特集

2018年度設備投資計画調査と富山県経済の状況
〜「くすりの富山」の伝統と躍進〜

株式会社日本政策投資銀行 富山事務所長 石倉 慎也
富山事務所副調査役 吉田 志穂

1 DBJ設備投資計画調査について


株式会社日本政策投資銀行(DBJ)は、毎年6月に、資本金1億円以上の民間法人企業(金融保険業等を除く)に対して、設備投資(国内における有形固定資産投資)計画・実績に関するアンケート調査を実施している。

本調査は、本社所在地に関係なく投資地点で集計している属地主義に特徴がある。本調査における富山県の設備投資は、富山県に本社を置く企業(県内企業)と富山県外に本社を置く企業(県外企業)が富山県において投資を行うと回答した投資額の合計である。また、本調査における設備投資額とは工事ベースの金額であり、原則として建設仮勘定を含む有形固定資産勘定への計上額である。集計に際しては、事業部門別の回答額を業種毎に分類・集計している。なお、北陸では電力の設備投資が大きいことから、地域性を明らかにするために電力を除いた集計をベースにしている。

2018年度調査(2018年6月に実施)では、2017年度設備投資(実績)、2018年度及び2019年度(計画)について全国6,029社から回答をいただいた(回答率59.8%)。回答企業のうち本社所在地が富山県の企業は127社(回答率76.0%)、富山県へ投資があると回答した企業は254社である。

以下では、全国・北陸・富山県の順で、今回の設備投資計画調査について紹介させていただき、富山県経済の状況をみていきたい。

2 全国と北陸の設備投資動向

図表1 全国と北陸の設備投資動向(2018年度計画)
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(1)全国の2018年度設備投資(計画)

全産業(除電力)は、7年連続の増加(+19.9%)となる。北陸(+33.0%)を含む全国9地域すべてが増加となる。

製造業は、全国は5年連続の増加(+25.4%)となる。全国9地域のうち北陸(+30.0%)を含む8地域が増加となり、1地域が減少となる。

非製造業(除電力)は、7年連続の増加(+16.5%)となる。全国9地域のうち北陸(+49.3%)を含む8地域が増加となり、1地域が減少となる。



(2)北陸の2018年度設備投資(計画)

全産業(除電力)は、前年度比+33.0%と3年ぶりの増加に転じる。

製造業は、+30.0%と3年ぶりの増加に転じる。業種別にみると、医薬品やその他の化学品での大型投資が一巡する化学(▲15.3%)、能力増強のための大型投資が終了する紙・パルプ(▲50.1%)、等が減少するものの、車載・医療等、新分野への展開を狙った量産体制構築のための工場新設がある電気機械(+58.0%)、生産効率化ニーズを受けた自動化機械製品の工場投資がある一般機械(+42.6%)、ロボットやIoT技術等を生かした生産効率化投資があるその他製造業(+25.7%)、高度な環境規制ニーズに則した製品の増産投資がある窯業・土石(+159.3%)、等が増加する。

非製造業(除電力)は、+49.3%と3年ぶりの増加に転じる。業種別にみると、ホテル等の投資が拡大するサービス(+171.2%)、観光需要を見越した積極投資がある運輸(+28.8%)、大型商業施設の開業改装等がある不動産(+101.7%)、等が増加する。

3 富山県の設備投資動向

図表2 富山県設備投資動向(2017年度実績・2018年度計画・2019年度計画)
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(1)富山県の2017年度設備投資(実績)

全産業(除電力)は、前年度比+26.4%と増加に転じた。

製造業は、+50.8%と4年連続の増加となった。業種別にみると、環境配慮投資が一段落したその他製造業(▲20.8%)、能力増強投資が終了した化学(▲24.2%)、等が減少したものの、スマートフォン向け高機能電子部品工場投資があった電気機械(+429.7%)、社屋工場の増設に伴う投資があった非鉄金属(+147.7%)、自動車関連の増強投資があった鉄鋼(+56.3%)、等が増加した。

非製造業(除電力)は、▲37.2%と2年連続の減少となった。業種別にみると、引き続き店舗投資が活発だった卸売・小売(+32.1%)、等が増加したものの、環境対応や新幹線効果に伴う投資が一服したサービス(▲63.6%)、大型エネルギーインフラ投資が剥落したその他非製造業(▲99.8%)、等が減少した。



(2)富山県の2018年度設備投資(計画)

全産業(除電力)は、前年度比▲13.0%と減少に転じる。

製造業は、▲24.8%と5年ぶりの減少に転じる。業種別にみると、ロボットやIoT技術等を生かした生産効率化投資があるその他製造業(+31.8%)、生産効率化ニーズを受けた自動化機械製品の工場投資がある一般機械(+25.0%)、等が増加するものの、スマートフォン向け高機能電子部品工場投資が一段落する電気機械(▲53.8%)、医薬品やその他の化学品での大型投資が一巡する化学(▲27.9%)、主力製品の生産能力増強や省力化対応投資が終わる食品(▲65.6%)および紙・パルプ(▲29.7%)、等が減少する。

非製造業(除電力)は、+51.3%と3年ぶりの増加に転じる。業種別にみると、ホテル等の投資および人材確保や定着のための投資があるサービス(+159.4%)、大規模な交通拠点の整備がある運輸(+31.3%)、活発な店舗出店に対応する施設投資がある卸売・小売(+35.7%)、等が増加する。



(3)富山県の2019年度設備投資(計画)

現時点の来年度計画には不確定要素が多く含まれるため、参考としてみていただきたい。結果のみ記すと、全産業(除電力)で減少(▲6.5%)、製造業は減少(▲13.3%)、非製造業(除電力)は増加(+4.7%)する計画となっている。

4 富山県の設備投資の特徴


(1)2018年度設備投資(計画)の内訳
図表3 設備投資産業別金額・構成比の比較
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北陸3県の共通の特徴として、製造業のウェイトの高さがあげられる。

富山県は製造業のウェイトが特に高い傾向にあったが、2018年度計画では北陸3県の中で最も低くなっている。非製造業(除電力)において、サービス、運輸、卸売・小売等が増加したことや、製造業における電気機械の工場投資の一段落や化学の大型投資の一巡等による。しかしながら、設備投資額の水準は相応に高い。

参考までに石川県では、製造業は前年投資が完了したその他製造業(▲56.7%)および輸送用機械(▲27.7%)、等が減少するものの、車載・医療等、新分野への展開を狙った量産体制構築のための工場新設がある電気機械(+377.7%)、生産効率を高めるための工場投資がある一般機械(+67.3%)、高度な環境規制ニーズに対応した製品の増産投資がある窯業・土石(+419.4%)、等が増加する。非製造業(除電力)でも大型商業施設等新規出店が相次ぐ不動産に加えて、観光需要に関連したホテル・交通などの積極投資がみられる。



(2)富山県製造業の業種別寄与度分解推移
図表4 富山県設備投資(製造業)の寄与度分解の長期推移

※図をクリックすると大きく表示されます

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2008年度から11年間における製造業の設備投資の寄与度分解は、2008年のリーマンショックやその後の回復期を挟んだ期間において、どのような業種が設備投資の増減に寄与してきたのかをみている(図表4)。

最近は、電気機械の増加の寄与度が大きくなっている。スマートフォン向け高機能電子部品の旺盛な需要が背景だが、2018年度は工場投資の一段落により反動減となっている。

化学は、その中心となる医薬品の需給が景況に左右されず比較的安定しており、近年では、委受託製造の自由化やジェネリック医薬品(後発品)の普及に伴い、関連する設備投資が継続して行われている。

5 「くすりの富山」の伝統と躍進


DBJ富山事務所は、2018年6月に「「くすりの富山」の伝統と躍進」と題したレポートを発表した。以下に要旨を記す(詳細は本レポートご参照(注4))。

富山の薬業には長い歴史と伝統がある。富山売薬から始まり、その周辺産業と共に発展してきた。富山県の医薬品製造業は県内全製造業の生産金額の約12%を担う、最大の製造業であり(図表5)、周辺産業を集積し、県を代表する産業となっている。

図表5 富山県内の製造業の産業中分類別生産金額
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(出典:富山県 「平成28年経済センサス-活動調査(製造業)」より編集)

近年では、委受託製造の自由化やジェネリック医薬品の普及を追い風に、国内の医薬品製造を担う一大拠点にまで成長し、2015年には国内トップを誇るに至った(図表6)。

図表6 国内の医薬品生産金額の推移(全国と2015年のトップ5都府県)

※図をクリックすると大きく表示されます

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(出典:厚生労働省「薬事工業生産動態統計年報」より編集)

富山では古くから医薬品の製造販売業が発展してきたことで、医薬品産業のバリューチェーンが形成されている。更に、そのバリューチェーンを強化する取組として、産学官一体の研究・開発体制を促進する研究開発センターの設立や、担い手となる人材の育成にも注力している。

直近の医薬品市場の動向やジェネリック医薬品の先進国である米国市場の変遷から示唆を得た。今後は、医薬品生産のグローバル化やジェネリック市場の成熟化などの新たな転換期を迎えることが予想される。

「くすりの富山」が新たに迎える転換期を、これまで培ってきた実績や製剤技術、生産能力等の強みを活かす「機会」ととらえ、次世代剤形・グローバル化・バイオ医薬など医薬品産業の新たな時代において、世界的製造拠点としての躍進を期待したい。




1 本稿で示された意見等は筆者のものであり、日本政策投資銀行の公式見解ではありません。

2 本稿は、日本政策投資銀行の地域別設備投資計画調査によるものです。出所の記載がない図表は本調査によるものです。詳細は日本政策投資銀行のホームページ(https://www.dbj.jp/investigate/equip/regional/detail.html)をご参照ください。

3 日本政策投資銀行は、上の調査と同時に、大企業(資本金10億円以上)を対象とした全国設備投資計画調査も行っています。詳細は日本政策投資銀行のホームページ(https://www.dbj.jp/investigate/equip/national/detail.html)をご参照ください。

4 「くすりの富山」の伝統と躍進−国内トップから世界的製造拠点へ−詳細は日本政策投資銀行のホームページ(https://www.dbj.jp/ja/topics/region/area/files/0000030408_file2.pdf)をご参照ください。

とやま経済月報
平成30年9月号