特集

DBJ設備投資計画調査からみた富山県経済の状況
(付論)北陸地域の人手不足の状況と多様な人材の活用に向けて

株式会社日本政策投資銀行 富山事務所長 吉田 守一
富山事務所副調査役 吉田 志穂

 

1 DBJ設備投資計画調査について


株式会社日本政策投資銀行(DBJ)は、わが国民間企業の設備投資動向を把握することを目的として、毎年6月、資本金1億円以上の民間企業(金融保険業等を除く)を対象に、設備投資額の実績、計画に関するアンケート調査を定期的に実施している。

本調査における設備投資額は、自社の有形固定資産に対する国内投資額であり、原則として建設仮勘定を含む有形固定資産の新規計上額(工事ベース)である。業種別では、原則として主業基準分類(企業の主たる事業に基づき分類)で集計している。なお、分析に際しては、地域特性をより明らかにすべく、投資額の大きい電力を除いて行った。

また、本調査は、本社所在地を問わず投資地点で集計している「属地主義」に特徴がある。例えば、本調査における富山県の設備投資額は、富山県に本社がある企業(県内企業)と富山県以外に本社がある企業(県外企業)を問わず、富山県へ投資があると回答のあった金額の合計値である。

今回(2019年6月実施)調査は、2018年度実績、2019年度及び2020年度計画について、全国5,925社から回答をいただいた(回答率60.2%)。うち本社所在地が富山県の企業は124社、富山県へ投資があると回答のあった企業は215社であった。

以下では、全国と北陸地域(富山県、石川県、福井県)、富山県の順で調査結果を整理し、設備投資動向からみた富山県経済の状況について述べることとしたい。

2 全国と北陸地域の設備投資動向


図表1 全国と北陸地域の設備投資動向(2019年度計画)
(1)全国の2019年度計画

全産業(除く電力)は、前年度比+11.4%と8年連続の増加となる。地域別では、北陸(+10.2%)を含む全国10地域すべてが増加となる。

製造業は、+13.5%と6年連続の増加となる。北陸(+11.1%)を含む全国10地域すべてが増加となる。

非製造業(除く電力)は、+10.2%と8年連続の増加となる。全国10地域のうち北陸(+6.9%)を含む8地域が増加となり、2地域が減少となる。


ただし、計画の見直しや精査、工期の遅れ等があるため、上記計画の中には当初計画通り実施されないプロジェクトがあり、計画値は実績に向けて下方修正される「くせ」があることに留意いただきたい。

また、資本金10億円以上の民間企業を対象に、本調査と同時に実施した「企業行動に関する意識調査」によれば、資源価格や為替の動向に加え、製造業では米中通商摩擦が先行きの下振れリスクとみられている。

(2)北陸地域の2019年度計画

全産業(除く電力)は、前年度比+10.2%と2年連続の増加となる。

製造業は、+11.1%と2年連続の増加となる。業種別では、大型の工場投資が一巡した電気機械(▲27.3%)、等が減少するものの、自動車・半導体向け基幹部品等の需要拡大に対応する投資がある化学(+54.6%)、旺盛な生産効率化需要を受けた省力化機器の増産が引き続き活発な一般機械(+41.6%)、自動車関連の生産能力増強投資がある輸送用機械(+406.1%)や非鉄金属(+95.0%)、等が増加する。

非製造業(除く電力)は、+6.9%と2年連続の増加となる。大規模な交通拠点の整備が一段落した運輸(▲26.1%)のみが減少するものの、主要な設備更新と放送サービス高度化に伴う投資がある通信・情報(+48.4%)、商業関連施設の改装や出店等がある卸売・小売(+39.9%)や不動産(+19.6%)、等が増加する。

3 富山県の設備投資動向


図表2 富山県の設備投資動向(2018年度実績、2019年度計画、2020年度計画)
(1)富山県の2018年度実績

全産業(除く電力)は、前年度比▲31.9%と減少に転じた。

製造業は、▲42.8%と5年ぶりの減少に転じた。業種別では、生産効率化ニーズを受けた自動化機械製品の工場投資があった一般機械(+11.2%)、等が増加するものの、スマートフォン向け高機能電子部品工場投資が一段落した電気機械(▲69.0%)、医薬品やその他の化学品での大型投資が一巡した化学(▲49.0%)、主力製品の能力増強投資が終わった食品(▲74.5%)や紙・パルプ(▲45.8%)、等が減少した。

非製造業(除く電力)は、+33.4%と3年ぶりの増加に転じた。施設の新設がみられたサービス(+120.4%)、大規模な交通拠点の整備があった運輸(+20.1%)、等が増加した。

(2)富山県の2019年度計画

全産業(除く電力)は、前年度比+35.9%と増加に転じる。

製造業は、+34.0%と増加に転じる。能力増強や研究開発投資が一段落する電気機械(▲14.5%)、等が減少するものの、自動車部品の能力増強投資がみられる輸送用機械(+769.7%)、新製品・製品高度化投資が行われる食品(+615.9%)、生産効率化ニーズを受けた自動化機械製品の工場投資が続く一般機械(+29.5%)、工場建替や省力化投資があるその他製造業(+23.4%)、能力増強投資がある金属製品(+89.7%)、等が増加する。

非製造業(除く電力)は、+40.8%と2年連続の増加となる。商業施設の大型増床がみられる不動産(+499.3%)、スーパーの新店投資がある卸売・小売(+100.0%)、放送サービス高度化に伴う投資が行われる通信・情報(+50.6%)、建設(+128.0%)、等が増加する。


2.(1)で述べたように、実績に向けて下方修正される「くせ」や米中通商摩擦等の不透明感はあるものの、自動車関連を中心とした能力増強や、生産効率化ニーズを受けた投資等が投資の下支えになるとみている。

4 富山県の設備投資の特徴

図表3 富山県の設備投資(製造業)の寄与度推移

富山県は日本海側有数の工業集積を誇り、富山県の2018年度設備投資実績に占める製造業のウエイトは71.8%と、全国(37.9%)を大きく上回っている。

そこで、2010年度以降の10年間における富山県の設備投資(製造業)の寄与度推移をみると、2014年度に二桁の伸びを示して以降、年度によって顔ぶれに違いはあるものの、化学(含む医薬品)や一般機械、金属製品、非鉄金属、電気機械等、歴史的に富山県で集積が進んだ業種を中心に、好調な需要を背景とする能力増強等の活発な投資が行われ、全体の伸びを牽引してきたと言えよう。2018年度は電気機械の大幅反動減を主因に5年ぶりの減少に転じたが、足許でも投資額は高い水準を維持しているとみられる。

5 (付論)北陸地域の人手不足の状況と多様な人材の活用に向けて


富山県経済を考えるうえで、DBJ北陸支店が2019年6月に発表したレポート「北陸地域の人手不足の状況と多様な人材の活用に向けて」(注4.参照)が一つの参考となろう。付論として以下に要旨を記す。

(1)北陸地域の人手不足の状況と職業構成の特徴

北陸地域(富山県、石川県、福井県)の有効求人倍率は、2.0倍(2018年平均)と全国で最も高い。職業別では、「サービス職」「販売職」「専門・技術職」「生産工程職」の順に人手不足感が強く、企業はさまざまな対応を迫られている。

特に、労働生産性と「専門・技術職」の割合には相関関係がみられることから、単に人手不足を補うという発想ではなく、生産性向上のために新たな価値を生み出す「専門・技術職」の育成・獲得にも意識的に取り組むことが必要である。

(2)北陸地域における労働力人口の動向

北陸地域の労働力人口は、2015年から2045年までに約39万人減少する(DBJ試算)。

また、北陸地域の労働余力(就職希望の無業者の潜在的労働力人口に占める割合)は、全国に比べて低く、当地ではすでに労働参加が進んでいるとみられる。

人口減少に加えて、労働供給の余力も少ない中で、今後は限られた人手で生産性を上げていく体制づくりがますます求められよう。

(3)北陸地域の働き手の特色

北陸地域は、女性・シニア・高卒生・外国人等の労働参加が進んでおり、多様な働き手を有していると言える。特に、全国に比べて女性とシニアの労働力率が高い。

しかし、いずれも職業は「生産工程職」に偏りがちである。「専門・技術職」の人手不足感が強い現状や、今後の生産性向上への寄与という点を踏まえると、単純作業をなるべく減らすことで、より創造性の高い業務へ登用させる等、職業の幅を拡げる視点も大切になってきている。

(4)地域における取り組み(事例紹介)

地域企業による人材確保と生産性向上への取り組みをヒアリングしたところ、生産性向上の仕組みをつくる、専門スキルを有するといった「新たな価値を生み出す人材」が共通して不足している状況下、以下のような取り組みのポイントがうかがえた。

(主なポイント)
  • 「人材の新規獲得・流出防止」:働きやすい環境整備、きめ細かい評価制度の整備等により、働き手のモチベーション向上を図る
  • 「人材の育成・登用」:スキル人材やクリエイティブ人材の育成、多能工の体制づくり等の取り組みを通じて、UIJターンや新卒の採用活動にも繋がることが期待される
  • 「効果的な省力化投資」:働きやすさや負担軽減の投資効果を人材確保に活かす、効率化の取り組みを働き手の評価やスキル向上目標に位置付けることで人材育成に活かす
(5)「新たな価値を生みだす人材」の育成による生産性向上に向けて

労働力人口が減少する中で、女性をはじめ多様な働き手を有していることは当地の潜在的な強みである。不足する人手の確保にとどまらず、自社の既存の働き手も含めて「新たな価値を生み出す人材」の育成に向けた企業努力が、生産性向上、ひいては企業の成長に繋がるであろう。




1.本稿で示された意見等は筆者のものであり、DBJの公式見解ではありません。

2.本稿で使用したデータは、DBJの地域別設備投資計画調査によるものです。詳細はDBJのホームページ(https://www.dbj.jp/investigate/equip/regional/detail.html)をご参照ください。

3.DBJは、上記調査と同時に、資本金10億円以上の民間企業を対象とした全国設備投資計画調査も行っています。詳細はDBJのホームページ(https://www.dbj.jp/investigate/equip/national/detail.html)をご参照ください。

4.レポート『北陸地域の人手不足の状況と多様な人材の活用に向けて−「新たな価値を生み出す人材」の育成による生産性向上へ−』の詳細はDBJのホームページ(https://www.dbj.jp/ja/topics/region/area/files/0000034198_file2.pdf)をご参照ください。




とやま経済月報
令和元年9月号