特集

中小企業の経営安定を支える金融支援と
中小企業の活性化支援

富山県 商工労働部 経営支援課

 

1 はじめに


最近の本県経済は、一部に弱さもみられるが、緩やかな回復基調が続いています。先行きについては、雇用環境の改善や経済対策などを背景に、緩やかに回復していくことが期待されていますが、中国を始めとする海外景気が下振れし、景気が下押しされるリスクがあり、海外経済の不確実性の高まりや金融資本市場の変動の影響、熊本地震の経済に与える影響に留意する必要があります。

こうした状況を踏まえ、県では、中小企業の資金繰り支援に万全を期すべく、積極的な金融支援に取り組んでいます。

2 世界同時不況からの回復


(1) 県の金融支援策

平成20年9月のアメリカ大手証券会社の経営破綻に端を発した世界同時不況により、中小企業の資金繰りは大きく悪化しました。このため県では、平成20年10月に売上減少に対応した「経済変動対策緊急融資」を創設し、また同年12月には返済負担軽減のための借換資金「緊急経営改善資金」の対象要件の緩和や融資限度額の引上げなど、中小企業の資金繰り円滑化に積極的に取り組んできました。

図1 資金繰り判断の状況(北陸短観)

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(出典:「北陸短観」日本銀行金沢支店調べ)


また、金融円滑化法終了(H24年度末)後も引き続き、各金融機関に対し中小企業の資金繰り円滑化への対応を要請しているほか、経済情勢や金利動向を踏まえ、平成27年度予算において、県制度融資の全資金の金利を一律0.2%引き下げ、更に平成28年度予算においては、設備投資促進資金の金利優遇措置を拡大(▲0.2%→▲0.25%)し延長するなど、継続的な資金繰り支援と積極的な設備投資への支援に取り組んでいます。

こうした中、平成28年度予算では、海外景気の下振れなどによるリスクに留意する必要があることから、経営安定系資金の新規融資枠を487億円、県内産業の設備投資をさらに促進し産業基盤を強化するため、施設整備系資金の新規融資枠を242.5億円、それぞれ確保したところです。

図2 平成28年度県制度融資の新規融資枠
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(2) 融資実績とその効果

緊急融資・借換資金の融資実績は、平成20年度からこれまでに約3,265億円(平成27年度末現在)の実績がありました。

図3 緊急融資・借換資金の融資実績(年度別)
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県内の企業倒産は、リーマン・ショックのあった平成20年度と平成21年度には大幅に増加しました。

ゴルフ場の大型倒産により平成23、24、27年度の負債額は増加しましたが、これらを除くとリーマン・ショック前の平成19年度を下回っており、県内中小企業の倒産は低水準での横ばい状況が続いています。緊急融資や借換資金などの県融資制度が中小企業の経営安定に一定程度、効果を発揮しているものと考えています。

図4 県内の倒産状況
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(3) 経済再生の実現へ

「経済財政運営と改革の基本方針2015」、「『日本再興戦略』改訂2015」、「規制改革実施計画」及び「まち・ひと・しごと創生基本方針2015」を着実に実行することで、東日本大震災からの復興・創生、デフレからの脱却を確実なものとし、経済再生と財政健全化の双方を同時に実現することが期待されます。

図5 日経平均株価の推移(平成28年4月28日現在)

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図6 為替レートの推移(平成28年4月28日現在)

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3 中小企業の振興と人材の育成等に関する基本条例の制定


(1) 条例のポイント

富山県では、県内の頑張る中小企業を応援するため、平成24年9月に「富山県中小企業の振興と人材の育成等に関する基本条例」を制定しました。この条例により、これまで以上に総合的かつ計画的に中小企業支援に取り組んでいます。

また、平成27年3月には「小規模企業振興基本法」制定の趣旨を踏まえ、小規模企業の持続的な発展の促進に関する条項を新たに盛り込みました。これにより、小規模企業者の地域の特色を生かした事業活動や創造的な事業活動に資する事業環境を整備するとともに、小規模企業者の地域における多様な主体との連携・協働を促進します。

条例には県の責務をはじめ、中小企業者、小規模企業者、関係者の皆さんのそれぞれの役割を定めており、関係者がそれぞれの役割を認識し、互いに連携・協力することで、地域社会が一体となって中小企業者、小規模企業者の皆さんを応援します。

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(2) とやま中小企業チャレンジファンドによる支援

富山県と県内11金融機関の連携により、平成24年12月に総額150億円の「とやま中小企業チャレンジファンド」を設立しました。このファンドの運用益を活用し、県内中小企業による新商品開発や販路開拓等の積極的な取組みを支援しています。

このファンド事業は、最大2ヶ年度にわたる事業を助成対象としており、研究開発に1年以上の期間を要するものにもご利用いただけます。また、申請書類の簡素化を図っており、中小企業の皆さんに利用しやすい制度となっています。

平成28年度の助成メニューは次のとおりです。

ものづくり研究開発支援事業(補助率1/2、上限200万円)
新商品・新技術の研究開発等による競争力強化の取組みを支援します。
プラン公募型起業家誘致事業(補助率1/2、上限:製造業等200万円、その他100万円)
県外から公募したビジネスプランに基づく事業を支援します。
ビジター対応ビジネス支援事業(補助率1/2、上限100万円)
北陸新幹線開業、クルーズ客船・台北便就航に関連した新商品開発等のビジネス展開を支援します。
販路開拓挑戦応援事業(補助率1/3、上限:国内(県外)25万円、国内(首都圏)35万円、国外50万円)
国内外の見本市や展示会への出展、市場調査、海外マーケティングを支援します。
小さな元気企業応援事業(補助率1/2、上限50万円、ただし、国内の販路開拓に係る上限金額は(県外)25万円、(首都圏)35万円)
小規模企業における新商品・新技術開発、国内外向け販路開拓、人材育成を支援します。

4 平成28年度の中小企業金融支援策の拡充


平成28年度は次のとおり金融支援策を拡充するとともに、全体で総額729.5億円 (前年度比+16億円)の新規融資枠を確保しました。


(1) 継続的な資金繰り支援

海外景気の下振れなどによるリスクに留意する必要があることから、引き続き中小企業の資金繰りを支援していきます。

経済変動対策緊急融資、緊急経営改善資金(借換資金)の取扱期間の延長
取扱期間を平成29年3月31日まで1年延長しました。
経営安定資金「企業再生支援枠」の取扱期間の延長
取扱期間を平成29年3月31日まで1年延長しました。
(2) 小規模企業者の資金繰り支援

平成24年9月に策定した「富山県中小企業の振興と人材の育成等に関する基本条例」に基づき、小規模企業者の資金繰りを支援します。

経営安定資金「小規模企業支援枠」の取扱期間の延長
取扱期間を平成29年3月31日まで1年延長しました。
(3) 中小企業の設備投資の促進

県内産業の設備投資をさらに促進させ、産業基盤を強化するため、県内中小企業の積極的な設備投資を支援します。

設備投資促進資金「生産性向上支援枠」の創設
平成27年度末で取扱が終了した「集中投資促進枠」に代えて本資金を創設し、生産性向上のための設備投資を積極的に支援します。
設備投資促進資金の金利引下げ措置の拡充と延長
中小企業の設備投資を促進するため、金利の引下げ措置(1.90%→1.65%、昨年度から引下げ幅を0.05%拡大)を平成29年3月31日まで1年延長しました。
地方創生推進資金「県内進出・本社機能等強化支援枠」の創設
県外企業の県内への移転・進出を促すとともに、県内において本社機能等を強化する県内中小企業者を支援します。
地方創生推進資金「海外市場開拓支援枠」の拡充
県内中小企業の海外展開を積極的に支援します。

5 おわりに


本県の経済は依然として厳しい状況にありますが、今後とも県内経済情勢を見極めながら、国や金融機関、信用保証協会等とも連携して、中小企業の経営安定や成長を支援していきます。

とやま経済月報
平成28年7月号
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