特集

緩やかに拡大する富山県の景気1

日本銀行富山事務所長 工藤 治

 

1 はじめに


富山県の景気は力強さを増しています。7月13日、日本銀行富山事務所は「富山県金融経済クォータリー(2017年夏)」2 を公表し、富山県の景気判断を2期連続で「緩やかに拡大している」としました。本年5月に公表した「富山県金融経済クォータリー(2017年春)」において、景気判断を現状判断に引き上げましたが、2004年夏に同クォータリーの公表を開始して以来、「拡大」という強い表現を用いたのは、前期が初めてでした。

足許の経済指標の動きを確認すると、①家計部門では、所得環境の好転等を背景に個人消費が着実に持ち直している中、住宅投資も振れを伴いつつも、基調として増加しているほか、②企業部門では、もともと高水準の生産が一段と増勢を強めており、設備投資および企業収益が高水準を維持しています。また、③公共投資についても、2016年度補正予算の執行が続き、増加しているなど、概ね全ての経済項目が明確に上向いているか、高水準の活動が維持されています。

以下では、主要項目毎に具体的な動向を確認していきます。

2 主要項目の動き


(1)個人消費

富山県の個人消費については、「とやま経済月報 2017年4月号」におけるレポート3 において、本年1月までのデータに基づき、①基本的に底堅い動きを示していること、②昨秋以降は明確に上向いていることをお示ししました。その後の指標により、足許の状況を確認すると、こうした傾向が継続していることが分かります。

県内の小売関係の主要6業態について、最近の売上高前年比を寄与度分解してみると、(図表1)の通りです。

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主要6業態は、百貨店、スーパー、コンビニエンスストア、家電専門店、ドラッグストア、ホームセンター4 。ただし、個社データ保護の観点から、百貨店とスーパーのデータが合算されています5
(図表1)小売6業態の売上高前年比の寄与度分解
図表
(出所)経済産業省 商業動態統計

図表1を見ると、コンビニエンスストア、ドラッグストアがコンスタントに高い伸びを示していること等から、6業態合計の売上高は、昨夏以降、昨年8月を除き、一貫して前年を上回っていることが分かります。注目されるのは、2月もわずかながら前年を上回ったことです(前年比+0.1%)。同月は、①前年がうるう年であったため前年と比べて日数が1日少ないことに加えて、②祝日である2月11日が週末と重なっている(昨年は木曜)ことから、消費の勢いが前年並みであれば前年比は▲3〜▲4%となるところでした。こういった条件にもかかわらず売り上げが前年を上回ったのは、消費の地合いの強さを示すものと考えられます。

この他、県内新車登録台数の推移をみると、最近では前年比二桁の伸びを示すまでになっており、耐久消費財の代表である新車需要の力強さが窺えます(図表2)。

(図表2)新車登録台数の前年比推移
図表
(出所)国土交通省 北陸信越運輸局
(2)住宅投資

富山県の新設住宅着工戸数の推移をみると、リーマンショックを機に一旦落ち込んだ後、2009年を底に回復傾向が続いています。昨年から足許にかけては、振れを伴いつつも、基調として増加していますが、持家が底堅く推移している中、貸家、分譲住宅の伸びが目立っています(図表3、図表4)。

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貸家が伸びている背景としては、資金を借り入れてアパート等の貸家を建設することで、純資産を減らし、相続税を減らすことが出来るという節税効果を指摘する声が聞かれています6
(図表3)県内の新設住宅着工戸数の推移
図表
(出所)富山県建築住宅課 新設住宅着工統計
(図表4)県内の新設住宅着工戸数前年比
図表
(出所)富山県建築住宅課 新設住宅着工統計
(3)生産

最近の鉱工業生産の動きをみると、2016年以降、振れを伴いつつも明確に上向いてきており、とくに昨年後半以降はかなり伸びを高めています。

(図表5)富山県の鉱工業生産指数(季節調整済)の推移
図表
(出所)経済産業省

業種別にみると、とくに伸びが顕著なのは、「医薬品」、「はん用・生産用・業務用機械」です。これは、ジェネリック医薬品の普及に向けた生産の拡大ならびに内外の工場自動化の流れを映じた産業用ロボットやスマートフォンの機能改善・IoTを受けた半導体製造装置の需要増加といった潮流を映じたものと考えられます。

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とくに医薬品の生産水準の高さは際立っており、本県の医薬品産業のプレゼンスの大きさを明確に示しています。
(図表6)富山県のはん用・生産用・業務用機械、医薬品の生産指数の推移
図表
(出所)経済産業省
(4)その他

設備投資、公共投資に関する指標も、「景気は緩やかに拡大している」との基調判断をサポートしています。具体的には以下の通りです。

①設備投資(2017年6月短観ベース)

一部大口投資の時期ずれ(2016年度投資⇒2017年度)を主因に、2016年度は前年度比マイナスとなりましたが、2017年度に向けて高水準の投資計画が続いています。

(図表7)富山県の設備投資額の前年度比推移
図表
(出所)日本銀行金沢支店

②公共投資

昨年度の公共投資予算の前倒し執行が年末にかけて一段落した後、年明け以降は補正予算分の執行が本格化しています。6月末時点では相応の未執行額が残っているため、当面は高水準の投資が続く見通しです。

(図表8)富山県の公共工事請負金額の推移

※図表をクリックすると大きく表示されます

図表

3 留意点


これまでみたとおり、富山県の足許の景気は力強さを増しています。また、指標等をみる限り、近い将来に景気を腰折れさせる要因は見当たらないことから、富山県の景気は、先行きも緩やかな拡大を続けると思われます。

もっとも、足許で深刻化している人手不足については、生産、輸送、建設等々様々な経済活動のボトルネックとなりつつあり、息の長い景気拡大を実現するためのリスクとなりうるものです。

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地域における実態をより的確に表していると思われる「就業地ベース」の有効求人倍率7 をみると、富山県では足許ほぼ2倍(17年5月:1.99倍<季節調整値>)にまで上昇しており、全国平均と比べて人手不足の度合いがかなり強いことが分かります。
(図表9)有効求人倍率(季節調整値)の推移

※図表をクリックすると大きく表示されます

図表
(出所)厚生労働省

一方、人手不足は省力化のための新たな投資、労働生産性を上げるための様々な工夫を生み出し、イノベーションをサポートしています。実際、県内企業でも製造業におけるロボット導入や小売店でのセルフレジの導入、運輸、小売等での物流・間接部門の共同化といった取り組みがみられています。こうした取り組みが拡大していけば、生産性の向上を通じて経済の基礎体力が強化され、より息の長い景気拡大に繋がっていくと考えられます。

富山県経済にとって、足許の人手不足は確かに深刻な問題であり、将来へのリスクではありますが、問題として捉えるのではなく、上にみたとおり、前向きに対処していくことで、経済基盤の強化に繋げていくことが大切と考えます。

1 本稿で示された意見等は筆者のものであり、日本銀行の公式見解ではありません。

2 「富山県金融経済クォータリー」については、日本銀行富山事務所のホームページ(http://www3.boj.or.jp/toyama/index.html)をご参照ください。

3 「富山県の個人消費の動向」(2017年4月6日付「とやま経済月報」)。(http://www.pref.toyama.jp/sections/1015/ecm/back/2017apr/tokushu/index1.html)このほか、「富山の個人消費:本当によくないのか」(2017年1月4日付「所長メッセージ」)もご参照ください。(http://www3.boj.or.jp/toyama/pdf/mes1701.pdf

4 コンビニエンスストアの都道府県別売上高は、2015年7月分より利用可能となりました。このため、小売6業態の前年比寄与度が計算できる2016年7月以降を分析対象としました。

5 百貨店は県内に1社しかないため、百貨店とスーパーのデータを個別に公表すると、同社の売上げが事実上開示されてしまいます。こうした事態を避けるため、スーパーと合算して個社データが特定できないようにされています。

6 「富山県の住宅投資動向」(2016年6月1日付「所長メッセージ」)をご参照ください。(http://www3.boj.or.jp/toyama/pdf/mes1606.pdf

7 就業地ベースの有効求人倍率については、「2つの有効求人倍率」(2016年1月4日付「所長のメッセージ」)をご参照ください。(http://www3.boj.or.jp/toyama/pdf/mes1601.pdf

とやま経済月報
平成29年8月号
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