設備投資計画調査からみた富山県経済の今株式会社日本政策投資銀行富山事務所 鵜殿 裕 奥村 渚 |
民間企業設備投資(以下、「設備投資」という。)は、我が国の国内総支出(実質)の約13%のウェイトを占めており、毎年の変動が大きいことから個人消費などと並んで景気動向を左右する重要な要素である。また、企業の投資計画は、将来的な収益への期待を基に決められているため、その時点の企業マインドを表す指標とされる。富山県においても、設備投資は県内総支出(実質)の約13%を占めており、国全体と同様、地域における企業の事業展開への意欲を示すものとして、地域経済の今後の姿を占うために重要な指標である。 本稿では、株式会社日本政策投資銀行(以下、「DBJ」という。)が定期的に実施している設備投資計画調査を材料に、富山県経済の現状と特徴について考察を試みることにしたい。 |
1 はじめにDBJでは、各業種・各地域における設備投資の動向を把握することを目的に、毎年6月に、資本金1億円以上の民間法人企業(金融保険業等を除く)に対して、設備投資(国内における有形固定資産投資)計画・実績に関するアンケート調査を実施している。 2015年6月に実施した最新の調査では、2014年度設備投資(実績)、2015年度及び2016年度(計画)について6,031社から回答をいただいた。 なお、本調査は、本社所在地に関係なく投資地点で集計している(属地主義)に特徴があり、富山県内に本社を置く会社の設備投資だけではないことに注意されたい。 また、本調査における設備投資額とは工事ベースの金額であり、原則として建設仮勘定を含む有形固定資産勘定への計上額である。また集計に際しては、事業部門別の回答額を業種毎に分類・集計している。 |
2 設備投資からみた富山県設備投資の特徴今回の調査結果を詳細にみていく前に、富山県の設備投資についてその特徴を簡単に整理したい。 富山県の特徴は設備投資額に占める製造業のウェイトが高いことである(図表1)。全国の水準と比べ高いレベルであり、絶対額についても他の北陸2県と比較し際だって多い。特に、富山県の主力産業である化学、金属製品等が活発に投資を行っていることが、その要因としてあげられる。 一方、非製造業(除電力)は(製造業が強い裏返しでもあるのだが)ウェイトが低く全国との製造業・非製造業(除電力)のバランスでみると見劣りする結果となっている。 図表1 設備投資産業別金額・構成比比較
(単位:億円、%)
(出所) DBJ 「2014・2015・2016年度 北陸地域設備投資計画調査」 |
3 2015年6月調査結果とその評価今回の調査によれば、県内の2014年度設備投資(実績)は、全産業(除電力)で17.3%増と4年連続の増加となった(図表2)。 このうち製造業は16.5%増と3年ぶりの増加に転じた。業種別にみると、食品(51.3%減)、繊維(94.4%減)、紙・パルプ(19.1%減)などが減少したものの、その他製造業(45.2%増)、化学(26.7%増)、一般機械(89.9%増)などが増加した。 非製造業(除電力)は19.2%増と4年連続の増加となった。業種別にみると、卸売・小売(6.4%減)が減少したものの、通信・情報(79.7%増)、不動産(100.4%増)、その他非製造業(5.4%増)などが増加した。 続く2015年度設備投資(計画)では、全産業(除電力)で28.7%増と5年連続の増加となる。 このうち製造業は、20.1%増と2年連続の増加となる。業種別にみると、電気機械(18.8%減)、一般機械(7.4%減)、食品(34.9%減)が減少するものの、化学(24.5%増)、その他製造業(27.5%増)、金属製品(81.0%増)などが、能力増強や合理化投資などによって増加する計画となっている。 非製造業(除電力)についても、48.8%増と5年連続の増加となる。業種別にみると北陸新幹線開業に伴って不動産(64.8%減)、運輸(24.7%減)、通信・情報(10.6%減)などに反動減があるものの、その他非製造業(104.5%増)、ガス(42.9%増)、卸売・小売(11.0%増)などが増加する計画となっている。 なお、今回調査では上記の通り2016年度計画についても調査しているが、現時点の来年度計画には不確定要素が強く、参考程度のデータと考えるのが妥当である。結果のみ記しておくと、全産業(除電力)で前年度比27.7%減、製造業が25.5%減、非製造業(除電力)が37.3%減となっている。 |
4 設備投資の時系列的傾向2015年度の設備投資計画が、時系列的にどの程度の水準なのか見てみよう。図表3は、リーマンショック前年の2007年度以降の全国・北陸・富山県における設備投資調査の結果を、2007年度=100として指数化したものである。これによれば、2015年度計画額は全国79、北陸126、富山県133となる。 この間の推移をみていくと、2008年のリーマンショックを経て、2009年度にかけて急減、以降は回復してきている。但し、全国の水準はリーマンショック前までには回復していない一方、富山県は、製造業主導により、2014年度実績でリーマンショック前の水準にまで回復してきている。 次に2007年度からの9年間において、どのような業種が増減に寄与してきたのか、設備投資額(除電力)構成比の7割程度を占める製造業で見ていくこととする。 この期間は、ちょうど、2008年のリーマンショックやその後の回復期を挟み設備投資が増減した期間を含んでいるため、設備投資の後退・回復局面が明確に出ている期間となっている(図表4)。 ここで特徴的なのは、化学の推移である。富山県の場合は医薬品が中心であり、国の政策など景況と離れたところで需給関係(斯業における景況)が決まることもあって、必ずしも、全体の設備投資動向と同じ動きをせず、独自の動きを示している。特に、リーマンショック直後の2008・2009年度は、製造業全般が設備投資を減額するなかで、化学は増加の寄与度を示しており、全体の設備投資減退の趨勢を緩和する役割を果たしたことが見て取れる。近年も、能力増強投資などによって、高い伸びを示している。 化学以外では、一般機械が全体の増減と近似した増減傾向を示していること、その他製造業と一般機械がここ数年は牽引していることが、見て取れる。 いずれにしても、富山県の場合、化学が製造業全体の30%超を占めており(2014年度実績32%、2015年度計画33%)、その動きが全体に与える影響は大きいと言えよう。 |
5 最後に:今後の取り組みについて最後に、これまでみてきた設備投資の特徴を踏まえ、これからの富山県が一層の産業振興を実現していくための取り組みを考えてみたい。 ポイントとしては、 まず、「化学の裾野の強化」であるが、平成17年富山県産業連関表によれば、化学の県内自給率は12.6%に留まっており、金属製品(33.5%)や一般機械(26.5%)に比べて低位な水準にある。 くすりの富山として、容器やパッケージ印刷など医薬関連産業の裾野は広いものの、産業連関としての移輸入率は高く、医薬を中心とした化学における旺盛な設備投資需要の効果を、県内で充分に受け止めているとは言いがたい状況である。新商品や新技術に向けた大学等の研究機関との共同研究なども重要であるが、生産ラインを効率的かつ安定的に稼働させるための技術など、現場の価値を維持・向上させていくための産業的・技術的な連鎖が、富山県内に蓄積されていくことも重要である。 次に、「産業構造の多様化」であるが、北陸新幹線開業もあり観光などサービス産業の育成がまず期待されるであろう。 但し、富山県の強さは製造業にあり、その強みを活かした産業構造の多様化を図ることも重要である。具体的には、クラウドソーシングやビジネスマッチングなどを活用して製造業と深く関係した新しいサービス業をはじめ、いわゆる「モノづくり」から「コトづくり」へと展開させていくようなクリエイティブ産業の育成に期待したい。 |