特集

世界に注目される「薬都とやま」の実現を目指して

富山県 厚生部 くすり政策課

 

1 はじめに


富山県は国内トップレベルの医薬品生産拠点となっていますが、県では、医薬品産業のさらなる飛躍のため、付加価値の高い製品の開発、国際展開等の支援や産業を支える人材の育成等に取り組んでいます。

2 「くすりの富山」の強み


「くすりの富山」の歴史は、今から300年以上前の江戸時代の配置薬業に始まります。「先用後利」という顧客との信頼関係のもとに成り立つ販売形態などを通じて、「くすりの富山」は全国に知られる地域ブランドとなりました。

県内には現在、新薬をはじめ、ジェネリック医薬品、一般用(OTC)医薬品、配置用医薬品など、多種・多様な医薬品を製造する企業とともに、医薬品の包装容器等の周辺産業が集積しています。特に、貼り薬や塗り薬、目薬、吸入薬など、特徴のある医薬品を、高い技術で製造する企業が多く、本県で製造された医薬品は、国内のみならず海外にも販売されています。

富山県の医薬品生産金額は、平成27年に都道府県別で初めて全国第1位となり、国内トップレベルの医薬品生産拠点を形成しています。

図表
出典:薬事工業生産動態統計(厚生労働省)

3 新製品開発や国際展開の推進


今後、富山県医薬品産業のさらなる振興を図っていくためには、海外市場への進出や新たな製品の開発を進めることが重要であり、平成28年6月に日本唯一の医薬品審査機関である(独)医薬品医療機器総合機構(PMDA)の北陸支部と日本の医薬品等の規制制度を学ぶアジア医薬品・医療機器トレーニングセンター研修所が本県に開設され、海外からの研修生を受け入れています。同年12月には、アジアや中南米、ヨーロッパの12の国と地域から来県した19名の薬事行政職員に、GMP(医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理に関する基準)調査に関する研修を実施しています。本県での研修を通じて、医薬品生産拠点としての本県の知名度が高まり、県内製薬企業などの国際展開に役立つことが期待されています。

また、平成28年度から国立医薬品食品衛生研究所と県の研究機関である薬事研究所では、生薬エキスを用いた医薬品の開発を円滑化するための共同研究を実施しています。本県には、生薬を活用した和漢薬を製造するメーカーが多数所在しており、共同研究の成果が、メーカーにおける新製品の開発の促進につながることを期待しています。

さらに、近年医薬品のニーズが多様化しており、例えば小児用の医薬品については「苦味が少ない」など、より飲みやすい製品が求められています。このため、平成29年3月に国立成育医療研究センターと県内の大学・関係団体(富山県、富山県薬業連合会、富山大学、富山県立大学、富山県薬剤師会、富山県病院薬剤師会)との間で「小児用医薬品の開発促進に係る連携協力に関する協定」を締結し、付加価値の高い製品の開発を積極的に進めていくこととしています。

図表
PMDA北陸支部開設
図表
小児用医薬品の開発促進に関する連携協定締結

平成30年2月には、医薬基盤・健康・栄養研究所と「医薬品と生物資源等の開発促進に関する連携協力協定」を締結し、バイオ医薬品の研究開発等を進めるほか、画期的なアジュバント(ワクチンの効果の増強剤)の実用化促進や県薬用植物指導センターにおける薬用植物の栽培・種苗管理や品質管理について連携を進めていく予定です。

また、平成21年に石井知事自らが、「世界の薬都」であるスイス・バーゼル地域を訪問し、2つの州(シュタット州、ラントシャフト州)政府と協定等を締結して以来、医薬品分野を中心とした交流が進んでいます。翌年の平成22年からは2年に1回、産学官によるシンポジウムを本県とバーゼル地域で交互に開催しており、本年8月には富山県で開催することとしています。

平成29年には、石井知事が改めてスイス・バーゼル地域を訪問し、バーゼル大学副学長等や両州政府首脳と意見交換しました。バーゼル大学では、県から県立大学とバーゼル大学との新たな学術交流協定について提案するとともに、来年富山県で開催するシンポジウムへのバーゼル大学からの教授等の参加や同シンポジウムにあわせた学生向けの講義等について要請しました。両州政府においては、平成21年の協定締結から8年が経過し、その間、バイオ医薬品の研究開発が促進するなど、両州と本県を取り巻く環境が変化していることを踏まえ、協定等の充実について提案したところ、両州政府から「交流をより充実して続けたい」との回答がありました。

図表
バーゼル大学副学長等との懇談
図表
医薬基盤・健康・栄養研究所との連携協力協定締結

4 医薬品産業を支える人材の育成


県薬事研究所では、製剤開発や創薬研究を支援するため、製剤機器や分析機器等を整備し、県内大学生を対象とした製剤実習や中学・高校生を対象とした薬剤業務体験学習等を実施しています。また、医薬品産業を工学の観点から支える人材を育成するため、平成29年4月、県立大学工学部に医薬品工学科を開設しました。

国においては、地方創生のための地方大学の振興等に向けた動きが具現化してきており、平成30年度政府予算案に、「地方大学・地域産業創生事業」として、100億円が計上されました。本県では、この事業の支援対象に選ばれるよう、産学官連携のプロジェクトに取り組むこととしており、国内有数の医薬品生産拠点としての特色を活かし、県内の大学と医薬品産業界に加え、政府関係機関等とも密接に連携協力し、医薬・バイオ分野の研究開発を推進するとともに、東京圏の学生を対象とした教育プログラムの提供を検討しています。

5 薬都とやまが世界に羽ばたくために


県では、今後大きな成長が期待されるバイオ医薬品等について、県内製薬企業による研究開発への支援体制を強化するため、本年4月に「薬事研究所」を「薬事総合研究開発センター」に抜本的に改組し、同センターの下に「創薬研究開発センター」、「製剤開発支援センター」、「薬用植物指導センター」を設置することとしています。

「創薬研究開発センター」には、バイオ医薬品等の付加価値の高い製品の研究開発を促進するため、各種の質量分析計や多機能超高速液体クロマトグラフなどの高度な分析機器等を設置するとともに、企業や大学向けの相談室や研修室等を整備し、本年5月から供用開始することとしています。

「製剤開発支援センター」には、医薬品の開発につながる製剤機器等を設置し、県内製薬企業における新製品開発の促進につなげます。

「薬用植物指導センター」は、薬用植物の栽培普及を図るため、栽培・調製加工法の確立、種苗の供給等を行っていますが、国の平成29年度補正予算における地方創生拠点整備交付金を活用し、品質の高い薬用作物の栽培、生薬生産を支援するため、新たに技術研修棟等を整備することとしています。

図表
富山県薬事総合研究開発センター 創薬研究開発センター

今後とも、本県の特色・強みを活かしながら、世界に注目される「薬都とやま」の実現を目指して一層の取組みを進めていきます。

とやま経済月報
平成30年3月号