特集

瀋陽の経済発展と交通事情

富山県国際課中国遼寧省派遣職員 後藤 圭佑

1 はじめに


私は平成26年8月から27年8月までの約1年間、富山県からの派遣職員として中国遼寧省の省都瀋陽市に滞在しました。富山県と遼寧省は1984年に友好県省を締結し、それ以来、職員の相互派遣、留学生や研修員の受入等の人的交流をはじめ、文化、経済、観光、環境、スポーツ、教育など様々な分野で交流を行ってきました。それらの交流の積み重ねによって、両県省間の交流は日中間の自治体交流の模範として高く評価されています。また、昨年は友好県省を締結して30周年の節目の年を迎え、10月には石井知事を団長とする友好代表団が遼寧省を訪問し、様々な記念事業を行いました。私はこのような友好交流事業に携わるとともに、遼寧大学で語学研修、また遼寧省政府において行政研修を受けながら生活しました。今回は実際に生活した瀋陽市について、経済発展と交通事情という観点から紹介します。

2 遼寧省瀋陽市について


瀋陽市は遼寧省の省都であり、人口800万人を超える中国東北地方の経済・交通・商業の中心的都市です。漢族を中心に満州族、回族、朝鮮族、モンゴル族など29の民族が住んでいます。また瀋陽市は多様な産業分野を有する工業都市であり、国の重要な産業基地となっています。機器製造、自動車及び自動車部品、建築、農作物の高度加工機器などが主な産業であり、近年急速な経済発展を遂げ、瀋陽市は、中国東北地域における経済の中心となり、日本からも多くの金融機関や企業の支社が進出しています。また瀋陽市を中心とした周辺7都市(鞍山(あんざん)市、撫順(ぶじゅん)市、本溪(ほんけい)市、営口(えいこう)市、遼陽(りょうよう)市、鉄嶺(てつれい)市、阜新(ふしん)市)によって、新産業を促進する瀋陽経済区が構成されています。

その他、歴史文化都市としての側面も持ち合わせており、清朝黎明期の宮殿である瀋陽故宮、清朝の初代皇帝ヌルハチの陵墓である福陵、そして2代目皇帝のホンタイジの陵墓である昭陵と3つの世界文化遺産を有しております。

また瀋陽市は、高速鉄道、高速道路、都市間鉄道が通っており、東北地方最大級の鉄道駅である瀋陽北駅や、国際路線も豊富な瀋陽桃仙空港があります。このように地理的にも非常に優位性を持つ都市だと言えます。

3 瀋陽市の経済発展と交通網の整備


もとより瀋陽市は、石炭や鉄鉱石などの天然資源を背景とした中国国内有数の重工業地帯でしたが、2000年代に入ってから急速に経済が発展しました。これは2003年の中国政府(国務院)による重要政策である「東北振興政策」に基づき、国有企業の改革や産業構造調整等を強力に推進し、東北地域の企業再編や民間・外資の導入などを積極的に進めたことによります。その結果、瀋陽を含む東北地方は新たな市場として注目を浴びるようになりました。

2014年の瀋陽市の経済状況は、GDPは7098.7億元、成長率は6.0%、省内シェアは24.8%、貿易総額は158.0億ドルであり、とりわけGDPは5年前と比べ約1.6倍となっております(表1)。社会インフラの整備も急ピッチで進められており、2012年にはハルピンと大連の間に高速鉄道が開通し、それまで特急列車で4時間かかっていた瀋陽―大連間が、約1時間30分で移動できるようになりました(夏ダイヤの場合。冬ダイヤの場合は約2時間20分)。また、高速道路も、市街地を囲む環状高速道路など多くの高速道路が瀋陽市を中心として放射状に延びており、省内の各都市への移動が大変スムーズにできるようになっています。

表1:瀋陽市GDPの推移

(単位:億元)

表

出所:瀋陽統計年鑑、瀋陽市2015 年統計公報、 遼寧省2015 年統計公報

4 地下鉄の開通


このように経済発展と交通網の整備が進む中、2005年11月から、地下鉄建設工事が開始されました。そして、2010年には瀋陽市内の東西を結ぶ1号線が、2012年には、市内の南北を結ぶ2号線が運行を開始しました。この2路線は、瀋陽市中心部において縦と横で十字に交わっており、瀋陽北駅や瀋陽駅と、市内の代表的な繁華街である中街、太原街や市の中心部である青年大街などを結んでいます。両路線の開通から3年ほど経ちましたが、今日では、通勤や買い物の足として、毎日多くの瀋陽市民に利用されています。縦に伸びる2号線はさらに郊外に延びる計画もあります。現在、市の郊外を通る9号線、10号線の建設も進められおり、瀋陽市内の交通の利便性はさらに向上すると考えられます。

5 中国の地下鉄


中国の地下鉄では、基本的に紙の切符はなく、ICカードが一般的です。券売機では、路線内のすべての駅が液晶パネルで表示され、その中から降りる駅のボタンを押すと今自分のいる駅と降りる駅の区間だけで使用することのできるICカードが出てきます。また、チャージ可能なICカードを購入することもできます。地下鉄を定期的に利用する場合は、このチャージ可能なICカードを購入した方が便利です。このICカードは市内のバスにも使うことができ大変便利です。

また、地下鉄の料金は、日本と比べると格段に安いです。瀋陽の場合、初乗り区間は2元であり、そこから距離によって3元、4元と加算され、上限は4元です。現在のレートは1元=約20円なので、日本円にすると約40〜80円くらいです。

中国の地下鉄はセキュリティチェックが厳しく、構内に入る際は、必ず安全検査機に自分の持っている荷物を通さなければなりません。不審なものがあった場合は、確認のため荷物の中身を見せなければいけないこともあります。

写真

地下鉄のホームは、ほぼ日本と同じ構造になっています。ホームと線路の間には、落下防止のためのガラス製の仕切りが備え付けられています。日本と違うところと言えば、ホームに備え付けられている椅子の数と構内の広告の数が少ないことです。そのため、ホーム内はとてもすっきりしている印象です。

運行の間隔はだいたい5分〜10分毎に電車が来るので、何十分も待たされることはありません。そのため、バスやタクシーを使うよりも、安心して時間通りに目的地へ着くことができます。また、瀋陽の冬はマイナス20度にもなるため、冬の時期に外でバスやタクシーを待つのは大変苦痛です。そのため、暖かく待ち時間の少ない地下鉄は特に冬の時期に重宝されています。

6 瀋陽の渋滞問題


瀋陽では経済発展にともないマイカー保有率が上昇し、都市部の渋滞が社会問題となっています。特に通勤ラッシュの時間帯は大変混雑し、中国人の運転マナーも相まって、交差点は自動車がいろんな方向に向いていたりとすさまじいものです。またタクシーもなかなかつかまりません。地下鉄の開通後、今は多くの人が地下鉄を利用していますが、まだまだ瀋陽市民の足としてはタクシーが一般的です。日に日に悪化する交通渋滞を解消するために、地下鉄などを建設したということをよく聞きますが、実際、現時点では大きな成果は出ていないように感じます。地下鉄の路線がさらに増え、瀋陽市内のどこにいても地下鉄を利用できるようになれば、この交通渋滞もいくらかは解消されるのではと思います。

写真

(写真5 瀋陽の渋滞の様子)

7 まとめ


2000年代から急激なスピードで発展を遂げている瀋陽ですが、ここ数年においても新しいビルが次々と建ち、景観的にも経済が発展していると感じることができます。しかし、都市としての利便性が向上する一方で改善すべき点も多く出てきているように感じます。交通網の整備についても地下鉄の建設が進む一方で、道路の舗装については整備不良が目立ちますし、交通渋滞もいまだ解消されていません。最近、中国全体ではGDP成長率が10%を切り、発展のスピードが緩やかになってきていると言われていますが、そのような状況だからこそ、発展の早さではなく、成長の質に目を向けるべきだと考えます。地下鉄の建設や道路の舗装、信号機の設置などのハード面に目がいきがちですが、電車内での乗車マナーや道路上での交通マナーの向上などソフト面においても改善策を模索していく必要があるのではないでしょうか。

瀋陽市の1年間の生活の中でも、中国人のモラルや価値観が変わってきていると感じることは多々ありました。一昔前までは順番に並ぶという習慣はほとんどなかったと聞いていましたが、現在では地下鉄やバスの乗車時にも、少しずつではありますが、列に並ぶという習慣が根付きつつあります。経済的に豊かになった中国ですが、物質的な豊かさから精神的な豊かさに、少しずつ関心が移りつつあると感じました。


参考文献
札幌市HP 瀋陽市紹介
在瀋陽日本国総領事館HP 瀋陽市の概況
日本貿易振興機構(ジェトロ)大連事務所 瀋陽市概況
瀋陽市駐日本経済貿易代表処 瀋陽‐躍進し続ける街‐
中国生活ブログ 中国遼寧省/瀋陽ガイド
とやま経済月報
平成27年9月号