特集

富山県立大学看護学部の開設について

富山県 厚生部 医務課

1 はじめに


富山県立大学看護学部は、今年8月に文部科学大臣から設置を認可されたところです。現在、県立中央病院に隣接する県立総合衛生学院の校舎も利活用しながら新たなキャンパス(富山キャンパス)の整備を行っており、今年9月には教育棟が竣工し、11月には第1期生となる入学者の推薦入試を実施するなど、来年4月の学部開設に向けての準備を着実に進めているところです。

ドンドンマスマス成長していく富山県立大学に、新たに設置される看護学部についてご紹介いたします。

図表
現在整備中の富山県立大学看護学部の全景(イメージ)

2 富山県立大学看護学部開設の経緯


近年、少子高齢化の急速な進行や疾病構造の変化等に伴い、医療、保健、福祉をめぐる環境が大きく変化する中、誰もが住み慣れた地域で安心して生活を送ることができるよう、医療・介護提供体制の一層の充実が求められています。とりわけ看護職員には、患者・家族の気持ちに寄り添った、より質の高い医療や保健福祉サービスの担い手として県民の皆様から大きな期待が寄せられています。

本県ではこれまで、看護師の養成・確保や離職防止・職場定着、潜在看護師の再就業支援などに積極的に取り組んできており、県内で就業する看護職員数は順調に増加していますが、公的病院を中心とした県内医療機関からは、大学卒の看護師の採用を希望する声も多く聞かれています。また、近年では、毎年80人から90人、今年4月には120人ほどの高校生が、県外の看護系大学に進学している状況です。

本県では、平成27年3月に「富山県看護系高等教育機関整備検討委員会」(委員長:松谷有希雄国立保健医療科学院長)を設置し、同委員会において、看護系高等教育機関の整備・充実が、質の高い看護職員の育成に加え、若者や女性の県内定着促進など地方創生の観点から有効な方策かどうか等について積極的なご審議をいただきました。これを受けて、本県では、若者や女性の県内定着の促進や、県内各市町村の医療機関等へのより質の高い看護人材の供給等のため、富山県立大学に看護学部を開設することとし、平成28年4月に設置した「富山県立大学看護学部設立準備委員会」(委員長:馬瀬大助富山県医師会長)でのご議論も踏まえつつ、入学定員を国公立の看護系大学としては全国トップクラスの120人として準備を進めてきたところ、今年8月に文部科学大臣から学部の設置が認可されたものです。

3 富山県立大学看護学部の特長


(1)少人数によるきめ細やかな教育
図表
教育棟内の演習室(全12室)

県立大学工学部では、大学4年間を通じた少人数ゼミを継続して実施しており、少人数によるゆきとどいた教育を行っています。看護学部においても、少人数によるグループ学習や演習を多く取り入れ、一人ひとりの学生にきめ細やかな教育を行ってまいります。

1学年120人の学生に対する少人数教育を実現するため、4学年そろう年度である平成34年度までに60人の看護学専任教員を配置することとしているほか、例えば、少人数教育の代表的な科目であり1年次と2年次に開講する「トピックゼミ」では、1人の看護学専任教員が少人数の学生を受け持ち、2年間にわたって指導することとしています。このほかにも、手厚い教員配置による少人数教育の取組みを用意しており、きめ細やかな指導によって基礎学力や人間力・実践力・創造力を培ってまいります。

(2)主体的・継続的な学習を支援
図表
図書館内のアクティブラーニングスペース

学生が主体的・継続的な学習を行えるように、基礎から専門、統合と各看護学領域における連続性を重視したカリキュラムを編成しています。また、主体的な自己学習を支援するため、キャンパス内にアクティブラーニングスペースを整備したほか、学生同士や教員との交流スペースも用意しています。これらの場所には無線LANを配置し、近年急増している看護用電子書籍や各教員が開発しているe-Learning教材を自由に使えるようICT環境を整備しています。

看護学の講義や演習では、学生が主体的に考え、学生同士や教員と相互に意見を交わしながら学びを深めていくためのグループ学習を多く取り入れており、課題レポートの作成や発表、討論等を通じて主体的・能動的な学習を支援します。また、事前学習としてICT技術を活用した動画の提供などにより基本的な学習内容を理解したうえで講義に臨むという反転学習等を行っていくこととしています。

このほか、看護技術に関しては、最新のシミュレーション機器や看護技術のトレーニング用機器等を看護学実習室に配置したうえで、学生が看護技術向上のための自己学習に取り組めるよう、各実習室を開放することとしています。

これらにより、学生の「自ら学ぶ」を積極的にアシストし、看護学への関心や創造力、看護実践力、自己洞察能力を培ってまいります。

(3)高い看護実践力を培うための教育

4年間で看護学をしっかり学ぶために、カリキュラムを看護師育成に特化しました。質の高い看護の提供はもちろん、一生の仕事として自信をもって働き続けるためには、専門知識、技術、人間性をより高めることが重要です。本学部では、その第一歩となる看護基礎教育を重視し、専門的知識・技術の教育だけでなく、課題対応能力や研究能力を十分に培い、高度化する医療や超高齢社会に伴う看護の役割拡大に対応できる教育を目指しています。

① ユマニチュード®の導入
図表
イヴ・ジネスト氏とユマニチュードを日本に
導入した本田美和子医師、本学部教員

より質の高い看護実践力を培うためにコミュニケーション力の育成が必要であることから、国内で初めてユマニチュードを系統的に看護学教育に導入します。ユマニチュードは、フランス発祥の知覚・感情・言語によるコミュニケーションに基づいたケア技法で、医療の現場でも大変注目されています。人間科学に基づいたヒューマンケアである看護の中に、このユマニチュードの技法を取り込み、4年間を通して高い看護ケア能力を育成することとしています。ユマニチュードの哲学については、ユマニチュードの創始者であるイヴ・ジネスト氏をフランスから毎年本学部にお招きし、夏季集中講義を実施するなど直接学んでいくこととしています。

② 看工連携科目の設定
図表
手術支援ロボット「ダヴィンチ」を操作する中央病院医師

本学部では、工学部の教員等との連携によって、工学的な視点も取り入れた看護学も学ぶこととしています。看護学と工学の連携科目として3科目を配置し、工学部の教育研究内容と看護を含む医療の内容とを結びつけていきます。「看護ケアと工学」「生活支援と情報」では、生活の質を高める観点から、飛躍的に発展している医療・介護ロボットや、人々の健康を維持・増進させるためのICT活用等について学習します。また、「先端医療論」では、がん医療や救命救急医療における先端医療の実際と、それらに関わる医療チームの実際から、先端医療における看護の役割を探究する能力を高めることを目指します。工学を専門とする教員や、中央病院で実際に先端医療に携わっている医師、看護師等の講義により、ロボット手術や最新画像診断装置等の先端医療機器の基礎的原理から、特定集中治療室(スーパーICU)における医療の実際まで学びます。

③ 地域に密着した実習
図表
イラスト提供:本学部教員

先端医療を提供する中央病院をはじめとする県内公的病院など、県内全域を実習の場として活用し、保健・医療・福祉などの多様な場で実習を行います。実習を通じてチーム医療や在宅医療、地域包括ケアについて学ぶ予定です。

また、誰もが一緒に身近な地域で必要なときに必要なサービスを受けられる富山型デイサービスについても学習するほか、一部の学生は、実際に富山型デイサービス施設で初期体験実習(1年次)を行うこととしています。

看護の知識と技術を統合し、ケアの対象となる人とのコミュニケーションを通じて信頼関係を築き、ニーズに合わせた看護ケアを発展させる実践能力を養います。

(4)看護学教育・看護活動を通じた地域貢献

県立大学工学部には、県内企業から技術相談や共同研究の提案など地域連携活動の総合窓口となる地域連携センターが設置されており、地域と大学との強い連携の基盤が整備されています。本学部でも同センターを整備し、学生や教員による地域貢献活動に積極的に取り組んでいくこととしています。1年次に開講する初期体験実習や1〜2年次に開講するトピックゼミにおいて、地域の保健・医療・福祉の現場に直接出向いたり、地域の健康課題等について学習したりしていくこととしており、こうして得られる知識や経験をボランティア活動やサークル活動等の諸活動に活かし、地域の人々と交流しながら地域課題の解決に取り組むことを目指しています。

また、教員については、このほかさらに、地域住民や医療機関、自治体等とネットワークを築き、地域課題を志向した教育研究・社会教育等に取り組んでいきます。医療機関が実施する研究会への講師派遣や看護師と研究者との交流・情報交換の推進など医療機関との人的交流・連携の推進、保健活動等の行政課題に関する行政機関との共同調査・研究のほか、将来的には、工学部とともに産学官連携によるニーズとシーズのマッチングの推進による医療機器の開発等も目指しています。

4 おわりに


図表
エントランス棟内のカフェテリア

県立大学看護学部では、学生にとって快適で、通いたくなる魅力的なキャンパスづくりを進めています。来年4月から第1期生を迎えるため、学生や教員との出会いや交流を創出する開放感のある学びの場である「教育棟」や、キャンパスの顔となり明るく開放的で地域との接点の機能も持つ「エントランス棟」などから成る富山キャンパスを整備しており、来年3月に完成する予定です。

また、看護学部生は、この富山キャンパスで専門科目を学び(1年次生:火・水・木曜)、一部の教養科目については射水キャンパスで工学部生とともに受講(1年次生:月・金曜)することから、両キャンパス間を結ぶ無料のスクールバスの運行も予定しています。

県民の皆様や医療現場等の期待に応えられる質の高い看護師の育成、さらには若者や女性の県内定着の促進を通じて、地方創生の一翼を担える魅力ある大学となるよう取り組んでまいります。

図
とやま経済月報
平成30年12月号