特集

富山県の景気動向について1

日本銀行富山事務所長 小川 万里絵

 

1 はじめに


足許の富山県の景気は、緩やかに拡大しています。

生産については、昨年後半からの中国経済の減速、スマ―トフォン販売の不調等に伴い一部業種で生産が弱めの動きにあるものの、堅調な内需に支えられ、全体では高水準の生産を維持しています。また、雇用・所得環境の着実な改善が続くもと、個人消費が着実に持ち直しており、所得から支出への前向きな循環メカニズムは維持されています。

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日本銀行富山事務所では、2019年5月公表の「富山県金融経済クォータリー(2019年春)」2において、「富山県の景気は、緩やかに拡大している」と景気判断を引下げましたが、引下げ方向への判断の見直しは、2012年秋以来6年半振りでした。なお、その後2019年7月に公表された「同(2019年夏)」でも、その判断を維持しています。

もっとも、中国経済の回復時期や米中の貿易摩擦の行方等、海外経済を巡る動きに不透明感があること、人件費や原材料高等のコストアップの影響が懸念されることもあり、景気の先行きについては、引続き注視が必要です。

2 主要項目の動き


(1)個人消費

富山県の個人消費は、着実に持ち直しています。県内の小売関係の主要6業態について最近の売上高前年比(図表1)をみると、月々の振れはあるものの、前年を上回る状態で推移し、持ち直しの動きが続いています。

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主要6業態は、百貨店、スーパー、コンビニエンスストア、家電専門店、ドラッグストア、ホームセンター。

業態別にみると、ドラッグストアの安定的な伸びが目立っており、個人消費全体を牽引する形となっています。ドラッグストアについては、積極的な店舗の新設、医薬品以外の日常品や食料品販売への注力が売上高を伸ばしていると考えられます。

また、百貨店・スーパーの売上高は、衣料品の不振が続くものの、食料品が堅調に推移しているほか、高額品にも動きがみられ始める等、着実に持ち直しています。家電販売についても、白物家電、テレビを中心に好調に推移しています。

(図表1)富山県の小売6業態の売上高前年比推移
── 19年5月は速報値
(出所)経済産業省 商業動態統計

一方、県内新車登録台数の前年比推移(図表2)をみると、4、5月は前年を上回りましたが、6月は3か月振りに前年を下回りました。今後、消費税増税前の駆け込み需要の動向、運転サポートシステムの搭載など軽自動車の高付加価値化や運転に関する安全装置を備えた車種へのニーズ等が新車販売にどう影響していくか、等を注目していく必要があります。

(図表2)富山県の新車登録台数の前年比推移
(出所)富山運輸支局

(2)設備投資

「短観3(2019年6月調査)」における県内企業の設備投資動向(ソフトウェアを除く。以下同じ。)をみると、2018年度は、製造業において海外経済の不透明感から投資を見合わせる先が一部にみられたほか、大型投資の一巡もあって、前年度を約2割下回りましたが(全産業、前年度比▲22.4%)、2019年度の計画は、ほぼ前年度並み(同▲2.8%)となっています(図表3)。

能力増強や人手不足に対応した省人化投資が引続きみられているほか、非製造業での新規出店の動きも続いており、高水準横ばい圏内の動きです(図表4)。

(図表3)富山県の設備投資額の前年度比推移
(出所)日本銀行金沢支店
(図表4)富山県の設備投資額の推移(全産業、2003年度=100)
(出所)日本銀行金沢支店

(3)生産

企業の生産動向をみると、当地主力の化学(医薬品)や汎用・生産用・業務用機械が高水準の生産を続けているものの、中国経済の減速やスマートフォン販売の不振等から電気機械が生産水準を引下げており、全体でも高水準ながら弱めの動きとなっています。

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富山県の鉱工業生産指数の動きをみると、年明け以降大幅に低下していますが、個社要因による医薬品での在庫調整に伴う生産調整の動きが影響しています。
(図表5)富山県の鉱工業生産指数の推移(季節調整済、2015年=100)
(出所)富山県経営管理部統計調査課

業種別にみると、ウェイトの大きい医薬品、汎用・生産用・業務用機械が、ジェネリック医薬品の普及や、国内外の設備投資需要の高まりに伴う高水準の受注残を抱え、緩やかに生産を伸ばしています。一方、電気機械については、自動車関連は高水準ながら、スマートフォン販売の伸び悩みや中国経済の減速に伴い、生産水準を引下げる動きがみられます。

(図表6)富山県の汎用・生産用・業務用機械、医薬品、電気機械の生産指数の推移
(季節調整済、2015年=100)
(出所)富山県経営管理部統計調査課

3 その他経済指標の動向


上述の主要項目以外では、住宅投資は、消費税増税前の駆け込み需要が一部にみられたことから緩やかな増加に転じたほか、公共投資についても横ばい圏内で推移しており、県内景気の拡大を下支えしています。

(1)労働需給

県内景気が緩やかな拡大を続けていることもあって、人手不足が続いています。

県内の有効求人倍率(受理地ベース)の推移をみると、全国を上回る水準が続き、企業の人手不足感は高まっています。

(図表7)有効求人倍率(季節調整値)の推移
(出所)富山労働局

(2)企業の業況感

企業の業況感を、短観の業況判断DI(全産業)でみますと、2019年6月調査では、+8と前回調査(19/3月。以下同じ。)の+12から▲4悪化し、2期連続の悪化となりました。

製造業・非製造業の別でみると、製造業については、電気機械や素材業種での悪化により、+3と、前回調査の+14から▲11の悪化となった一方、非製造業は、建設や不動産が良好な業況感を維持していること等から、+13と、前回調査の+10から+3の改善となり、製造業とは対照的な動きとなりました。

先行きについては、中国経済の減速や米中貿易摩擦に関する懸念、また、原材料費や人件費の上昇等のコストアップによる収益面への影響等を背景に、業況判断DI(全産業)は▲2と、最近の判断よりも▲10の悪化となっています。

(図表8)業況判断DI(全産業)の推移
(出所)日本銀行金沢支店

1.本稿で示された意見等は筆者のものであり、日本銀行の公式見解ではありません。

2.富山事務所では、四半期毎に県内の景気動向について判断し、「富山県金融経済クォータリー」として公表。「富山県金融経済クォータリー」については、日本銀行富山事務所のホームページ(http://www3.boj.or.jp/toyama/index.html)をご参照下さい。

3.「短観」は、「全国企業短期経済観測調査」の略。四半期毎に全国の企業に対して行っている業況感や事業計画に関する調査。現在、全国では約9,800社、北陸3県では342社が調査対象先。




とやま経済月報
令和元年8月号