特集

第60回全国統計教育研究大会富山大会を終えて

富山県統計教育研究会

 

1 はじめに


情報化時代である今、年々IT機器が進化し、児童生徒がゲーム機を用いてインターネットに接続できる時代となりました。コンピュータやスマートフォンを用いれば、いつでもどこでも大量のデータも閲覧できる時代にもなってきています。このような時代を生きていく児童生徒には、情報を的確に捉え、分析し、判断し、その情報が有益なのか、正しいのかを判断する能力が求められます。そのためには、各教科や特別活動、総合的な学習の時間等の日々の授業において、児童生徒が客観的な資料としていろいろな統計情報を整理し、物事を合理的に判断する力や統計的な見方・考え方を育成していくことが重要です。

2 全国統計教育研究大会とは


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今回の第60回全国統計教育研究大会は、平成26年8月21日から22日の2日間にかけて、オークスカナルパークホテル富山にて開催されました。大会には、全国より小中学校の先生方をはじめ約150名の参加がありました。

また、今大会の主題は、「生きる力を育てる統計教育〜思考力・判断力・表現力を育成する統計教育をめざして」だったのですが、この主題にしたのは、次のような理由があります。

新学習指導要領では、思考力・判断力・表現力等を育むために、観察・実験、レポートの作成、論述など知識・技能の活用を図る学習活動を発達段階に応じて充実させる学習活動に取り組む必要があると指摘しています。さらに、算数科・数学科に統計的な見方や考え方に基づいた単元が取り入れられ、データに基づいた問題解決力の育成が期待されています。小学校では、言葉や式、表、グラフ等を用いた思考力・表現力を重視するため、低学年から「数量関係」の領域が設けられました。また中学校では、「資料の活用」が新設され、必要な資料を収集・処理し、資料の傾向を捉えて説明する思考力・判断力・表現力を育成することが一層大切となっています。

そのため、生きる力を育てる統計教育を推進し、課題を解決するために必要な思考力・判断力・表現力を育成する統計教育を目指しています。さらに、統計的なものの見方・考え方を培うため、データに基づいて自分の考えをまとめ発表したり、説明したりすることは、思考力・判断力・表現力を育てることにほかなりません。

以上のことから、本大会では、統計手法を生かし、統計的探究プロセスの学習過程「とらえる」「あつめる」「まとめる」「よみとる」「いかす」を各教科・領域等の特性に応じて活用し、指導していくことが大切であると考え、大会主題を設定しました。

大会の参加者たちはこの大会主題のもと、
(1)統計資料を積極的に活用し、統計的なものの見方・考え方で課題を解決していこうとする授業づくりをめざす。(統計的手法の活用)
(2)目的に応じてデータの傾向を読み取り、判断したり表現したりする授業づくりを目指す。

ことを研究目標とし、今大会のプログラムに取り組みました。

3 大会の内容について


まず、初日は午後に理事会を開催後、夕方から統計の夕べを開催いたしました。ここでは、参加者の方々は親睦を深められ、より一層統計教育に対する見識を深められたことと思います。

2日目には、午前は記念講演と統計発表を、午後には分科会を開催いたしました。

記念講演は、富山国際大学現代社会学部 客員教授 浜松 誠二 先生を講師に迎え「統計リテラシーを育む」を演題に行われました。以下、講演を一部抜粋させていただきます。

SFの父H.G.ウェルズは、20世紀の初めに「統計的思考が、読み書きの能力と同じように、善き市民となるために欠かせないものとなる日がやってくるだろう。 」と述べています。現在、情報通信技術の進化、浸透により、多様なデータが蓄積され、分析システムも普及し、この日がやってきました。翻って考えてみますと、世の中には誤った多くの知識が流布しています。正しい知識を自ら得るためには、的確な作法による調査が必要です。調査には、事例的調査と統計的調査があり前者で着想し、後者で普遍性を確認します。このうち統計的調査については、ある程度意識して学んでおく必要があります。中学生くらいまでには、主体的にデータを入手し、図表を描き、内容を読み取るような能力、習慣を培って欲しいと思います。このためには、あらゆる授業科目、その他の活動で、機会を捉えて、統計を使った説明をするとともに、子供たちにも利用するよう促すことが大切だと考えます。

これまで学校の中で統計学を取り上げることは少なかったように思います。この講演会では、参加者が統計学を学校教育でどのように取り上げていけばよいかについて考える貴重な機会となったようです。


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<統計グラフの掲示発表>

統計発表では、次の2名の受賞者により行われました。

(1)
「英語を楽しく学ぼう」
魚津市立西部中学校 1年
(受賞時:魚津市立村木小学校 6年)
寺ア 真実 さん
(2)
「世界のエネルギー事情」
富山県立砺波高等学校 1年
(受賞時:砺波市立出町中学校 3年)
今泉 明日翔 さん

寺崎さん(魚津西部中)、今泉さん(砺波高校)の発表は、これまでの永年にわたる統計コンクールへの継続した取組がすばらしく、他県の参加者からもその内容への賞賛の声が多数聞かれました。


分科会では、3つの分科会に分かれ次の通り発表が行われました。

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4 終わりに


「統計学が最強の学問である」(西内啓著)にもあるように、現代は情報を制するものが世界を制するとさえいわれます。本年度、本県で第60回全国統計教育研究大会を開催し、学校教育における統計学の果たす役割について全国の教員が意見交換しました。

新しい学習指導要領では、中学校の数学で「資料の活用」の領域が新設され、高校でも数学Tにおいて「データの分析」という単元が新設されるなど、統計の内容が多く盛り込まれています。

スポーツ界等では、データを重視した戦略をとることが当然の時代となっていますが、皆様のまわりではデータの活用、統計学の浸透の状況はいかがでしょうか。

私たちはこのような機会を通じて、統計教育の普及により一層努めていきたいと考えています。

とやま経済月報
平成26年10月号