占めています。


図4 県民所得金額の推移

※表をクリックすると大きく表示されます


図5 県民所得増減率の推移

※表をクリックすると大きく表示されます


1人当たり県民所得について

「1人当たり県民所得」は県民所得を総人口で割ったものであり、企業等を含む県民全体の経済水準を比較する指標として利用されることがあります。

平成29年度の「1人当たり県民所得」を都道府県別にみると、本県は、東京都、愛知県、栃木県、静岡県、群馬県に次ぐ6番目の大きさ(3,319千円)となっています。

(3)支出側(消費・投資)

県内総生産(支出側)は、最終消費支出(民間・政府)、県内総資本形成といった需要項目別に推計されることから、消費や投資の動向を把握することができます。

需要項目別の構成

県内総生産(支出側)を需要項目別に見ると、「民間消費支出」は、平成29年度が2.51兆円(前年度比1.5%増)となり、すべての年度で構成比が最も高く、全体の55%前後を占めています。

「県内総資本形成」は、平成29年度が1.26兆円(前年度比8.7%増)となり、民間企業の設備投資が増加したことなどにより、平成18年度以降で最も大きくなっています。

「政府最終消費支出」は、平成29年度が0.85兆円(前年度比1.8%増)となり、近年、増加しているのは、高齢化に伴い現物社会給付(社会保障制度の医療保険・介護保険の保険給付分など)が増えていることが背景にあると考えられます。<図6>


図6 県内総生産(支出側)の推移

※表をクリックすると大きく表示されます


需要項目別の増減率

リーマン・ショック後の平成21年度から平成29年度までの県内総生産(支出側)の伸び率(=経済成長率11.1%増)に対する寄与度をみると、県内総資本形成(寄与度6.1ポイント)が全体を押し上げています。他方、県内総資本形成は、景気変動に敏感に反応しやすく、他の需要項目に比べて変動が大きくなっています。<図7>

(注)寄与度とは、ある統計値の構成要素の増減が、全体の伸び率をどの程度押し上げ(押し下げ)ているかを示すものです。寄与度(%)=当該構成項目の増減÷前期の統計値(全体)×100


図7 県内総生産(支出側)の増減率の推移

※表をクリックすると大きく表示されます


(4)県民経済計算の詳細と経済分析の事例

このほか、平成29年度富山県民経済計算の詳しい内容については、ホームページ「とやま統計ワールド」に掲載しています。

また、県民経済計算を利用して経済分析を行った事例としては、とやま経済月報2017年3月号「県民経済計算からみた経済活動の集中度」(富山大学学術研究部社会科学系教授 中村和之 先生のご寄稿)がありますので、あわせてご覧いただければ幸いです。

4 おわりに


人口の減少、人々の働き方や世帯構造の変化、情報通信関連技術の発展など経済社会が大きく変化する中、本県経済の状況等を適切に把握することが一層重要となっています。

県民経済計算は数多くの一次統計を基に作成されており、新型コロナウイルス感染症の影響で、困難な状況が続く中、各種の統計調査にご回答いただいている皆様、調査の実施に日々ご尽力いただいている統計調査員の皆様には、心からお礼申しあげます。




とやま経済月報
令和2年12月号