特集

住宅建築の方向転換

富山地域学研究所 所長 
元富山国際大学客員教授 浜松誠二

 

ゆとりある居住空間の形成

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富山県の持家率は、2018年の調査で77%であった。前回調査(2013年)では、都道府県の中で最も高かったが、今回は秋田県に抜かれたことが話題となっている。

持家率が高い県は、東北から北陸につながる日本海沿岸の諸県に広がっている。


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富山県の持家率が高いのはなぜか。

持家率が高い県の背景として社会移動(転居)が少ないことがあげられるようだ。

ただし、持家率が高いから転居が少ないという逆方向の因果関係もある。

まず、富山県の持家率が高い要因について、筆者の考えを説明する。ただし、他地域の事情とは一致しない面もある。

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人々の居住地を平地、台地・丘陵地、山地に分けてみると、富山県民の80%以上は平地に住んでいる。80%を超えるのは他には新潟県しかない。

持家比率の高い県の居住地は、奈良県を除き60%以上が平地となっている。この平地で人々は古くから、農業を営んできた。これが社会移動率を低くさせた大きな要因であろう。

ただし奈良県は他府県に通勤し、県境を越えて持家を求めている人が多い。

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産業の高次化が進み従事する仕事が農業から次第に離れた。しかし、富山平野では早くから鉄道網が整備され、また、今日では道路網が整備され、ほとんどの県民は生地を離れず、勤めに出ることができた。

ちなみに、人口当たり自動車保有台数が多い県は、北関東や北陸の諸県である。


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今日では農家は少なくなっているが、兼業の比率が極めて高い。特に富山県や福井県では工場の立地もあり、兼業化が進んだ。


就職しても結婚しても、親と同居し、あるいは近隣に住宅を取得し生地に住み続けてきた。この結果、世帯規模の縮小が相対的に遅かったと同時に、高い持家率を維持してきた。

住宅建築の経緯


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次に、富山県での住宅建築のこれまでの推移を見よう。

持家率の高い富山県では、結婚し新たな世帯を形成した際には、早期に持家を取得する傾向が強い。年々の住宅建築戸数は極めて大きく変動してきているが、持家建築のピークは、団塊の世代、団塊ジュニアの世代の結婚期と重なっている。

他方、近年、貸家建築が増えているが、このピークはバブル経済期、団塊ジュニア世代の結婚期、団塊の世代の退職期と重なっている。


こうして、従来からの持家と新たに建築された持家を合わせ、各世帯が家を所有する傾向が続いている。ただし、単身世帯の増加、賃貸住宅の建築もあり、持家率は次第に低下している。

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現在ある住宅の建築時期別構成をみると、年当たりでは団塊ジュニア世代の建築期(1990年代後半)の住宅の構成比が高い。しかし、富山県には1970年以前に建てられた住宅もかなりある。

分散居住

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富山県では、社会移動が少ないことから、住宅は、従来からのものと新たに建てられたものを含めて、富山平野に分散したままとなっている。

年々の耕地面積の変化(減少量)を見ると、そのピークは1970年代の初め、1990年代半ばにあり持家住宅の建築の変化とよく重なっており、団塊の世代、団塊ジュニアの世代が住宅を求める際に、かなり多くの耕地が転用されたことがわかる。

この際、郊外の非線引き都市計画区域(市街化区域・市街化調整区域を設定していない都市計画区域)での小規模な住宅団地がかなり多く形成された。これは宅地の取得が市街化区域に比べかなり安価となり、そして土地利用計画(農業振興計画)の運用がかなり柔軟になされてきたためである。主観的な判断であるが、富山市周辺の衛星写真を見ると、土地利用計画の境界線が判然としない。例えば富山市周辺と福井市周辺を比較して見て欲しい。

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この結果、富山県全体の中で都市地域(人口集中地区(DID))に住む人口の比率は低く、同時に都市地域の人口密度もかなり低いものに留まっている。


現在、富山市ではコンパクトシティの形成を目指しているが、富山県民は富山平野全体に分散して住み続け、まとまった都市を形成してこなかったといえよう。

過剰な広さ


年々建築される持家の戸当たり面積は次第に小さくなっているが、世帯規模が縮小していることもあって一人当たりの住宅の広さは次第に大きくなっている。

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ちなみに国土交通省は、世帯人員毎に最低居住水準面積、誘導居住水準面積を設定しているが、富山県では、誘導居住水準面積以上の世帯の比率が75.1%で、都道府県の中で最も高く、最低居住水準面積未満の世帯の比率は2.9%に留まり、秋田県に次いで低い。

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ところで、北陸と全国のエネルギー消費によるCO2排出量を年間一人当たりで見ると、全国の1.88tに対して、北陸は2.56tで21%多い。北陸の消費量が多い原因は、気候、高い所得水準とともに、家が広いこと、自動車を利用することなどが挙げられよう。

住宅整備の方向転換


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以上のように富山県民は総じてゆとりある居住生活を享受してきたが、都市の非形成やエネルギーの多消費など否定的な側面もある。さらに今後は、人口減少・地球温暖化等の中で、人々は一層都市部にまとまって住むことが求められている。


また、全国でも富山県でも空き家率が次第に高くなってきている。富山県での空き家率は、全国より若干低いが、既に13.6%となっている。



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富山県では人口減少が進んでいるが、単身世帯の増加によって世帯数はかろうじて横這いで推移している。しかし、社会保障人口問題研究所による世帯数の将来推計によれば、富山の総世帯数は、ほぼ現在がピークで、今後減少していくと見られている。

世帯総数減少への転換、世帯規模の縮小、人口の高齢化などにより、住宅への需要は明らかに変化しつつある。一方で、退職金等余剰資金による貸家建設や土地販売への期待など、供給側の独立した事情もあり、結果として、空き家率の上昇が続いている。

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ちなみに、持家のうち中古住宅を取得した者の比率を見ると、全国で14.7%、富山県で10.2%と極めて低い。

いずれにしろ、住宅建築の方向転換が求められているといえよう。

今後は、市街地既存住宅の継続利用を基本とし、新たな住宅の建築を抑制していく必要がある。建築するとしても既存市街地に限定していくことが求められ、適正な県土利用管理が必要である。しかし、このような方向転換を積極的に促す市場メカニズムはない。

景気浮揚の面からは住宅建築増加の要望もあろうが、長期的な観点からはむしろ既存住宅ストックの効果的活用を図る住宅流通産業、リフォーム産業の形成こそ求められる。富山県内には優れた住宅建築企業、多様な建材メーカー等もあり、これらの企業が連携した新たな産業クラスターが形成されていくことが期待される。




とやま経済月報
令和2年4月号