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平成27年度富山県民経済計算の概要について

統計調査課 経済動態係

1 はじめに


富山県では、平成30年3月に平成27年度富山県民経済計算の推計結果を公表しました。また、平成30年8月には、内閣府から各都道府県の推計結果をとりまとめた「平成27年度 県民経済計算について」が公表されました。

そこで、今回は平成27年度の富山県民経済計算の推計結果の概要と、本県を含む全国の状況等について解説します。

2 県民経済計算の概要

(1)県民経済計算とは

県民経済計算は、国民経済計算(GDP統計)の県版にあたるもので、1年間に県内の財・サービスの生産活動によって新たに生み出された付加価値を「生産」「分配」「支出」の3つの側面から計量把握することにより、県経済の実態を包括的に明らかにするものです。

県民経済計算の推計は、各種統計資料を用い、国民経済計算体系に準拠した内閣府の「県民経済計算標準方式」に基づいて行っています。

県民経済計算の推計結果からは、様々な県経済の特徴を読み取ることができます。

例えば、付加価値を生み出す「生産面」からは、経済成長率や産業構造、経済規模など、賃金や配当などの「分配面」からは、県としての経済水準、すなわち1人あたり県民所得などを把握することができます。



(2)推計値の改定(遡及改定・基準改定)について

県民経済計算の推計に用いられる統計調査の中には、毎年実施されないものも多く、実施されない中間年度については、統計的処理(数年間の平均値や変動率など)に基づく推計値を用いています。このため、新しい調査結果が公表されたときは、最新のデータを用いて再計算を行い、過去年度分に遡って推計値の改定(遡及改定)を行っています。

また、今回の推計においては、国民経済計算に準じ、概念の変更や推計方法の見直し等(基準改定)が行われました。主な変更点としては次のようなものがあります。

  • 経済活動別分類の変更
    旧基準の「産業」「政府サービス生産者」「対家計民間非営利サービス生産者」の区分を取り止めるとともに、サービス業については「専門・科学技術、業務支援サービス業」「保健衛生・社会事業」などに細分化されました。
  • 研究・開発(R&D)の資本化
    旧基準においては、研究・開発(R&D)への支出は中間投入(中間投資)として扱われていましたが、これらは知識ストックを増加させ、新たな応用を生む創造的活動として位置付けられ、総固定資本形成として扱うこととなりました。

3 平成27年度の日本経済・本県経済の概況


平成27年度の日本経済は、国の金融・財政政策や民間投資を喚起する成長戦略を柱とする経済財政政策の推進や原油価格の低下などにより、雇用・所得環境が改善し、緩やかな回復基調が続く状況となりました。ただし、中国をはじめとする新興国経済の景気減速の影響などにより輸出は弱含みとなり、また食品価格等の上昇や冷夏・暖冬といった天候要因などを背景に、個人消費は回復に遅れが見られました。

このような中、本県経済は、日本経済の緩やかな回復基調を受け、総生産の約6割を占める第3次産業が3年連続で増加したことや、主力産業である製造業において、ウエイトが大きい化学や電子部品・デバイス、金属製品などで総生産額が増加したことなどから、県内総生産は名目値・実質値ともに増加し、名目で4兆6,465億円、実質で4兆4,722億円となり、経済成長率は名目+2.9%、実質+1.5%となりました。

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また、県民雇用者報酬、財産所得及び企業所得を合算した県民所得は、3兆5,966億円(前年度比3.4%増)となり、1人当たり県民所得は、3,373千円(同3.9%増)となりました。

各年度の経済成長率と国の経済成長率を併せて時系列で示したものが図1です。

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4 各都道府県の県民経済計算推計結果から


平成30年8月に、各都道府県が推計した平成27年度の県民経済計算の推計結果が内閣府より公表されました。

その概要は、次のとおりです。

(県内総生産(名目))
  • 県内総生産(名目)は、45の県で前年度に比べプラス。地域ブロック別に見ると、全ての地域ブロックでプラス。
  • 第1次産業、第2次産業、第3次産業いずれも全ての地域ブロックでプラス。
(県民所得)
  • 1人当たり県民所得は45の県で前年度に比べプラス。地域ブロック別に見ると、全ての地域ブロックでプラス。
  • 県民所得の内訳を対前年度寄与度で見ると、「県民雇用者報酬」は37の県でプラス、「企業所得」は43の県でプラス、「財産所得」は32の県でプラス。
(実質経済成長率)
  • 実質経済成長率を見ると、39の県でプラス。

※県内総生産(生産側、実質:連鎖方式)に基づく

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この結果から、平成27年度の富山県の1人当たり県民所得は全国第5位と、前年度(5位:遡及改定後)と同順位となりました。

また、実質経済成長率は、+1.5%で全国23位(前年度▲0.5%・全国22位:遡及改定後)となりました。

県内総生産は、名目・実質ともに増加し、いずれも全国29位で前年度と同順位(遡及改定後)となりました。

5 本県推計結果の概況


(1)県内総生産(生産面)から見た本県の経済活動毎の概況について

表4「経済活動別県内総生産(名目)」からは、各経済活動毎にどれだけの付加価値(総生産額)を生み出したのかを見ることができます。

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主な経済活動毎の概況は、次のとおりです。
◯ 農業(名目30.3%増)

農業の総生産額の約6割を占める基幹作物である米の作況指数が前年度の「平年並み」から「やや良」となって収穫量が増加し、米価は3年連続して下落したものの、中間投入額が減少したことなどから、農業全体では30.3%の増加となりました。

◯ 林業(名目11.4%減)

林業の総生産額の約5割を占める栽培きのこ類の産出額が減少したことなどから、林業全体では11.4%の減少となりました。

◯ 水産業(名目4.5%増)

水産業の総生産額の大部分を占める海面漁業において、まいわし等の漁獲量が増加し、また、さんまやぶり類では漁獲量が減少したものの、販売単価が上昇し産出額では増加となったことなどから、水産業全体では4.5%の増加となりました。

◯ 製造業(名目8.9%増)

化学は、医薬品の受託製造や後発医薬品の増加などにより17.8%増加し、県内総生産に占める割合が7.4%と、製造業の中では最も大きくなっています。

はん用・生産用・業務用機械は、海外向け工作機械の減少などにより5.2%減少しました。

一次金属(鉄鋼・非鉄金属)は、アルミニウム圧延製品の減少などにより8.4%減少しました。

電子部品・デバイスは、海外需要の増加などにより13.3%増加しました。

これらのことから、製造業全体では8.9%の増加となりました。

◯ 建設業(名目6.2%減)

建設業の総生産額の約3割を占める民間建築工事や、約1割を占める民間土木工事が増加したものの、約4割を占める公共土木工事が減少したことなどから、建設業全体では6.2%の減少となりました。

◯ 電気・ガス・水道・廃棄物処理業(名目4.6%減)

電気・ガス・水道・廃棄物処理業の総生産額の約7割を占める電気事業において、燃料費が減少したものの、県内火力発電量が減少したことなどから、電気・ガス・水道・廃棄物処理業全体では4.6%の減少となりました。

◯ 卸売・小売業(名目0.7%増)

卸売業は、鉱物・金属材料、機械器具などの販売減少により全体の販売額が減少したものの、卸売業全体のマージン率が上昇したことなどから6.7%の増加となりました。

小売業は、小売業全体のマージン率が上昇したものの、飲食料品、家具建具什器などの販売減少により、小売業全体の販売額が減少し4.1%の減少となりました。

これらのことから、卸売・小売業全体では0.7%の増加となりました。

◯ 運輸・郵便業(名目0.1%増)

運輸・郵便業の総生産額の約6割を占める道路運送業で微減となったものの、その他の運輸業、鉄道業などで増加したことなどから、運輸・郵便業全体では0.1%の増加となりました。

◯ 宿泊・飲食サービス業(名目6.1%増)

宿泊・飲食サービス業の総生産額の約7割を占める飲食サービス業、約3割を占める旅館・その他の宿泊所がともに増加したことから、宿泊・飲食サービス業全体では6.1%の増加となりました。

◯ 情報通信業(名目0.4%増)

情報通信業の総生産額の約5割を占める電信・電話業で減少したものの、情報サービス業、放送業、映像・音声・文字情報制作業で増加したことから、情報通信業全体では0.4%の増加となりました。

◯ 金融・保険業(名目5.4%増)

金融業は、FISIM産出額(金融仲介サービスの価額を推計したもの)や受取手数料が減少したことなどから3.3%の減少となりました。

保険業は、民間生命保険、損害保険が増加したことなどから12.4%の増加となりました。

これらのことから、金融・保険業全体では5.4%の増加となりました。

◯ 不動産業(名目1.1%増)

不動産業の総生産額の大部分を占める住宅賃貸業(持ち家の帰属家賃(※)を含む。)において、住宅床面積が増加したことなどから1.3%の増加となりました。

また、不動産仲介業は0.6%の増加、不動産賃貸業は0.5%の減少となりました。

これらのことから、不動産業全体では1.1%の増加となりました。

(※)実際の住宅賃貸料だけでなく、個人が所有している住宅についても、所有者があたかもその住宅を賃借して借家や借間と同様のサービスが生産されるものと仮定し、それを市場家賃で評価する考え方。

◯ 専門・科学技術、業務支援サービス業(名目2.8%増)

専門・科学技術、業務支援サービス業の総生産額の約8割を占めるその他の対事業所サービス業(職業紹介・労働者派遣業、専門サービス業、技術サービス業など)や、約1割を占める物品賃貸サービス業で増加したことなどから、専門・科学技術、業務支援サービス業全体では2.8%の増加となりました。

◯ 保健衛生・社会事業(名目4.0%増)

保健衛生・社会事業の総生産額の約6割を占める医療業や、約2割を占める介護で増加したことなどから、保健衛生・社会事業全体では4.0%の増加となりました。



(2)所得内訳(分配面)から見た本県の経済状況

次に、各産業の生産活動により1年間で生み出された付加価値が、どのように家計・政府・企業に分配されるかを示した表5「県民所得(分配)」から、平成27年度の状況について見てみます。

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◯ 県民雇用者報酬

雇用者報酬とは、生産活動から発生した付加価値のうち労働を提供した雇用者への分配額を指します。

県民雇用者報酬は県民所得の約6割を占めており、平成27年度は1.1%増の2兆2,152億円となりました。

◯ 企業所得

企業所得とは、営業余剰・混合所得に財産所得の受払を加えたもので、いわゆる経常利益に相当する概念に近いものと言えます。

企業所得は県民所得の約3割を占め、平成27年度は製造業、不動産業などでの営業余剰の増加や個人企業所得の増加などにより8.1%増の1兆1,625億円となりました。

◯ 財産所得

財産所得とは、金融資産からの利子・配当、保険契約者に帰属する財産所得(運用益)、地代などが該当します。

平成27年度は3.9%増の2,189億円となりました。



この結果、平成27年度の県民所得の総額は、3.4%増の3兆5,966億円となりました。

先に述べた「1人当たり県民所得」は、この県民所得の総額を県の総人口で除して算出しており、平成27年度の県人口1,066,328人(※)で割った1人当たり県民所得は3,373千円となりました。

(※総務省「人口推計」による10月1日現在の人口)



(3)県内総生産(支出面)から見た消費・投資の状況

最後に、分配された所得がどのような割合で家庭や政府、企業などで消費や投資に充てられたのかを示した表6「県内総生産(支出側:名目)」から、平成27年度の状況を見てみます。

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◯ 民間最終消費支出

民間最終消費支出とは、家計最終消費支出と対家計民間非営利団体最終消費支出からなり、民間最終消費支出の大部分を占める家計最終消費支出は、居住者である家計が一定期間に行う新たな財・サービスに対する支出のことをいいます。

平成27年度の民間最終消費支出は、0.2%増の2兆4,527億円となりました。これは、民間最終消費支出が前年度と同程度の水準にとどまった一方で、対家計民間非営利団体の最終消費支出が8.7%増加したことなどによるものです。

◯ 政府最終消費支出

政府最終消費支出とは、主に国や地方公共団体、地方公営企業等の公的部門が行う財政、サービスに対する経常的支出等を指します。

平成27年度の政府最終消費支出は、1.3%増の8,493億円となりました。

◯ 県内総資本形成

県内総資本形成とは、民間法人、公的企業、一般政府、対家計民間非営利団体及び家計(個人企業)が新規に購入した有形・無形の資産(中間消費とならないもの)を指します。

県内総資本形成は、民間企業の設備投資や住宅投資が増加したことなどにより、7.8%増の1兆1,357億円となりました。



これらの支出・投資に、財貨・サービスの移出入、統計上の不突合も加えた平成27年度の県内総生産(支出側:名目)は、生産側の県内総生産の総額である4兆6,465億円と同額となります。

6 おわりに


以上、平成27年度富山県民経済計算の推計結果及び全国の概況、各経済活動毎の状況等についてご紹介しました。

県民経済計算は、県の経済規模や産業構造などを総合的に捉えることができる経済指標です。この県民経済計算が、行政や企業、各種団体において、施策立案や経済活動など様々な分野でより一層有効に活用されるよう、国の基準改定等に適切に対応しつつ、工夫を重ねながら、今後とも推計精度の向上に努めていきたいと考えています。




富山県の平成27年度県民経済計算の推計結果、及び都道府県の推計・公表とりまとめ結果については、下記ホームページをご覧ください。

○平成27年度富山県民経済計算の推計結果
http://www.pref.toyama.jp/sections/1015/lib/k3/index.html(とやま統計ワールド)
○平成27年度県民経済計算について(都道府県の推計・公表とりまとめ結果)
http://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/sonota/kenmin/kenmin_top.html(内閣府ホームページ)
とやま経済月報
平成30年10月号