特集

韓国における日本酒事情
〜『韓国人の日本酒に関する意識調査』を中心に〜

(一財)自治体国際化協会ソウル事務所派遣職員
(富山県 国際課) 河合 洸生

 

1 韓国における直近のトレンド


韓国では焼酎やビールを中心に、マッコリやワインが好んで飲まれています。飲まれる酒の種類に昔から大きな変化はありませんが、大きく変化したのは「低度数のアルコール」が好んで飲まれるようになったことです。前述の焼酎も最近では約18度前後のものが主流ですが、1965年は30度のものが主流でした。時代とともにアルコール度数は下がっていき、2000年以降は20度に、最近では15度前後の商品も見かけるようになりました。こうした傾向は若者、特に女性の飲酒が増え、飲みやすい焼酎のニーズが高まったためと言われています。グレープフルーツや白ぶどうなど、フルーツフレーバーの焼酎も人気となっています。日本で言うチューハイも、店で見かけることが多くなりました。

2 日本酒に関する意識調査の実施にあたって

ソウル市内には日本食を味わえる店が数多く存在し、日本式居酒屋も多く見かけます。各地域の地酒を揃える店も珍しくありません。実際、韓国は日本酒の輸出先としてはアメリカに次ぐ第2位であり、平成28年度は約370万リットルの日本酒が韓国に輸出されています。

★日本における清酒「輸出量」上位国※H29は8月までの数値 (単位:リットル)
  H25 H26 H27 H28 H29
アメリカ合衆国 4,489,281 4,340,913 4,780,102 5,107,623 3,877,174
大韓民国 3,501,601 3,221,473 3,366,887 3,694,760 2,785,791
台湾 1,746,596 1,742,111 2,112,131 2,096,002 1,838,685

(出典:国税庁『酒類の輸出統計』)

農林水産省が平成25年に策定した『農林水産物・食品の国別・品目別輸出戦略』において、韓国は日本酒の輸出重点国の一つとされていて、実際に普及のための各種イベント・事業が行われています。

こうした状況を踏まえ、自治体国際化協会ソウル事務所では韓国における一般消費者が日本酒に対してどのような印象や嗜好をもっているか、また日本酒の産地に関してどのような認識をもっているかなどについて、2015年度にアンケート調査を行いました。調査の概要は以下のとおりです。

地   域 ソウル特別市・仁川広域市・京畿道
対象者条件 20歳以上男女、現在お酒を飲んでいる人、日本酒を認知している人
サンプル数 800名
割   付 20代・30代・40代・50代以上×男女均等配分、各セル100名
調査時期 2016年3月

3 韓国における日本酒の位置付け


<飲酒経験がある種類及び主に飲む種類>
表

飲酒経験のある種類は「ビール」がトップで、「韓国焼酎」「マッコリ」の順になっています。ここで言う「韓国焼酎」は、一般的に17.5度以上の度数の焼酎を指します。主に飲む種類も飲酒経験と同じく、「ビール」「韓国焼酎」「マッコリ」の順になっています。日本酒について見ると、82.0%の人が飲んだことがあると回答した一方で、日本酒を主に飲んでいると回答した人は全体の0.4%と、かなり低いことが分かります。

飲酒経験上位3種類である「ビール」「韓国焼酎」「マッコリ」は、回答者の性別であまり特徴を見せていません。しかし、日本酒の場合は「40代以上の男性」「30〜40代女性」と「世帯年間所得」が高くなるほど、飲酒経験も高い傾向を見せています。主に飲む種類に注目すると、「ビール」は男性より女性が、特に「30〜40代女性」が主に飲む傾向にあります。一方「韓国焼酎」は女性より男性が飲む傾向が大きく、特に年齢が高くなるほど、主に飲む割合も高くなる傾向にあります。上記のグラフからは、韓国で主に飲まれている種類は「ビール」「韓国焼酎」の2種類であり、それ以外の種類はあまり飲まれていないこと、韓国国内で「日本酒」は、韓国人の主な種類に入っていないことが分かります。

ちなみに一般種類(酒の種類を考慮しない)の飲酒頻度について調査したところ、飲酒頻度は「1週間に1回以上(31.9%)」がトップでした。日本酒の飲酒頻度に絞って調査すると、その頻度は「6ヵ月に1回未満(32.3%)」がトップで、非常に低くなっています。

こうした飲酒傾向の要因の一つに、韓国で流通する日本酒の「価格の高さ」があります。日本から韓国に日本酒を輸入する場合、以下4つの税金が賦課されます。

  • 輸入関税:CIF価格(運賃・保険料込み)×15%
  • 酒税:(CIF価格+関税額)×30%
  • 教育税:酒税額×10%
  • 付加価値税:[CIF価格+輸入関税+酒税+教育税]×10%

(出典:日本貿易振興機構(JETRO)資料)


店頭価格にはさらに流通コスト、マージン等が含まれるため、日本の価格の3倍〜5倍にもなります。日本式居酒屋などの飲食店ではさらに高額になり、日本の価格の10倍近い価格で提供しているところもあります。一方、韓国焼酎は店頭であれば1,000ウォン前後(約100円)、ビールも500ミリリットル缶であれば2,000〜3,000ウォン(約200〜300円)で手に入ることから、その他の種類と比較して割高である感じは否めません。日本酒が一般的な酒として韓国社会に浸透するためには、こうした価格差をいかに克服するかという点にあるかと思います。

4 韓国における日本酒の消費方法


日本酒の飲酒経験のある韓国人のほとんどは「飲食店(90.4%)」で飲んでいて、「日本酒を購入して自宅で飲む」と回答した人は29.7%でした。ちなみに「購入して知人・家族・親戚などにプレゼントしたことがある」と回答したのは8.5%で、個人による拡散は現状難しいと考えられます。

前述のとおり、飲食店での日本酒は他の種類に比べて非常に割高になります。しかし、900ミリリットルで3万ウォン前後(約3,000円)の比較的安価な紙パック日本酒が流通していること、また近年の日本食ブームで日本酒を提供するお店が増えたことが、飲食店で日本酒を飲む韓国人が多い要因であると考えられます。飲食店で日本酒を飲む人の中でも「お店で販売しているいくつかの種類の銘柄の中からオーダーする」人が46.4%で最も多く、続いて「店員が勧める銘柄をオーダーする(19.6%)」という結果となりました。逆に自ら銘柄を指定して飲む人は少ないことから、韓国では特定の銘柄に人気があるわけではないと言えます。

また、自宅で日本酒を飲むために購入する場合、主な考慮事項は「味(29.7%)」「飲みやすさ(15.9%)」「価格(14.4%)」という結果になりました。ここでも価格を考慮する消費者が多いことが伺えます。

5 日本酒に対する消費者の知識


<日本酒について、どの程度の知識がありますか。>

※図をクリックすると大きく表示されます

表

日本酒飲酒経験者の53.2%は「日本酒という名前以外はほとんど知らない」と回答していて、「1カ月に1回以上」の飲酒頻度がある層を除けば、醸造方法の違いや度数について知識がある人はほとんどいないことが分かります。

また日本人であれば日本酒の産地にこだわりを持つ方が多いかと思います。韓国人に「日本酒の産地と聞いて思い浮かぶ自治体は?(複数回答可)」と聞いたところ、「新潟県(16.3%)」「秋田県(14.8%)」「長野県(14.3%)」が上位3県となりました。一方で47.0%の人は「思い浮かぶ日本酒産地はない」と回答していたことから、韓国ではまだ日本酒と産地を結びつけるという認識が薄いと言えるかと思います。各自治体が日本酒を韓国でPRする際には、地域の魅力とあわせた、他の産地にはない特徴、プレミア感を売込む必要があるかと思います。

6 日本酒のイメージに関する評価


<味/香りに関連するイメージ>
表
<機能的イメージ>
表

韓国人の日本酒に対する味や香りの評価は「のどごしがよい(64.9%)」「香りがよい(61.9%)」「さっぱりしている(55.5%)」の順で評価されています。機能的イメージでは「びん・パッケージデザインが良い(57.8%)」「アルコール度数が適切である(54.3%)」の評価がある一方で、「値段が手ごろである」との回答は14.0%にとどまり、ここでも韓国の消費者が日本酒の価格についてはあまり満足していないことが伺えます。

7 まとめ


今回の意識調査の結果から、日本酒の飲酒経験のある韓国人は多いが、ビール、韓国焼酎を飲む人が圧倒的に多数で、日本酒が韓国国内に浸透しているとは言い難い状況であることが数値として明らかになりました。また、日本酒の飲酒経験者でも約半数は「日本酒という名前以外ほとんど知らない」と回答していて、日本酒の産地に関しても十分に認知されているとは言えない結果となりました。日本酒のイメージとしては「のどごしがよい」、「香りがよい」という肯定的な意見の一方で、「価格が手ごろである」といった意見は少数にとどまりました。

価格の問題については、税制や流通構造など制度的な問題によるところが大きいため、すぐに安価な販売を期待するのは難しいかもしれません。しかし、韓国国内での日本酒への理解が広まり、流通量が増えれば、多くの人が気軽に飲食店や自宅で日本酒を楽しむことができるのではないかと思います。

自治体国際化協会ソウル事務所では、イベントの際に「日本酒PRブース」を設けたり、レセプションの際に日本酒を振る舞うなどの活動を通じて、韓国国内での日本酒知名度の向上に取り組んでいます。

写真

(ソウル市内のイベントでの日本酒PRブース)


今後もこうした活動を通じて、韓国での日本酒人気の向上の一助になりたいと考えています。


※今回紹介させて頂いた『韓国人の日本酒に対する意識調査』の報告書は、自治体国際化協会ソウル事務所のホームページで公開しています。
(URL:http://www.clair.or.kr/information/enquete/enquete_read.asp?bc=520&no=230

とやま経済月報
平成29年11月号