特集

人口は操作できるか

富山国際大学現代社会学部客員教授
富山地域学研究所所長 浜松 誠二

 

1 人口減少と高齢化


富山県の総人口は、1998年の1,126千人をピークに減少し始めた。全国の総人口については、10年後の2008年の128百万人をピークとして減少し始めている。

また、社会保障・人口問題研究所は2012年に、「将来推計人口」として、全国の総人口は、2010年の128百万人から2040年までには84%の107百万人へと減少していくと発表した。この推計の中では、全国の高齢化比率(65歳以上人口比率)は、2010年の23%から2040年の36%へと高まるとしている。富山県の高齢化比率も同期間に26%から38%へと高まるとされている。

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このような人口変化に直面して、人口対策の強化が必要とされ、保育所の拡充など、子どもを産み育てるための環境整備についての議論が盛んになされている。また、政府は本年6月に人口対策の「骨太方針」を閣議決定しており、「50年後に1億人程度の安定した人口構造の維持を目指す」ことを目標に掲げている。

ちなみに、富山県の2015年の高齢化比率は、31%と見積もられており5年間で4.4%ポイントの大幅増加となっている。これは、団塊の世代の総人口中の比率が、都道府県の中で富山県が最も大きく、この世代が2015年には65歳を超えるためである。

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2 富山県民総合計画での人口見通し


古い話となるが、中沖豊前知事が新たに就任され、県政運営の指針として「富山県民総合計画」が策定された際、1981年に富山県の将来人口の予測を行っている。この予測の中にある中位推計では、総人口は、直前の1980年の国勢調査での1,108千人から、一旦は1,120千人を超えるまでに増加するが、その後減少し、30年後の2010年には1,098千人になると予測していた。そして、2010年の国勢調査での富山県の総人口は1,098千人であり一致した。

これは、多様な誤差が相殺し、たまたま一致したものであり、極めて正確な予測ができていたというものではない。例えばこの間に、外国人労働者に関する制度の変更があり、外国人は1万人以上増加している。

しかし、人口の将来予測は、これまでかなり正確にできていたことは間違いない。県民総合計画の策定過程では、このような将来人口をどう扱うか、別途に目標人口を掲げることも可能ではあるが、趨勢と異なる人口の実現は極めて難しく、やはり人口は与件として捉えるべきであろうという判断がなされた。

そして、この場合には、それまでの各種基盤施設整備計画の見直しを改めて行うことが必要となるとの認識に至った。しかし、各種基盤施設整備事業は富山県の経済活動の中に組み入れられており、また国からの資金の流れ等を鑑みると、即座の対応は困難な点が多く、結局、課題を持っていることを自覚しつつ、県民総合計画が策定された。

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3 人口予測


(1)人口予測の方法

以下では、これまでの我が国での人口の将来予測について振り返ってみたい。ただし、5年に一度の推計毎に、予測手法を改めており、説明は簡略化したものとなっている。

まず、人口予測の方法については、現在の人口に年々の出生数、死亡数、社会移動数(転出入差)を加減し、年を追って計算を積み重ねていくことでできる。具体的には、現在の性別年齢別人口を基に、将来の性別年齢別の出生率、死亡率、社会移動率を想定して行う。

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(2)出生率の想定

出生率の想定については、合計特殊出生率(一定年次の女の年齢別出生率の合計)を想定するとともにその率の年齢別構成比(配分)を設定し、年齢毎の出生率を求める。さらに出生児の男女比率の設定も必要である。

我が国のこれまでの合計特殊出生率の推移については、終戦直後のベビーブーム以降は、1970年初めまで安定していた。しかし、オイルショックがあった1973年を最後に低下し始め、2005年の1.26まで低下した後、2013年に1.43までに回復している。

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これに対して社会保障・人口問題研究所(当時は、厚生省内の人口問題研究所)の20世紀中の予測では、合計特殊出生率は回復するという想定を続けてきた。具体的には、合計特殊出生率が低下し始めた当初は、オイルショックによる不況の中での一時的産み控えであるとし、その後は、晩婚化・晩産化の影響でいずれ回復するとしていた。しかし、実際には2005年まで低下し続けた。そして21世紀に入ってからは、横這いの想定となっている。

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実は、世界の先進国の合計特殊出生率のこれまでの推移を見ると1970年頃は各国で低下し続けており、横這いが続いていた国は、日本とイスラエルであった。そしてイスラエルはともかくとして、日本の推移は不思議な現象だとされていた。それがオイルショックを契機として、他の先進国と同様の動きとなったものである。しかし、社会保障・人口問題研究所は、日本は他の先進諸国と異なる事情があると主張し続けていた。

ちなみに近年の世界の先進国の合計特殊出生率の推移を見ると、この水準が回復した国と低迷したままの国とに別れている様に見える。そして、回復している国では、教育費を含め子育ての費用を家庭ばかりに負わせず、しっかりと社会的に負担しているとされている。実際に、日本の子育て費用等の社会的負担は、OECD諸国の中でも特に低いことが、しばしば指摘されている。

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(3)死亡率の想定

死亡率の想定については、性別年齢別死亡率のこれまでの趨勢を延長すればいい。

実際に、性別年齢別死亡率は、年々低下しており、横軸を年次、縦軸を死亡率(対数)で描くと明確な直線となり高い決定係数が求められる。

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周知のとおり日本の平均寿命は、世界で最も高くなっており、これ以上他の国の水準から乖離して低下していくかどうかには疑問がある。このため社会保障・人口問題研究所は、性別年齢別に世界各国の死亡率の最も低いものを選び、それを低下の限界として、その包絡線を日本の今後の死亡率と想定した。

しかし、性別年齢別の死亡率の低下は緩和することなく一定の率で低下し続けており、結果として、死亡率低下の趨勢をかなり抑えるものとなった。

この想定を平均寿命に換算して見ると趨勢的変化を抑えるものとなっていたことがわかる。

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ちなみに以上のような出生率及び死亡率の想定については、予測がなされてきた時点で、実態に合わないのではと議論されてきており、マスコミでも報道されたこともあった。そして予測と実態の差については、人口総数は、短期的には出生数と死亡数が相殺し差が少ないものに留まっていたが、高齢化比率については、かなり乖離したものとなっていた。


 

(4)社会移動率の想定

都道府県等の人口予測では、社会移動を算入することも重要である。

人口の社会移動については、経済動向に左右され、現在、東京一極集中傾向が続いているが、的確な想定は難しい。しかし、富山県は、県内移動も県境を超える移動も比較的少ない県である。ただし、年々の県内移動の統計については、市町村境を超えるもののみが計上されており、富山県では市町村合併が進められ市町村数が全国一少なくなっていることに留意する必要がある。

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県人口の将来予測については、県境を超える移動について、性別年齢別の純転入率(転入率−転出率)が必要であるが、景気変動の中で平均的と思われる期間を捉えて移動率を計算し、そのまま将来の移動率として使う。来年には北陸新幹線が開通し、人口の移動に変化が起きるという議論があるが、転出入差がどちらの方向に動くかは予測が難しい。

ちなみに、2000年〜2005年の性別年齢別社会移動率(純転入)を見ると、かつての移動率に比べればかなり小さなものとなっている。

具体的には、全ライフサイクルの中で、大学等進学時の転出超過幅が最も大きい。その後、20歳代の後半からは、男を中心に転入超過基調が続くが、これはUターンによるものと言えよう。また、年少者が転入超過となっているが、これは、家族のUターンとの同伴Iターンであろう。最後に、退職期以降の高齢者については、転入超過基調となっている。ちなみに、かつてこの年齢層は転出超過基調であった。

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4 人口変動への対応


先にも触れたとおり、現在、少子高齢化に対応する施策展開のための様々な議論がなされている。しかし、合計特殊出生率を引き上げる実効ある政策、人口の転入超過を促す政策の展開は極めて困難であろう。

現在、結婚して子供を育てることが困難となってきており、このような状況を改めていくことは、それ自体が当然重要であり、子供を社会で育てる体制を早急に形成していく必要がある。

しかし、低水準の合計特殊出生率は、経済環境のみでもたらされている訳ではない。富山県は経済的には比較的恵まれており、例えば富山県の生活保護率は他県から乖離して特に低いが、合計特殊出生率はほぼ全国平均である。

ところで、人口減少対策として、専ら子供を産み育てるための環境の整備が議論さているが、人口減少に対応した、各種社会基盤施設整備の在り方等についてはあまり議論されていないようである。

県の各種の公共投資については、現在の補助金制度の下では独自で再検討することは極めて困難な状況にある。しかし、厳しい財政状況の中で、この側面を切り取って考える限りは、人口減少は歓迎すべきことかもしれない。また、炭酸ガス排出量削減に関しては、人口減少は極めて効果がある。

しかし、人口減少を受け入れてそれへの対応を議論することは、予測の自己成就が起き、かえって人口減少を促す結果となる可能性もあり、あまり触れたくないというのが多くの人の気持ちかもしれない。

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とやま経済月報
平成26年12月号