特集

富山県における食品ロス・食品廃棄物削減の取組みについて
「とやま食ロスゼロ作戦 〜使いきり 食べきり すっきり エコライフ〜」

富山県 農林水産部 農産食品課

 

1 食品ロスとは


「食品ロス」とは、本来食べられるにもかかわらず廃棄されているものです。国の推計によると、日本では年間約2,842万トンの食品廃棄物等が排出され、このうち約23%にあたる約646万トンが食品ロスと試算されており、約半分は家庭から、もう半分は食品関連事業者から排出されています。これは、世界全体の食料援助量(約320万トン)の約2倍に相当します。日本の食料自給率(カロリーベース)は約4割と先進国の中でも最低水準であり、食料の約6割を海外に依存しているにも関わらず、大量の食品ロスを生み出しています。また、食品廃棄物は大量の水分を含み、焼却処分する際には大量の化石燃料が必要となることから、環境負荷も大きく、地球温暖化にもつながっています。

こうした中、2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」では、2030年までに小売・消費レベルにおける世界全体の一人当たりの食料の半減を国際目標として設定しました。今や食品ロス・食品廃棄物(以下、「食品ロス等」)の削減は、経済・環境・社会において非常に重要な世界的問題であり、喫緊の課題となっています。

2 食品ロス等削減に向けた取組みのきっかけと推進体制の整備


平成28年5月に本県で開催されたG7富山環境大臣会合において、「富山物質循環フレームワーク」が採択され、食品ロス等の削減推進や、食品廃棄物の効果的なリサイクルなどの取組みを着実に実施していくこととされました。

これを受け部局横断の庁内プロジェクトチームを設置し、削減に向けた取組み等の検討や市町村・関係団体へのヒアリングを実施してきました。また、食品ロス等は、食品の生産・製造、流通、消費の各段階において多様な形態で発生しており、削減の推進のためには幅広い関係者の理解と協力が必要であることから、平成28年9月に「富山県食品ロス・食品廃棄物削減対策検討会」を、平成29年度からは、検討会を発展する形で「富山県食品ロス・食品廃棄物削減推進県民会議」を設置し、「①実態把握と推進体制の整備」、「②周知・啓発」、「③発生抑制(リデュース)の重点的な取組み」の3つの基本方針のもと、県民、食品関連事業者、消費者団体、行政等が一丸となって食品ロス等の削減に向けた全県的な運動を展開しています。

3 富山県内の食品ロス等実態把握調査の結果


(1)家庭系食品ロス・食品廃棄物実態把握調査(組成調査、アンケート調査)
ア 可燃ごみの組成調査

平成28年11月から29年8月まで、計5回にわたり年間を通じた可燃ごみの組成調査を実施した結果、食品廃棄物の発生量は8.8万トン、食品ロスの発生量は2.7万トンと推計されました。また、主な食品ロスの内訳は、手付かず食品が69%、食べ残しが31%と手付かず食品の占める割合は食べ残しの約2倍もあり、全国(46%)に比べて高くなりました。

イ 家庭へのアンケート調査

家庭を対象に食品ロス等の排出状況などについてアンケート調査を実施した結果、88.0%の家庭で「賞味・消費期限切れ等の手付かず食品」が出ており、その理由として最も割合が高いのは「購入したことを忘れ、期限切れになる」(61.5%)でした。


(2)事業系食品ロス・食品廃棄物実態把握調査(アンケート調査)

平成28年に県内の食品関連事業所(製造業、卸売業、小売業、外食産業)を対象に食品ロス等の発生状況に関する調査を実施した結果、食品廃棄物の発生量は8.2万トン、食品ロスの発生量は1.6万トンと推計されました。また、食品ロスの発生量は、外食産業からが36.3%と4業種の中で最も多く、その内訳は、食べ残しが5割以上を占めていました。

4 食品ロス等の削減に向けた目標の設定


本県では、昨年3月に策定した新総合計画において、「食品ロス削減のための取組みを行っている人の割合」を、現況(2016年度)の62.9%から2026年度には90%に増やし、「県民1人1日当たりの食品ロス発生量」を現況(2016年度)の約110gから2030年までの半減を目指して減少させる目標を設定しました。

5 食品ロス等削減運動を支える県の主な施策


(1)全県的な食品ロス等削減運動の展開
ア 食品ロス等削減運動の愛称・標語の募集及びPR用Webサイトの開設

県民運動の愛称・標語を募集し、普及啓発資材などに活用しています。(愛称:「とやま食ロスゼロ作戦」、標語:「使いきり 食べきり すっきり エコライフ」)

また、Webサイト「とやま食ロスゼロ作戦(https://foodlosszero.jp/)」を開設し、情報発信しています。

イ 「3015(さんまるいちご)運動」の普及啓発

本県では、「使いきり」と「食べきり」を推進するため、県民になじみの深い立山の標高にちなみ、30と15をキーワードにした富山型の食品ロス削減運動「3015運動」を展開しています。

「使いきり3015」は毎月30日と15日に冷蔵庫をチェックして食材を使いきる、「食べきり3015」は宴会開始後30分と終了前15分に食事を楽しむ時間を設定して食べきる、というものです。

ウ 啓発資材の作成

子どもの頃から「もったいない」精神や食べ物を大切にする心を育成するとともに、子どもから親への普及を図り、親子で一緒に食品ロス削減に取り組むきっかけを創出するため、未就学児を対象にした楽しみながら食品ロスを学べる紙芝居や動画を制作し、保育所や幼稚園等に配布しました。


(2)家庭系食品ロス等削減事業
ア 「ロスゼロウィーク県民チャレンジ」の実施

県民総参加で食品ロス削減の取組みの実践を促し、その効果を実感し継続につなげるため、家族やグループ単位で食品ロス削減にチャレンジするキャンペーン(平成30年8月1〜7日の1週間)を実施したところ、18,855人(51企業・団体を含む)の参加・協力を得て、推計で約6.8トン(ご飯茶碗 約45,000杯分)の食品ロスを削減することができました。


イ 「サルベージ・パーティ」の開催支援

賞味期限切れなど食材の無駄をなくすとともに、楽しみながら食品ロス削減に取り組む機会を提供するため、家庭で食品ロスになりそうな食材(缶詰、乾物など)を持ち寄り、参加者で調理をして楽しむ「サルベージ・パーティ」の普及を進めています。平成29年度は、婦人会や小学校などでモデル的に開催し、平成30年度は、団体等の自主的な開催を促進するため、団体等がセミナーを開催する際の講師派遣や、開催方法などについてのマニュアルを作成しました。


(3)事業系食品ロス等削減事業
ア 食品ロス等削減運動協力宣言事業者の募集・登録

食品ロス等削減に対する意識の向上と機運の醸成を図るため、削減に取り組む農林水産物の生産者及び食品関連事業者等を「食品ロス等削減運動協力宣言事業者」として募集・登録し、登録事業者には認定ステッカーを交付するとともに、その取組みをホームページ等に掲載して広く紹介しています。


イ 外食産業に向けた働きかけ

外食産業から発生する食品ロスのうち、半分以上が食べ残しであることから、「食べきり3015」を呼びかける卓上三角柱やポスター等を制作し、ホテル・居酒屋等に宴会の席等への配置や幹事さんへの声かけを働きかけています。

また、「食べきりサイズメニュー」(=小盛メニュー)の存在を示す卓上POP等を制作し、飲食店にテーブル等へ配置やお客さんへのPR、「食べきりサイズメニュー」の新規導入などの働きかけを行っています。


ウ 食品流通過程における対策

① 商慣習の見直しに向けた検討

食品流通過程における納品期限や販売期限に関する「1/3ルール」などの商慣習は食品ロス発生の一つの要因とされています。こうした商慣習は、個々の取組みでは解決が難しく、食品関連事業者、消費者、行政が互いに連携し、フードチェーン全体で解決していくことが必要であることから、平成30年7月に製造・卸・小売からなる「食品ロス削減のための検討委員会」を設置し、検討を進めてきました。また、商慣習の見直しを進めるためには消費者の過剰な鮮度志向の改善が必要との意見を踏まえ、11月には消費者団体も加え、「県民会議」のもとに新たに「商慣習検討専門部会」を設置し、さらに検討を進めているところです。

3月末に、まずは「飲料及び賞味期間30日以上の菓子」について、納品期限を「1/3ルール」から「1/2ルール」へ緩和するよう取り組むことで一致し、県民が一丸となって商慣習の見直しに取り組むことを共同宣言しました。

今後は、取組み事業者や対象品目の拡大、消費行動の改善に向けて、引き続き検討を行います。


② アンケート調査の実施

平成30年10月に県内の食品関連事業者向けに、余剰生産や納品期限・販売期限の設定状況等商慣習についてのアンケート調査を実施しました。その結果、(a)余剰生産:約8割の製造業者で余剰生産が発生しており、約6割の製造業者は、納品期限の緩和によって余剰生産の削減につながると回答。(b)返品:約3/4の製造業者で返品を受け入れており、そのうち約3/4の製造業者で「納品期限切れ」など製造業者以外に起因する理由での返品がある。(c)納品期限:納品期限を1/6〜1/3に設定されている製造業者が多い。また、ほとんどの卸売業者で製造業者からの納品期限と小売業者への納品期限を設定している。(d)販売期限:5割以上の小売店は販売期限を設定せず、当日まで販売している。ことが分かりました。

また、消費者の賞味期限や商慣習に関する意識を把握するため、スーパーの店頭で聞き取り調査を実施しました。その結果、(a)低温日配品については、購入の際に賞味・消費期限を確認する割合は7割を超え、その理由の4割は「少しでも新しいものを買うため」。また、約6割の消費者が商品を棚の後ろから取っており、消費者の過剰な鮮度志向が表れていました。(b)一方、常温日配品については、6〜8割が賞味期限を気にしていない。(c)8割以上の消費者が納品期限の緩和や販売期限の延長に取り組む小売業者を支持する。といったことが分かりました。


③ 期限間近商品の優先購入促進キャンペーンの実施

消費・賞味期限の近接した商品の購入が小売店における食品ロス削減につながることを消費者に広く周知し、理解促進を図るため、スーパー等と連携してポスター、POP等PR媒体の掲示によるキャンペーンを実施しています。

6 今後の課題と展望


食品ロスの発生には、直接的・間接的に様々な要因が関わっており、削減のためには幅広い関係者の理解と協力が必要です。県内で食品ロス等削減県民運動が始まってから約3年が経ち、徐々に食品ロス等削減のための取組みが広がりつつありますが、引き続き、県民会議を核とした切れ目のない削減対策を実施し、持続可能な社会の実現をめざして取り組んでいきます。特に、商慣習の見直しの取組みについては、広く全国への波及を目指し、取り組んでいきたいと考えています。




とやま経済月報
平成31年4月号