特集

「Connected Factory 富山」の構築に向けたIoTの推進

富山県 商工労働部 商工企画課

 

1 はじめに


労働生産性を高めるうえで、近年、IoT(Internet of Things:モノのインターネット)の活用が注目されています。これは、コンピュータなどの情報・通信機器だけでなく、世の中に存在する様々なモノに通信機能を持たせて、インターネットに接続し相互に通信することにより、自動認識や自動制御、遠隔計測などを行うことです。

欧米先進国では、労働生産性を高めるための第四次産業革命の波が起こっており、日本も、そして富山県もこの波に乗り遅れないようにする必要があり、本県では、平成28年度に「富山県IoT活用ビジネス革新研究会」を立ち上げ、県内ものづくり企業のIoT利活用の方策や人材育成の必要性などについて議論を行い、今年度新たに、産学官金の関係者が集うIoT導入・活用促進のための組織「富山県IoT推進コンソーシアム」の設立に至りました。

県としても、生産性向上のモデル的な取組みに対する助成制度や、県制度融資に全国で初めて実質無利子の「IoT支援特別資金」を創設し、県内企業のIoT導入促進などに取り組んでいます。このほか、ビジネスコンテストの実施、IoT等の新技術の導入プランの募集や実現可能性の調査等を行い、共通モデルを構築すること等により、県内企業への新技術の普及・展開につながるよう取り組んでいきます。

本論では、コンソーシアムの活動や県のIoT導入支援のための取組みをご紹介します。

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図表
図1:富山県IoT推進に向けた取り組みについて

2 「富山県IoT推進コンソーシアム」の設立


2−1 概要

平成29年9月4日、県内企業へのIoT導入・活用を促進していくため、意欲ある産学官金の関係者が集い、意見交換や交流を進めるための組織「富山県IoT推進コンソーシアム」の設立大会を開催しました。このコンソーシアムは、石井驤齦x山県知事を名誉会長とし、(一社)富山県機電工業会会長の大谷渡氏を会長に、東京大学大学院工学系研究科教授の森川博之氏を顧問に迎え、244の企業・団体等の会員と共にスタートを切りました。

コンソーシアムのねらいは、県内企業が、IoT導入の成功事例やメリット、国・県の施策等を知り、企業の特徴・段階に応じたIoT導入への第一歩を踏み出すきっかけをつくり、独り立ちを支えるいわば「卵の孵化(ふか)器」の役割を担うことです。コンソーシアムの活動を通じて、IoTを最大限活用した企業間連携による生産性向上や、新たな付加価値創出につなげる「Connected Factory 富山」の構築を目指します。

設立大会当日は、森川顧問に「新たな価値創造の時代:データが価値を生み出す」と題し講演いただいたほか、ITベンダーのIoTツールを展示した名刺交換会を実施。243名の皆様にご参加いただき、盛況のうちに終了しました。

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図表
図2:富山県IoT推進コンソーシアム設立の目的・組織体制

図表 図表
富山県IoT推進コンソーシアム設立大会の様子

2−2 会員構成

平成29年11月30日現在、会員数は285にのぼり、その約6割をものづくり県の牽引力となる製造業が占めています。一方で、残る4割は非製造業iとなっており、業種を問わないIoTへの関心の高さ、また、IoT活用の可能性の大きさが伺えます(図3)。

業種別にみると、製造業では金属製品製造業が38.3%と最も多く、次いで生産用機械製造業11.1%、プラスチック製品製造業及び電気機械器具製造業が7.4%と続きます(図4)。一方、非製造業では、ITベンダーなどの情報サービス関係が26.8%と最も多く、次いで各種商品卸売業及び機械器具卸売業を含む卸売関係26.0%、土木工事や電気工事等を含む工事関係9.8%と続き、そのほか金融・保険関係や社会福祉・介護関係などが参画しています(図5)。

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図3:製造業と非製造業の会員構成割合
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図4:製造業の業種別会員構成割合
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図5:非製造業の業種別会員構成割合

2−3 入会申込時のアンケート調査から

1) IoTへの取組状況や影響度

コンソーシアムへの入会申込時に行ったアンケート調査では、問1「あなたの組織では、IoT化に取り組んでいますか」(図6)の問いに対し、製造業の21.7%、非製造業の33.3%が「①既に取り組んでいる」の回答でした。また、製造業、非製造業ともに「③時期は未定だが取り組む」が4割を超えて最も多い結果となりました。

加えて、問2「あなたの身の回りではIoTはどの程度の影響を及ぼしていますか」(図7)の問いに対しては、製造業の約7割、非製造業の約9割が「①既に大きく影響している」または「②これから影響が出てくる」との回答で、県内企業にとってもIoT導入の必要性や影響度が高まっています。

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図表
図6:問1「あなたの組織では、IoT化に取り組んでいますか」

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図7:問2「あなたの身の回りではIoTはどの程度の影響を及ぼしていますか」

2) IoT化の目的・ねらい

問3「IoT化(これからIoT化する場合も含む)の目的・ねらいはなんですか」(図8)の問いに対しては、製造業では、「①企業内の生産性向上(品質、コスト低減)等」が86.0%と最も多く、次いで、「③人手不足対策(後継者対策、IoT人材の育成)」が40.1%となりました。ITベンダーからは、IoTを活用した新たな製品の展開や、製造業に対し工場等で活用できるIoTツールを提案したいとの回答もいただいており、製造業とITベンダーの交流機会を作ることで、より相互のニーズを満たしていくことができると考えています。

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図表
図8:問3「IoT化(これからIoT化する場合も含む)の目的・ねらいはなんですか」
(複数回答)

3) IoT導入・活用にあたって必要なもの

問4「IoT導入・活用にあたってどのような情報やスキルが必要だと思いますか」(図9)の問いについては、製造業では「①IoTに関する適用事例や費用対効果についての解説」が74.5%、次いで「③IoTツール類の情報(安価で簡単な装置・仕組みの情報)」65.0%、非製造業では「③IoTツール類の情報(安価で簡単な装置・仕組みの情報)」と「⑤システム構築技術のスキル・ノウハウ」がともに65.8%と最も多くなりました。

製造業では、各企業や工場でIoTを導入・活用していくために具体的な導入事例やツールの情報が、非製造業では、新たなサービス提供のためのスキルについての情報が求められています。

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図9:問4「IoT導入・活用にあたってどのような情報やスキルが必要だと思いますか」
(複数回答)

2−4 「富山県IoT推進コンソーシアム」の活動

以上の会員アンケートの結果をふまえ、コンソーシアムで行う具体的な活動をご紹介します。

1) 相談窓口

IoT導入を検討している企業の手助けとなるよう、(公財)富山県新世紀産業機構「よろず支援拠点」に個別相談窓口を設けました。平成29年11月30日現在、ITやIoTに関する相談は54件寄せられており、「自社のIoT機器導入の可能性や方法を知りたい」、「IoT機器を開発するための資金的な支援策を知りたい」といった内容になっています。

2) ワークショップ

IoT導入を通じた現場改善や新サービスの提供に意欲を持つ企業を対象に、自社でのIoTの導入に向けたプランを作成する参加型のワークショップを開催しています。「ものづくり企業における生産最適化」や「販売予測のシステム化」などをテーマに、このワークショップを通じて学んだことを、自社でのIoT導入につなげてもらいたいと考えています。

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ワークショップの様子

3) 青年委員会

コンソーシアム会員企業の中から、現場に携わる若手技術者などが組織の枠を越えて集う「青年委員会」の活動も始まっています。この活動は、IoTを導入するための技術等への理解を深めるとともに、県内企業におけるIoT導入活用に向けた人的ネットワークを強化し、県内企業の連携のきっかけをつくることが目的です。製造業やITベンダー、大学教員等、14名の委員が、「企業間連携」と「社会課題解決」の2つのテーマのもと、課題・現状の把握とIoT導入・活用の可能性を検討しています。

例えば、「企業間連携検討ワーキンググループ」では、「同じ製品を製造する複数の企業が協力して、人員や機械の稼働状況をデータ化し、全体の受注量に応じた最適な共同受注体制を構築すること」など、IoTを活用した企業間連携に関する実証プランを作成していきます。

また、「社会課題解決ワーキンググループ」では、人手不足の対応や伝統技術の保存・継承など、地域が抱える課題をIoTを活用して解決するプランの検討を行っていきます。

いずれも大きなテーマではありますが、今後は、県内の大学生にも参加してもらい、柔軟な発想でIoT活用を検討していきたいと考えています。

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青年委員会の様子

3 IoT導入・活用のための県の支援施策


1) IoT導入活用支援補助金

今年度新たに、モデル的なIoTの取組みを支援するため「富山県IoT導入モデル事業費補助金」を創設し、①メンテナンス作業の効率化を図り、金型部品の故障の予知及び保全を実現する、②作業員の動線を可視化し、最適な動線を共有、作業効率を上げ省力化に繋げる、③設備の稼働状況を見える化し、人員配置を最適化する、など7件の事業を採択しました。採択企業の成果を公表することで、これらの取組みが、他の企業にも広がるモデルとなることを期待しています。


2) IoT支援特別資金

また、今年度から、県の中小企業向け制度融資に「IoT支援特別資金」を創設しました。IoTを用いた設備投資による生産性向上を図ることを目的とし、生産性またはエネルギー効率が1%以上向上するIoTを用いた設備導入に対し、1,000万円を上限とし、県の利子補給により実質無利子で融資を受けられる制度となっています。平成29年11月30日現在、8件の融資が実行されています。


表1 「IoT支援特別資金」の概要
対象 IoTを用いた設備※を導入し、生産性またはエネルギー効率の1%以上の向上を図る中小企業者
限度額 1千万円(知事特認1千5百万円)
融資期間 10年以内(うち据置期間1年以内)
利率 年0.60% 県の利子補給により実質無利子
(別途保証料0.35〜1.05%が必要。ただし、金融機関の判断で保証を付けないことも可能)
融資枠 6億円(1千万円×30件=3億円、1千5百万円×20件=3億円相当)
取扱期間 2年間(平成29年4月1日〜平成31年3月31日)

※複数の機械等がネットワーク環境に接続され、そこから収集される各種の情報・データを活用して、①監視(モニタリング)、②保守(メンテナンスサービス)、③制御(コントロール)、④分析(アナライズ)のうち、いずれか1つ以上を行い、事業費の総額が100万円以上のもの。



3) とやまIoTビジネスアイデアコンテスト

「とやまIoTビジネスアイデアコンテスト」は、今年度から新たに実施するコンテストです。健康寿命の延伸や人手不足への対応、地域公共交通の活性化など、地域が抱える課題について、IoTを活用して解決するためのアイデアを募集し、ビジネスプランとして事業化を支援することを通じて、企業や学生がデータの利活用について考える契機にするとともに、IoT導入・活用を支える人材育成にもつなげたいと考えています。

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図10:とやまIoTビジネスアイデアコンテスト2017チラシ

4) 実証実験の実施による標準仕様の提供

平成29年度県9月補正で予算措置された、「生産性向上・付加価値創出促進モデル構築事業」では、県内企業から寄せられたIoT活用やロボット導入などの企画案について、県内大学等の協力を得ながら、導入方法や採算面に関する実証実験を行うこととしています。

県内企業が活用しやすい標準仕様を提供することにより、IoT導入を後押しし、生産性の向上や新たな付加価値の創出につながる支援を行っていきます。

4 おわりに


富山県IoT推進コンソーシアムの活動や県の各種支援事業を通じて「Connected Factory 富山」を構築し、県内企業の生産性向上や新たな付加価値の創出につなげていきたいと考えています。ぜひ各種施策をご利用いただくとともに、コンソーシアムの活動にもご参加ください。


富山県IoT推進コンソーシアム
 http://www.pref.toyama.jp/cms_sec/1301/kj00017875.html


平成29年度中小企業向け融資制度(商工労働部経営支援課)
 http://www.pref.toyama.jp/cms_sec/1300/kj00012293.html



i 入会申込書に記載の「業種」をもとに、商工企画課において、日本標準産業分類の大分類「製造業」とそれ以外(非製造業)に大別し、それぞれについて中分類に基づき業種を整理したもの。

とやま経済月報
平成30年1月号