特集

四半期別県内総生産推計結果からみた富山県経済の最近の動き

一般財団法人北陸経済研究所 総括研究員 倉嶋 英二

1.はじめに


地域における足元の経済動向を見るための指標として個別の統計情報、DIなどの各種サーベイ調査、政府機関が公表する経済情勢報告などさまざまなものがあるが、地域経済の①現在の水準、②変化の方向、③変化の規模、④変化の要因を総合的、可視的、タイムリーに把握することができないか――このような問題意識に基づき、平成25年12月より北陸各県の四半期別県内総生産(以下「GRP」)の推計を試行し始めたところである。具体的な推計方法についての説明はここでは省略するが、以下で最新の推計結果から直近1年程度の富山県経済の動きを簡単に見ていきたい。

なお、あくまでも北陸経済研究所が独自に行った推計の結果である。

2.富山県におけるGRPの最近の動き


(1)全般
足元では小幅なアップダウンを繰り返しながら徐々に減速しつつある

富山県の県内総生産は平成26年4月の消費税率引き上げ以降強力かつ安定的なけん引役が不在の中で四半期ごとに経済全体を押し上げる主役が交代しながら小幅な増加、減少を繰り返し、27年度中盤以降は全体として徐々に減速する動きとなっている。直近の28年4-6月は対前期(28年1-3月)比で名目+0.3%(年率換算+1.3%)、実質+0.2%(同+0.7%)のプラスと全国(名目+0.3%(年率換算+1.3%)、実質+0.2%(年率換算+0.7%))と同様の小幅な増加にとどまった。

この間、富山県のGRPの水準は名目では増加しているが、実質では緩やかな減少の傾向を示し、28年4-6月にはほぼアベノミクス開始以前の水準に逆戻りしている。最近の実質GRPの水準低下の要因となっているのが公的固定資本形成の減少および在庫の調整である。前者については北陸新幹線の建設工事やアベノミクス第2の矢によって膨らんでいた部分が元に戻ったという側面はあるが、短期的なフローの視点だけでとらえれば、いわゆる公共事業の減少が県経済全体を下方に導く圧力として作用していることになる。

図1 富山県、全国の四半期成長率(実質)

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図2 富山県、全国の四半期成長率(名目)

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全国:内閣府「四半期別GDP速報」(平成28年9月8日公表値)、富山県:北陸経済研究所推計値
(注1)季節調整系列 (注2)全国は連鎖方式、富山県は固定基準年方式により実質化
(注3)数値は富山県の四半期成長率

図3 県内総生産 四半期別推移

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図

北陸経済研究所推計値
(注)季節調整値を4倍している

以下、需要と供給(生産)の側面から最近の富山県経済の動きを簡単に見ていきたい。


(2)需要面から見た最近の富山県経済の動き
個人消費が伸びない中で民間企業の設備投資がピークアウトし、公共事業の減少が続くなど域内需要が縮小している
図4 平成26年U〜28年U期における富山県の需要項目別動向(実質・季節調整値 対前期比)

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北陸経済研究所推計値

図5 平成27年U期以降の需要項目別寄与度(実質・季節調整値)

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図

北陸経済研究所推計値

・民間最終消費支出

最大の需要項目である民間最終消費支出は、26年度後半には消費税率引き上げ前の駆け込み需要の反動減から持ち直す動きをみせたが、27年度以降は四半期ごとに小幅な増減を繰り返す弱い動きが続いている。

個別の支出分野については、消費そのものの統計である家計調査の動きがサンプル特性による変動が大きく、連続性と信頼性に問題があるため、販売側の数値からその動きを見ていくと、飲食料品については消費税率引き上げ前を上回る水準に回復しているものの衣料品および家具・家電・家庭用品は依然として消費税率引き上げ前の水準を下回り、かつ弱い動きが続いている。また、大型の消費財である自動車についても新車販売の持ち直しが全国の動きと比較してやや遅れており、その一方で医療費支出は増加傾向にあるなど日常生活に密接にかかわる分野以外での支出が抑制され、生活防衛的な動きが続いていることがうかがわれる。

図6 富山県における支出分野別販売額等の水準変化(実質・季節調整値)

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図

経済産業省「商業動態統計」(注1)、社会保険診療報酬支払基金「統計月報」(注2)、総務省「消費者物価指数」をもとに北陸経済研究所作成
※富山県の数値を支出分野に対応する富山市のCPIで実質化し、米国センサス局「X12-ARIMA」により北陸経済研究所において季節調整を行った

図7 普通車・小型車・軽乗用車登録台数 対前年同期比増減率
図

富山県自動車販売店協会、日本自動車販売協会連合会、全国軽自動車協会連合会資料をもとに作成
(注)普通車・小型車・軽乗用車の合計

・民間住宅

民間の住宅投資は同じく消費税率引き上げ前の駆け込み需要の反動により26年4-6月には近年のボトムに近い水準にまで落ち込んだが、27年後半以降は賃貸住宅、分譲マンションの建築着工増加などを背景に上向きのトレンドにあり、直近の28年4-6月には対前期比で実質+5.8%の増加となった。ただし、28年4-6月における実質経済成長率に対する寄与度は+0.1%と県経済全体を引き上げる力は弱いものとなっている。


・民間企業設備

県内への大型店の相次ぐ出店や工場立地の増加をはじめとする北陸新幹線開業への企業対応や製造業の好調業種による生産能力増強投資などを背景として民間企業の設備投資が足踏みを続ける県経済を27年度の1年間にわたって下支えしてきたが、28年初頭以降はこれら企業による大型の設備投資案件の多くが進捗・完成をみたと考えられ、直近の28年4-6月は対前期比で実質▲1.6%のマイナスと減少に転じた。


・民間企業在庫

消費税率引き上げ後の経済停滞過程で積み上がった在庫は27年7-9月以降減少に転じ、直近の28年4-6月には減少幅が拡大した。直近の減少は円高の進展による原材料価格の低下も要因の一つとして存在していると考えられるが、全体として生産、流通の両面で在庫の調整が進んでいるとみられ、こうした調整の動きが実質GRPを下押しする圧力として作用している。


・政府最終消費支出

27年度を通じて実質プラスで推移し、足踏みを続ける県経済を下支えする役割を担ったが、直近の28年4-6月は前期において大幅に増加した医療費の水準が元に戻ったことや、県内自治体における人件費、物件費等の減少の影響から対前期比で実質▲0.8%の減少に転じた。


・公的固定資本形成

前述のように北陸新幹線開業に合わせて進められた関連工事の減少ととともに県内自治体における公共事業予算の減少により、全国の動きと比べて大きな落ち込みとなっている。28年4-6月は対前期比▲0.8%のマイナスと減少幅は縮小傾向にあるが、26年4-6月以降9四半期にわたって減少が続いており、27年度以降の県経済の減速に影響を及ぼしている。


(3)供給(生産)面から見た最近の富山県経済の動き

それぞれの産業部門でまだら模様の動きが続いており、四半期ごとに県経済の動きに影響を及ぼす主役が交代しながら27年度中盤以降徐々に減速している。

最も生産額の規模が大きく県経済全体に対する影響の度合いが大きいのは製造業であるが、業種によって動きの方向が大きく異なっており、主要製造業のうち医薬品を含む化学工業は好調な生産活動を維持しているものの、はん用・生産用・業務用機械、電気機械(電子部品を含む)、金属製品、プラスチック製品など他の主要な業種は直近では軟調な動きとなるなど、製造業全体として回復・成長を持続的にけん引するには至っていない。

また、27年度において民間企業設備投資が比較的好調に推移する一方で公共事業の減少が続いたことから建設業が27年7-9月以降は4四半期連続の減少となり、名目GRPを下押しする圧力として作用している。

図8 平成27年U期以降の富山県における産業部門別動向(名目・季節調整値 対前期比)

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北陸経済研究所推計値

図9 平成27年U期以降の産業部門別寄与度(名目・季節調整値)

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北陸経済研究所推計値

(4)27年度におけるトピック―北陸新幹線開業による効果

富山県が行った推計では北陸新幹線開業による効果は間接的な波及効果を含め約154億円となっている。これを県民経済計算の付加価値ベースに置き換えると約86億円の増加となり、27年度名目GRP推計値の0.2%に相当する。

なお、効果が及ぶ主な産業部門は運輸、商業、対個人サービス業となっており、名目GRP推計結果から27年度におけるこれら3部門の伸び率は合わせて+2.7%、27年度名目経済成長率に対する寄与度は+0.5%となる。これら3部門の増加要因の全てが北陸新幹線開業に起因するものではなく、新幹線開業効果推計過程とGRP推計過程との間に特段の連動性はないが、変化の方向と規模からすれば新幹線開業効果推計結果に近い経済浮揚効果は発生したと考えられる。27年度の推定名目GRP成長率は+0.6%であり、その約3分の1に相当する経済効果が発生したということは、県経済全体が停滞〜やや減速の動きとなる中では数値の見た目以上の貢献があったと考えることができるだろう。

3.おわりに


繰り返しになるが地域における足元の経済状況を定量的、客観的、総合的に把握するためのツールとして北陸の四半期GRPの推計を試行してから約3年が経過した。推計方法についてはその時々において最善を尽くしているつもりであるが、回を重ねるごとに課題が見つかり新たな改良を加える――推計作業はこの繰り返しとなっている。今後も改良・改善を続けながらより精度の高い推計を目指していきたいと考えており、皆様からのご助言、ご指導、情報提供をお願いできればと思う。

また、月刊誌「北陸経済研究」において3カ月ごとに本推計の結果を発表しており、そちらもご一読いただければ幸いである。

表1 富山県の県内総生産(支出側、実質季節調整系列)

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図

(注1)四半期の実数は季節調整済値を4倍している。年度値は原系列の数値である。
(注2)民間在庫品増加、移輸出-移輸入・統計上の不突合については前期比を計算せず、「−」と表示。
(注3)公的在庫品増加は、計測が困難であること、および全体への影響が小さいことから、増減=0として推定を行っている。
(注4)季節調整方法は、米国センサス局方式(X12-ARIMA)による。

表2 富山県の県内総生産(生産側、名目季節調整系列)

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図

(注1)四半期の実数は季節調整済値を4倍している。年度値は原系列の数値である。

とやま経済月報
平成28年11月号