特集

人手不足は構造的な問題1

日本銀行富山事務所長 工藤 治

 

1 はじめに


新年あけましておめでとうございます。

2017年は富山県の景気が拡大局面に入った年でした。日本銀行富山事務所では、2017年5月に公表した「富山県金融経済クォータリー(2017年春)」2 において富山県の景気判断を「着実に回復している」から「緩やかに拡大している」に引上げ、それ以降も景気は良好な状態にあります。

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この間、日本銀行金沢支店では2017年12月15日に公表した「北陸の金融経済月報(2017年12月)」3 において、富山県を含む「北陸地区の景気は拡大している」と景気判断を一段引き上げました。

景気が緩やかに拡大している中、県内の労働需給は引き締まり、企業の人手不足感は高まっています。しかしながら、県内の労働需給の引き締まりは景気の好調さだけが原因とは言えず、富山県の経済構造に起因していると考えられます。

2 足許の景気動向


富山県の景気は、緩やかに拡大しています。①家計部門が、所得環境の好転等を背景に個人消費を中心に着実に持ち直しているほか、②企業部門では、電子部品、はん用・生産用・業務用機械および化学を中心に高水準の生産を継続しており、設備投資および企業収益は高水準を維持しています。また、③公共投資についても、2016年度補正予算の執行が順調に進んでいるうえに、2017年度予算による工事発注の動きもみられています。

こうした中、企業のビジネスマインドは製造業を中心に良好な状態を維持しています。日本銀行の「短観」4をみると、富山県の企業の景況感(業況判断DI5)は、2013年以降概ね「良い」超で推移しています(図表1)。

(図表1)業況判断DI(全産業)の推移
図表

3 富山県の雇用情勢


(1)求人数、求職者数の推移

景気が緩やかに拡大している中で、県内の雇用情勢も着実に改善しています。企業の求人数が着実に増加する一方、就業の進展により求職者数が減少し、労働需給は引き締まりをみせ、企業の人手不足感は高まっています(図表2、図表36)。

(図表2) 富山県の求人数、求職者数の推移(就業地ベース、季節調整済)
図表
(図表3) 雇用判断DI(北陸、全産業)の推移
図表
(2)有効求人倍率の推移

富山県の有効求人倍率(就業地別・季節調整値)7は、全国を上回る状態が続き、2017年6月以降2倍を超え、10月は2.01倍(全国1.55倍)となっています。富山県の2.01倍は全国で2番目の高さです(図表4)。

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因みに、2017年10月の有効求人倍率が最も高かったのは、福井県(2.08倍)で、石川県(1.81倍)も全国で7番目の高い倍率となっています。

もっとも、富山県の有効求人倍率が全国の水準を上回っているのは、今回の景気拡大局面だけではありません。(図表5)は、有効求人倍率の長い期間の推移を示したものですが、富山県の有効求人倍率は、ほぼ全期間にわたって全国を上回る水準にあります。特に景気が拡大する局面では、全国に比べ早い時期から上昇を始め、全国を大きく上回る水準まで上昇し、労働需給の引き締まり度が強くなっています。

(図表4) 有効求人倍率(就業地別)の推移
図表
(図表5) 有効求人倍率(受理地別)の推移
図表
(3)有効求人倍率上昇の要因

このように富山県の有効求人倍率が高いのは、経済環境が良いという要因に加え、労働力の需要、供給面で以下の2点が要因として考えられます。

① 富山県が「モノづくり」の拠点であること。

小売り・サービス業等の非製造業では、企業が所在している地域に商品・サービスを提供することが多い一方、製造業は企業が所在している地域だけではなく、日本全体、更に海外に向けて製品を供給していかなくてはなりません。そのため、景気が良くなると、地域の人口とは関係なく仕事が増え、その結果として求人も増えていきます。とりわけ、電子部品や各種機械など様々な製造業が集積する富山県および北陸各県では、こうした傾向が強くみられます(図表6)。

(図表6) 製造業従事者比率と有効求人倍率
図表

② 富山県では女性と高齢者の雇用が他の地域に比べて進んでいること。

2015年の国勢調査をみると、富山県の女性の就業率は50.8%、高齢者は24.2%と、ともに全国の中では上位に位置します(図表7)。昨今、人手不足が深刻化する中、全国で女性と高齢者の就業の増加が重要な役割を果たしています。しかし、富山県および北陸各県では、女性と高齢者の就業がもともと進んでいることもあり、さらに就業を増加させる余力が限られています。

(図表7) 女性・高齢者の就業状況
図表

4 今後の課題


これまでみたとおり、富山県における雇用の引き締まりや人手不足は、富山県の経済構造によるものであって、少子・高齢化による人口減少が進展する下では時間の経過によって解決できる問題とは言えません。そのため、今後は人手不足を前提とした企業活動が求められます。

各企業においては、少ない人員でより多くの付加価値を生み出すべく、既に設備投資を実施するとか、事務プロセスの見直しを行う、または従業員の能力向上に取り組むとする先があります。如何に限られた人員で企業活動を活発化させ、売上げ、収益に結びつけていくか、即ち、如何に生産性を向上させるか、が今後のビジネスの鍵になると考えます。

各企業の生産性向上への取り組みが拡大していけば、経済の基礎体力が強化され、より息の長い景気拡大に繋がっていくと考えられます。富山県経済にとって、足許の人手不足は確かに深刻な問題であり、将来へのリスクではありますが、問題として捉えるのではなく、前向きに対処していくことで、経済基盤の強化に繋げていくことが大切と考えます。


1 本稿で示された意見等は筆者のものであり、日本銀行の公式見解ではありません。

2 「富山県金融経済クォータリー」については、日本銀行富山事務所のホームページ(http://www3.boj.or.jp/toyama/index.html)をご参照下さい。

3 「北陸の金融経済月報」については、日本銀行金沢支店のホームページ(http://www3.boj.or.jp/kanazawa/index.htmll)をご参照下さい。

4 「短観」は、「全国企業短期経済観測調査」の略。四半期毎に全国の企業に対して行っている業況感や事業計画に関する調査です。現在、全国では約11,000社、北陸3県では348社が調査対象先になっています。

5 DI(Diffusion Index)とは、三択式を採っている短観の判断項目において、「第1選択肢の回答社数構成比(%)」−「第3選択肢の回答社数構成比(%)」で得られる数値です。業況判断を例にとると、「良い(第1選択肢)という回答の構成比」から「悪い(第3選択肢)という回答の構成比」を引いたものが業況判断DIとなります。単位は「%ポイント」です。

6 「雇用判断DI」は、雇用人員が「過剰という回答の構成比」から「不足という回答の構成比」を引いたものです。

7 就業地別有効求人倍率とは、実際に就業する都道府県ごとに集計した求人数および求職者数を用いた都道府県別の有効求人倍率です。

とやま経済月報
平成30年1月号