特集

北陸地域(富山)におけるインバウンド客の意向調査
〜DBJ・JTBF アジア・欧米豪 訪日外国人旅行者の意向調査
(2018年度版)より〜

株式会社日本政策投資銀行 富山事務所長 石倉 慎也
富山事務所副調査役 吉田 志穂

 

1 DBJ・JTBF アジア・欧米豪 訪日外国人旅行者の意向調査について


株式会社日本政策投資銀行(DBJ)は、2012年より継続的に「アジア8地域・訪日外国人旅行者の意向調査」を公表しており、2015年からは公益財団法人日本交通公社(JTBF)と共同で調査を実施している。直近の2018年の調査においては、2017年に引き続きアジア・欧米豪12地域の海外旅行経験者を対象としたインターネットによるアンケート調査を実施し、日本への訪問経験、認知度、訪問意欲などを尋ねた(注2)。

本稿は、上のアンケート調査において、日本を訪れたことがあると回答した外国人のうち「北陸」「金沢」「富山」「立山/黒部」「福井」を訪問したことがあると回答した人のデータを「北陸地域」のデータとして抜き出し、分析したものである(注3)。

以下では、北陸地域(富山)の訪問経験者の意向調査について紹介させていただき、北陸地域(富山)における訪日外国人(以下、「インバウンド客」)の意向をみていきたい。

2 調査の概要


本調査は中国(北京/上海在住者のみ。割合は北京50%/上海50%)、台湾、香港、韓国、タイ、インドネシア、マレーシア、シンガポール、イギリス、アメリカ、フランス、オーストラリアの12地域を調査地域とし、20〜59歳の男女、かつ、海外旅行経験者の6,283人(うち富山への訪問経験者は104人)から回答をいただいた。


図表1 回答者属性
図

(注) 本調査では、北陸地域に含まれる地域として、「北陸」「金沢」「富山」「立山/黒部」「福井」の5つの地域名称が設問の選択肢として使用されている。ここではこの5地域のうち1地域以上を訪問したことがあると回答した回答者を「北陸地域」訪問経験者として集計している。

3 訪問経験


アンケートの回答者のうち、実際に日本を訪れたことがあるインバウンド客は45%であった。このうち、「富山」を訪れた人は4%である。地域別にそれぞれの訪問経験をみると、中国が8%、次いで香港、インドネシア6%となっている。他の観光地と比べると全般的に低くなっている。


図表2 訪日経験の有無
図表3 訪日経験有りと回答した人のうち、訪問したことのある国内観光地(複数回答)

4 認知度


認知度について聞いたところ、日本を訪問したことがある/なしにかかわらず「富山」は10%となっており、他の観光地と比べて相対的に低い。また、「立山/黒部」の認知度を地域別にみると、台湾で45%、香港で31%と相対的に高く、一方で、韓国、タイ、インドネシア、欧米豪における認知度は5%に満たず相対的に低い。


北陸新幹線の認知度について聞いたところ、「知っている」または「聞いた気がする」との回答者は前回調査からほとんど変化はなく、両者併せて55%と、回答者の半数を超えた。「北陸地域」訪問希望者/訪問経験者に限ると、それぞれ約8割が「知っている」「聞いた気がする」と回答している。


図表4 国内観光地の認知度(複数回答)

図表5 北陸新幹線の認知度

5 訪問意欲


訪問意欲について聞いてみると、「富山」への訪問を希望しているインバウンド客は3%と、他の観光地と比べ低くなっている。地域別にみると、中国8%、台湾7%となっている。台湾においては「立山/黒部」の訪問意欲が23%と相対的に高い。


図表6 国内観光地の訪問意欲(複数回答)

6 旅行形態・国内移動手段


「富山」訪問経験者の旅行形態を聞いてみると、「航空券とホテルの個別手配」と回答した人が38%と、最も人気である。「立山/黒部」においても同様に回答した人が48%と高く、旅慣れた人が訪れている、と推察できる。

国内移動に際して利用した交通手段は、「鉄道(新幹線除く)」が68%、「新幹線」が67%となっている。富山を訪れるインバウンド客に、新幹線を含む鉄道が、国内移動手段として浸透していることが窺える。


図表7 旅行形態(直近の訪日旅行について回答)

図表8 国内移動手段(複数回答)

※図をクリックすると大きく表示されます

7 北陸地域観光への期待:全般


それぞれの観光地について訪問意欲があると回答した人に、何を期待して訪日旅行をするのか聞いてみた。「北陸地域」へ訪問意欲がある人が期待していることは、「自然/風景」「自然ツアー」などの景観や、「日本料理」「ご当地グルメ」「スイーツ」といった食事、「温泉」「日本庭園」といった日本文化資源が上位を占めた。いずれも北陸地域が得意とするコンテンツばかりである。

北陸地域の上位に挙がった項目は、他の観光地の期待する項目としても挙げられており、他地域との一層の差別化が望まれる。


図表9 各地の旅行希望者が訪日旅行で期待すること上位10項目(複数回答)

(注) 「北陸地域」の8位と9位は同数

8 北陸地域観光への期待:宿泊施設


「北陸地域」訪問希望者の宿泊地決定の際に重視することは、「主要観光地への交通アクセス」や「通信環境」といったハード面が高い。希望する宿泊施設の形態は、「日本旅館」が最も高いが、全国と比較すると「高級ホテル」への希望も高い。

民泊については、「現地の人の暮らし体験」や「日常的な感覚での滞在」を魅力と感じ、「セキュリティ」や「言語対応」を不安に感じている。「安さ」についての期待値は全国に比べると高くない。


図表10 「北陸地域」訪問希望者:宿泊地決定の際に重視すること(複数回答)

図表11 「北陸地域」訪問希望者:希望する宿泊地施設(複数回答)

図表12 「北陸地域」訪問希望者:民泊の魅力と不安(複数回答)

9 北陸地域観光の満足


実際に北陸地域を訪問したインバウンド客に、訪日旅行における満足点を聞いた。

満足した項目として、「日本料理」「温泉」「自然/風景」といった北陸地域が得意とするコンテンツが並んだ。全国と比べると、「桜観賞」「雪景色」「紅葉」など四季折々の具体的な景観が挙がっている。

さらに、文化体験にかかる満足度について、「北陸地域」訪問経験者と訪日経験者全体の回答比較を行うと、総じて「北陸地域」訪問経験者の満足度は高い。特に、「伝統工芸品の見学・体験・制作」や、「イベント・祭の見物」で全国との差が大きい。


図表13 「北陸地域」訪問経験者:訪日旅行における満足(複数回答)

図表14 「北陸地域」訪問経験者:文化体験の満足

10 おわりに


(1)自然災害への対応

2018年度においては、西日本豪雨や台風21号、北海道胆振東部地震など全国では大規模な自然災害が発生した。北陸地域においても、最近では2018年2月に、豪雪による交通インフラが混乱したことは記憶に新しい。

自然災害の多い日本であっても、安心して来てもらい、北陸の観光コンテンツを心置きなく楽しんでもらうために、インバウンド観光を視野に入れた防災環境のより一層の整備・情報発信が当地においても望まれる。


(2)立山黒部の世界ブランド化

立山黒部アルペンルートは、台湾や香港などアジアを中心にインバウンド客が年々増加しており、インバウンド客にとっても屈指の観光地となっている。

富山県では、立山黒部の世界ブランド化に向けた取組をすすめており、その一環で、2024年から立山黒部アルペンルートと黒部峡谷が周遊可能になることが2018年10月に発表された。立山黒部のインバウンド客へ向けた発信はこれまで一部のアジアを中心としてきたが、こうした取組を契機に、今後は欧米豪へ向けた発信も強化していくことで、認知度や訪問意欲が相対的に低い国々からのインバウンド客層の広がりや増加を期待したい。


図表15 立山黒部アルペンルート 利用者数

(出所) 立山黒部貫光(株)「営業概況」より作成


図表16 立山黒部アルペンルート インバウンド客国別割合(2018年)

(出所) 立山黒部貫光(株)「営業概況」より作成


図17 黒部ルート位置図



1.本稿で示された意見等は筆者のものであり、日本政策投資銀行の公式見解ではありません。

2.本稿は、日本政策投資銀行の訪日外国人旅行者の意向調査によるものです。出所の記載がない図表は本調査によるものです。詳細は日本政策投資銀行のホームページ(https://www.dbj.jp/ja/topics/region/industry/files/0000032122_file2.pdf)をご参照ください。

3.北陸地域におけるインバウンド客の意向調査詳細は日本政策投資銀行のホームページ(https://www.dbj.jp/ja/topics/region/area/files/0000033227_file2.pdf)をご参照ください。




とやま経済月報
平成31年3月号