特集

富山県の景気動向について1

日本銀行富山事務所長 工藤 治

 

1 はじめに


新年あけましておめでとうございます。

2018年の富山県の景気は、拡大を続けました。国内外経済の緩やかな拡大に伴い、県内企業では生産・売上げが増加したほか、人手不足や原材料費等のコストアップが進む中、能力増強や生産性向上に向けた設備投資や業務の見直しにも積極的に取り組んでいます。また、雇用および所得環境の改善を映じ、家計部門では個人消費の持ち直しの動きがみられており、所得から支出への前向きな循環メカニズムが働いています。

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日本銀行富山事務所では、2018年2月公表の「富山県金融経済クォータリー(2018年冬)」2において、「富山県の景気は、拡大している」と景気判断を引上げ、それ以降、同様の判断を継続しています。

もっとも、米中の貿易摩擦を巡る動きや原材料高騰のコストアップの影響から、景気が下押しされるリスクは増していますので、注視が必要です。

2 主要項目の動き


(1)個人消費

富山県の個人消費は、着実に持ち直しています。県内の小売関係の主要6業態について、最近の売上高前年比(図表1)をみると、月々の振れはあるものの、前年を2%程度上回る状態で推移し、持ち直しの動きが続いています。

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主要6業態は、百貨店、スーパー、コンビニエンスストア、家電専門店、ドラッグストア、ホームセンター。

図表1をみると、ドラッグストアの伸びが目立っており、個人消費全体を牽引する形となっています。ドラッグストアの積極的な店舗の新設、医薬品以外の日常品や食料品販売への注力が売上高を伸ばしていると考えます。

また、百貨店・スーパーの売上高は、衣料品の不振が続くものの、食料品が中食3需要の高まりもあって堅調に推移しているほか、高額品にも動きがみられる等、着実に持ち直しています。

家電販売についても、2018年前半は大型店の改修等の要因から前年を下回っていましたが、白物家電、テレビを中心に持ち直している状態です。

なお、百貨店・スーパー等販売額は天候に左右されることから、この冬の暖冬が冬物衣料品等季節商品の売上げを下押ししないか注視が必要です。

(図表1)小売6業態の売上高前年比推移

── 18年10月は速報値

図
(出所)経済産業省 商業動態統計


この間、県内新車登録台数の推移(図表2)をみると、2018年夏以降は概ね前年を上回る伸びとなっています。軽自動車の高付加価値化(サポートシステムの搭載等)に伴う人気の高まりが全体を下支えしているほか、自動車業界を巡る不祥事件の影響が剥落し、着実に持ち直しているとみています。

(図表2)新車登録台数の前年比推移
図
(出所)国土交通省 北陸信越運輸局


(2)設備投資

「短観4」(2018年12月調査)における県内企業の2018年の設備投資動向をみると、大型投資の一巡もあって、前年度を1割強下回る計画(全産業、前年度比▲14.9%)となっていますが、引続き高水準の投資計画が続いています(図表3、図表4)。

県内企業では、国内外の旺盛な需要の下、工場増設や新規出店等の能力増強投資がみられているほか、人手不足に伴う省人化投資もみられ、2014年度以降積極的な設備投資スタンスが続いています。

(図表3)富山県の設備投資額の前年度比推移
図
(出所)日本銀行金沢支店

(図表4)富山県の設備投資額の推移(全産業、2003年度=100)
図
(出所)日本銀行金沢支店


(3)生産

企業の生産動向をみると、国内外経済の緩やかな拡大に伴う需要の増加を映じ、振れを伴いつつも緩やかに増加しています。

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2017年度後半以降は、工場新設等による県外への生産移管や人員不足や部品供給制約等による生産水準の引き上げ困難化といった動きがあったものの、今年度入り後は生産水準の引き上げがみられています。
(図表5)富山県の鉱工業生産指数の推移(季節調整済、2010年=100)
図
(出所)富山県統計調査課


当地でウエイトの大きい医薬品、はん用・生産用・業務用機械が、ジェネリック医薬品の普及、国内外の設備投資需要の高まりから、緩やかに生産を伸ばしています。また、電気機械についてもスマートフォンの販売の伸び悩み等はあるものの、IoT化の進展、好調な自動車関連需要を映じ、緩やかに増加しています。

(図表6)富山県のはん用・生産用・業務用機械、医薬品の生産指数の推移
(季節調整済、2010年=100)
図
(出所)富山県統計調査課

3 その他経済指標の動向


上述の主要項目のほか、住宅投資、公共投資についても横ばい圏内で推移しており、県内景気の拡大を下支えしています。

(1)労働需給

県内景気は拡大局面にありますが、それに伴い、人手不足が続いています。

県内の有効求人倍率(受理地ベース)の推移をみると、全国を大きく上回る水準が続き、企業の人手不足感は高まっています。

(図表7)有効求人倍率(季節調整値)の推移
図
(出所)厚生労働省


(2)企業の業況感

景気の拡大は、各企業経営者の方々の業況感、企業マインドにも表れています。(図表8)は、「短観」の「業況判断DI5」の推移ですが、富山県内の業況判断DI(全産業)は、2013年以降概ねプラス圏内で推移しており、最新の2018年12月調査では+18と高い水準です。

もっとも、先行きについては+6まで低下しており、米中の貿易摩擦を巡る動きや原材料費等のコストアップが企業マインドを慎重化させていると考えられます。慎重化する企業マインドの今後の企業活動への影響について注視が必要です。

(図表8)業況判断DIの推移
図
(出所)日本銀行金沢支店



1 本稿で示された意見等は筆者のものであり、日本銀行の公式見解ではありません。

2 富山事務所では、四半期毎に県内の景気動向について判断し、「富山県金融経済クォータリー」として公表。「富山県金融経済クォータリー」については、日本銀行富山事務所のホームページ(http://www3.boj.or.jp/toyama/index.html)をご参照下さい。

3 家庭外で調理された食品を購入して持ち帰るあるいは配達等によって家庭内で食べる食事の形態。単身世帯の増加や女性の雇用者の増加等を反映して、需要が増加しています。

4 「短観」は、「全国企業短期経済観測調査」の略。四半期毎に全国の企業に対して行っている業況感や事業計画に関する調査。現在、全国では約10,000社、北陸3県では347社が調査対象先。

5 DI(Diffusion Index)とは、三択式を採っている短観の判断項目について、「第1選択肢の回答社数構成比(%)」−「第3選択肢の回答者数構成比(%)」で得られる数値。「業況判断DI」は、「良い(第1選択肢)という回答の構成比」から「悪い(第3選択肢)という回答の構成比」を引いた数値。単位は「%ポイント」ですが、本文中では単位を省略。



とやま経済月報
平成31年1月号