特集

富山の豊かさ
―大きな所得と小さな格差―

富山地域学研究所 所長 浜松誠二


「富山は日本のスウェーデン」(井手英策著、集英社新書)が話題になっているが、富山県の豊かさについて整理してみたい。


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図表

2015年度一人当たり県民所得は、都道府県の中で5番目の大きさであった。

東京、愛知、三重、栃木に次ぐ位置である。


都道府県民所得は、それぞれの都道府県が算定しており、内閣府が一覧に取りまとめている。当該年度の翌年度に基礎となる個別統計が出た後に計算されるため、発表は翌々年度末となる。ただし、2015年度統計の発表は一部の地域の遅れがあり2018年8月であった。


なお、都道府県民所得の計算では企業所得の県境間の按分など曖昧なものがあり、かなりの不確かさが伴っていることに留意しておく必要がある。



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一人当たり県民所得の報道では、県民所得全体が直接個人の所得になるわけでないと、常にコメントされる。

ちなみに、一人当たり県民所得の各要素の全国比を見ると、富山県では民間法人企業の所得が大きくなっている。

ただし、一人当たり可処分所得の家計分を見ると、富山県は都道府県の中で8番目の大きさである。

これは福井、東京、神奈川、愛知、滋賀、千葉、埼玉に次ぐ位置である。ここには東京都周辺の3県が含まれているが、東京都への通勤が多くその企業所得が県内で計上されないため県民所得全体では低くなっている。



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これとは別に、家計調査での二人以上勤労者世帯の月当たり実収入についてみると、富山市は都道府県庁所在都市の中でも高い位置にある。特に2000年前後には飛び抜けて高い位置にあった。


家計調査の都道府県比較については、世帯の内容を調整しておく必要があり、ここでは二人以上勤労者世帯を取り出している。ただし、標本数が東京都区部を除き各都市100世帯以下と極めて少なく、統計的振れに留意しておく必要がある。このため個別の項目を検討する際には何年かの統計の平均値を用いるなど工夫が求められる。



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富山市の実収入の高さの背景として、各内訳を全国平均値と比較すると、世帯主の勤め先収入は若干低いが、世帯主の配偶者の勤め先収入、その他の世帯員の勤め先収入、公的年金がそれぞれ3万円/月程度大きくなっている。



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世帯主の配偶者の勤め先収入に関して、富山県では、女性が結婚・出産・子育てを経てもかなり働き続ける傾向があることはよく知られている。



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その他の世帯員の勤め先収入に関しては、富山市の世帯の世帯人員は3.45人で全国平均より2%大きく、有業人員は1.92人で全国平均より11%大きくなっている。これは世帯主の配偶者に加え、その他の勤労者がある程度同居していることを意味している。



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なお富山県の世帯規模の変化を見ると、1990年代後半、2000ゼロ年代前半に大きく縮小しているが、これは団塊ジュニア世代が学業期を終え、就職、結婚等を契機に生まれた家族から独立しているためである。

2000年前後に富山市の実収入が飛び抜けて大きかったのは、団塊ジュニア世代が働き始めたことが背景にあった。



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また、公的年金については、年金受給者との同居が多いとともに、国民年金のみでなく、長年ある程度の企業等で働いてきており、厚生年金等を受給し額が大きくなっている。


図は、現在の20歳以上の年金被保険者の構成であり、第1号が国民年金、第2号が厚生年金等、第3号が第2号の配偶者等である。



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次に就業構造基本調査によって、世帯の所得分布を所得階層別構成比でみると、600万円以上〜700万円未満/年の層で最も大きくなっているのは富山県のみであり、600万円/年未満の世帯が相対的に少ない。


なお、1000万円以上1250万円未満の構成比が飛び上がっているのは、階層区分の幅が急に大きくなっているためであり、特段の意味はない。



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各都道府県の所得階層別世帯数からその格差を表すジニ係数を試算してみると、富山県は全国で最も小さくなっている。


家計調査の所得階層別世帯数から各都道府県庁所在都市のジニ係数を試算してみることもできるが、標本数が極めて少ないので利用できる結果とはならない。



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この試算したジニ係数は、生活保護率と強い相関があり、最近の統計では6割近い説明力となっている。



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富山県では、所得格差が少ない結果、生活保護率は全国でも最も低くなっている。


富山県の生活保護率が際立って低いことについては、かつて「窓口での抑制があるため好ましくない」との批判がありウィキペディアで炎上していた。申請を控える気持ちが多少強いとしても、高い所得と少ない格差が背景にあることは間違いないであろう。



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富山県の所得が相対的に大きく格差が小さいのは、製造業を中心に富山で生まれ育った中堅どころの企業が多く、これが雇用をしっかりと支えているためと考えられる。

中堅企業では経営者に働く人の顔がよく見え、また地場で生まれ育った企業であれば経営者同士も互いに知り合っており、自ずと節度のある経営が促される。



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この結果、非正規雇用が相対的に少なくなっている。

もちろん女性の継続的就業の多いことが非正規化をそれなりに抑制している面もあろう。

このように富山県では地域で生まれ育った中堅企業が中心となって地域の雇用を支え、地域の所得水準を引き上げるとともに世帯間の所得格差を小さなものとしているといえよう。




とやま経済月報
平成30年12月号