特集

短観でみる富山県経済の現状

日本銀行富山事務所長
佐子 裕厚

 

1 はじめに


「日本経済は緩やかに回復しています」(昨年12月の政策決定会合後の日本銀行の景気判断)。

昨年の日本経済を振り返りますと、一昨年12月の安倍政権誕生後に打ち出された「アベノミクス」効果によって、個人消費、住宅投資、公共投資といった内需が活発化したほか、円安効果によって輸出も増加しました。海外経済の減速といった懸念材料もありますが、総じて言えば、日本経済は順調に回復軌道に乗っていると考えて良いと思います。

今年の日本経済のポイントは、これまでの非製造業(小売、卸売、建設、不動産など)主導の景気回復から製造業主導の景気回復にうまく移行していけるかどうかです。また、「賃金の引き上げが進み、消費を活性化させる」という、自律的なメカニズムが働くかどうかもポイントです。

本稿では、こうした点を踏まえながら、昨年12月に私どもが公表した短観1結果に基づいて当県経済の現状をみていきたいと思います。

2 景況感(図表1)


全国ベースの業況判断(「最近」についての判断)をみると、製造業、非製造業とも改善を示しており、これまで出遅れ感があった製造業の景況感が非製造業の景況感に追いついてきていることが解ります。「1 はじめに」で申し上げた、非製造業から製造業への移行は全国レベルでは順調に進んでいるように思えます。

他方、当県の業況判断(全産業ベース)をみますと、非製造業はほぼ前回9月調査並みとなっていますが、製造業は前回調査に比べて悪化しています。製造業の悪化は、円安による輸入原材料の値上がりなどによるものです。全国と当県の景況感の違いが特に製造業で目立っており、非製造業から製造業への移行も全国ほど順調には進んでいないように思います。

ただ、当県の景況感の動きをやや長い目でみますと、リーマンショック前後の落ち込み→V字回復から、東日本大震災の影響による停滞期を経て、昨年に入ってからは再び持ち直し傾向にあります。「アベノミクス効果」が当県企業のマインドも押し上げてきた訳です。日本全体の景況感が着実に持ち直していることや、当県企業の収益環境が改善していること(詳しくは「4 売上・収益」でご説明します)から考えて、当県経済の持ち直し傾向は続くとみて良いと思います。

1 企業短期経済観測調査。資本金2千万円以上の民間企業を対象に、毎年3、6、9、12月に調査を実施。全国で約1万1千社。北陸地域では、富山、石川、福井の三県の約340社が対象。北陸短観では、北陸三県の対象先を日本銀行金沢支店が集計し、公表。

(図表1)業況判断D.I.(富山県/全国):「良い」−「悪い」
▼ 業況判断の推移(富山県、全産業ベースD.I.、%ポイント)

※図をクリックすると大きく表示されます

3 業況判断の業種別内訳


業種別の動向につきましては、当県単独のデータがありませんので、北陸地域全体のデータでご説明します。

景況感を12月時点と9月時点の「最近」で比較します。

製造業では、改善が6業種、悪化が4業種、不変が4業種となっています。内訳としては、医薬品を中心とする化学、公共工事関連の石油・石炭製品(コールタールなど)、窯業・土石製品、輸出関連のはん用・生産用・業務用機械、スマホ関連の電気機械といった業種が改善する一方で、円安による輸入原材料の値上がりなどにより、木材・木製品、紙・パルプ、鉄鋼、金属製品といった業種で悪化しています。

非製造業では、改善が6業種、悪化が3業種、不変が1業種となっています。内訳としては、公共工事・住宅建設関連の建設、不動産、物品賃貸、内需関連の小売、サービスといった業種が改善する一方で、円安による輸入原材料の値上がりなどにより、運輸・郵便、電気・ガスといった業種で悪化しています。

4 売上・収益(図表2)


2013年度の当県の売上・収益をみますと、製造業、非製造業とも2012年度に比べて増収・増益となっており、特に経常利益は、内需の堅調さや円安による輸出採算の改善・輸入品への競争力向上により、高い伸びとなっています。ちなみに製造業の12月の売上高経常利益率(4.83%)は2007年度(4.84%)以来の高さで、リーマンショック前の水準に戻っています。

(図表2)売上・収益(富山県/全国、%)  

(注1)富山は石油製品、電気・ガスを除く。
(注2)売上高、経常利益は前年度比、売上高経常利益率は実数、%。

5 設備投資(図表3)


2013年度の当県の設備投資計画をみますと、製造業では二ケタ増を示した2012年度に比べても堅調な伸びを示している一方、非製造業では積極的な設備投資がみられた2012年度の反動減から大幅マイナスとなっています。この結果、全産業ベースではほぼ2012年度並みとなっています。

ただ、非製造業につきましても、9月調査に比べて上方修正をする動きが活発化しており、総じてみれば、企業の投資マインドは上向いてきていると思います。

(図表3)設備投資(富山県/全国、前年度比%)

(注)富山は石油製品、電気・ガスを除く。

6 結び


今回の短観でも、当県の経済が持ち直し傾向にあることが確認できたと思います。ただ、全国ベースと比べると、製造業の景況感が弱い点が目立ちました。非製造業から製造業への景気のリード役への移行については、当県の場合、もう少し時間がかかるように思います。

他方、雇用については(図表4)──これは北陸地域全体のデータですが──、非製造業の方が人出不足感は強いものの、製造業でも人出不足超となっており、景気の持ち直しが波及している姿がみられます。

4月には消費税の引き上げが行われます。消費税引上げによるマイナスを賃上げや各種経済対策などのプラス効果がどの程度緩和し得るのか、当県と関係の深い中国・東南アジア諸国の景気動向とともに今年の注目点だと思います。

(図表4)雇用判断D.I.(北陸/全国):「過剰」−「不足」
とやま経済月報
平成26年1月号