特集

富山県の景気動向について1

日本銀行富山事務所長 小川 万里絵

 

1 はじめに

足許の富山県の景気は、新型コロナウイルス感染症(以下、「新型コロナ」)拡大の影響などにより、大幅に悪化しています。

個人消費については、富山県における緊急事態宣言に伴う営業自粛等により大幅に悪化した後、足許では下げ止まっているものの、今後持ち直しの動きが継続するかどうかについては、不透明感が強い状況になっています。一方、生産については、これまで緩やかに増加してきた医薬品を中心とする化学が横這い圏内となっているほか、国内外における新型コロナ拡大による経済悪化の影響を受けて、汎用・生産用・業務用機械等が減少しています。こうした状況下、幅広い業種で、企業の業況感は悪化しています。

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日本銀行富山事務所では、2020年7月公表の「富山県金融経済クォータリー(2020年夏)」2において、前回(5月)の「富山県の景気は、悪化している」という景気判断から、「大幅に悪化している」と、2回連続で下方修正しました。

先行きについては、年後半に向けて海外経済の回復とともに、県内経済についても緩やかに回復に向かうと考えられますが、新型コロナの状況悪化に伴う不確実性に留意する必要があります。

2 主要項目の動き

(1)個人消費

富山県の個人消費(6業態計)は、年初には、昨年10月の消費税率引上げの影響による下落を取り戻しつつありましたが、新型コロナ拡大に対応した県下への緊急事態宣言(4月16日〜5月14日)に伴う営業自粛の影響や消費者マインドの後退から、大幅に減少した後、足許では、営業再開に伴い持ち直しの兆しがみられています(図表1)。

業態別にみると、百貨店・スーパーでは、食料品は好調ですが、衣料品等では回復が遅れています。ドラッグストア、家電専門店、ホームセンターは、衛生用品、日用品、白物家電やエアコン等を中心に好調です。

(図表1)富山県の小売6業態の売上高前年比推移

── 20年5月は速報値

(出所)経済産業省 商業動態統計



新車販売についても、緊急事態宣言下での営業活動の制約等から、20年5月は新車登録台数が前年比▲44.3%と大幅に落ち込みましたが、営業活動再開に伴い、6月のマイナス幅は縮小しています(図表2)。

(図表2)富山県の新車登録台数の前年比推移

(出所)富山運輸支局



(2)設備投資

県内企業の設備投資動向をみると、2019年度は、一部先の前年度の大型投資の反動等から、全産業で前年度比減少(▲16.1%)となりました。2020年度の計画についても、引き続き研究開発や省力化投資への意欲は強いものの、大型投資一巡による反動や新型コロナ拡大の影響から、▲5.0%と前年度割れの計画となっています(図表3)。

なお、設備投資額の水準でみると、足許2014年度以来の高い水準が一段落しつつあるといえます(図表4)。

(図表3)富山県の設備投資額の前年度比推移

― 短観3 (2020年6月調査)、ソフトウェアを除くベース

(出所)日本銀行金沢支店


(図表4)富山県の設備投資額の推移(全産業、2003年度=100)

(出所)日本銀行金沢支店



(3)生産

企業の生産動向については、新型コロナ拡大の影響による内外の経済減速等から、鉱工業生産指数(総合)の水準は低下しています(図表5)。

(図表5)富山県の鉱工業生産指数の推移(季節調整済、2015年=100)

(出所)富山県経営管理部統計調査課



業種別にみると、ウェイトの大きい医薬品では、新型コロナ拡大の状況下で通院を控える動きが広がったことなどから、これまでの「緩やかな増加」から「横這い圏内の動き」となっているほか、汎用・生産用・業務用機械は内外経済の減速から生産水準を引き下げています。電気機械も新型コロナ拡大の影響を受けていますが、中国の経済活動再開もあり、夏場には底を打ち、今後5G関連需要やスマートフォン向けを中心に回復することを期待しています(図表6)。

(図表6)富山県の医薬品、汎用・生産用・業務用機械、電気機械の生産指数の推移
(季節調整済、2015年=100)

(出所)富山県経営管理部統計調査課



3 その他経済指標の動向

(1)労働需給

県内の有効求人倍率(受理地ベース)は、新型コロナ拡大の影響を受けて求人数が減少したことから足許急激に低下しており、県内の人手不足感は大幅に後退しています(図表7)。

(図表7)有効求人倍率(季節調整値)の推移

(出所)富山労働局



(2)企業の業況感

企業の業況感を、短観の業況判断DI(全産業)でみますと(図表8)、2020年6月調査では、新型コロナ拡大の影響等により、製造業、非製造業ともに大幅に悪化したことから、前回調査(20/3月)より大幅に悪化し(▲25%ポイント)、▲32となりました。

先行きについては、製造業では横這いながら、非製造業では、小売が巣ごもり消費の一段落と雇用所得環境への懸念から悪化したほか、各種サービスの業況感の不芳から▲50と極めて低い水準となったことから、全産業で▲41と「悪い」超幅が拡大しています。

(図表8)業況判断DI(全産業)の推移

(出所)日本銀行金沢支店




1.本稿で示された意見等は筆者のものであり、日本銀行の公式見解ではありません。

2.富山事務所では、四半期毎に県内の景気動向について判断し、「富山県金融経済クォータリー」として公表。「富山県金融経済クォータリー」については、日本銀行富山事務所のホームページ(https://www3.boj.or.jp/toyama/index.html)をご参照下さい。

3.「短観」は、「全国企業短期経済観測調査」の略。四半期毎に全国の企業に対して行っている業況感や事業計画に関する調査。現在、全国では約9,600社、北陸3県では約340社が調査対象先。




とやま経済月報
令和2年8月号