特集

入善町の新たな観光資源
〜深層水仕込みカキ〜

入善町 キラキラ商工観光課

 

1 名水のまち入善


北アルプスを背景に緑豊かな水田が広がる黒部川扇状地。日本屈指の美しさを誇る扇状地の中央に入善町は位置します。

黒部川の水は扇状地の中を伏流水となって流れ、清らかな湧水として自噴しています。この「黒部川扇状地湧水群」は、全国名水百選に選定されています。この湧水は、花崗岩石の砂礫層でろ過され、溶存ミネラルや炭酸ガスも適度に含まれており、おいしい水の要件を兼ね揃えています。

扇状地を流れる清浄な水は、コシヒカリや町の花であるチューリップの球根生産、オンリーワンの特産品である入善ジャンボ西瓜などを育みます。そして、豊富な地下水を求めて、ITや自動車関連、飲料や食品などの企業も数多く進出しています。

入善町の生活や産業を支える名水は、このまちの豊かなくらしの礎となっています。

2 海洋深層水の取り組み


名水のまち入善の新たな水資源である海洋深層水取水事業には平成13年より取り組んでいます。海洋深層水とは、「海面から200メートル以深の深海に存在する海水」のことを言いますが、富山湾の場合、水深200〜300メートル付近まで対馬暖流系水の層があるため、入善町では沖合3キロ、水深384メートルの日本海固有水を海洋深層水として取水しています。海洋深層水は表層水と比べると、「低温安定性」「清浄性」「富栄養性」といった3つの特長を持っています。

低温安定性 表層水の水温が、季節によって大幅に変動するのに対し、深層水は一年を通して低温で安定しています。
清浄性 深層にあるので、陸水、大気からの汚染を受けにくく、化学物質、汚染細菌数が少ない。
富栄養性 太陽光が届かない深さなので、光合成が行われず、表層水と比べて、植物の生長に必要な、窒素、リン、ケイ酸などの無機栄養塩が多く含まれています。

入善町では、これら海洋深層水の特長を活かした事業に取り組んできました。平成14年4月からは海洋深層水の「富栄養性」を活かし、アワビの養殖に取り組んできました。その後、平成21年にはパックごはん製造の株式会社ウーケが入善町に進出し、「低温安定性」を活かし、工場内炊飯設備の冷却用水に海洋深層水の使用を開始しています。「清浄性」については平成26年より全国にオイスターバーを展開する株式会社ゼネラル・オイスターのグループ会社である株式会社海洋深層水かきセンターが全国各地の牡蠣を入善町に集めて、海洋深層水による牡蠣の浄化事業に取り組んでいます。

入善町の海洋深層水は、その特性を余すところなく産業利用されていますが、入善町の海洋深層水事業の特筆すべき点は他にあります。前述のとおり、海洋深層水には「低温安定性」という特長があるのですが、その水温は年間を通じて2℃前後です。

低温の深層水のままだと、アワビや牡蠣にとっては冷たすぎるため、ボイラーにより加温し、使用していました。しかし、現在は水産分野に利用される海洋深層水は取水されたあと、まず株式会社ウーケに向かいます。そこで空調により工場内を冷却し、熱交換で加温され、加温された海洋深層水は、そのままパイプを通って牡蠣などの水産物の養殖・蓄養施設に向かいます。このとき、取水時点で2℃前後だった水温は水産利用に適した12〜18℃まで上昇しています。

※図をクリックすると大きく表示されます

図

この熱交換利用によって、海洋深層水の利用効率が高まったことは言うまでもありません。水産利用時のボイラー加温と工場内空調による冷却を行わないことによって、年間で約600tの二酸化炭素が削減できるとされ、環境にも優しい取り組みとなっています。

3 海洋深層水を活用した牡蠣の浄化の取り組み


海洋深層水を活かした産業のうち、ここでは牡蠣の浄化事業について掘り下げたいと思います。

前項でも取り上げたとおり、平成26年より牡蠣の蓄養・浄化事業で株式会社海洋深層水かきセンターが入善町に進出しました。牡蠣は一日に480リットルもの海水を飲んでは吐き出す性質を持っていますが、これはエサとなるプランクトンを大量に体内に取り込むための行動です。これが牡蠣の豊富な栄養分の源でもあるのですが、同時に海水中の雑菌なども取り込んでしまいます。その取り込んだ雑菌をそのままで食べることで牡蠣が「あたる」原因となっています。

牡蠣の浄化方法としては、紫外線で殺菌した海水を水槽内で循環させる方法が一般的ですが、紫外線照射が均一でないおそれがあります。

そこで同社が着目したのは海洋深層水の清浄性でした。全国の名だたる産地から牡蠣を入善町に集め、牡蠣の水槽に海洋深層水を60時間以上かけ流し、牡蠣の体内を浄化するという方法を確立し、平成29年11月10日に特許を取得しました。

こうして、入善町の海洋深層水を活用することで、安全性がより高まった生牡蠣が誕生しました。入善町では、全国各地の産地から入善町に集結し、深層水で浄化され安全・安心で味わえる牡蠣を「深層水仕込みカキ」として、広くPRしています。

4 深層水仕込みカキを活かした地域活性化


日本国内で流通している牡蠣には大きく分けて2種類あります。冬から春に旬を迎える「真牡蠣」と春から夏に旬を迎える「岩牡蠣」です。入善町で獲られている牡蠣は岩牡蠣に分類され、身がどっしりとし、濃厚な味わいで地元のみなさんに親しまれてきました。しかしながら、それほど多く収獲されていたわけではなく、入善町が「牡蠣のまち」と称されることはありませんでした。

平成27年7月に、株式会社海洋深層水かきセンターが牡蠣料理専門レストラン「入善 牡蠣ノ星」をオープンさせてから、徐々に入善町が「牡蠣のまち」へと向かい始めます。

〔牡蠣産地別旬カレンダー〕

牡蠣ノ星では、厳選された全国50産地以上の多彩な味わいの牡蠣の食べ比べができること、その時々の旬の牡蠣を取り揃えているため、いつでも旬の牡蠣が楽しめることから、瞬く間に話題になり、繁忙期には2時間待ちの行列ができるほどの賑わいを見せるようになりました。

この賑わいは地域にも波及しています。

上のグラフは、牡蠣ノ星に隣接する入善海洋深層水活用施設への来館者数の推移です。こちらの施設は海洋深層水の取水拠点であり、海洋深層水の概要が学べる展示や海洋深層水を使用した加工品等の各種お土産品の購入もできます。ご覧のように牡蠣ノ星がオープンした平成27年以降、来館者が大幅に増えるという目に見えた変化が現れていて、その後も増加傾向にあります。

▲入善海洋深層水活用施設

この賑わいを局地的なものに終わらせず、さらに地域に波及させるためには、人の流れづくりも課題となります。牡蠣ノ星は北陸新幹線 黒部宇奈月温泉駅や北陸自動車道 黒部ICから車で15分という立地にありますが、公共交通で向かう場合、最寄り駅は、あいの風とやま鉄道の西入善駅となります。下車後はバスなどの公共交通はありませんので、その後は片道約2kmを約30分かけて徒歩で向かうことになります。この課題解決に向けて、入善町観光物産協会では、牡蠣ノ星の旅行者向け特別メニューと、北陸新幹線黒部宇奈月温泉駅または、あいの風とやま鉄道入善駅のいずれかから牡蠣ノ星までの道のりをタクシーで結ぶ着地型旅行商品を開発し、販売しています。

また、街中への誘客に向けた取り組みも実施しています。入善町内の多くの飲食店へもこの深層水仕込みカキを出荷しています。

平成30年12月現在で、入善町内の居酒屋、割烹、カフェなど21店舗の飲食店が深層水仕込みカキを取り扱っていて、「にゅうぜん街中オイスターロード」として、県内外にPRしています。「にゅうぜん街中オイスターロード」では生牡蠣や蒸し牡蠣はもちろん、店舗によっては、松前焼きやアヒージョ、グラタンなど、各店舗が腕によりをかけた特色ある自慢の牡蠣料理が一年を通して味わえるのが特徴です。

▲牡蠣のアヒージョ
▲牡蠣のグラタン

入善町では深層水仕込みカキを観光分野の起爆剤としてこれらの取り組みを通じた地域の活性化につなげていきたいと考えております。

お問い合わせ先
入善町 キラキラ商工観光課
〒939-0693 入善町入膳3255番地
TEL:0765-72-3802
とやま経済月報
平成31年2月号