特集

子育て共助のまちづくりを目指して

舟橋村 総務課

1 はじめに


舟橋村は富山平野の中央部に位置し、人口約3,000人、面積は3.47km2の日本一小さな自治体です。平成に入ってから富山市のベッドタウンとして人口が倍増し、平成22年の国勢調査では15歳未満の年少人口割合が全国1位を記録するなど、働き世代・子育て世代が多い活気あふれる村となっています。

中心部に位置する役場や小中学校までは村内どこからでも約1km以内と非常にコンパクトで、村の中心には富山地方鉄道本線が通り、村立図書館を併設した越中舟橋駅が村の公共交通の要となっています。その越中舟橋駅から富山市中心部の電鉄富山駅までは約15分、また車でも約20分とアクセスがよく、交通の利便性の高い立地にあります。

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舟橋村上空から

2 地方創生「子育て共助のまちづくり」モデル事業


近年、村の人口は横ばい傾向にあり、近い将来の深刻な少子化・高齢化が予測されているほか、急激な人口増によって住民の半数以上が転入者となったことから、新旧住民の融和が不可欠な状況にあります。

これを踏まえ、平成27年度からは、京坪川河川公園(愛称:オレンジ・パークふなはし)を拡張し、ここに隣接する認定こども園、及び子育て賃貸住宅を建設し、これらが相互に連携し合うことで、人と人とのゆるやかなつながりのなかで安心して子育てをすることのできるモデルエリアとして整備を進めています。

特に公園では、小学生10名を「こども公園部長」に任命し、公園を管理する造園事業者とともに、「ここに来たら、一緒に遊びたくなって、いつの間にか友達ができちゃう公園」の実現を目指し、公園のイベント企画・運営から遊具の整備や資金集めまでを実際に担ってもらっています。

そして、子どもたちが描いた公園の夢の設計図の実現を目指して、昨年度はクラウドファンディングを実施し、全国各地の100名以上の方から賛同を得ることができました。クラウドファンディングは近年全国の多くの自治体でも導入されていますが、こうした村予算にとらわれない新たな資金獲得の手法を用いて地域住民が自らの力でまちづくりを行う視点、そしてまちづくりに関心を持ってもらい、人を巻き込んでいく手法は、これからの本村にとっても欠かせないものと感じています。

また、毎月1回開催している「月イチ園むすび」では、こども公園部長やその保護者、友達や遊びに来た村外の親子も巻き込んで、月変わりで一風変わったイベントを実施しています。これは、子どもたちが協力して火をおこしてお湯を沸かし、持ち寄ったカップラーメンを交換して初対面の家族同士が同じテントで肩を寄せ合って食べるなど、公園を舞台に子育て世代同士のつながりを生み出そうと企画しているものです。

このオレンジ・パークは、平成16年に一部供用開始された都市公園です。面積3.4haの広大な敷地をもつこの公園には、きれいに剪定された芝生が広がっていますが、かつて、この公園には人影がまばらで、ほとんど使われていませんでした。公園は本来、眺めて楽しむものではありません。地域住民がつかいこなし、必要とされる公園を目指して、新しい公園のあり方を模索しています。

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クラウドファンディングで資金を集めてつくった水遊び広場で遊ぶ「こども公園部長」

3 かもしか図書館

中部の駅百選にも選ばれた越中舟橋駅には、駅舎と一体となっている村立図書館があり、村内外問わず多くの方に愛され、住民一人当たり年間貸出冊数は、開館以降、全国1位の記録を更新し続けています。

図書館を含め、村の公共施設では、利用者は靴を脱いで入館します。この図書館では、木のぬくもりあふれる全床フローリング、床暖房を完備したフロアには本棚が低く配置され、小さなお子さんからお年寄りまでがゆっくりとくつろげる空間となっています。

そしてスタッフは、来館者とのふれあいを大切にしています。はじめて遊びに来た子どもには名前を聞いて、次に来館されたときには「○○ちゃん、こんにちは」と声をかけます。

村立図書館では、登録者の8.5割以上が村外利用者で、近隣の富山市や上市町、立山町はもちろん、高岡市や氷見市、朝日町や入善町など、県内各地から来られる方も多くいらっしゃいます。来館者が安心して、自分のペースでくつろげる工夫が随所にあり、これが利用者にとっての「サードプレイス」、つまり「自分の居場所」と感じられる空間たらしめています。

今から10年前、平成20年7月3日には、ニホンカモシカが図書館に迷い込む事件が発生し、全国ニュースになりました。ちょうど図書館開館10周年記念の年でもあり、カモシカがこれをお祝いしてくれたのでは、と話題に。この事件を題材にした絵本「かもしかとしょかん」も発刊されています。

今年は図書館開館20周年、カモシカが図書館に迷い込んでから10年の節目です。村立図書館では、「かもしかとしょかん」の続編となる絵本「としょかんやさん」を発刊し、記念すべき一年をお祝いしています。

図表
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村立図書館に迷い込んだカモシカと、絵本「としょかんやさん」

4 子育て中の親子が集まる子育て支援センター"ぶらんこ"


平成27年、村の子育て支援センター"ぶらんこ"がオープンしました。口コミで登録者数は右肩上がりに増え、現在では750名以上、その8割以上を村外利用者が占めています。

そして現在、支援センターを機に「舟橋村への転入」を考える家族もでてきています。


村の子育て支援センターで特に心がけていることは、主に3つあります。

① 行政はなるべく介入せず、利用者の声を拾い上げながら柔軟に対応すること

行政がつくったルールは、ときに利用者が使いづらく、利用されない施設をつくってしまいます。利用者の声を丁寧に拾い上げながらの運営を目指しています。


② 利用者同士のゆるいつながりをつくること

通常の支援センターでは経験豊富な保育士をスタッフに雇用し、利用者は困ったことがあったときにスタッフに相談し、子育てに関する悩みを解決する場として機能しています。

しかし、子どもが小さいときは、24時間、いつどこで何があるかわかりません。支援センターがオープンしているときはもちろん、支援センターがなくても頼れる人がいる、そんな安心感を狙って、ぶらんこでは利用者同士のつながりづくりを心がけています。


③ 利用者にイベントなどの企画・運営に関わってもらい、一緒につくること

イベント時のハンドベル演奏をママ有志にお任せしたり、子どもヘアカット教室講師を美容師ママにお願いしたり、英語の得意なママが英語絵本の読み聞かせをしたりと、ママがゲストスタッフとして運営に関わる場面が多々あります。クリスマス前にはクリスマスツリーをあえて飾りなしで置き、ちびっことママに手作りのオーナメントを作って飾ってもらう等、誰でも気軽に参加できる企画も用意しました。

サービスを受けるだけではなく、イベントに関わって一緒に作り上げる楽しさを感じてもらうとともに、この仕組みを通した利用者同士のつながりも深めています。



子育て支援センターによって、村の子育て環境は大きく変わりつつあります。村外の子育て親子とのふれあいを通して、村内の子育て親子の情報網は広がり、幅広い視野を持つことができます。そして、これまでできなかったことにも挑戦でき、お母さん同士で少しの時間子どもを預かる「ちょこっとお預かり」や手作り品を販売する「レンタルボックス」、小学生のたまり場づくり「Jr.ぶらんこ」など、新しい企画もどんどん生まれてきています。

はじめての子育てや村外からの転入、親や友達など頼れる人も周りにいない。そんな不安が多く、孤独感を感じがちな子育て世帯に、「地域に見守られながら子育てをする安心感」を感じながら、楽しみながら子育てをしてもらいたいと思っています。

そして、こうした一連の取り組みは、利用者の意識も変えつつあります。「こんな支援センターがあるくらいだから、ここはきっといいまちだ」という期待感から、村の住宅情報を村在住の子育てママに聞く村外のママや、実際に一戸建てを購入された方も出てきています。

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子育て支援センター"ぶらんこ"

5 『奇跡の村・舟橋』


昨年、富山新聞の一人の記者が村を取材し、同紙に100回にわたる連載記事が掲載されました。こども公園部長や村立図書館、子育て支援センターでの取り組みなど、進化し続ける村の姿を描いたものです。その連載がこのたび、『奇跡の村・舟橋 日本一小さな村の人口は、なぜ倍増したか?』として、一冊の本になりました。


富山・石川県内の書店では売り切れが相次ぎ、東京都や大阪府、北海道や福岡県など、全国各地の自治体や公共図書館から注文があるほか、村に視察に来た各地の議員さんが何冊も購入いただくなど、多くの方から注目をいただいています。

地方創生を考えるヒントがたくさん詰まっていますので、ご興味のある方はお手に取ってみてください。村役場・村立図書館でも販売しています。

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『奇跡の村・舟橋 日本一小さな村の人口は、なぜ倍増したか?』1,700円(税込)

6 おわりに


近年、「関係人口」が関心を集めています。人口減少、少子高齢化が進むなか、各地で転入促進施策による地域間競争がますます熾烈さを増しています。しかしながら、これからの時代は、人の奪い合いではなく、近隣市町村や民間企業とも連携しながら、地域としてのまちづくりを考えていく必要があります。そして、交付税の削減などが予測される中、共助、そして地域ぐるみでのまちづくりを模索していかなければ、まちが立ち行かなくなることは明白です。市町村の垣根を越えて、住民だけではなく、仕事をしている方、イベントや施設に来る方など、様々な方のほっとする居場所として、多くの方を巻き込みながらまちづくりを進めていきたいと思っています。




とやま経済月報
平成30年10月号