特集

あいの風とやま鉄道のこれまでの取り組みについて

あいの風とやま鉄道株式会社

 

1 はじめに


日頃より、県民の皆様方には、あいの風とやま鉄道をご利用いただき心より感謝申し上げます。

さて、当社は昨年11月7日に、開業後239日目概ね8か月、予定より1か月以上早いペースで乗車人員1,000万人を達成することができました。

また、昨年11月に公表した平成27年度上半期の1日当たり利用者数は42,283人で、北陸本線(富山県区間)等旅客流動調査、将来需要予測調査(平成24年12月)における平成23年度の本県区間の普通列車利用者数(1日平均)約40,200人を5.2%上回りました。

このうち、定期利用者は30,694人/日、定期外利用者は11,589人/日であり、平成23年度の定期利用者約31,700人/日、定期外利用者約8,500人/日と比較すると定期外利用者が大幅に増加しています。

これもひとえに、通勤・通学をはじめとする当社線をご利用いただいた皆様方、また、当社を支えていただいた関係の皆様方のおかげであり、心から感謝申し上げます。

当社では、これまで安全・安心を第一に電車の運行に努めるとともに、混雑対策を中心とした利便性の向上やファンクラブを立ち上げマイレール意識の醸成、スタンプラリーを始めとする利用機会の創出に向けたイベントの実施を図り、積極的に利用者の拡大を目指してまいりました。こうした取り組みの成果も着実に乗車人員の底上げにつながったものと認識しています。

今回、この場をお借りして、これまでの当社の取り組みについてご紹介させていただきます。

2 経緯


平成27年3月14日の北陸新幹線開業に伴い、あいの風とやま鉄道が開業しました。当社は、西日本旅客鉄道(以下、『JR西日本』)から経営分離される北陸本線の富山県区間(倶利伽羅〜市振駅間:100.1km)の経営を担っています。

【当社概要】
・設立 平成24年7月24日
・資本金 40億円
・管理駅 19駅(石動〜越中宮崎駅)
・輸送密度 8,063人(平成27年利用実態調査より、平成27年4〜6月平均値)


北陸新幹線の富山県区間については、同区間の並行在来線となるJR北陸本線の富山県区間のうち、平成13年4月に富山以東(上越〜富山駅間)、平成17年4月に富山以西(富山〜金沢駅間)について、JR西日本からの経営分離に地元自治体が同意し、着工が決定されました。

同年7月には、県、県内全市町村、民間団体で構成する『富山県並行在来線対策協議会』(会長:富山県知事)が設立され、本県の並行在来線運営会社の在り方、経営の基本方針等の検討を行い、平成25年3月末に『富山県並行在来線経営計画概要(最終)』(以下、『経営計画概要』)がとりまとめられています。当社では、これを踏まえて、具体的な事業計画の検討を進めています。

3 経営環境と支援スキーム


(1)経営の基本方針

当社の路線は、富山県内を東西に走る幹線鉄道であり、JR城端線、氷見線、高山本線、富山地方鉄道のほか、富山ライトレール、万葉線、路線バスが結節するなど、県内の公共交通機関のネットワークの結節拠点として、また、当社区間の利用者の約8割が通勤、通学の定期利用者となっており、多くの県民の日常の生活を支える公共交通機関として、重要な役割を担っています。

※図をクリックすると大きく表示されます

こうしたことから、並行在来線の運営に当たっては、将来にわたって安定経営を続け、県民の通勤、通学等の交通手段を確保することを基本として、次の方針を経営理念に掲げています。

・鉄道経営の基本である安全性の確保を最優先とし、多くの県民の身近な生活路線として、利用実態に即した利便性の確保を図る。
・組織を簡素化して業務の効率化を図り、健全経営を目指す。
・県内公共交通のネットワークの結節拠点としての活用を図り、地域振興と住民福祉の向上を目指す。

(2)経営環境と支援スキーム

一方、並行在来線の運営については、多額の投資が必要なことや少子高齢化などによる利用者の減少が見込まれること等により、他の並行在来線会社と同様に当社も厳しい経営環境にあります。図は当社線の普通列車の将来需要を予測したものです(経営計画概要)。これによれば、利用促進策を講じることなく経営を続けた場合、駅勢圏人口の減少等により、開業後約10年後には約20%減、約20年後には約35%減、約30年後には約50%減となることが予想されています。

こうしたことから、他の並行在来線会社と同様に当社でも、行政、民間企業からの支援をいただいています。出資金40億円の構成については、県63%、県内全市町村27%、民間企業10%となっています。初期投資約185億円については、35億円を資本金に充当し、残りの150億円については、国の支援を含め県から補助金を交付いただくこととなっています。

また安定経営を図るため、県、市町村からそれぞれ30億円の拠出、民間企業等からのご寄附により、県から約65億円の『富山県並行在来線経営安定基金』が設置され、開業後約10年間の投資、運賃値上げの一定程度の抑制、利用促進対策等の支援財源として活用されることとなっています。

運賃水準については、経営安定基金からの支援により、開業後5年間は通勤定期・定期外についてはJR時と比較して1.12倍程度、通学定期はさらに抑制することとして、1.05倍程度の値上げとし、平均では、1.09倍程度の運賃水準とすることとしました。また、経営分離により、これまで同一会社であった区間が会社間を跨ぐ利用となる場合は、初乗り運賃が2重にかかることとなり、境界駅から近い駅からの利用者ほど値上げ幅が大きくなることから、先行会社の例も参考にしながら、乗継割引を実施しています。

こうした支援により、経営計画概要では、開業後10年後に収支が1億円の黒字となり、おおむね均衡するとの収支計画となっています。

4 利用促進に向けた取組み


前述のとおり、当社の経営環境は大変厳しいことから、利便性の向上に努めるとともに、利用実態を踏まえ、さまざまな利用促進を図っていくことが極めて重要であると考えています。①利便性の向上と②マイレール意識の醸成の観点から、利用促進に向けた取組みを行っています。以下、これまでの主な取組みをご紹介します。


(1)開業前の取り組み

当社では開業前から当社を広く認知してもらうため、社名を公募するとともに社名をベースとしたロゴマークを設定しました。ロゴマークについては、駅名標や車両デザインにも活用し、一体感を持ちつつ分かりやすい形で当社イメージの浸透をはかりました。

また、子供たちにも当社を広く知っていただくため、2014(平成26)年7月に小学生を対象にヘッドマークデザインの募集を行い、同年11月30日に最優秀作品1点、優秀作品5点(各学年1点)を発表しました。1,000件以上の応募があり、あまりの反響の大きさ、作品のレベルの高さに驚きました。最優秀作品1点、優秀作品5点については、実際にヘッドマークとして車両に1か月間取付け、最終選考に残った作品54点を車内に掲示しました。小学生に対するあいの風とやま鉄道のPRだけでなく、愛着をもっていただくことにつながったのではないかと思っています。

加えて、県民のみなさまの、当社に対するマイレール意識の醸成や利用の促進につなげると共に、駅をまちづくりの核として地域の活性化に資することを目的に『あいの風とやま鉄道ファンクラブ』を2014(平成26)年9月29日に設立し、同年10月20日から会員募集を開始しました。

沿線のみなさまをはじめ、県内外から鉄道ファンの方や親子でお申込みいただいた方のほか、出資者や関係団体の皆様方にも多数ご入会いただき、現在、7,000人を超える会員数となっております。引き続き、当社の魅力向上に努め、『あいの風とやま鉄道ファン』の輪を少しずつ広げていきたいと考えています。


(2)開業後の取り組み
①運行ダイヤ

運行ダイヤについては、利用実態を踏まえて利便性の確保を基本に検討を進め、IRいしかわ鉄道、えちごトキめき鉄道と相互直通乗り入れを行うほか、利用者の多い区間の朝の時間帯に増便を行っています。また、新幹線開業に伴って当社区間の特急が廃止されたことから、金沢〜泊間で快速タイプの『あいの風ライナー』を1日3往復運航しています。このほか、県東部と県西部の人の交流の促進を図るため、県東部と県西部を結ぶ直通列車を倍増(11本⇒23本)させるなど、利便性の確保に努めています。


②交通ICカードの導入

JR西日本からご支援とご協力をいただき、2015(平成27)年3月26日にICOCAのサービスを開始しました(まずは、きっぷ機能のみ有するICカードの利用を開始)。サービス開始から11月末時点で、1日の平均利用件数は約1,250件で順調なスタートをきったと考えています。現在、2016年春からのきっぷ機能と定期券の機能を併せ持つIC定期券の利用開始に向け、鋭意準備を進めています。

③新駅の設置

当社では、現在、高岡駅と西高岡駅間及び富山駅と東富山駅間の2ヶ所に新駅の設置を計画しています。県及び地元自治体と連携し、両駅の設置に向け準備を進めているところです。


④ぷち旅ガイドブックの作成

当社では、県民の東西交流の推進を図るととともに、北陸新幹線等を利用し、本県を訪問される観光客の方にご利用いただくため、駅周辺の魅力を盛り込んだ『ぷち旅』を紹介したガイドブックを作成し、無料配布しています(在庫がなくなり次第終了)。このぷち旅ガイドブックの作製にあたっては、各駅に担当女子(=駅女子)を配置し、駅周辺の魅力を再発見し、紹介していただきました。このガイドブックを手に、駅女子が再発見したぷち旅を楽しむだけでなく、当社線を利用した自らのぷち旅を楽しむきっかけになればと思っています。


⑤オリジナルグッズの制作

オリジナルグッズの制作にあたっては、ロゴマーク、駅名標デザイン及び車体デザインを積極的に活用し、オリジナルグッズを7種類(ネクタイ、キーホルダ、マフラータオル等)制作しました。開業日には多くの方にご購入いただき、現在は、当社HPからも購入申し込みができます。今後も、ロゴマーク、駅名標デザイン及び車体デザインを活用したオリジナルグッズを作成し、当社に親しむきっかけを作っていきたいと思っています。


⑥駅舎等の利活用

開業日には、沿線市町において、駅構内や駅前広場で開業イベントが開催され、大勢の方に参加いただき賑わいました。

当社では、駅を中心としたまちづくりへの協力や賑わいを創出するため、積極的に沿線市町を中心に地域住民、企業、団体による駅舎の利活用を推進していきたいと考えています。具体的には、沿線市町等において、ハード整備が伴うものとして、観光案内所等の設置やチャレンジショップの実施の可能性が検討されています。また、ソフト事業では、駅において清掃活動や花壇整備、駅舎内でのコンサートなどの活動が行われています。

また、パークアンドライドの推進は、利用者増に直結することから、沿線市町が行う駐車場の整備に協力することとしています。


⑦企画きっぷ

当社では、開業から順次、3種類の企画切符を発行しています。

1)1日フリーきっぷ

当社の営業区間の石動駅から越中宮崎駅までの1日乗り放題の1日フリーきっぷを発売しています(土日祝及び特定期間のみ利用可)。開業時には、平日も利用できる「開業記念1日フリーきっぷ」を硬券で作成しました。平日も利用可能としたことから、お得感があり、多くの方にご購入いただきました。

また、当社区間だけでなく、IRいしかわ鉄道と共同企画して、金沢駅から越中宮崎駅まで1日乗り放題の「あいの風・IR1日フリーきっぷ」を発売しています(土日祝及び特定期間のみ利用可)。

2)中学生往復半額ホリデーパス

小学生の半額運賃から大人運賃となる中学生に継続的に電車を利用してもらい、電車利用の利便性を実感してもらうことを意図しています。きっぷの周知が進むにつれ、着実に販売数が伸びています。

3)市町タイアップきっぷ

沿線市町のイベントとタイアップして東西交流を促進することを目的としたきっぷです。イベント最寄駅までの往復運賃が1,000円を超える場合は、1,000円とするものです。今年度は4つのイベントとタイアップします。

イベントの主催者と当社がお互いにWIN-WINの関係になることができればと思っています。


⑧観光列車の整備について

観光列車は、観光振興や鉄道利用促進の観点から期待されており、当社においても、美しい富山湾や立山連峰、豊かな田園地帯など多彩な眺めを楽しみながら、富山湾鮨など富山ならではの食事や伝統的な祭り・文化を楽しむ観光列車の導入を検討してきました。

観光列車の導入には、運行車両の確保(当社では521系16編成、413系5編成、合計21編成で運行を実施)や整備などに係る財源確保、採算性等の課題がありますが、このほど、当社の自己資金について一定の目途がついたことから、経営計画概要に定める車両更新に係る県の支援を前倒ししていただければ、次のスケジュールで観光列車の整備を進めたいと考えています。


平成28〜29年度 521系1編成を新造(通勤・通学用)
平成28年度前半 413系1編成を簡易改造、イベント列車(通勤通学用にも使用)
平成30年度前半 413系1編成を観光列車化改造(観光列車用、予備車利用)
平成30年度後半 観光列車運行開始

5 おわりに


あいの風とやま鉄道は、多くの関係のみなさまのご支援により、おかげさまで順調なスタートをきることができ、開業2年目を迎えようとしています。この場をお借りして感謝申し上げます。

今後とも、安全を最優先に運行を行うとともに、お客様のご利用実態に即した利便性の向上や、マイレール意識の醸成を図り、地域の皆様に愛され、地域のみなさまとともに発展する鉄道となるよう、社員一丸となって取り組んでまいります。

とやま経済月報
平成28年1月号