特集

家計消費によるCO2の排出
―削減できるのか?―

富山地域学研究所 所長 浜松誠二

 


昨年の猛暑、今年の暖冬は、地球温暖化が一層進んでいる証ではないかと懸念される。環境省は、本年3月「家庭部門のCO2排出実態統計調査」の結果を発表した。

本稿では、この調査を含め、地球温暖化の状況、家庭での温暖化ガス排出の実態、対応の考え方などについて筆者なりの検討を紹介したい。

1 気温上昇

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まず、地球の平均気温の推移を見ておく。

20世紀後半に30年程度の横這いの時期があったが、その後上昇を始めた。2000ゼロ年代に一服した様相もあったが、2010年代に再び大きく上昇している。1980年からの約40年で0.6℃程度の上昇となろう。

なお1980年代末の干ばつに際し、1988年のアメリカ議会で温暖化の証言があり、世界に地球温暖化に関する注意が促がされている。その後、1992年にリオ・デ・ジャネイロで開催された環境と開発に関する国際連合会議でリオ宣言が合意されている。この結果、温暖化ガス排出削減目標の基準年として1990年が用いられるようになった。

富山市の気温の変化も概ね世界の変化と重なっている。温暖化開始以前の基準をどこに置くか迷うが、現在までに1℃以上上昇しているようにも見られる。

2 自然災害の発生

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気象変動による自然災害の変化として、国際災害情報センターに報告された自然災害の件数の推移を見ると、20世紀末に著しい増加を見せたが、21世紀に入って横這いないしは若干減少気味の推移を見せている。温暖化が進む中で、このような変化を見せているのは、各国で自然災害への対応がそれなりに進んできたということであろうか。残念ながら筆者の不勉強で実態を十分に把握していない。

次に、富山県の災害について見たい。

自然災害の発生は年によって変動が大きく、その多寡の地域間比較は容易ではない。しかし、人口当たり被災者数や世帯当たり被災住宅数などは、都道府県の中で富山県はかなり少ない。ただし、人口当たり被災総額では中程の位置となる。これは、公的基盤施設などの被害額も含まれ、人口とは別に県土の広がりが関連しているためであろう。

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自然災害発生の富山県での長期的経緯を見ると、1980年代の前半までかなりの発生があった。その後20世紀中は治まっていたが、21世紀に入って再び発生しているようだ。特に、浸水被害の頻度が増しているように見られる。

これは気象変動による異常気象の影響もあろうが、農地の宅地化により降雨の流出係数(雨が集まって流れ出す程度)が上がり、中小河川が氾濫し、家屋の浸水に見舞われているようである。

ここでは詳しく述べないが、富山県では、都市計画・農業振興計画をかなり柔軟に運用し、耕地の転用・宅地造成を積極的に図ってきている。

地球温暖化がどのように進み、多様な災害がどのように起こるかについては、不確かなことが多い。しかし、南極大陸や北極海の氷が融けつつある。約6000年前の縄文時代に温暖な時期があって、気温が現在より2℃程度高く、海面は2.5m上がっていたそうである。今後炭酸ガスの排出を十分に削減することができず、2℃をかなり超えて気温が上がる可能性は高そうだ。このため、海面の上昇もかなりのものとなり、海岸線の堤防では海進を防ぐことができず、かなりの陸地が海面となることもあり得よう。

3 温暖化ガス(CO2)排出の推移

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次に温暖化ガス(CO2)排出量の推移を見る。世界全体では、急速に増加しており、2014年では約360億tに達している。

各国の排出量について、まず中国が21世紀に入って一層急速に増大させ、ゼロ年代半ばにはアメリカを抜き、現在では100億tを超えている。

インドの増加も著しく、現在はアメリカに次ぎ、漸増気味のロシアを上回る位置にある。

先進諸国については、アメリカはようやく削減に転じており、日本は横這いで方向が明確でない。

国際的な統計のデータベースはいろいろあり、整理した統計を容易に入手することができる。

例えば世界銀行の統計データベースでは、次のサイトにある表上で、統計系列、国、年を選択してデータをダウンロードすることができる。

https://databank.worldbank.org/data/reports.aspx?source=world-development-indicators


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一人当たりCO2排出量については、多くの先進国では横ばいないしは漸減となっているが、発展途上国では増勢が続いている。

アメリカ、オーストラリア、カナダといった自動車大国では、排出量が多いが、ようやく削減が始まっている。

サウジアラビアを含め、幾つかの産油国では、極めて排出量が多くなっている。

4 生活による温暖化ガスの排出

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次に家庭生活(家計消費支出)がどの程度の温暖化ガスを排出しているか見てみよう。環境省の「家庭部門のCO2排出実態統計調査」は、地方ごとの世帯での直接的なエネルギー消費(生産過程での消費を含まない)によるCO2の年間排出量を計算している。

これを世帯人員1人当たりに換算すると、北陸(新潟・富山・石川・福井)の年間排出量は、2.6tで、北海道に次いで多く、全国の1.9tに比して36%大きくなっている。

地方ごとの消費量は、暖房で大きな差がでており、気候条件から北海道、東北、北陸と順に多い。また、給湯もほぼこれに沿った並びとなっている。

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自動車燃料でも差がでており、大都市地域を含む関東甲信、近畿では少なく、その他の地方で多くなっている。

冷暖房や給湯によるエネルギー消費は、それぞれの地域の気温に関連することは、十分に予想される。

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世帯の光熱費(電気代・ガス代・その他の光熱費の合計)は、全国の都道府県庁所在都市の中で富山市、金沢市、福井市がいずれも大きい位置にある。この3都市を上回っているのは、札幌市、新潟市、東北地方の都市であり、光熱費は寒冷な地域で大きくなっていることが分かる。


日本政府の統計はウェブサイト「統計の総合窓口」から入手できる。

次第に内容が充実してきており、例えば家計調査については、次のサイトにある表上で、用途、世帯、地区、年を選択して支出額の一覧表を作成し、ダウンロードすることができる。

https://www.e-stat.go.jp/dbview?sid=0002070003


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自動車用燃料としてのエネルギー消費は、当然ではあるが、乗用車所有数に関連している。

自動車保有台数(自家用乗用車、人口千人当たり、2018年3月)は、全国の486台に対して、富山県は、673台と極めて多い。

富山市、金沢市の自動車等維持費は、都道府県庁所在都市の中で特に大きい位置にある。

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次に、家計で消費する財・サービスについて、生産過程も含めたエネルギー消費量(間接的消費も含めた全消費量)として、一人当たり年間CO2排出量を都道府県毎に試算してみる。

国立環境研究所の資料「家計が購入する商品・サービスの生産・消費に伴うCO2排出について(2008年)」には、消費支出項目毎に金額当たりのCO2排出量が計算されている。これを家計調査(都道府県庁所在都市)の費目別消費支出額と掛け合わせ、合計すれば、排出CO2量の合計が求められる。ただし、国立環境研究所と家計調査の費目の区分が一致していないので、類似項目を適宜合わせて計算することになる。

結果は、上述の環境省の調査と同様であるが、この試算では都道府県に細分した違いが判る。また、財サービスの生産に伴う排出(間接的排出)についても情報が得られる。ちなみに間接的排出については、東京を中心とした1都3県の都市で特に高くなっているが、この地域では自動車関係以外の交通費の支出が多い。

試算に使った基礎データがかなり古く、現在とエネルギー価格などが異なっているため、上図は都道府県間の相対的大小を検討するものと捉えておく必要がある。また、二人以上勤労者世帯で消費支出額が全世帯平均より大きくなっていることにも留意が必要である。

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家計支出総額を全国平均値とし、前述の国立環境研究所の統計を換算すれば、現在の家計の個別消費項目毎のCO2排出総量を推計することができる。

その消費によりCO2を直接的に排出する電力、ガソリン、都市ガス等の燃料で多くなるのは当然である。

間接的な排出に関し、支出額は必ずしも大きくないが、支出額当たり排出量の大きいのは、ガソリン等の燃料を使う運輸関連消費である。また、下水道の処理でも大きい。

運輸のうち航空に関しては、個人によって支出額に大きな差があろう。ちなみに、東京ニューヨーク往復で2t弱のCO2の排出となると言われるが、これは、世界全体の個人の平均年間排出量の1/2程度にもなる。航空利用者は、このことを十分に自覚する必要があろう。

5 温暖化ガス排出の抑制

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温暖化ガスの排出がどの程度抑制されれば、地球温暖化がどの程度抑制されるかははっきりしない。しかし、このままの排出を続けていれば地球生命の大量絶滅が起こる可能性も言及され始めている。ちなみに地球生命の大量絶滅はこれまでペルム紀末や白亜紀末など5回あったとされ、今度は6回目となる。

このため、人類が協調して温暖化ガス排出の削減をしなければならないことは明らかだ。仮に各自の置かれた立場を離れ、全人類あるいは全生命の立場に立って、どのように削減すべきか考えるとどうなるか。

I.カントの「定言命法」を基礎に展開したJ.ロールズの『正義論』にある無知のヴェールの後(自分が何者か分からない状況)で判断すれば、まず、約70億人それぞれ同量の排出権が想定されよう。現在の排出量で言えば、CO2で4.6t/年である。これは現在の日本の水準の約1/2に相当する。ちなみにこの想定に賛成し個人的排出権取引も許容しなければ、各人の消費は一定量に制限され、より多くの所得を得ることは無意味になる。

さらにこれまで大量に排出してきた先進国の責任に鑑み、削減量に格差を付けることも考えられよう。仮にこれを1/2とすると、日本では1/4までに削減しなければならない。また、総排出量を大幅に縮小することも必要である。例えば1/2までに縮小することとすれば、日本では1/8までに削減しなければならない。


誰かが勝手に地球上の酸素を炭酸ガスに変えるというのは、その酸素の所有権を前提にしていることであって、所有権の根拠は、J.ロックの「労働所有権論」に求められる。しかし、J.ロックの所有権には「十分性の制約」と「浪費の制約」が課されている。そして、地球温暖化が進んでいる今日、この根拠は崩壊している。敷衍(ふえん)して言えば、産業革命の根拠となった思想は成立せず、資本主義市場経済の再考が迫られている。

我々人類は、直面する実態に、素直に対応していく知恵を持ち合わせていないのではと、懸念される。




とやま経済月報
令和元年6月号